|
アナのない布陣でもくろみどおりの圧勝!
|
(2007.12.16) |
駅伝娘の本領発揮! 渋井がきっちりと決めた!
前をゆくランナーが視界に入れば、ひたすら背中をみつめてガンガン突っ込んでゆく……。多少のオーバーペースもなんのその、追いつき抜いてしまえば、あとは並はずれの負けず魂で押しきってしまう。それが駅伝ランナーの習性というものだろう。
現在の日本女子をみわたして、駅伝ランナーとして天賦の才にめぐまれていると思われるのは渋井陽子と福士加代子で、この2人が双璧をなす。
そんな渋井陽子にとって、まさに、おあつらえむきの展開というべきか。エースランナーの集う第3区であった。それにしても、まさかレースの流れを決定づける最大の勝負どころになるとは予想もしなかった。
2区を終わってトップをゆくのは第一生命の尾崎好美、7秒遅れでパナソニックのE・キムウエイ、そしてキムウエイから2秒遅れで三井住友海上の渋井にタスキが渡ったのである。
渋井とキムウエイがトップの尾崎を猛然と追い、2.5qでは早くも三つどもえの様相、だが渋井は併走すら許さなかった。2.6qではトップに立って主導権を奪うと、あとはじりじりと引き離しにかかる。3qの通過が9分10秒、5qが15分10秒というハイスピードにキムウエイもついてはゆけなかった。
区間の前半であっさりと結着をつけた渋井、駅伝ランナーとしての勝負勘はきわだっていた。区間賞はホクレンのフィレスに持ってゆかれ、2位の天満屋の中村友梨香からも8秒遅れで区間3位におわったが、2人はいずれもトップ争いとは関わりのない後ろからきたランナーたちである。ガチンコ勝負ならばそれほど遅れをとることもなかっただろう。
渋井の3区での奪首は4区のルーキー・高吉理恵の区間賞の結びつき、5区の大崎千聖もいいリズムで走って後続をぶっちぎった。レースの流れというものはそういうものなのだろう。その好循環を呼び込んだのが渋井の走りだった。
今回に関するかぎり、渋井には不安がないわけではなかった。先の東京国際マラソンで北京の切符を狙ったが、あえなく失速して7位という不本意な結果に甘んじている。あるいは挫折のショックが尾をひくのでは……と懸念がないわけではなかった。
けれども渋井は根っからの駅伝ランナーだった。テレビの特集番組で「このままでは追われない……」と、自ら言っていたが、そういう気持ちを自分にも周囲にもはっきりとしめしたレースぶりだった。
積極果敢さが光る! 第一生命・勝又美咲
第1区は東日本実業団の再現となった。またしても第一生命のあの勝又美咲が主導権を握る展開になるのである。
スタート直後に先頭に立ったのは三井住友の岩元千明、だが1q=3:21とスローペース2q=6:27秒……とそれほどペースはそれほど早くない。そんななかでしびれをくらしたこあのように飛び出したのが第一生命の勝又である。
勝又は2.2キロで先頭に立って集団をひっぱりはじめた。東日本のときは4.5キロから一気に行ったが、今回の仕掛けはそのときよりはるかに早かった。よほど好調で自身があったのだろう。
勝又は3qで完全に抜けだした。三井住友(岩元千明)、京セラ(林奈々子)、アルゼ(那須川瑞穂)、資生堂(弘山晴美)、ワコール(野田頭美穂)などがつづく展開になったが、誰一人として勝又についてゆけなかった。
かくして第一生命が先手をとり、三井住友が11秒遅れと好位置につけ、アルゼ、パナソニック(杉原加代)、京セラ、資生堂、ワコール、ノーリツ(小崎まり)九電工(西尾摩耶)とつづいた。
1区で遅れをとったのは天満屋(泉有花)で40秒遅れの12位、スズキ(赤川香織)は1分10秒遅れの18位……と、意外な結果となった。
さらに優勝候補の一角とまで呼び声の高かったホクレンは根城早織がなんと区間25位という大ブレーキ、ここで1分39秒も遅れをとってしまったのである。
2区は第一生命は森春菜、三井住友は山下郁代の争いとなったが、パナソニックの吉川美香が追い上げてきた。残り500mでは三井住友をとらえて2位まで浮上、第一生命から3位の三井住友まではわずか9秒という展開になって3区に突入するのである。
2区を終わって健闘していたのは4位のアルゼ(21秒遅れ)、5位の京セラ、6位のワコール(ともに25秒遅れ)というところ。ホクレン(細川好子)はペースがそれほど上がらず、1分43秒遅れの22位、トップからは逆に離されてしまったのは大きな誤算だったろう。
フィレス(ホクレン)がなんと16人抜き!
かくして渋井が爆走した3区を迎えるわけだが、渋井がトップを奪う攻防の後ろで、順位はめまぐるしく変動していた。
渋井がトップに立ったあと、驚異的な粘りをみせたのは第一生命の尾崎好美で、ひとたびパナソニックのキムウエイから遅れていたが、渋井に競りツブされるかたちで落ちてきたキムウエイをとらえて再び2位に浮上してくる。
ところが、その後ろからはアルゼのJ・モンビと天満屋の中村友梨香がひたひたと迫ってくるのである。モンビが6qで落ちてきたパナソニックのキムウエイを抜いて3位に浮上するも、7.8qでは後ろにいた天満屋の中村がモンビをとらえて3位へ、さらに2人は併走しながら粘っている第一生命の尾崎をとらえて、最終的には2位、3位に浮上してくるのである。
さらに……。もっと後ろからはホクレンのO・フィレスがやってくる。22位でタスキをうけると、3q=8:51というハイスピード、3qにしてでに9人抜き、その後もペースダウンすることなく、最後は16人抜きの6位まで浮上、トップから1分07秒差まで追い上げてきたのである。もし1区、2区の遅れがなければ、フィレスの爆走でホクレンは3区では確実にトップに立っていただろう。
区間成績ではフィレスにつづいたのは天満屋の中村友梨香で31分30秒、これは日本人として最高タイム、みごとな走りであった。
序盤に出遅れた天満屋とホクレンは3区でなんとか帳尻を合わせたが、明暗をわけたのはワコールであった。2区を終わってトップから25秒遅れの6位につけるという大健闘ぶり、後半はスーパーエースがひかけているだけに、きわどく優勝争いに絡んでくるかとさえ思われた。
ところが……。3区の風間友希がなんと区間25位という大ブレーキ、一気に順位を16も落として22位に転落してしまうのだから、駅伝というものはわからないのもである。
見えない敵とはげしく区間賞争い!
三井海上の4区は高吉理恵、昨年はまだ須磨学園のメンバーとして高校駅伝を走っていた。ルーキーながら三井住友のメンバー入りするだけの力を発揮したのはさすが……というべきだろう。
高吉は落ち着いた走りで第一生命・飯野摩耶との差を3秒かせいだ。初出場にして区間賞、高吉は第一生命の追撃ムードの根をここですっかり断ち切ってしまったといっていいだろう。
5区は東日本予選のときと同じように三井住友の大崎千聖が2位との差をどんどんとひろげてしまった。上り坂の若い力ある選手に余裕を持たせてはどうしようもなかろう。勝負は5区で決してしまった。
最長区間の見どころのひとつは今シーズンの女子長距離・駅伝では双璧をなすといわれるワコールの福士加代子とホクレンのママさんランナーとして知られる赤羽有紀子の対決にあった。
ところがワコールは3区で失速、4区の新田百恵も区間24位という大ブレーキ、順位を24位まで落としていた。ホクレンは3区で6位まで浮上したものの4区では2つ順位をおとして8位である。よって直接対決はのぞむべくもなく、見えない敵を相手にした区間賞争いになってしまったのである。
赤羽は1q=3:10前後のペースで、3q=9:30のペース、福士のほうは1q=3:09とほぼ変わらない。赤羽は2qまでの2人を抜いて6位まであがり、福士も他のランナーが停まっているかのようにハイペースで1人、2人と抜き去ってゆく。いつもながらの軽快でリズミカルな走りは見ていて心地がいい。見えない敵と戦う両者はそれぞれ自分の走りをしっかりとまもり、まったくゆずらない。
赤羽は今大会も好調そのものだった。とくに横から見るランニングフォームはなんとも美しい。見ていてほれぼれするほどである。4.2qではパナソニック(平良 茜)をとらえて並ぶまもなく前に出る。8qではアルゼ(堀江知佳)をとらえて、5人抜きの3位まであがってきたのである。
福士は最終的に13人抜きでの11位までやってきた。タイム的には赤羽にわずか7秒先んじて一昨年、昨年につづいて福士がこの区間を制した。しかし、もし両者がおたがいに相手の見えるところで走っていたら、あるいはちがった結果になっていたかもしれない。それほど今季の赤羽有紀子の充実ぶりはきわだっている。
ミスの有無が勝負の明暗をわけた!
三井住友海上の優勝は順当なところ。6人のメンバーの力が安定している。区間賞こそ4区の高吉の1つだけだが、他の5人はいずれも2〜3位に名を連ねている。土佐礼子を欠いても勝てるほどの選手層の厚みが勝因というべきだろう。
今大会はポイントになるだろう……と思われた渋井陽子がきっちりと自分の役割を果たした。陣営にしてみればもくろみ通りだっただろう。
2位の第一生命も力を発揮した。エース不在で3区と5区が懸念されたが、3区は尾崎好美がよくふんばった。本来なら渋井に競りツブされたら、大きく失速するところだろうが、よく粘っていた。5区の起用された垣見優佳もまずまずの走りで、昨年の汚名を返上した。来シーズンは期待が持てそうである。
3位の天満屋は坂本直子を欠きながらの戦いになったが、新エース・中村友梨香を中心によくまとまっていた。1区の出遅れがなければ、好勝負になっていただけに惜しまれるところである。
大健闘は4位のアルゼである。東日本の予選の戦いぶりからみて、面白い存在になるだろうとみていたが、予想たがわぬ見事な戦いぶりであった。1区の那須川瑞恵が3位につけたのが好リズムを呼んだようである。
5位のホクレンは惜しかった。陣営にしても、おそらくちょっと悔しい想いを噛みしめているだろう。1区の根城早織で大バクチに出たようだが、不幸にして結果は「凶」と出たようである。根城は東日本でも失敗している。にもかかわらず本戦でも使われたのは、よほど陣営の信頼が篤いのだろうが……。いちばん悔しい想いをしているのは本人だろうから、来年はきっと借りを返しにくると見ておきたい。
それにしても……。あれだけのミスがありながら一時は3位まであがり、最終的にも5位という最高の成績を収めたのだから、その地力は注目に値する。もう終戦という位置から上位にやってきたのは、ひとえにフィレスと赤羽の奮闘によるものだが、だからこそ悔いも大きいだろう。
そのほか入賞を果たした6位の日本ケミコン、8位の九電工も大健闘の部類にはいるだろう。
マラソンに、長距離に……、北京オリンピックをめざせ!
期待はずれに終わったのは、さしずめ京セラ、スズキ、資生堂、ワコールあたりか。淡路駅伝の覇者・京セラは原裕美子が欠場したうえに、エースの小川清美がいまひとつ、若い選手が多いだけに流れが狂って、紛れが出てしまったようである。
スズキは前半の遅れで最後まで乗れなかったようである。予選では好成績をあげ、戦力的にも非凡なものを持ちながら、いつも本戦ではパッとしない。そういう悪循環から抜け出せないのはナゼなのだろう。
資生堂の11位はしかたがないだろう。前回の覇者とはいえ、体制がゴロッと変わってしまい、まったく別のチームになったというべきで、だからもともと多くをのぞむのはムリだったのだから……。
ワコールもミスが響いた。前半は好位置につけながら3区と4区が大誤算で、20位以下に落ちるというありさま、5区・福士加代子と6区の湯田友美の奮闘でようやく9位までやってきた。3区と4区がまともに走っていれば、あるいは優勝争いにも顔を出していたやもしれないだけに惜しまれる。
本大会をみていて、総じていえることは、最近の駅伝はいかにも世知辛くなったなあ……という一点である。ちょっとしたミスが命とりになる。たとえば優勝した三井住友、2位の第一生命、いずれもほとんどミスというものがないのである。終わってみれば勝つべくして勝ったといっていいだろう。
女子長距離のトップが集う本大会、そういういみで北京オリンピックをめざす選手の動向を見定める機会のひとつであったが、マラソンの代表をめざす京セラの原裕美子、天満屋の坂本直子は欠場してしまった。
大阪をめざすという福士加代子、名古屋をめざすという大崎千聖はともに出場にふみきったのは経過も順調そのものだから……と思われる。とくに福士には一発大駈けを期待したいものである。
ほかにもトラックの長距離種目で北京をめざす選手もかなりいるだろう。駅伝ランナーたちそれぞれ、新しい年のチャレンジに期待したいものである。
|
|
|
|
|
|
|
出場チーム&過去の記録 |
|
|
関 連 サ イ ト |
|
|
|