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北京オリンピックを目前にしてスタート!
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(2007.10.01) |
世界は遠くなりつつあるが……
日本の長距離・マラソンは男女ともに世界が遠くなりつつある。8月の大阪・世界陸上の結果をみればあきらかだろう。最終日の女子マラソンで土佐礼子が獲得した銅メダルのみ、トラックのスピードについてゆけず、持久力をもとめられるマラソンでもいまひとつだった。
とくに男子は深刻である。長距離もマラソンも惨敗だったとみていい。理由はかんたんである。代表の顔ぶれをみるとみんな30歳代前後である。代表になるのはみんなピークをすぎた選手ばかりで、25〜28歳ぐらいのいわば油の乗りきった、勢いを感じる選手がいないのである。世界で戦えないのはあたりまえである。
なぜなのか? 箱根駅伝のせいだ……という陰の声がある。かなりまことしやかにささやかれている。
箱根駅伝は約20qを10区間つらねたかたちで構成されている。箱根の区間距離は20〜23qだが、20qというのが微妙なのである。スピードのある選手を育てるにしても、マラソン選手を育てるにしても中途半端だ……というのである。
さらに箱根駅伝そのものが新年の国民的行事になってしまい、メディアもやたら持ちあげるから、選手はもちろん指導者も、ホイホイと乗せられてしまった。箱根がすべてだと錯覚してしまった。選手は箱根で活躍することが最終目的になり、指導者のほうもいつしか箱根に勝つことしか考えなくなってしまった。
強化策「U−23」で展望はひらけるか!
その結果、長距離といえばまず「駅伝が先にありき」で、すべては駅伝を中心にまわりはじめた……というのである。いわゆる箱根病は実業団にも伝染し、実業団でも駅伝中心のチームづくりが主流になってしまった。あくまでマラソンに軸足をおいて、練習スケジュールを立てているところは数えるほどになってしまった。
箱根駅伝はマラソン練習のひとつとして生まれたものである。あくまでマラソンが「主」であって、駅伝は「従」なのである。箱根駅伝の生みの親である金栗四三はそのようにいっている。『箱根駅伝70年史』には、そのあたりがくわしくのべられているから、興味のある向きは、一読されたい。
男子長距離の不振は箱根病が原因であるという説には、たしかに肯けるものがあるが、箱根駅伝は80数回もつづいている。たとえば瀬古、宗兄弟、中山、児玉、谷口などが活躍したころも箱根はあった。かれらは箱根でダメになったか。瀬古や谷口は箱根から世界に飛び立っていったのだから、決定的な根拠としては、はななだ脆弱だといわねばならない。
日本陸連は男子長距離・マラソンの強化しようというわけで、今年から23歳以下の選手の強化策「U−23」を進めようとしている。
世界陸上でも日の丸をつけて出場した竹澤健介(早大=20歳)をはじめ、佐藤悠基、伊達秀晃(東海大)、松岡佑起(順天堂大)など、若い世代が台頭しつつあり、計画的に育成しようと、やっと重い腰をあげたのである。
とりあえず初年度にあたる今年は、経済的に余裕のない学生を対象にして、研修会などから始めるのだという。学生だけでなく、23歳以下の社会人選手や指導者の参加も歓迎するという。
駅伝かマラソンか? それが問題だ!
駅伝の弊害が出ているのは男子よりもむしろ女子のほうではないだろうか。駅伝を走る選手は多いが、マラソンの選手層はきわめて薄くなっている。世界選手権の代表をみれば明らかだろう。5人の選手のうち原裕美子をのぞいて、すべて30歳を越えている。いわば昔の名前で出ている選手ばかりだった。
北京オリンピックを来年にひかえ、今シーズンの駅伝は、そういう重い課題を背負って出発することになる。
日本代表クラスの選手たちは、それぞれ自らの目標をもっているだろうから、駅伝がすべてではない。3つある最終予選で五輪切符を獲りにゆかねばならない。だから実業団のトップアスリートで、北京に手がとどくところにいる選手たちは、駅伝にピークをもってこないかもしれない。
野口みずきのように駅伝とは無縁の選手は問題はないだろうが、たとえば渋井陽子などのように駅伝でも優勝を争うチームに所属するトップ選手たちは、今年にかんするかぎりかなり勝手がちがうだろう。だからチーム事情によって、例年とはちがったオーダー、あるいはチーム構成になるケースもある。
だから今年の駅伝はむずかしい。たとえばワコールの福士加代子である。トラック女子長距離の第一人者だが、北京オリンピックはマラソンで出場枠をねらうという噂がもっぱらである。おそらく1月の大阪国際マラソンに出てくるだろう。
いずれにしてもマラソン練習のさなかに駅伝を走ることになる。そうなれば本来のスピード感あふれたレースが観られるかどうか? 福士だけでなく、他の選手も同じような問題が出てくるだろう。
そんなこんなで今シーズンの駅伝では、北京五輪をめざすトップ選手たちの爆走はみられないかもしれないが、駅伝育ちのマラソンランナーの誕生を期待をこめてみまもりたいと思う。
北京のマラソン代表切符2枚のうち1枚を福士加代子が獲ることになれば、日本の女子マラソン界も少しは明るさがみえてくるだろう。
今年も眼がはなせない大学駅伝! 実力伯仲で激戦必至!
シーズンの幕開けは三大大学駅伝のひとつ「出雲駅伝」だが、今年も学連から選ばれた20チームにアメリカIVYリーグ選抜を加えた21チームが出場してくる。
出雲にかんするかぎり候補の筆頭は2連覇している東海大学だろう。昨年の優勝メンバーのほとんどがそのままで、学生長距離界のエース・佐藤悠基(3年)、伊達秀晃(4年)という大砲がひかえている。
松岡佑起の引っ張る順天堂大学、上野裕一郎の中央大学、北村聡の日本体育大学、さらには駒澤大もそれほど差はない。注目は5年ぶりに出雲路にもどってきた早稲田ではないだろうか。前述の竹澤健介を中心に加藤創大などが育ってきており、チーム力は着実に上向いている。
出雲は全日本、箱根をみすえて、各大学の今年の戦略を探る大会という位置づけなのだが、距離の短い駅伝ゆえに、今年も眼離しできない熾烈な争いになるだろう。
全日本を経てて箱根に向かう道筋は、最終的に出雲の結果をみて占いたいと思うが、興味はもっぱら、毎年のように優勝候補の筆頭にあげられながら、今一歩のところでとどかない東海大が3度目の正直で悲願を果たすかどうか……である。
今シーズンの東海は、昨年までとちがって、出雲→全日本→箱根 と、王道のステップを踏んで箱根にのぞめるだけに、一昨年、昨年よりは、かなり有力になったとみなければなるまい。
現時点で占えば箱根は東海、昨年の覇者・順天堂、総合力の「駒澤大、日本体育大、東洋大あたりが中心か? 日大、中央も無視できない面白いのはむしろ早稲田、城西あたりだろう。
実業団駅伝 男女ともにターニングポイントにさしかかる!
実業団駅伝は男女とも昨季はマラソンに力をそそいでいる中国電力と資生堂が覇者となり、コノかミノルタ、三井住友海上という常勝チームが敗れている。男子はさらに古豪・旭化成が復活して注目をあびた。
今シーズンは駅伝レースのあいだに北京五輪の最終予選レースがあるので、マラソンと駅伝との兼ね合いが懸念される。男子も女子も、そのあたり微妙で、優勝のゆくえに大きく影響をおよぼすかもしれない。
男子はやはり中国電力、旭化成、日清食品の上位に加えて、コニカミノルタ、あとはトヨタ勢が中心になるだろうが、昨年にまして今シーズンは大激戦になるだろう。
女子は昨年優勝の資生堂をまずあげなければならないのだろうが、今シーズンは若干チーム力が落ちているように思われる。前監督の川越学がクラブチーム・セカンドウインドを起ち上げ、主力選手のうち、加納由理、尾崎朱美、吉田香織、嶋原清子らが追従するかたちとなってしまったからである。
三井住友海上もひところほどの爆発力がないだけに、今シーズンは混沌としている。三井住友海上、天満屋、資生堂、ワコール、京セラなどが候補となるが、ワコール、ホクレン、第一生命、さらに若い力がのびてきている豊田自動織機あたりも不気味な存在である。とりあえずは予選にあたる東日本実業団駅伝、淡路島駅伝をみてから、今シーズンの勢力地図を見定めたい。
大学女子駅伝 解せないスケジュール!
今シーズンの駅伝スケジュールをみわたして、アッと思ったのは大学女子駅伝である。女子の大学駅伝は、「全日本大学女子駅伝」と「全日本大学女子選抜駅伝」のふたつがある。
一昨年までは11月に「全日本大学女子駅伝」、年明けて2月に「全日本大学女子選抜駅伝」……というスケジュールでおこなわれてきた。
ところが……。今シーズンは10月28日に「全日本」、それから2ヶ月もたたない12月24日に「選抜」をやるというのである。スポンサーの事情やさまざまな思惑がからんでいるのだろうが、あまりにもレース間隔が詰まりすぎている。
もともと女子選抜は埼玉で行われてきたが、昨年から開催地が変わり、日程もなかなか決まらなかった。昨年は1月9日の成人の日が充てられ、「成人式を迎えるランナーもいるのに……」と周囲から顰蹙を買っていた。
今年はさらに早まって、年の瀬の24日だという。ほとんど同じ顔ぶれでおこなわれる駅伝レースなのに、とうてい考えられないようなインターバルであえて開催にふみきる意味は、いったいどこにあるのだろうか。
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