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終始トップをゆずらずにゴールまで!
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(2010.10.12) |
ポイントの3区を制して、流れを一気にひきよせる!
出雲駅伝は逆転駅伝といわれてきた。
最終6区での逆転劇が多い。過去21回のうち11回が最終6区でひっくりかえった。とくにケニア人留学生の大砲をもつチームが最長距離の6区(10.2q)で大勢逆転というパターンである。事実、日本大学のダニエルが昨年は41秒差を、一昨年は1分29秒もの大差をひっくりかえしてしまった。
今回の区間オーダーをみわたして、優勝を争うであろう主力チームにダニエルのような大砲はみあたらなかった。第一工業大のジュグナがいるものの、チームは6区までに圏外に去っているだろうから問題にならないだろう。ならば今回はアンカー勝負というパターンでなく、中盤のエース区間の3区あたりがポイントになるのではないか……とみていた。
現実はどうであったか。
2区をおわったところでトップをゆくのは早稲田大、9秒差で日本体育大がつづき、東洋大が18秒遅れ、最大のライバルとみられていた駒澤大は41秒おくれの5位にあえいでいた。早稲田にとっては願ってもない好展開というべきであった。
早稲田の3区は八木勇樹であった。だが果たして早稲田の監督・渡辺康幸は自信を持って八木を3区に起用したのか。そうではあるまい。おそらくは心中ではハラハラ、ドキドキしていたにちがいない。
八木勇樹(西脇工出身)はかつて高校駅伝のスターであった。早稲田では同期の三田祐介、中山卓也とともに高校駅伝のビッグスリーにかぞえられ、竹澤(健介)二世とまでいわれていた。ところが駅伝ではどういうわけか成績があがらない。
大学駅伝のデビュー戦はこの出雲駅伝だったが、1区に起用されるも、まさかの大ブレーキ、2年になっても低迷がつづいていたのである。
だから今回のオーダー表をみて、Blogにも書いたが、早稲田の命運をわけるのは、ひとえに八木の出来しだい……とみていた。
タスキをもらって走り出した八木、その相貌にはどこか不安げな表情がにじんでした。走りもどこか重そうな雰囲気だった。だが後ろの日体大の出口和也も追い切れなかった。追っているようでその差がつまらないのだ。
中間点をすぎて、逆に、じわっと、その差がひらきはじめた。3位の東洋大との差もひらきかげんで、遠く後ろにはなれていった。当面のライバルである日体大と東洋との差はひらき、その後ろでは山梨、東農、京産、駒澤がほとんどダンゴ状態で競っているのを尻目に八木は堅実に一歩一歩を刻んでいった。
重戦車のような走りとでもいおうか。八木の表情は壮絶で悲壮感さえただよっていた。好調さをうかがわせるかるい走りではない。がまん強く持ちこたえたというべきか。あるいは粘走というべきか。
終わってみれば2位の日体大との差を18秒ひろげて27秒差、3位の東洋大には39秒差、候補の一角といわれた駒澤大には1分22秒差つけて中継所にとびこんだ。明治の鎧坂哲哉をうわまわっての区間賞は評価できるが、まだまだ八木本来の走りではないだろう。
みどころのあった1区の攻防!
3区八木勇樹の区間賞の走りで早稲田はレースの主導権をにぎり、早稲田はそのままトップをゆずることなく逃げ切ってしまう。ポイントの八木がきっちりとその役割はたしたといえるが、いちばんの殊勲者は誰かといえば、八木ではなくて1区の矢澤曜をあげなければなるまい。
八木や三田などとは裏腹に高校時代はそれほど実績はなかったが、矢澤は大学生になってから急速にのびた。そういう意味では八木と対照的なランナーである。
箱根では3年連続で1区を走り、2回の区間賞をとり、のこり1回も区間2位というように、きわめて安定している。いまや早稲田のエース的存在である。 今回の1区はハイペースではじまった。1q=2:40、3q=8:21、5q=14:07……と、いつになく高速レースになった。
山梨学院大のコスマスと早稲田大の矢澤曜がひっぱり、1qすぎでは先頭集団は、東洋大の設楽啓太、日体大の服部翔大をくわえた4人が後続をひきちぎってしまった。
3qで設楽、3.3qでは服部が振り切られ、5qからはコスマスと矢澤のマッチアップになってしまうというありさま。ハイペースの流れのなかでの両者のトップ争い、なかなかみごたえがあった。
留学生と日本人対決では競っていても、最後は留学生にふりきられるのが、よくあるパターンだが今回はちがった。矢澤は自信をもっていたというのか。表情にも落ち着きがあり、むしろコスマスを煽っているふうであった。
スパートのかけあいのすえに、矢澤は残り900mで矢澤が満を持してのスパート、差は一気みるみるひらき、コスマスはそこで置き去りにされた。
勝機をみる目の確かさというべきか。ラストでみせた矢澤の闘志あふれる爆走が、優勝からながく遠ざかり、崖っぷちの早稲田を目覚めさせたといえそうである。
復活・早稲田も全日本が正念場!
早稲田のオーダーは分厚い布陣である。4区に配した佐々木寛文が、3区で好転した流れをひきついで快走した。まさに地にすいつくような、リズミカルで流れるようなフォームで軽快にピッチをきざんでゆく。区間記録を39秒も短縮するという走りで、早稲田の独走態勢をきずいてしまったのである。
5区の志方文典は少し差を詰められたものの、6区アンカーの平賀翔太が堅実な走りで、まったくゆるぎがなかった。平賀は快調で追ってくる日体大の野口拓也との参をじりじりとひきはなし、区間賞候補といわれたジュグナ(第一工業大)さえも上まわって、堂々の区間賞でしめくくった。独り旅で区間賞を獲った平賀の走りもまたみごとなものだった。
終わってみれば早稲田は1区、3区、4区、6区と4つの区間賞である。最後まで他のチームの後塵をあびることなかった。なんともはや、強い勝ち方で14年ぶりに出雲を制したのである。
渡辺監督は就任7年目にして大学3駅伝の初制覇である。その道のりは長かったというのが正直なところではないか。今回の出雲の優勝で、いちばんホッとしているのは監督だではないか。高校駅伝のスターたち、超のつく銘柄級の選手たちを、あれだけあつめてもらい、チャンスがめぐってきた今回、もし、おおきく崩れることがあればどうなるか。察するにあまりあると思うのは時評子だけではないだろう。
早稲田のためにも、渡辺康幸監督のためにも、今回の出雲制覇はよかった。古豪の復活を素直によろこびたい。
だが、これで箱根を占うのは早計だろう。この数年、早稲田は期待を裏切り続けているので、早稲田が強さが本物であるかどうかは全日本大学駅伝の戦いぶりがモノサシになる。
3強がアタマひとつ抜けた存在!
2位の日本体育大学は大健闘といっていい。ハイペースにもかかわらず果敢に攻めた1区の服部翔大の走りに、キラリとひかるものがあった。服部と2区の福士健太郎とがチームに好リズムをもたらしたといえる。
駒澤大学は早稲田大学とともに候補の双璧にあげられていたが、優勝争いにからむことなく3位に甘んじたのは不本意だったろう。
1,2年生だけでのぞんだレースだったが、その若さが裏目になったか。誤算は3区の千葉健太だったろう。3区までのトップから1分20秒もおいてゆかれ、前半でレースは終わってしまった。だが最終的に3位までおしあげてきたのは地力がある証拠といえる。まだまだ戦力は上積みできそうである。
4位の東洋大学は、いわば飛車角落ちのメンバー構成だから、出雲では勝ちにきていない。新しい戦力を試しにきた観があるが、その意味では設楽啓太、悠太などは合格というべきで目標を達したとみるべきだろう。
距離のながくなる全日本や箱根では柏原竜二をはじめ大津翔吾、高見諒、千葉優、佐藤寛才、田中貴章、渡辺公志などが加わるだろうから、まちがいなしに主力の一角に浮上する。全日本で早稲田との対決はみどころ十分である。
5位の山梨学院大、7位の東京農業大学、8位の中央大はあんなものか。出雲でみるかぎり、全日本、箱根で上位争いをするには戦力が、やや薄目みえたのだが……。
現時点でみるかぎり、全日本大学駅伝は、やはり早稲田大、東洋大、駒澤大の争い、それにつづくのは日本体育大……という形勢になりそうである。
・第22回出雲全日本大学選抜駅伝の結果
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出場チーム&過去の記録 |
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関 連 サ イ ト |
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