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いわゆる駒澤ペースで余裕の勝利!
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(2007.11.04) |
繋ぎの区間で勝利の流れに乗った!
駒澤が高らかに笑った。ほんとうに強かった。駒澤のれほどまでの圧勝劇をいったい誰が予想し得ただろうか。
東海大には佐藤悠基、伊達秀晃がいる。中央大には上野裕一郎がいる。日大にはダニエルがいる。順天堂大には松岡佑起がいる。日体大には北村聡がいる。早稲田大には竹澤健介がいる。山梨学院大にはモグスがいる。
駒澤大には誰がいるか? スーパーエース的存在の選手は誰ひとりいない。それでいて大学日本一である。4区以降はまさに独り旅、後続との差はひろがってゆくばかりだった。
大八木マジック……とでもいおうか。エースがひとりもいなくても、あれほど強いレースができる。学生駅伝ならではの面白さを演出してみせた。これをマジック……といわないで何というのか?
レースのターニングポイントは3区にあった。3区は9.5q、全8区のうち最も距離の短い区間である。
2区を終わったところで、トップをゆくのは早稲田、1秒差で順天堂と駒澤……という展開であった。駒澤の走者は池田宗司、早稲田は中島賢士、順天堂は関戸雅輝であった。 3人はひとかたまりになって進み、1qは2:53というペース、池田が3年生らしく、主導権をにぎっているようだったが、集団は容易にくずれる気配がない。
5qは14:56で通過、最後まで集団でゆき、中継所手前でヨーイドンの展開になるのか。ならば後ろからくる日大、日本体育大学、東海あたりが迫ってくるかもしれない……などと首をかしげていると、そんな知ったかぶりのヨミをあざ笑うかのように、駒澤の池田が動いたのである。
5.2qあたりだった。順天堂の関戸が先に遅れはじめ、早稲田の中島もじりじりと後ろに置いてゆかれた。
最近の駅伝では、あんがい繋ぎの区間がキーポイントになることが多い。その典型的なケースというべきか。中継点ではトップの駒澤と2位の早稲田との間に、なんと50秒もの差がついていた。
サプライズ! ダニエルが1区に登場!
3区で勝敗のゆくえは一気に駒澤になだれうった。4区以降はまったくの独走状態となってしまうのだが、その伏線はやはり1区にあったとみなければなるまい。
1区はスタートから日大のダニエルがとびだした。1q=2:40の入りである。誰もついてゆかないだろうと思っていたが、第一工業大のJ・グギと広島経済大のS・ガンガの留学生、そして駒澤の豊後文章、中央の梁瀬峰史、順天の山ア敦史、早稲田の高原聖典らが追う気配を見せた。。
ダニエルは3qでペースをあげ、4qでは独走状態となった。後続は少しづつバラけはじめ、日本人選手の多くは遅れはじめるのだが、なんと駒澤の豊後がガンガとグギにくらいついて2位集団にのこっているではないか。
ダニエルは5qを14:05という区間新記録のペースで通過、2位集団は3チーム、第3集団12チームとの差も少しづつひろがりはじめる。
駒澤の豊後とは好対照だったのは東海大学の皆倉一馬だった。7.5qすぎではひとたび第2集団を追うところまで来たが、11qすぎでは大きく遅れ、ほとんどブレーキ状態になってしまった。
ダニエルは快調なペース、10qあたりではおよそ40秒、12qではおよそ1分も後続をちぎって、日大陣営のもくろみにこたえた。41:56は区間タイ記録である。
留学生のあいだで大健闘したのは駒澤の豊後である。第一工業大のグギを蹴散らし、ガンガと2位を激しく争い、ほとんど同時に中継所にとびこんだ。
ダニエルを積極果敢に追っていった豊後の勝負勘が、駒澤に好リズムをもたらしたといえる。
逆に候補の筆頭といわれた東海大学は皆倉の不振でなんと12位に沈み、トップから2分遅れ、ライバルの駒澤からの47秒もおいてゆかれ、完全に後手にまわってしまったのである。
竹澤健介が意地をみせる!
最も見ごたえがあったのは、エースの顔がそろった2区だったろう。
早稲田の竹澤健介はトップから1:39遅れの6位、順天堂の松岡佑起は1:38遅れの5位、そして東海の佐藤悠基は2分遅れの12位でタスキをもらっていた。
竹澤の入りは1q=2:37、順天の松岡を引き連れて、どんどんと上位に迫ってくるのである。3qでトップは日大の阿久津尚二、2位には駒澤の宇賀地強があがっており、3早稲田の竹澤と順点の松岡が3位集団で追い上げていた。
6qで竹澤と松岡が宇賀地をとらえて2位集団となってトップの阿久津を追走、差はみるみる詰まって、10qすぎでは30秒、そして12qすぎではとうとう3人が、トップの阿久津を抜き去るのである。
竹澤と松岡とは対照的に、後ろの佐藤悠基のほうはいまひとつピリッとしなかった。6人抜きで一時は5位まであがってきて。日本体育大学、中央学院、第一工業大などと集団をになっていたが、そこから抜け出すことができなかった。むしろ一時は集団から置いてゆかれるしまつだった。11qすぎで体勢を立て直し、ふたたびペースアップして5位までやってきたが、とても佐藤本来の走りとはいえなかった。
佐藤がいまひとつ流れにのれなかったのは1区で遅れをとったのが想定外だったからだろう。
さて、トップの日大をとらえた早稲田、駒澤、順天堂は、中継点まで息づまるように激しくせめぎあった。最後は竹澤健介が地力で松岡と宇賀地をねじ伏せたが、世界選手権代表の意地を見る思いだった。
学生陸上界はもちろん、いまや日本を代表する長距離ランナーというべき、竹澤と松岡を向こうに回して一歩も退かなかった宇賀地の走りはみごとというべきであった。
1区と2区、積極的な攻めの走りで好リズムをつくった駒澤大、そういう伏線があったからこそ3区逆転に結びつのである。
上野裕一郎、モグスが見せ場をつくる!
4区以降は敗者戦というべきか。駒澤だけが抜けて、先にいってしまった。他のチームは優勝とは縁のないところで、もっぱら順位争いに終始しているという感じであった。
4区では四天王のひとり、中央の上野裕一郎の出番であった。3区を終わって中央はトップ駒澤から1:50遅れの9位に甘んじていた。
上野は3qまでに拓殖、第一工業大を抜いて7位に浮上、7.8qでは東海を抜いて3位まであがってくる。その後もピッチは衰えることなく、9.6qでは早稲田を抜いて、とうとう2位までやってくるのである。
2位以下が、そんなふうに激しく争っているあいだに、トップの駒澤は1分以上も先に行ってしまうのである。
最後の8区は山梨学院のモグスの登場である。7区を終わって山梨学院はまったくいいところなく、トップの駒澤に9分37秒も置いてゆかれ、13位であった。シード権をまもるには6位まであがってこなければならないのだが、6位日大との差は4分10秒という大差があった。
いくらモグスでも今回はダメだろう……と思われたが、駅伝は走ってみなければわからないものである。1qを2:40ではいって、3qは8:10というとてつもないペースで追い上げを開始する。5qは13分46秒というから驚異的なペースである。
6.6qで大東大を抜いて11位、7qでは拓殖、城西、8qすぎで順天堂、9.5qで中央学院を抜いて6人抜き、15qでもペースは衰える気配もなく42:11と区間新記録まちがいなし……というありさま。
モグスの追撃はずざまじいものがあったが、日大にはとどかないだろう……と思われたが、なんとなんと、ゴール直前できっちりととらえてしまうのである。55分32秒という走はタイムは自身が昨年つくった区間記録を1分ちかく更新していた。
かくして山梨学院は今回もモグスの快走でシード権をまもったのである。
そのほか8区では四天王にかぞえられる2人、日本体育大学の北村聡と東海大学の伊達秀晃が登場している。
北村は2位をゆく早稲田をとらえて2位に浮上、東海の伊達も落ちてきた早稲田をとらえてチームを4位に導き、それなりの走りをみせていたが、モグスの影にかくれてしまった。
駒澤の制覇で箱根は大乱戦かの気配
優勝した駒澤はまったく危なげがなかった。全員が持てる力をフルに発揮した。総合力の駒澤……といわれるが、他校は駒澤ペースにすっかりハメられて、敗れるべくして敗れたといえよう。
ともかくツボにはまるととてつもない力を発揮する。今回は余裕の勝利というべきだろうが、ひとつ歯車が狂うと、とんでもない負け方をするのも駒澤であることを、他校は覚えておいたほうがいい。幸いにして今回はいいところがすべて出た。
候補の筆頭といわれた東海大だが、久しぶりの全日本にやはりとまどいもあったのだろう。1区の遅れがやはり大きかったのだろう。リズムに乗り切れないまま終わってしまったようである。大砲2門が生きる展開にならず、負けるべくして負けた。今回の負け方をみるかぎりは箱根でもやはり一抹の不安がある。
2位の日本体育大学、3位の中央大学も今回はそこそこ健闘している。日大とともに今年も安定勢力にあげなくてはなるまい。
それより大健闘したのは久しぶりの早稲田だろう。最後は5位まで順位を落としたが、2区ではトップに立ち、7区までは3位位以内をキープしていた。今シーズンは箱根でも上位と互角に渡り合えるところまできた。
順天堂は昨年にくらべると戦力低下は否めず、11位というのはしかたのないところかもしれない。箱根の覇者だが、今回はかなり苦しいか。
全日本を駒澤が制したことにより、箱根はますますわからなくなってきた。今回はたまたま駒澤の得意パターンにみごとにハマって、圧勝劇となったが、実力的に見て上位はそれほどの差はない。乱戦必至の形勢である。
ふたたび、大八木マジックについて……
それにしても……。
日本独特の競技である駅伝はタスキを通じて「心」つなぐ競技であるといわれている。チームのメンバーひとりひとりの「心」がひとつになったとき、1+1が3にも4にもなる。 選手の「心」を育むのは誰なのか? 監督でありコーチである。
大学生とはいえ、しょせんは「こども」である。だから「指導者」の役割はきわめて大きい。とくに学生スポーツは、ある意味で指導者がポイント……という側面がある。箱根や全日本に出場するような関東の大学にやってくる選手たちは、いずれもエリートランナーばかりで、素質的にはそんなに大差はない。極端な言い方をすれば指導者しだいではどうにでもなる。
先の全日本大学女子駅伝の時評で、優勝した立命館の十倉みゆきコーチについて少し触れた。十倉マジック……といわれるほど、彼女の存在はいまでは輝きをはなっている。
彼女は決して選手に「おもねる」たち「こび」たりしない。ともだち…の関係になることもない……という。それでいて選手からの信頼は絶大なのである。
女子では十倉マジックならば、男子では大八木マジック……だろう。 今回の駒澤大学圧勝劇、大八木監督は、まず選手たちを讃えた。だが、その道筋は大八木マジックといわれる指導力がもたらしたものである。
優勝の記者インタビューを見ていて、大八木弘明という男の存在がいぶし銀のように光り輝いているように思った。
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