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アンカー勝負を制す…男子・仙台育英 横綱相撲…女子・立命館宇治 |
(2007.12.23) |
史上初の同タイムでのアンカー結着
仙台育英の橋本隆光、佐久長聖の堂本尚史が競技場にはいってきたとき、スタンドからわきあがる歓声がとっと冬空に大きく弾けた。
42qにおよぶ死闘にもかかわらず、勝負のゆくえはいまだまったく見えなかったのである。明暗を分けるトラック勝負をまえにして、2人の想いはひとつ、「ゼッタイに負けれれない」ということに尽きただろう。
58回を数える大会史上をかえりみて、トラック勝負になった例はないわけではない。たとえば第40回の記念大会で、報徳学園、西脇工という同一県同士が優勝を争ったケースが強く印象に残っている。トラック周回中にひとたび西脇工の結城が前に出たが、報徳学園の村松が第1コーナーで差し返し、最後の直線で村松が追いすがる結城を突き放した。
女子でも第11回大会で筑紫女学園と須磨学園がトラック勝負となり、筑紫女学園が1秒差で先んじている。……
だが……。今回はいつにもまして熾烈だった。仙台育英の橋本と佐久長聖の堂本はタスキを受け取った直後から、びっしりと併走、時には躰をぶつけあうようにしのぎを削ってきたのである。
タイムなしでタスキを受けたふたり、積極的に攻めたのは初優勝をねらう佐久長聖の堂本だった。1q=2:46の入りで前に出て引っ張った。だが、仙台育英の橋本もゆずらない。息づまるようなガチンコ勝負をくりひろげたのである。
最終区のアンカー勝負で最初から最後まで両者ゆずらず、同タイムの1着、2着という結着は初めてのケースである。
勝った仙台育英の橋本隆光、勝ちたい……という執念が勝ったというべきか。大声援のトラック勝負のゆくえは第4コーナーを回ってホームストレッチの直線勝負になると思いきや、意外にも第2コーナーで動いたのである。
トラックにはいってきておよそ100〜150mあたり、仙台育英の橋本の躰がするするとが前に出たのである。まさか、そこで仕掛けるとは思わなかったのか。一瞬の虚をつかれたにちがいない堂本、懸命に追いはじめるが胸ひとつの差はつまらない。
追いすがる堂本を振りきって、橋本は歓喜のゴールにとびこむのである。橋本にしてみればゴールがこれほどまで遠いとは思わなかっただろう。
それにしても……。勝負どころをみのがさなかった橋本の判断はみごとであった。
1区で後手を踏んだ! 仙台育英は想定内! 西脇工は想定外?
男子の第1区は例年になく静かな展開であった。それはひとえに留学生ランナーたちが例年ほど勢いよく飛び出さなかったせいである。
世羅のカロキと山梨学院大付のコスマスがすでにしてトラック周回中に前に出た。三田祐介(豊川工)、八木勇樹(西脇工)、村澤明伸(佐久長聖)という候補が後ろで大集団をなすという展開だったが、その差はそれほど大きくはひろがってゆかなかった。
先頭2人のペースは1q=2:46〜48……。2qでトップと3位集団はおよそ7秒差で、この集団のペースは2:53前後であった。
3位集団をひっぱるのは豊川工の三田だったが、日本人最強ランナーと前評判の高かった西脇工の八木はすでにして序盤からリズムが悪いのがちょっと眼を惹いた。いまひとつピッチがあがらず反応が鈍かったのである。
中間点はトップの2人が14:23だから、それほど驚くほどのペースではない。異変は後続集団のほうで、6qで心配したように西脇の八木が遅れはじめ7qでは3位集団から完全に脱落してしまった。
最終的に7.6qで世羅のカロキがスパート、区間賞争いに結着をつけたが、留学生ランナーと日本人ランナーとの間には、両者が牽制し合ったせいもあるが、思ったほどタイム差はつかなかった。
日本人トップは3位の三田(豊川工)で29分44秒。トップのカロキと三田との差は25秒であった。
男子は仙台育英、佐久長聖、西脇工業、世羅が4強にあげられていたが、1区をうまくさばいたのは世羅、しかし後続をぶっちぎれなかったことが後に命取りになる。
豊川工は27秒差、佐久長聖は29秒差と上々の滑り出しだったが、西脇工は55秒差の10位、仙台育英は1分01秒遅れの14位に甘んじた。仙台育英の遅れは想定内だったかもしれないが、西脇工はエースを投入していただけに誤算だったのではあるまいか。
3区がエース区間になる?
世羅の2区は山崎諭弘だが、3区に予定していたエース鎧坂を故障で欠くだけに、ここで差を広げておきたいところ、ところが2位にあがってきた佐久長聖には21秒、4位の豊川には23秒と逆に詰められてしまうのである。
1区で出遅れたライバルの2校どの差もじりじりと詰まってくる。西脇工とは40秒、仙台育英とは50秒……。
3区からのヨーイドンを前にして、優勝戦線はがぜん混沌としてくるのである。
連覇をもくろむ世羅が思う通りにレースをすすめるには1区と2区で大量リードを稼がねばならなかった。3区の鎧坂が突然の欠場で、エース区間の3区のランナーがチームで8番目の選手に入れ替わってしまったからである。20秒や30秒のリードでは焼け石に水だったのである。
かくして3区は上位の順位変動はめまぐるしくなってくる。佐久長聖、豊川工がはげしくトップを争う後ろから、仙台育英のエース的存在・クイラが10位からごぼう抜きであがってくる。
先ず1.5qで佐久長聖の佐々木寛文が世羅をとらえてトップに立ち、2,5qでは豊川工が落ちてきた世羅をとらえて2位にやってくる。そして1.5qで5位まで順位をあげた仙台育英のクイラが後ろから急追、3qでは2位の豊川工をとらえてしまう。
クリラの勢いはとどまるところを知らず、白川通りではトップをゆく佐久長聖の佐々木の背後に迫り、4.5qではついに10人抜きでトップを奪ってしまうのである。
3区を終わったところではトップは仙台育英、24秒遅れで佐久長聖、そこから8秒遅れで豊川工、候補の一角・西脇工は1:08も遅れて8位にあえいでいた。
世羅の黒木章博は区間38位でチームの順位を13まで落としてしまったが、代役でることを考えれば無理からぬ話。しかし連覇への夢は3区であえなく費えた。
5区でみえてきたマッチレースの様相!
3区でまんまとトップを奪った仙台育英、大本命の西脇工は1分以上も遅れている。そのまま突っ走るかと思いきや、待ったをかけたのが佐久長聖だった。
4区では千葉健太が懸命に追った。しかし仙台育英の川上遼平の懸命にしのいで、14秒差で5区へとタスキはわたる。両校の死闘で3位の豊川工とのあいだには40秒以上の差がついて、残り3区間を残してマッチレースの様相になってくる。西脇工はさらに遅れて1分26秒のおいてゆかれ、かろうじて入賞圏内を行き来していた。
4区で上位にあがってきたのは九州学院、那須拓陽、埼玉栄、青森山田などで、実力校が着実に入賞圏内に押し上げてきた。
5区になると優勝争いは完全に仙台育英と佐久長聖の2校にしぼられた。佐久長聖の藤井翼が残り1qから猛然と追い上げた。区間2位の激走で仙台育英に3秒差とすると、6区は両者がびっしりと肩をならべての一騎打ちとなった。
佐久長聖の佐々木健太が1qで仙台育英の、宗方雄己をとらえてしまう。両者併走のままゆずらず、2,5qで宗方が仕掛けるが佐々木は離れない。3.7qでは逆に佐々木が仕掛けるのだが宗方はしっかり受け止めた。
結着がついたのは残り600m、宗方がスパート、アタマひとつ抜けだしたが佐々木も譲らずに、ほとんど同時にアンカーにタスキが渡すのである。
かくして冒頭にののべたように息づまるようなアンカー対決が幕あけるのである。
主力の出来が明暗をわけた!
優勝した仙台育英は留学生のクリラを3区に起用した窮余の一策がまんまと当たったようである。ライバルの西脇工が出遅れ、世羅が主力を欠いていたのにも救われたというべきか。
2位の佐久長聖は惜しかった。最後の最後で今一歩およばなかっただけに悔いがのこるだろう。後半はむしろ押し気味にすすんでいただけに勝負の非情さを思い知らされたかたちである。
3位の西脇工は1区の八木の10位がすべてだった。国体の5000mでは外国人留学生たちを押さえて優勝するなど、地力強化がいちじるしかったが、体調が万全ではなかったらしい。西脇はそれでも6区を終わってトップから1分40秒遅れの6位だったが、最終区で3位まで追い上げてきた。3位とはいえ、いちども優勝争いすることがなかっただけに、値打ちはないが、最後は地力のあるところをみせた。
健闘組の1番手をあげれば豊川工だろう。1区の三田裕介が日本人トップの3位につけ3区ではひとたび2位までやってきた。最終区で5位におちたものの、6区までは3位をきっちりとキープしたいた。
埼玉栄も4区以降は堅実に上位をキープ、最終4位まで押し上げてきた。健闘したといっていいだろう。
連覇をねらった世羅は6区まで入賞圏内の8位につけていたが、最終区で2つ順位を落として最終的には10位に終わった。エントリー締め切り後に2本柱の一人、鎧坂が出られなくなり、やむなく立てた代役が区間38位だから、いたしかたがない。
終わってみれば6位が九州学院、7位が那須拓陽、8位には青森山田……と、力のあるところが名をつらねている。世羅を別にすれば、入賞8校の顔ぶれはまずまず順当なところだろう。
前代未聞! 駅伝らしからぬ走行!
女子の1区は比較的ゆったりとしたペースで進んだ。1q〜3qまではだいたい3:12のペース、外国人留学生が2人いたがなぜか前には出ない。ゆったりとした入りでいつになく大集団で進んだ。
レースが動いたのは3qすぎで、青森山田のフェリスタ・ワンジュグと豊川のワイセラ・ワイリムが飛び出し、後続は永田あや(小林)、小田切亜希(長野東)、近藤好 (立命館宇治)などがつづいた。
トップ争いはワンジュクとワイリムの2人にしぼられたが、2人はともに牽制し合って、道路の右へ行ったり、左へ行ったり、まるでよっぱらい走行、両者は駅伝を走っているという意識がまるでないようだった。こんなヤツに駅伝を走られてはチームもたまったものではないだろう。両者が牽制し合っているうちに、後続の日本人ランナーが差を詰めてくるというありさまだった。
区間賞争いはワンジュクが競り勝ったが2位の豊川とは6秒差、候補の立命館宇治は15秒差の6位としっかり好位をキープしたが、連覇をねらう須磨学園は36秒差の13位、予選タイム1位の興譲館は33秒遅れの12位、そして仙台育英は38秒遅れの14位となり、明暗をくっくりわけてしまった。
1区で健闘したのは3位の小林(永田あや)、4位のい長野東(小田切亜希)、5位の熊本千原台(江藤佑香子)あたりか。
2区で勝負の流れがみえた!
勝負のポイントをなしたのはやはり2区だったろう。1区で絶好のポジションをキープした立命館宇治にとっては願ってもない展開になる。
トップはめまぐるしく入れ替わった。6秒差でタスキを受けた豊川の二宮悠希乃がすぐに青森山田をとらえてトップを奪うのだが、立命館宇治の夏原育美がはげしく追い上げてくる。
夏原は最初からスピードに乗ってどんどんと順位をあげてきて、2.4qで二宮の追いついてしまう。両者はびっしりと肩を寄せ合う。夏原は一気にはゆかない。コースはだらだらとした下り坂で、一気にゆけばオーバーペースになると判断したのは地元の選手ゆえのことだろう。
しばらくはがまんして併走、残り1qで一気にしかけた。二宮は追うことが出来なかった。わずか5秒の差だが、レースの主導権はここでトップを奪った立命館宇治の手に落ちて九区のである。夏原の冷静な勝負勧が光った走りだった。
2区を終わって興譲館が32秒差ながら3位まで押し上げてきたが、須磨学園はいまだ53秒遅れの8位にあえいでいた。
際立つ戦力の充実! 立命館宇治
2区を終わったところでは須磨学園、仙台育英といった主力がいまだこうほうのまま、3位の興譲館にしても32秒も遅れている。立命館宇治と豊川のマッチレースの様相だったが3区の両校がはげしくツバ競り合いを演じた。
立命館宇治の3区は沼田未知、区間5位だから走りそのものがそれほど悪いわけではなかっが、豊川の伊澤菜々花(区間賞)に追い上げられ、4区へのタスキ渡しはほとんど同時、けれどもトップの座を渡さなかったあたり、さすが立命館宇治のランナーだと思った。
豊川をはじめ後続の追撃はここまでで、4区以降は立命館宇治が持てる分厚い戦力で相手をまったく寄せつけなかった。高校生になって駅伝を走るのは初めてという1年生の伊藤紋が快走、みるみる後続との差をひろげてしまうのである。
抜けた立命館宇治のはるか後方で、豊川、神村学園、興譲館がはげしく2位を争っていた。残り500mで興国館が2位にあがってくるのだが、トップの立命館との差は1分を超えていた。
立命館のアンカー・竹中理沙に1分もの余裕を持たせてはいかんともいしがたい。1qの入りは3分を切る2:59、1q〜2qが3:01と気合いをいれて、後続をちぎってしまうとあとは独走でゴールまでタスキをはこんでいった。
立命館宇治の後ろでは2位から6位までがダンゴ状態、まれにみる大激戦の2位争いを制したのは熊本千原台であった。、
来年は台風の目になるか? 豊川、熊本千原台
立命館宇治は3000mの平均記録が出場チームのうちトップ、予選会記録(地区大会)もトップ、高校総体の入賞メンバーがずらりと顔をそろえている。額面通りの実力をいかんなく発揮しての圧勝であった。むしろ優勝は2000年以来の7年ぶり2度目であるというところが、なぜか不思議に思われた。
対抗馬とみられていた興譲館、仙台育英はともに主力が故障欠いた。須磨学園は1区で出遅れて圏外に去ったとはいえ、立命館宇治の強さが眼を惹くレースだった。
2位の熊本千原台は1区で5位につけて、その後も上位をきっちりとキープ、最終区では1年生ランナーの池田絵里香が区間賞の激走、5位から3人抜きで2位まであがってきた。
興譲館3位、仙台育英も4位、興譲館は前田、仙台育英は超高校級の絹川愛というチームの柱を欠いていたが、終わってみれば上位にもぐりこんでいる。この両チームはむしろ健闘したといっていい。
大健闘は7位の豊川だろう。最終的には7位まで順位を落としたが、3区までは立命館宇治を苦しめ、優勝争いを演じていた。3区では1年生の伊澤が区間賞。創部2年目、初出場での7位入賞は今後の励みになるだろう。熊本千原台とともに来年あたりは台風の目になるやも知れない。
もう1校、健闘組をひろえば山田であろう。女子では第1回大会から19回まで連続出場、最近では今一歩のところで入賞をのがしてきたが、今回は8位に入り、悲願の初入賞を果たした。
期待はずれは連覇をのがした須磨学園か。最後は5位を確保したものの、1区の中道の出遅れがチーム全体のリズムを悪くしたようである。
それにしても……。今回は男女ともに主力の故障が多いのが眼についた。それはそのまま故障するほどハードな練習を重ねなければ上位にはやってこれないという昨今の駅伝事情の激しさをものがたっている。
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出場チームHPムHP |
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