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コニカミノルタ ドラマなき圧勝劇!
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(2008.01.01) |
「走る者」の想いと「観る者」の想い
駅伝はすっかり正月の風物詩となってしまった。
元旦はニューイヤー駅伝、2〜3日は箱根駅伝である。いずれも午前から午後までぶちぬきのライブ放送である。
駅伝がかくも人気を獲得したのはなにゆえなのか? ひとくちでいえば、筋書きのないドラマがあるからだろう。駅伝は順位がめまぐるしく変転する。マラソンは落ちてゆくドラマだとすれば、駅伝はのぼりつめてゆくドラマがある。だから「元気」をもらえる。そのように考えると、新年のはじめにふさわしいのかもしれない。
いわば縁起物と化した「駅伝」を、多くの人たちは暖かい部屋で、ときにはほろ酔い気分で観戦している。ひたすらドラマチックな展開を待ちわびている。
だが……。
実際に駅伝を走っているランナーたち、あるいは監督、コーチをはじめとする関係者の想いはちがうだろう。かれらはこぞって「駅伝にドラマなんか要らない……」と思っているはずだ。順位が落下傘のように乱高下して、ドキドキハラハラの展開なんか望んではいない。
トップを奪ったならば、そのままゴールまでしっかりタスキを運んでいってほしいと、ひたすら願っているにちがいないのである。ファンが驚喜しようが、落胆しようが、そんなの関係ない……のである。
第52回をかぞえる全日本実業団駅伝、近年にしてはめずらしく、波乱のない平坦なレース展開に終始した。コニカミノルタにとっては、まさにシナリオ通りにハマったレースというべきで、2区以降、陣営は笑いをかみ殺しながら、安心してなりゆきをみつめていただろう。裏をかえせば、テレビ観戦者にとって最悪の展開だったということになるのだが……。
そういう意味で、奇しくも、駅伝を「走る者」の想いと「観る者」の想い、その乖離現象が浮き彫りになるレースとなった。
ライバルが自滅 思うツボの展開!
区間距離が変更されてからというもの、1〜3区はトライアル、4区であらためて仕切り直しでヨーイドン……、そして5区が勝負どころ。そういう駅伝だといわれてきた。2区の最長区間をはさんで1区と3区は助っ人外人選手の指定ポジションになっているからである。
ところが……。
クライマックスはめずらしく前半にやってきた。今回にかぎり1区と2区の展開が命運を決してしまったといっていいだろう。
1区はいつものように外人選手たちが引っ張った。SUBARUのG.アセファ、JFEのJ.ギタウ、日立電線のJ.シェケイ、愛三工業のH.チェノンゲなど……。1q=2:50前後だからそれほど速くはない。
3q=8:30というペース、外人の先頭集団に食いついていったのがコニカミノルタの太田崇、旭化成の大野龍二、自衛隊体育学校の室塚健太、Hondaの池上誠悟であった。とくに太田の積極的な走りが眼を惹いた。
中国電力の新井広憲、日清食品の板山学らはおよそ18人あまりの第2集団をなしてすすんだが、候補の一角にあげられていたトヨタ自動車九州の植木大道は第2集団にもついてゆけず、昨年の大津とおなじように1区で脱落してしまった。
6.5qでトップ集団はペースアップ、第2集団との差はひろがるばかり、8qでは100mもついてしまった。コニカミノルタにとってはまさに思うツボの展開となってしまう。
さらに日清食品の板山学は第2集団にもついてゆけなくなって落ちこぼれ、トヨタ自動車九州にいたっては、8qですでに1分も遅れていた。ライバルたちが自滅してどんどん脱落するのだから、コニカミノルタにとっては笑いがとまらなかっただろう。
10q通過が28:30……、自衛隊体育学校の室塚と愛三工業がこぼれ落ち、トップ集団は6人になるものの、コニカミノルタの太田、旭化成の大野はまだふんばっている。
区間賞争いでレースが動いたのは10.5qだった。SUBARUのアセファがスパートをかけ、ギタウが追ってゆく。太田と大野も遅れずに追走したが、最後は地力の差がモノをいうかたちで結着、SUBARUのアセファが前評判通りの強さを発揮した。
勝負を決した2区の攻防!
コニカミノルタは3秒遅れの3位と好ポジションを確保したのとは裏腹に中国電力はコニカミノルタから48秒遅れの11位、日清食品とトヨタ自動車九州にいたっては、ともにコニカミノルタからおよそ2分も遅れてしまい、明暗がくっきりとしてしまったのである。 かくして優勝のゆくえを占いうえで、第2区の動向が大きな意味をもつようになってしまった。つまり好リズムで発進したコニカミノルタに対して、出遅れた中国電力、日清食品、トヨタ九州の3チームの巻き返があるかどうか。流れを一変させるほどの勢いを得るかどうか。興味はもっぱらその一点にあった。
コニカミノルタの2区は松宮隆行、1.5qで3秒差を詰めて、SUBARUの高橋憲昭、JFEの森脇祐起に追いついた。だが一気には前に出ないで併走、5q=14:15のペースでたんたんと進む。7.8qで集団をひっぱりはじめ、そして9qでスパートをかけると、2人ともあっさりと置いてゆかれた。
後ろからはトヨタ自動車九州の三津谷祐が追ってくる。5q=14:02と松宮を上回るペースで31位からあがってくる。10qの通過は27分54秒で、松宮よりもおよそ30秒も速い。11q手前では8位集団14人をまとめて抜き去った。12.4qでは5位集団にとりついたが、そこからはさすがに伸びを欠いた。それでも24人抜きの7位までやってきた。
トップをゆく松宮の走りは安定していえて、まったくゆるぎがなかった。前半突っ込んだために脚にケイレンがきたのか。後半は失速した三津谷にくらべ、後半はむしろペースアップして、終わってみれば三津谷に18秒先んじて区間賞である。
中国電力は尾方剛が区間4位の走りで5位まで順位をあげ、トヨタ九州も7位まであがってきたが、逆にコニカミノルタには水を開けられてしまい、流れは一気にコニカミノルタに傾いてゆく。
日清食品は誤算だった。2区に起用した徳本一善が苦しい走りに終始してまったく伸びなかった。トップから4分17秒もの大差をつけられて27位、これでは3区にひかえるゲデオンの活きてはこない。
旭化成、カネボウも誤算だったろう。旭化成は、マラソンの佐藤智之を送り出したが、なんとも苦しい走り、後続に次ぎつぎにとらえられ、区間35位という信じられないブレーキ、4位から一気に32位まで順位を落としてしまうのである。
カネボウの瀬戸智弘は脚を痛めたらしく、終始脚を引きずるような走りでもはやレースにはならなかった。後に知るところでは2qあたりで太股に肉離れが来ていたという。
主力どころがもたつくなかでコニカミノルタはやすやすと独走態勢をきずきあげてしまったのである。
今年もゲディオンが快走!
3区は例によって外国人選手たちの競演だった。N・ゲディオン(日清食品)、M・マサシ(スズキ)、J・ダビリ(小森コーポレーション)、S・ワンジル(トヨタ自動車九州)、S・アレックス(コニカミノルタ)などなど……。
今年も日清食品のN・ゲディオンがみせてくれた。3q=7:46というハイペースですでに7人抜き、5qの通過が13:09で14人抜き……。ゲディオンの前ではトヨタ自動車九州のワンジルがさすがにハーフの世界記録保持者らしく、4q手前で4位に浮上、10qでは2位までやってきた。だが、トップとの差はまだ2分もある。
コニカのアレックスも堅実にこなしたので中国電力との差はさらにひろがって2分55秒、区間賞のゲディオンの活躍もあって、日清食品は13位までやってきたが、トップとの差はいぜん3分49秒……。完全に圏外に去った。
4区ではトップのコニカと2位のトヨタ自動車九州との差はさらにひろがって2分42秒というから1qほどの距離がある。相手の背中がみえない状態でエース区間の5区を迎えるのである。
今年も魅せた! ミスター駅伝・佐藤敦之
5区のコニカミノルタはンながく不振にあえいでいた坪田智夫であった。5q=14:20、中間点=22:45というから、なかなかのペースである。安定した走りで確実にトップをまもった。みごとな復活の走りであった。
坪田より速かったのが中国電力の佐藤敦史である。トヨタ自動車九州の今井正人とほとんど同時にタスキを受けて併走状態でスタート、このベテランと新鋭がはげしく2位を競う合った。だが、北京オリンピックのマラソン代表を手中にした佐藤はさすがの走りをみせてくれた。
いつもながら、ものすごいピッチを刻む佐藤敦之の走りは健在だった。上半身の力がすっかりぬけて、四肢がリズミカルに躍動するさまが何とも小気味いい。
勝負はあっけなかった。2.6qで佐藤がギアチェンジすると、さすがの今井ももはや後ろにつけなかった。差はみるみるとひろがっていった。
佐藤の奮闘で中国電力は55秒詰めてコニカミノルタとの差を1分56秒としたが、そこまでであった。逃げるコニカミノルタは6区初出場の池永和樹が区間賞、逆にその差を2分59秒にまでひろげてしまうのである。そして最後は当日のエントリー変更で出てきた代役の礒松大輔がゆうゆうとタスキをゴールまで運んでいったのである。
最終区ではHondaの藤原正和と中国電力の油谷繁の2位争いもみどころ十分であった。土原がタスキをもらったとき、2位をゆく油谷との差は39秒もあったが、藤原はけんめいに追いあげた。
7qすぎから差はみるみる詰まりはじめるのだが、油谷もけんめいに逃げる。差はつまれども、またひろがる。果てしなくその繰り返しがつづき。10qすぎでは、ひとたび3秒差まで藤原が迫ってきた。もはや捕らえるのは時間の問題か……と思いきや、油谷もさすがの走りをみせる。ひとたび詰まった差がまたしてもするすると広がってゆくのである。 藤原には追い切れなかったというツケが回ってきて、最後は老練な油谷に突き放されてしまった。油谷繁というランナーの底力を見る思いがした。
Honda、安川電機が台頭!
それにしても……。コニカミノルタに、これほどの強さをみせつけられると、王座はまだまだ当分はゆるがない……とみなければなるまい。
コニカミノルタの勝因は1区で主導権を握ったこと。さらには分厚い戦力ゆえのことだろう。区間賞は2つだが、他のメンバーをみわたしても、3区のアレックスをのぞいて全員が区間2位〜3位に名を連ねている。
2位の中国電力もまずまずというところか。スピードの争いになってはコニカミノルタに勝ち目はあるまい。
健闘したのは3位のHonda、さらには4位の安川電機であろう。Hondaは昨年の悔しさを晴らしたといっていい。3区以降は安定した戦いぶりを見せており、なかでもアンカーで登場した藤原正和の復活を喜びたい。毎年、思わぬアクシデントに見舞われ、持てる実力を発揮できないでいるが、次回に向けても期待がもてる内容だった。
安川電機もムラのない布陣でとくに後半の粘りに見るべきものがあった。
トヨタ自動車九州はやはり1区の出遅れがひびいたようである。6位に終わった日清食品は今年もどこかチグハグなままに終始した。あれだけの戦力をもちながら、本番ではいつも優勝争いに加われない。まさに不思議なチームといわねばならない。実力というより、もしかしたら個の選手に何か精神的なもの、モーティベーションのありかたに問題があるやもしれぬ。
意外だったのは旭化成である。昨年2位から27位まで順位を落としてしまった。33位まで落ちたカネボウといい、古豪の凋落は一抹の寂しさを感じるのはぼくだけではないだろう。
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