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東京が1区から飛び出して、そのまま……
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(2007.11.12) |
大崎千聖に「福士2世」の予感!
女子の長距離と駅伝の第一人者は誰か……と、問われれば、迷うことなく福士加代子(ワコール)の名をあげるだろう。5000mからハーフまでなら、トラックだろうとロードだろうと彼女に勝てるランナーはいない……と断言しておこう。
ところが……。今年の駅伝シーズンが幕開けて、そんな福士の後継者たらんとする若い力がとびだしてきた。大崎千聖である。聖徳高(茨城)から三井住友海上に入って2年目の選手ながら、いまや三井住友のエース格の活躍ぶり、あの福士加代子のデビュー時と類似点が多いのである。
福士2世……として名のりをあげた大崎千聖を語るには、昨年12月の全日本実業団女子駅伝にさかのぼって触れなくてはなるまい。
なぜなのか?
大崎がこの1年で福士2世といわれるまでに成長したのは、あのレースが出発点になっているからである。
あのとき大崎と弘山はともにアンカーとして登場している。8区を終わって三住友海上と資生堂は激しくトップを争っていた。先にタスキをもらったのは三井住友海上の大崎千聖、資生堂の弘山晴美は10秒遅れで追っかける展開で最終区が幕あけたのである。
追う弘山は2qで大崎に追いついて併走状態となった。びっしりと肩をならべてのしのぎ合い、3.8qと5qで大崎が果敢に仕掛けたが、弘山は影のようによりそって離れない。弘山はいかにもベテランらしく若い大崎の寸法を測るかのように、じっくりと時を待つ作戦とみえた。
レースが動いたのは競技場の進入路にさしかかったときだった。そこで弘山がするすると前に出たのである。差はじりじりとひろがってゆく……。大崎はけんめいに追ったが、もはや元トラックの女王を追うことはできなかった。
いかにもベテランらしい駆け引き、元女王の執念というべきか、大崎はまんまと敗れたのである。
大崎はそのときの悔しさが忘れられなかったのだろう。悔しさを濯ぐために……。それからの大崎の活躍はめざましいものがある。
1月の全国女子駅伝では9区の最長区間(10q)に登場して10人抜きの区間賞、区間2位を31秒もちぎった。第34回世界クロスカントリー大会のジュニア女子5qの日本代表選手にもなった。
「第28回まつえレディースハーフマラソン」(3月29日)では、1時間9分25秒の好記録で優勝、7年前に先輩にあたる渋井陽子が出した大会記録を6秒更新してしまった。
福士2世……と注目をあつまるなかで、今シーズンを迎え、緒戦の「東日本実業団駅伝」では5区の最長区に登場、区間賞にはわずか5秒およばなかったが、三井住友の8連覇を不動のものにしている。
冷たい雨の降りしきるなか、ハイペースで幕あける
大崎千聖と弘山晴美は、因縁浅からぬ仲といえるが、奇しくもそのふたりが本大会で東京チームの主力として登場したのである。大崎が1区、そして弘山が最終9区……であった。
第1区は寒い雨が降りしきるなかでのスタート……。気温は12度という発表だったが、体感温度はそれ以上だったことだろう。大崎はスタートからそんな寒さを吹っ飛ばすかのような勢いで飛び出していった。
1qは3:07、1〜2qも3:09、3qのラップは9:21というのだから区間新記録のペース、誰もついてはこれない。外国人ランナーなら後続をぶっちぎるシーンはめずらしくないが、日本人ランナーがこれほどハイペースでぶっとばすのを観るのは久しぶりだった。
大崎がひとり抜け、後続は長野の大沼香織(立命館大)らが2位グループを形成してつづくというかたちであった。
スムーズでリズミカルなフォーム、それでいてダイナミックな走法、大崎のペースは最後までゆるぐことなかった。中継点ではなんと2位の千葉を31秒もちぎっていた。
通常なら1区はそれほど差がつかず、ほとんどダンゴ状態でくるのだが、今年は大崎の快走で東京だけが大きく抜けてしまったのである。
1区を終わって31秒差で2位・千葉、3位・長野、4位・宮城、5位・神奈川、6位・新潟……。2位から6位までは、わずか14秒の間にひしめきあっていた。
昨年優勝の群馬はトップの東京から1:10遅れの9位、優勝候補の一角といわれた神奈川も42秒遅れの5位と出遅れてしまった。さらに誤算だったのは茨城か。なんと1:33遅れの13位に沈んでしまったのである
前半3区で勝負を決めた!
1区で好走したのは長野の大沼香織、最後は千葉の宮崎翔子に交わされたが、終始2位集団を引っ張っていた。先の全日本大学女子駅伝では1区で区間賞の快走、立命館大連覇の足がかりをつくったが、そのときの好調さが持続しているようだった。
1区・大崎千聖の快走によって、東京はすっかり流れに乗ってしまった。2区の高木千明(スターツ)も好リズムで突っ走った。そして3区の館盛美音(八王子高)も区間賞の力走、その差は詰まるどころか、逆にじりじりと開いてゆく。
東京の3区間連続の区間1位獲得で、2位との差をなんと1分08秒として、完全に独走態勢ができあがるのである。
2位以降は大混戦、長野、千葉、宮城、神奈川、埼玉、新潟、群馬、茨城の8チームが50秒差になかにひしめきあっていた。
候補の一角である神奈川は東京から1分30秒遅れの5位、後になって考えると、3区までに先行する東京にあまりにも差をつけられたのが、最大の敗因になったようである。
最大のライバルが伸びてこない。東京にとっては願ってもない展開である。かくして3区にして、早々と勝負のゆくえは見えてしまったのである。
楽勝ムードから一転、思いがけなかった最終区
東京は中盤も各ランナーが好リズムで乗り切った。6区を終わって2位・千葉、3位・寒川との差は1分あまり……。楽々とゴールするだろうと思われたが、最後の最後で最大のみどころがやってきた。
遅まきながら、神奈川がじりじりと追いあげてきたのである。6区を終わって1分04秒差、7区では佐瀬まりこが快走して42秒差、8区では中学生の米津利奈が踏ん張って38秒差と迫ってくる。
東京のアンカーはあの弘山晴美、そして神奈川は沖電気からパナソニックに移籍した平良茜である。
38秒もの大差があって、弘山ならば安全地帯と思いきや、今シーズンの弘山はいまひとつ調子があがってこない。先の東日本実業団女子では1区に出てきたが、区間7位という成績に終わっている。
果たして4qあたりから差はじりじりと詰まり始めた。弘山のペースは1q=3:20、平良は1q=3,16〜17である。
残り1qをきったあたりでは弘山の背後に平良の姿がみえはじめた。顔をゆがめてのたうつ弘山、前をみつめて懸命に追う平良……。2人の相貌は好対照だった。
競技場手前で追いすがる神奈川、けれども10秒差まで追ってそこで力つきた。
弘山がこれほど苦しいレースをしたのは、類がないのではないか。逃げ切れたのは前半の貯金があればこそ……、もはや元女王の面影はなかった。
笑いが弾ける若い大崎千聖、笑顔なく複雑な表情の弘山晴美……。攻守交代、立場一転した2人の表情はなんとも好対照であった。
再び問う! なぜ、この時期に?
東京の勝因は大崎千聖の勢いがもたらしたものだろう。彼女の積極性が好リズムを呼び込み、メンバー的にウイークポイントといわれた高校生、中学生も持てる力を上回るほどに好走した。
駅伝プロジェクトなるものを起ち上げ、中学生、高校生を強化してきた試みが、早くも実を結んだようである。
2位の神奈川は後半3連続区間賞で猛然と追い上げた。最後はいま一歩およばなかったが、候補らしい実力の片鱗をみせた。敗因をあげればやはり、前半3区までにあまりにも離されすぎたからだろう。
3位争いも熾烈だった。8区から群馬、茨城、千葉が激しく争った。最後は群馬の堀越愛未(ヤマダ電機)が、茨城の赤石久美(日立)に競り勝って、前回優勝の意地をみせるかたちになった。
群馬もやはり前半の出遅れが痛かった。5区までに1:38の遅れは誤算だっただろう。6区以降は急追しているだけに惜しまれるところである。
千葉は5位に甘んじたが、中盤までは上位に踏ん張っていた。5区では才上裕紀奈(積水化学)が区間賞、神奈川、長野を一気に抜き去って57秒差の2位まで押し上げている。 長野は最終的に11位まで順位を落としたが、前半は上位に絡んでいた。1区の大沼の快走によるものだろう8区を終わったところでも7位……と入賞圏内につけていたが、最終区で順位を落としたのは、有力な実業団チームを持たない府県の宿命に泣いたというべきか。
前々回優勝の埼玉は前半こそ入賞圏内につけていたが、後半は失速して9位に甘んじた。今回は「しまむら」の選手が一人も出てこないだけでなく、高校駅伝の予選当日だから、有力な高校生は誰一人も出てこない。実業団と高校生に見捨てられては上位はのぞむべくもない。9位なら善戦したほうか。
毎年のことだが、埼玉の場合は高校駅伝の県予選日とバッティングすることが多い。さらに中学生の場合も、前日に各地で中学駅伝が行われている。やはり全国大会の予選日とダブっている。だから本大会にやってきた選手のなかにも2日連続で走っている者が何人も見受けられた。
本大会は高校生、あるいは中学生が実業団のトップや大学生とともに走るところに意義があるのだが、スケジュール的にみて、かなりの無理がある。
にもかかわらず、なぜ、この時期にあるのか。開催時期を再検討する時期に来ていると思うのだが、果たしていかがなものだろうか。
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出場チーム&過去の記録 |
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関 連 サ イ ト |
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