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ゴールにとびこんだ安藤美由紀を迎える第一生命のチームメイトたちは、顔を涙でくしゃくしゃにしながら、あどけない笑みをたたえていた。喜びの涙をかくそうともしない彼女たちにくらべ、敗れた三井住友海上の選手たちは、抱き合ってたがいに肩に顔をうずめて動かない。涙にむせぶ悔しさを覆い隠しているのだが、たとえば渋井陽子の後姿には、呻きと後悔が隠しようもなくこもっていた。 それにしても……。 今年はあの渋井陽子の底抜けに明るい笑顔がみられなかった。三井住友海上が負けるとは……。茫然とするのは三井住友海上の選手たちだけではない。ファンのぼくたちもまた信じられないのである。 驚きの内実は2つに層別して考えることができる。ひとつは3連覇に挑んだ三井住友海上が敗れたこと。もうひとつは負けた相手が第一生命であったこと……である。 予選の結果が出そろった段階で、もはや三井住友海上の3連覇は動かしがたいように思われた。勝つのは当然のことで、もっぱらの興味は、いったいどれぐらいのタイムで勝つのだろうか……という一点につきていた。あえて対抗馬をあげるとすれば……。それは東日本2位の第一生命、3位の資生堂なんかではなく、淡路駅伝の上位組みではないか。天満屋、UFJ銀行あたりだろうと想定していた。ところが、負けるはずがないだろうとみていた第一生命に足もとをすくわれたのだから皮肉というほかない。 第一生命を軽くみていたというわけではない。成長いちじるしいチームであることはみとめても、チーム力が充実するのはまだ1〜2年先ではないかと思っていたのである。若さ……というのは諸刃の剣というべきで、時として思いもよらぬ結果をもたらすこともある。今回の第一生命は「若さ」の良い面だけが出たようだ。ちなみに第一生命の出場6人の平均年齢は20.8歳(20〜22歳)、三井住友は22.1歳(27〜19歳)である。
三井住友をハナから突っ走らせるな……というわけなのだろう。3連覇阻止をとくに意識したわけではないだろうが、各チームともに前半重視のオーダーを組んできた。顔ぶれからみて、1区から3区まではほとんどダンゴ状態、エース区間の3区からひとつの流れが生まれてくるのではないか、と見ていた。 第1区はワンジロ(資生堂)、橋本歩(三井住友)、真鍋裕子(四国電力)らが引っ張る展開で始まったが、1キロの入りが3分20秒という超スローな展開、結果的に見てこれが大きく明暗をわけたのではないか。たとえば東日本予選では終始先頭をひっぱった橋本歩などは、あまりにスローすぎてペースとリズムの乱気流にのみこまれてしまった。故障あがりのせいもあったかもしれないが、東日本のときのようにもっと積極的に攻めていれば、結果はもう少しちがったものになっていただろう。結果的に経験の浅さがモロに出てしまったようだが、これが三井住友にとって、第一の誤算につながってゆく。 予想通り第1区は各チームがほとんどダンゴ状態で中継所になだれこんでいった。最終的に区間を制したのはいまやベテランともいうべきE・ワンジロ(資生堂)だが、以下旭化成、京セラとつづき、20秒のあいだに17チームが入り乱れるという大混戦、候補のひとつ天満屋は10秒差の8位、ダイハツの15秒差10位というのはまずまずだが、UFJ銀行はなんと約1分遅れの24位という大ブレーキで早くも圏外に去った。 3連覇を狙う三井住友は結果的に橋本歩の1区起用が裏目に出て、31秒遅れの16位と後手を踏んでしまった。秒差だけでみると、後の陣容からみて十分に挽回できる位置であったが、タイム差以上に後手を踏んだショックが大きかったようである。
本命の三井住友が順位的に下位で苦しむつなかで、2区にはいってトップ争いは第一生命、旭化成、九電工、資生堂が鍔迫り合い、第一生命の森春菜が奪首するも、勝負のゆくえは依然として混沌としたまま3区にタスキが渡る。 注目は約22秒遅れの9位ででタスキを受けた渋井陽子と34秒遅れでつづく福士加代子(ワコール)の対決であった。昨年はあまりにもポジションが離れていたが、12秒差の今年は併走するシーンがみられそうというわけで、観戦者にとっては最大の見どころになった。 福士の勢いは誰も停められない。笑顔をふりまきながら走る「かっとび娘」は今大会も健在だった。1.4キロで早くも12秒差を詰めて渋井に追いついてしまう。ダイハツの山中美和子、デオデオの小鳥田貴子というトップランナーを引率するかのようにして爆走する姿は、いかにも堂々としていてある種の風格を感じた。福士を先頭とする第2集団は2.4キロで第一生命(羽鳥智子)、ワンジク(松下通信)、資生堂(加納由理)らの第1集団をとらえてしまう。 福士は好調さを持続していたようだが、渋井のほうははまだマラソンの疲労が抜けきっておらず、本調子ではなかったようである。本来なら強引にトップを主張するはずなのに、5キロすぎで、福士、山中、羽鳥にあっさりと置いて行かれてしまった。渋井は置かれてからも懸命に粘って、なんとか逆転をねらうえるぎりぎりのポジションをキープした。調子が悪いなりに、さすがと思わせる走りだったが、三井住友の第2の誤算をあげれば、やはり渋井がベストでなかったことである。 8キロをすぎても笑顔をふりまく福士の区間新はまちがいないかに思われたが、9.4キロ付近で思わぬ陥穽が待ちかまえていた。驚くべき意志の強さで福士にくらいついていた羽鳥の足がからんで、あっというまに福士が転倒するというアクシデント。これでレースの形勢は一変した。起きあがって足をひきずる福士の顔はゆがみ、赤みをさした頬にはむなしさがのたうっていた。ひとたびリズムを失った福士はもはや緊張感が切れたのか。いちど置き去りにした山中にも交わされてしまう。まあ、それでも区間賞だから、アクシデントがなかったら区間新に肉薄していただろう。 終わってみれば3区の主役は第一生命の羽鳥智子だった。アクシデントのせいとはいえ、渋井だけでなく福士加代子まで蹴散らしてしまったのだから、勢いというものは恐ろしい。羽鳥はここで渋井相手に30秒あまりの差をまもりぬき、逃げきりの態勢をつくってしまったのである。
第3区、第1区につづいて、見どころがあったのはやはり最長区間の第5区であった。 3区でトップに立った第一生命は4区の萩原梨咲の堅実な走りでトップをキープ、三井住友が山本波瑠子の区間賞の走りでようやく2位までやってくる。そして「駅伝おんな」坂下奈穂美の登場してくるのである。 34秒差なら坂下で十分逆転できる。昨年もこの5区で坂下は勝利を決定づけている。事実、坂下と磯貝では力にはっきりと差がある。1万のタイムで坂下は磯貝よりも約1分も上回っているのである。逆転は時間の問題と思われたが、その差は容易に詰まらない。第一生命は完全に流れにのってしまっていた。繋いできたタスキの重みが背中を押すというのか。磯貝の落ち着いた走りは寸分のゆるぎもないのである。歴然とした力の差があっても、磯貝は互角以上に戦っていた。まさに駅伝ならではの面白さをみせつけれれる思いがした。 坂下に昨年ほどの爆発力がなかったこと、三井住友にとって、それが第3の誤算だったろう。追っ手も追っ手もとどかない。さすがの「駅伝おんな」も落胆したのだろう。8,7キロ付近でダイハツの大越一恵にもとらえられてしまう。秒差こそ4秒ほど詰めたが、とうとう最後まで追い切れなかった。逆にいえば、それだけ磯貝ががんばったということになる。 第一生命の初優勝はこの時点でみえてきたが、それを決定づけたのは3区、4区で羽鳥と萩原がせっせと貯め込んだ貯金をしっかりまもりきった磯貝恵子の沈着な走りだったのである。
第一生命の勝因はメンバー全員がベストに近い力を発揮したことであろう。第1区の尾崎好美のが積極的なレース運びで終始先頭集団にくらいつき、5秒差の6位につけたのが大きかった。繋ぎの2区の森春菜がトップを奪い、やはり繋ぎの4区・萩原梨咲も好走した。区間賞は一つもないがムラのない布陣で、それぞれが役割をきちんとこなしていた。若さとチームワークでつかんだ勝利というべきだろう。 三井住友の最大の敗因は3区までにトップに出るという戦略に狂いが生じたからだろう。渋井陽子の調子落ちがやはり痛かった。坂下もいまひとつ切れ味を欠いていて、チーム全体がなんとなくチグハグでまとまりがなかった。現在の区間・距離になってから3連覇を果たしたチームはいまだ出ていない。過去においてリクルートと沖電気が挑んだがいずれも失敗、三井住友も十分の戦力をもちながら同じ轍を踏む結果になった。 その遠因は、エースといわれる主力選手に遠心力が生じた結果だとみるのは、少しうがちすぎだろうか。駅伝で強くなて、チームのエースに成長した選手には、世界選手権やオリンピックという新しい目標が見えてくる。そうすると、おのずと遠心力が生じてくるのは自然の成り行きというものだろう。駅伝だけではなく、トラックやマラソンにも視野がひろがる。世界レベルの選手になれば、個人の目標とチーム(企業)の目標に乖離現象が生まれてくることもあるだろう。それらが選手自身のスケジュールや体調、モーチベーションにも微妙な影響をおよぼすこともある。 逆にいえば今回の第一生命のような若いチームは、渋井のような世界レベルの選手がいないから、駅伝といえば駅伝1本で全員の心をひとつに集中することができるのである。 今回大健闘したのはダイハツ、期待はずれは天満屋、UFJ銀行だろう。2年ぶりに大会にやってきたダイハツは山中美和子、大越一恵の2枚看板が完全復活、次回はまちがいなく優勝戦線にからんでくるだろう。ほかに健闘したチームをあげれば、6位旭化成、9位九電工の九州組、ともに前半重視の作戦が功を奏したのか、前半は2、3位につけて善戦、後半もしぶとさを発揮した。 天満屋は昨年2位だっただけに今年は期待が大きかったが、終始中位にしたまま、あまりいいところもなく伸びきれなかった。UFJ銀行は最終的に地力で7位まであがってきたが、第1区の遅れがすべてだった。 今回の第一生命の制覇によって、女子駅伝はポスト三井生命を模索する時期にはいったようである。そういう意味で第一生命にとって、次回はmさに真価を問われる大会になる。三井住友の王座奪還はあるのか。さらに今年の第一生命のように急成長のチームが新しく台頭してくるのか。興味をもってみまもりたいと思う。 ★開催日:2002年12月08日(日) ★天候:曇 気温8.07度 湿度67% 西の風3.0M ★第一生命(尾崎好美、森春菜、羽鳥智子、萩原梨咲、磯貝恵子、安藤美由紀)
区 間 最 高
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