ケーススタディ 文書化

13.03.20
ISOケーススタディシリーズとは

内山内山環境保護部に修行に来てからどれくらい月日が経ったのか振り返ってとみると、現実の時間でもう半年も過ぎてしまった。今までのケーススタディでの時間の流れはと振り返ると、現実のほぼ2倍で進んでいる。内山が本社にいるのは1年の約束だったので、もうそろそろ工場に返さなければならないことに気がついた。
ということで今回は内山の活躍で送別したい。

ケーススタディはリアル時間で4年前に始まり、物語の中では8年が経過したことになる。この物語のはじめには42歳であった山田も今年は50歳になるし、山田の娘は中学生だったが今年は大学を卒業させなければならない。とすると山田もそろそろ異動をさせなければならない。
イヤハヤ、いいかげんなお話を書いているが矛盾はないようにしたい。そんなことを考えていると、アホな話を書いて余計な苦労することもないのにと自分を笑う。


ある朝、廣井が山田を呼んだ。
山田
「ハイ、なんでしょうか?」
山田が廣井のデスクに行くと、廣井は1枚の紙をながめながら、山田に話しかけた。
廣井
出鱈目でたらめ機工って会社を知っているか?」
山田
「ハイ、うろ覚えですが・・・・たしか愛知県にある部品製造会社でしたね?」
廣井
「そうだ、関連会社の中では優等生の会社で、今度長野に分工場を作るんだとよ」
山田
「それは景気のいい話ですね。どのくらいの規模ですか?」
廣井
「200人というから小さくはないな、幹部と技術者と監督者など40名ほどは名古屋の本社工場から転勤させるらしいが、一般作業者や事務員その他は現地採用だ」
山田
「今のご時世ですから、新工場設立は現地から大歓迎されたことでしょうね」
廣井
「そうだろうなあ、工場建設が決まったときには、県知事と市長と市議会議長が本社に挨拶に来たと聞く。まあ知事は代理だったそうだが・・
ところで環境管理部門についてだが、課長にはマザー工場の元副課長が就いたというが、他のメンバーは素人ばかりだそうだ。
それで工場の環境部門立ち上げの教育と体制整備に、ここに支援要請があったらどうする?」
山田
「ちょっとすんなりとは同意しがたいですね。なんにでも筋ってもんがあるでしょう。まずマザー工場である出鱈目の本社工場が支援するのが基本でしょう。そのパワーが足りないというなら、出鱈目は・・・スライドレール事業部でしたね、その事業部の当社の工場か関連会社から支援を出すのが普通ですね。
ところで依頼とおっしゃいましたが、それは職制を通じた正式なものがきたのでしょうか?」
廣井
「いや、全然何も言われていない。おれが支援したいなあって思っただけだよ」
山田
「ヤレヤレ、廣井さん冗談を言わないでくださいよ。関連会社や工場で対応できることはそれぞれがしっかりやっていただくということで」
廣井
「おまえんところの今の状況をみると、監査は横山で間に合っているだろう。次年度の計画もほとんど終わったし、それに内山は数には入っていない」
山田
「いまいち廣井さんのお考えが分りませんが・・」
廣井
「内山もここに来て9か月だ。もう環境管理とはどういうものかというのは理解しただろう。内山に工場の環境管理体制構築を経験させたいと思うのだが」
山田
「うーん、内山は会社の仕組みなどについて通り一遍の理解はしたようですが、システム構築となるとどうでしょうかねえ〜?
それと彼は環境管理といっても廃棄物が主で、排水処理とか騒音振動などの公害防止についてはまだ素人に近いですし・・」
廣井
「だからこそ未完成の工場で、環境管理体制を担当させれば役に立つと思うんだが・・」
山田
「わかりました。とはいえ、まず内山を向こうに派遣する話をつけなくてはなりませんね。どうしたものか・・・」
廣井
「だからそこからお前がうまく話をつけてくるんだよ」
廣井はもう終わりだとばかりに、机に広げてあった環境新聞を読み始めた。
山田はヤレヤレと・・・



一週間後、山田はスライドレール事業部の環境担当に話をつけて、出鱈目機工の見学にでかけた。関連会社の管理は各事業部が行っている。環境保護部はスタッフ部門であり、指揮系統には入っていない。山田が直接に関連会社と連絡を取ったりすると後が怖い。もちろん逆のケース、つまり関連会社が環境保護部に支援を要請する場合も所管してる事業部を経由して行われる。もっとも法規制などの問合せなどは直接行っているけれど・・人を出してほしいなどお金がからむものは、事業部の了解なしにはできない。
そこは人口10万人の田舎町で1990年初め大きな工業団地を作ったものの、その後のバブル崩壊で数社しか工場建設がなく、ほとんど空き地のままだったらしい。そこに出鱈目機工の新工場はあった。建物は完成しているが、現在はまだ従業員は100人程度で一部ラインが細々と動いているだけだ。
山田は本社工場から転勤してきてこの工場に環境管理課長になった高橋高橋課長 の案内で見て回った後、状況について話を聞いた。
山田
「環境負荷としては大きくはありませんね」
高橋課長
「そうですね、メッキもなければ排水処理もなければ、ボイラーもなし。塗装ブースは水洗ですが、水は廃液として処理委託します。生活排水は公共下水です。当初は工場排水は工業団地で一括処理するという話だったらしいですが、入居者が少ないので結局各社でそれぞれ処理することになったそうです。当社の場合、量が少ないですからね。ええと、騒音・振動は工業団地ですからまず問題はない。
電力も計画通り行けば数年後には第二種になる予定ですが、当面は二種にもあたりません」
山田
「特に資格が必要なものもないのですか?」
高橋課長
「公害防止管理者は大気も水質も騒音・振動も不要です。必要なものといえば、危険物やいくつかの作業主任者それに特管産廃くらいでしょうか」
山田
「工場立ち上げのときはどうしたのですか?」
高橋課長
「設備や施設の設置やその手続きとかは、本社工場の連中が来て手伝ってくれました。それに新人の指導というか、とりあえず動かせるようにするだけはしてくれたという状況です」
山田
「じゃあ現時点は、特段問題も困っていることもないということですね?」
高橋課長
「いや、そうではないのです。本社工場でも手順を明確に定めているとか作業標準があるわけではなく、OJTといえばかっこいいですが実際は先輩のしていることを見よう見まねでやってきたわけで・・
ここで採用した新人にも手取り足取りして教えたわけですが、今後、人が代わったりするとどうなるのか、そんなとこが心配です」
山田
「なるほど、でも作業標準といいますか各種要領書は本社工場からもってきているのでしょう?」
高橋課長
「山田さんもご存じと思いますが、本社工場の作業手順書は、形は立派で一応そろっているのですが、実態は形式的なものでそれを見ても仕事はできません。またメンテがされてなく、工事による変更や設備更新が反映されていないので実務の役に立たないのです。私は本社工場にいた時、そういうのを改善したいと思っていたのですがなかなか・・
それでここでは言文一致ならぬ書面と実務の完全一致をしたいと思っているのですが、私以外、現地採用のメンバーには環境管理の経験者がおらず困っているところです」
山田
「なるほど、どうでしょうか、本社の人間が数か月お宅にお邪魔して高橋課長の手伝いをするというのは?」
高橋課長
「山田さん、それってただじゃなくて費用回収を考えているんでしょう。ダメダメ、一人が数か月応援なんていったら2百万くらいとられるんだから」
山田
「いやいやほんとに無償ですよ。実は私どもも担当者に経験を積ませたいと考えているのです」
高橋課長
「ほんと! じゃあ明日からでも」



内山は山田から3か月間、出鱈目機工の新工場の立ち上げ支援に行ってこいと言われた。実際に何をするのかも知らない。高橋課長の指示で動けと言われただけだ。
内山は単身赴任なので今住んでいる寮にも大した荷物もないが、更にその中から着替えとか若干の本だけ持ってやってきた。短期間だから夏服も冬服もいらない。高橋課長は工場から2キロほど離れたところにアパートをみつけてくれていて、その大家が朝夕の食事を用意してくれることになっている。
着任当日、高橋課長高橋課長と現場のリーダーの楡井楡井 と事務の菅野菅野 と打ち合わせをする。
高橋課長
「とりあえず日常業務については、工場の稼働開始時に本社工場の連中が教えている。まあそれでなんとか動いているわけだ。
内山君に頼みたいのは、今後発生する定期報告や定期点検などの仕組みや手順、できたらその実際の指導もお願いしたい。そしてそういったことを教えるだけでなく、手順として書き物に残してほしいということだ」
内山
「わかりました。1週間くらい状況を拝見して計画を立てたいと思います。ちょうど1週間後に山田課長が様子を見に来るというので、そのときまでに計画を立てて説明するということにします」
楡井
「内山さんよ、よく手順書なんていうとさ、文字ばっかで読むのも大変だし、現場の人間が読んでも分らないってのが多いんだよね。おれわさ、あちこちで働いてきたけど、どこでもそうなんだよね。どうせ作るなら一目でわかるようなものにしてほしいなあ」
菅野
「私もこの町の別の会社で働いてました。その会社には立派な会社規則があったのですが、まず誰も読みません。それに仕事の方法が変更されても会社規則が改定されないので、時間が経つと共に現実とずれて役に立たなくなってしまうんです。それで古くからいる人の口頭指示で仕事することが多かったです。
作るなら読めばわかって、改定しやすいものにしてほしいですね」
内山
「おっしゃるとおりです。ボクも工場にいた時、会社の規則とか手順書などを見ることがなくて、先輩のしていることを見よう見まねで覚えました。だけどそれじゃ人によって仕方が違うとかイレギュラーなことはわからないとか問題がありました。どんなものが良いのか、まず実態を拝見して楡井さんと菅野さんと相談しながら進めたいと思います。よろしく」
それからの数日、内山は楡井の案内で現場を歩き回り、事務所にある文書や帳票を菅野に聞きながら実態調査をした。



内山が長野分工場に来て、1週間が過ぎた。今日の午後は今後の計画の説明をすることになっており、山田がそれを聞くのと内山の状況視察に来ることになっている。
昼過ぎに山田がやってきて、メンバーがそろった。内山はみなに資料を配り説明する。
内山
楡井
菅野


高橋課長
山田

内山
「私はここに駐在するのが3ヶ月間となっていますので、その間にできることだけして、それ以降でなければできないことは項目だけ示して楡井さんや菅野さんにやっていただくということになります。それで概ね下記のようなスケジュールで進めたいと考えました」

 1か月目2か月目3か月目
実情調査
ヒアリング

ヒアリング
 
日常業務
各種監視測定

各種監視測定
 
非定常業務廃棄物現地調査
(発生時実施)
行政報告
(発生時実施)
本社報告
(発生時実施)
・・・ 
・・・・
 
手順書作成 
ドラフト作成

担当者によるレビュー

改定
・・・ 
・・・・

・・・・

高橋課長
「俺からの希望なんだが・・・ここは分工場なので環境だけでなく環境管理課といっても施設管理、植栽の維持、清掃、エネルギー管理までしなくてはならない。だから手順を定める範囲を、環境という切り口ではなく環境管理課の担当している業務の範囲にしてほしい」
内山
「わかりました」
楡井
「手順とか規則というと文字ばかりでものものしいのが多いけど、どうせなら1枚ものでマンガとかで表現してほしいなあ」
内山
「おっしゃるとおりですね。ボクもそのようなものにしたいと考えています」
楡井
「文章は短く、漢字は少なくしてほしいよ」
菅野
「様式を決めていただければワープロ作業は私もお手伝いします。そのとき文章の言い回しとかの標準を決めておくと作業が速く進むと思います」
内山
「すみません、おっしゃることはどういうことでしょうか?」
菅野
「基本的なことですが、デスマス調かデアル調かということもありますし、もっと具体的に文末を『とする』とか『しなければならない』とか表現をいくつか決めておくと書く方も読む方も迷わないと思います。法律の文末は8つのパターンしかありません。別に文学ではないですから、文章のパターンを決めておいたほうが良いでしょう。
また記載する項目として『目的』とか『手順』とか『注意事項』、『点検項目』などをあらかじめ決めておけば記入漏れも防げますし、読む人も次に何が来るか予測できて理解も速いと思います」
内山
「なるほどわかりました。それでは全体を一様に進めるのではなく、なにかひとつふたつについてサンプルを作ってみなさんに検証してもらった方が良いですね」
山田
「内山さん、サグラダ・ファミリアって知ってるだろう?」
内山
「はあ スペインの聖家族教会のことですか?」
山田
「そうそう、あの教会を建てたというかまだ未完成なんですけどね、あれを設計したガウディは詳細な設計図を残したのではなく、全体の設計図と一部だけ完成させて他はこれに倣って作れと言ったらしい。内山さんがここに3月いても手順書全部を終えることはできないだろう。だから全体のシステムを示して、その一部について完成させて、残りはこれを参考に作れというふうな進め方が良いと思う」
内山
「わかりました。みなさんのご意見を反映して進めます」



内山が来て早1か月が過ぎた。内山は高橋課長に声をかけた。
内山
「ちょっと相談したいことがあるのですが・・・」
高橋課長
「おお、いいとも。内山君の活躍は現場からいろいろと聞いている。製造部門とか資材管理部門にもヒアリングしているんだって?」
内山
「ハイ、それに関することなんですが・・」
高橋課長
「何か悩みごとかい?」
内山
「悩みというわけではないのですが・・・先だって高橋課長から環境の仕事ではなく環境管理課の担当している仕事について手順を文書化してほしいというお話でしたね」
高橋課長
「そうだよ」
内山
「実はそのようにしようと業務をヒアリングして流れを調査したのですが・・」
高橋課長
「何か問題があるのかい?」
内山
「仕事の範囲を限定できないのです。例えば設備を導入することを考えます。すると予算申請からメーカーとの交渉、見積、導入前の法規制や安全確認などがありますし、廃棄するときは固定資産の処理、売却するならその費用処理とか外為法の最終使用者の確認など関係することは多々あります」
高橋課長
「うんうん、それで・・」
内山
「そうしますと作らなければならない規則は、環境管理課の担当している仕事といっても環境管理課だけでなく資材部門、総務部門、経理部門、その他工場全体に関わることを決めないと、環境管理課がすることを記述することができません」
高橋課長
「なるほどなあ、本社工場の時は経理とか資材とか安全衛生などそれなりにあったというわけか・・いやなくても適当に仕事を進めていたということかもしれないな」
内山
「今、関係する部門にヒアリングしてこの工場の流れのフロー図を書いているのです」
内山はそういってA2サイズくらいの紙を広げた。そこには物品が入着してから完成までの作業工程、伝票の流れなどがゴチャゴチャと書かれている。

業務フロー

高橋課長
「ウワー、これはすごい。内山君が一人で書いたのか?」
内山
「いえ、私一人ではできません。各部門にヒアリングして少しづつ作成しています。まだまだ未完成で、細かいところを詰めていかなくてはなりません。
実は今まで調べた範囲でも、問題はいくつもありました。聞きますとまだ工場ができたばかりなのでルールが決まっていない部分がいくつもあります。
例えば、工程間の運搬中に破損など起きた場合の費用負担部門が決まっていません。今は前工程と後行程の力関係で決まっているようです。
また出荷指示は本来なら営業から出るわけですが、実際には製造課の担当者が毎日倉庫に連絡しています。もちろん方法はいろいろあって良くて、それでもいいのですが、製造課に最新の出荷計画が通知されていません。現時点、有機的に情報が行きかっているので間違いが起きていませんけど、正式に情報を共有する仕組みがないといつか問題が起きます。
そういったルールの空白領域がいくつも見つかりました」
高橋課長
「ええ、ちょっと待ってくれ。詳しく説明してくれないか」



山田の社内用携帯が鳴った。
山田
「ハイ、環境保護部です」
高橋課長
「おお、山田課長さんですか。出鱈目機工の高橋です」
山田
「おお、内山がお世話になっています。どうですか、内山はがんばっていますか?」
高橋課長
「もちろんですよ。実はそれについてのお願いなんですが・・、彼が環境管理の手順を調べて文書化に取り掛かってくれているのですが、調べるほどに環境管理だけでは不足であるということがわかってきたのです」
山田
「はあ? どういうことでしょうか」
高橋課長
「工場全体の動きを調べて、全体のルール化をしなければならないということが分りました。それでお願いですが、内山さんを三ヶ月でなく半年あるいは1年間応援してもらえないかというお願いなのです」
山田
「うーん、それは私の一存では回答できません。ご存じのように内山は甲府工場から1年間の約束で教育を依頼されておりまして、その期限が3か月後なのですよ」
高橋課長
「いや内山君は頑張ってくれていて、なかなかしっかりした若者だとわかりました。できたら私のところでほしいなあと思っているくらいです」
山田
「犬や猫と違ってそう簡単にいきませんよ。来週でもお宅に状況確認に伺いましょう。その話はそのときということに・・」
山田は電話を切ると廣井を見た。廣井は忙しい風でもない。
山田
「廣井さん、ちょっとお話が・・・」
廣井
「なんだ?」
山田
「出鱈目の高橋課長からなのですが、内山の応援を延長してほしいそうです。それとどの程度本気かはわかりませんが内山を欲しいというのです」
廣井
「ほう、内山は頑張っているならうれしい話じゃないか。でお前はどう考えているんだ?」
山田
「うれしいかどうかはともかく、人事異動となれば内山だって家庭がありいろいろあるでしょうし、甲府工場の島田部長島田部長 のお考えもあるでしょうね。いずれにしても甲府工場に関わる大問題になってしまいますよ」
廣井
「じゃあ、おれの考えを言う。まず話の筋が、ちょっと違うのではないか。我々は内山をしっかりした環境担当者に教育して甲府工場にお返しすることが仕事だ。そして出鱈目の立場で考えればだ、自分たちに足りないものを外から持ってくるということは良いことではない。改善というものは自分たちが汗を流して頭を絞って失敗を積み重ねてするものだ。ここは内山を3か月で終わらせて、足りないところは出鱈目自らの努力でするべきだな」
山田
「わかりました。これは出鱈目機工に対する教育でもあるのですね? 聖家族教会方式でやります」
廣井
「聖家族教会方式ってのはわからないが、出鱈目に対する教育であるということはその通りだ。出鱈目にもやりがいを与えないといけないだろう」



3か月後である。高橋課長、楡井、菅野と内山、山田が集まった。
内山
高橋課長
楡井



菅野
山田
内山
「長野分工場のルール整備の応援期間が終了しましたので、今までの実施事項と今後の課題について報告します。
工場の仕事の流れ全体を把握することはまだ完了していません。しかし環境に関してはほとんどの業務に就いて、準備から運転そしていろいろな費用処理については関係者と話し合い、今までルールがなかったことについては取り決めして、それを文書化しました。環境以外の分野についてはまだ把握できていない仕事もありますが、今までに作成したものを参考にすれば進められると思います。
ボク自身、このような仕事をしたのは初めてですが、仕事をしている人が実態調査をして、ルールのないところは関係者で決めていくことが必要だとわかりました。ボクが今後もいてこの仕事をしたとしても、作ったルールはみなさんが不満を持つでしょう。自分の仕事は自分で決めることが必要です。
そして今までの経験から、このようにして作ったルールはISO9001でもISO14001でも、あるいはその他の認証の際にも、そのまま提示することで問題なく審査に適合すると確信しました。
あとはお願いしますというと、無責任に聞こえるかもしれませんが、全体の体系は決めましたし、その中で環境については文書化を行いましたから、それを参考にすれば残りも問題なく進めることができると確信します」
楡井
「いやあ、内山君は大したもんだ、始まる前におれは文字を少なく誰でもわかるようなものにしてほしいと言ったのだけど、内山君が作ったのはほとんどが1ページかせいぜいが3ページくらいで、必ず絵が入っていて、しかも難しい言い回しや現場の仕事に関係ないような大局的というかおおげさなことは書いてない。俺が期待した通りのものだよ」
菅野
「私も同感です。文書の仕様というか、記載する項目や形式だけでなく、文章の書き出しや語尾を決めて作っているので、文書を作るときはそれに従って作ると、文書としての統一もありますし、書き漏れや余計なことを書くこともありません。そして書いてあることと行為が一致しているので変更があればすぐにずれに気が付き改定することになると思います」
楡井
「よく規則とか手順書っていうと、理屈ばかり書いて、実際の仕事の手順や方法を書いてないのが多いけど、内山君はヒアリングして実態を文章にしたって感じだね」
高橋課長
「いやあ、内山君、ご苦労さんでした。おれはもう20年もISO9001とかISO14001なんてのに関わって来たけど、マネジメントシステムってのを全然わかってなかったということを分ったよ」
楡井
「高橋課長、そりゃどういう意味ですか?」
高橋課長
「品質マネジメントシステムを導入するとか、環境マネジメントシステムを導入するなんて言い方があるだろう。あんなことはまったくのウソというか間違いだ。そんなことを語るのは全然マネジメントシステムを理解していないんだなあ。まあ、そういう意味では、理解していないのはおればかりではなかったということで、少し安心したけどよ、アハハハハ
マネジメントシステムなんてISOとは無関係に、会社とか工場が存在すると、その属性として必然的に存在するものなんだ。もちろん自然発生のマネジメントシステムが完璧かどうかということもある。しかしその自然発生のマネジメントシステムを我々が育てていくというのかなあ、会社の人たちが有効に効果的に働けるように継続的に改善していくということなんだ。ISO規格ってのはそんなことを言っているということが今の俺にはよく分るよ」
内山
「高橋課長、それは私も同じです。ISO規格を読んで、規格適合のマネジメントシステムを導入しようなんてのはまったくの間違いです。自分たちの会社に見合ったマネジメントシステムを作り常に改善していくということがあるだけです。
そしてISO審査の時は、その自分たちの作り上げたマネジメントシステムがISO規格を満たしていることを説明することなんです」
山田
「いや違うよ、自分たちの作り上げたマネジメントシステムがISO規格などをはるかに超えていることを説明することなんだ」


内山が本社を去る日がやってきた。廣井と山田と教育担当だった横山と4人が打ち合わせコーナーに座っている。
廣井山田横山
廣井部長内山山田課長横山
廣井
「内山君、甲府工場に帰ったら何をするんだ?」
内山
「やらなくてはならないことがたくさんあることに気が付きました。ですから、愚痴をこぼす暇はなさそうです」
廣井
「独りよがりで走り出しては困るが、どんどん改善提案を出して上長に圧力をかけてほしいね。本社にいたからより大局的に考えることができるようになっただろう」
横山
「私もやりたいことがたくさんあります。しかしたくさんアイデアがあっても一度に全部はできないし、その重要性も時と共に変わります。だから常に改善のタネを考えて、それを熟成させているんです」
内山
「そうですね、本社に来て以前のような思い付きの改善テーマではしょうがないということがよく分りました。会社の活動はトップの方針を展開したものでなければ意味がないということです」
山田
「出鱈目機工にいって実際に仕事をしている人の話を聞くことの重要性が分っただろう。そして一人でできることは限られている。人の力を借りるということは恥でもないし、ずるいことでもない。むしろ人の力を借りられるということは、その人の力なんだから」
内山
「よくわかりました。人の力を借りることができるような人になります」

うそ800 本日の思い出話
20年前、私はISO9002認証のためにタイの工場にいた。ISO9002という規格は今はなくなってしまったが、ISO9001から設計を除いたものである。当時の私はISO9000s認証の請負人のようなもので、頼まれるとどこにでも行って、コンサルではなく、そこに入り込んで自分で実態調査して文書を作り、内部監査員を育成し、審査の時は社員として審査を受けて、認証すると次に行くという渡世人のようなことをしていた。
さてタイの工場でISO9002の4.1から4.18までを満たすようにしようとすると、一筋縄ではいかないことが分った。というのはその工場には、会社規則に当たるものが全くなかったのだ。文書と言えるものは日本からきた日本語の製作図と、それを工程順に展開したタイ語で書いた作業基準書だけ。
材料の払い出し伝票はあってもそれを決めた規則もなければ、その伝票の使い方の規則もない。日常業務の決裁者や決裁ルートを決めたものさえない。会社はなんとなく動いていたのだ。
ISO9002認証するため品質保証の限定にして文書化しようとしても、実際にはここまでとか、これは関係ないというふうに範囲を決めることはできなかった。仮にISO9002に関わるものだけを文書化しても、それはISO認証のためのものであって、会社の実際の仕事に役立たないことは明白だった。
もっともそんなものが会社の役に立たないことが理解できない人が多い。多くのコンサルは役に立たないことを実行しているし、多くの審査員はその間違いに気が付かないのかあるいはそういうものだと考えているのか役に立たないシステムもどきを適合に判定している。
マニュアルを1ページにしましょうとか、マニュアルにすべてを書き込んでしまい手順書をなくしましょうなんて、アホを語る人々はすべて会社の経営というか会社の実態を知らないのである。日本のISO認証制度が悪くなった理由はよく分る。
だから認証のための私の仕事は、ISO9002認証範囲だけでなく、会社全体の業務をルールに定め、過去より使われているスリップ(伝票)類やチェックシートなどについても、その根拠となる規則を作ったりと、どんどんと範囲が拡大していった。結局1年がかりで工場全体の、経理から総務、資材調達、製造、品質管理、設備管理、製品出荷までの会社の業務全般のルールを作った。そのとき作らなかった規則は人事関係だけだった。人事考課とか賃金体系は、私のあずかり知らぬことだったから。
そんなことをした経験から、QMSだけとか、EMSだけというシステムなんて、存在しないというか、存在できないとつくづく感じた。マネジメントシステムは唯一無二なのである。当然、品質とか環境の範囲などの線を引くことができるとは思えない。
いやできるはずがない。
品質マネジメントシステムなるものを作ってISO9001を認証し、その次に環境マネジメントシステムというものを作ってISO14001認証して、それからそれらを統合するなんて語っている人々がいるが、彼らは寝ぼけているのか、まったく会社の仕事を理解していないのかのどちらかだ。もしそんなものがEMSやQMSというなら、それらはお遊びであることは間違いない。そもそもシステム構築なんて一担当者にできるわけがない。会社のシステムとは明文であろうと不文であろうと、会社の文化そのものだ。ISO認証のためにシステム構築するというのは嘘八百である。
驚くことに、ISO-TC委員でさえ「マネジメントシステム構築」とか「マネジメントシステムを導入する」なんて騙っている人がいる。それは発言者が無知なのか、あるいは現実に迎合しているのか、どちらなのか私はわからない。
会社にはマネジメントシステムも文書体系もひとつしかない。ISO認証のための審査においてすることは、その唯一無二のマネジメントシステムから、ISO9001で必要なものを抜き出し、あるいはISO14001で必要なものを抜き出して、マネジメントシステム規格に適合しているのを説明することなのは考えるまでもなく自明のことである。
そういう当たり前のことを理解している人は非常に少ない。コンサルのほとんど、審査員のほとんどは、そのような基本的なことを理解していないことは間違いない。
私が尊敬するコンサルも審査員もいるから、全数ではないことも間違いない。

うそ800 老人の主張
本日のケーススタディは出来はともかく、私の持論を主張できたと思う。
お暇ならこちらもお読みください
 ・手順書の話
 ・手順書教室
 ・文書管理



まさ様からお便りを頂きました(2013.03.22)
うそ800を知ったのは最近です。
毎日拝読しても追いつきません。
非常に為になります。(大変面白です)
私は昨年定年になり、今は嘱託です(61歳)
ISO9001の事務局を引き続きしています。
今後とも楽しい、また日頃の出来事をよろしくお願いします。

まさ様 お便りありがとうございます。
名古屋鶏様のところに良くコメントされているマサ様でしょうか?
今後ともよろしくお願いします。
昨日は、N様としこたま飲んでしまいましたのでウェブにアップできませんでした。すみません。
まさ様が東京近辺にお住まいでしたらそのうち飲みましょう。
もしお酒が苦手ならジュースでもお茶でも付き合います。



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