ケーススタディ 環境部門の必要性

13.04.14
ISOケーススタディシリーズとは

ここ数日、廣井は何か考えている様子だ。山田は自分から見ると高僧のような廣井のレベルになっても、考えこんだり悩んだりすることがあるのかと、その様子をみて思う。
と、突然廣井から環境保護部のメンバーに集まれと声がかかった。みなといっても全員で5名だがぞろぞろと打ち合わせコーナーに集まる。
廣井がコーヒーを持ってきたのをみると、時間がかかる様子だ。

廣井部長
廣井部長
中野課長中野課長
岡田岡田


山田課長山田課長

横山横山
廣井
「やあ、忙しいとこすまん。実は・・・率直に言って環境保護部をなくしたとき、会社にどのような支障があるのか、みんなの意見を聞きたい」

廣井の意外な言葉に、みな一瞬黙ってしまった。
数瞬後、山田が口を開いた。
山田
「先入観なしといいますか基本に戻って考えますと、環境保護部という部門は、必要なものではないでしょう。もちろん環境保護部が今行っている機能は、必要だと思います。私たちがしていることが無用であるなら、存在意義はありませんからね」
廣井
「なるほど、続けろよ」
山田
「環境保護部が今、担っている仕事は多々ありますが・・・
まず第一に外部の環境情報、それには法規制なども入りますが、そういったものの収集、そしてそれを受けて社内の対応の指揮監督があります。
第二に社内の環境情報の収集を行い、その評価とフィードバック機能があります。そしてそれに続いてその対外広報という機能があります。
第三には環境遵法の徹底や事故防止の活動、それには工場や関連会社の指導や相談対応があります。
最後に環境監査がある、そういったところでしょうか」
廣井
「なるほど」
山田
「はじめの外部の環境情報の入手というのは、本来ラインが行うことです。営業はお客さんの要求を把握するわけですが、その中に環境性能や当社の環境に対する姿勢といったものも入るでしょう。もちろんお客さんの要求といっても必須要件だけでなく、期待するレベルも含みます。そしてそれを工場に伝えたるのも営業の仕事です。もちろん反対方向に当社の環境情報、製品の環境性能などを伝達するわけです。
法改正に関しますと、工場単位というか工場が対応するレベルのものは、工場の環境部門が対応すれば間に合うでしょうけど、全社的なもの、あるいはまったく新しい・・・例えば含有物質規制とかリサイクル規制への対応などは、全社展開あるいは会社としてプロジェクトなどを立ち上げて対応する必要がありますね。そういったことになると・・・環境部門というか全社的にそれに対応する部門が必要でしょうねえ。環境保護部が設立されたのは、そういうそれ以前にはなかった機能が必要になったからでしょうし・・」
廣井
「なるほど、確かに全社的に対応が必要なこと、業界との対応やロビー活動などは当社を代表する部門が必要だな」
中野
「山田君が言った二番目ですが・・・工場の情報収集は現在、全社的な情報システムの中に、環境情報つまりエネルギー使用や廃棄物その他のデータが盛り込んであります。ですから収集は自動的に行われます。ただ問題はそれで終わりません。
システムで取り扱うデータの中身は定期的に見直しをしていますが、それを見直すにあたっては世の中の状況や当社の必要性を考慮して行うわけです。それを行うには世の中の状況を考慮しなければなりません。また収集したデータの分析と対応は専門家が必要です。もちろんそれをするのが環境保護部でなくても良いわけですが、専門家の養成とその機能は必要ということです。
対外広報といっても多々あります。環境報告書は昨年から紙を止めてウェブのみとしましたけれど、その編集作業は必要です。ただ環境保護部ができる前は総務部が環境報告書を発行していましたので、元に戻してその仕事を総務部がしてもおかしくはないですね」
廣井
「確かに・・・普通の会社は広報部というのがあって外部コミュニケーションを担当しているが、当社には広報部がなくて総務部が担当している。そう考えると同じことだね」
岡田
「環境債務などが通常の財務諸表に載る時代ですから、環境報告というものが独自に存在すると考える必要はありませんね。もう会社経歴書とか財務諸表の中に環境会計を含めて従来環境報告書に載せていた情報を盛り込む時代だと思います。そう考えると環境広報というカテゴリーが消滅したとも言えます」
廣井
「なるほど・・・」
中野
「各種展示会、但しエコプロ展は今年から参加しないことになりそうですが、今まで環境保護部がそういった展示会の社内取りまとめをしていましたが、実際に企画や出展担当は宣伝部や各事業部が議論して決めており、我々は事務局でしかありません。だから特段、環境保護部がなければならないということはないですね」
岡田
「ただどうでしょうか? さまざまなイベントを開催したり参加するには、当社のたくさんの関係部門が関わります。そのまとめとか調整のための事務局が必要になります。
イベントごとに今回は宣伝部、今回はなになに事業部が事務局を担当すると決めて実行するのもめんどうなのではないでしょうか? 事務局というのもノウハウが必要ですから、誰でもできるというものでもありません」
中野
「まあそうだけど、いずれにしても事務局機能は必要だけど、環境保護部は必要ではないということだ」
廣井
「うーん、そうだな。エコプロ展参加は環境保護部ができてからのことで・・・当時は我々としても仕事を増やして存在感を高めたいという下心もあったからね」
中野
「下心というのではなく、環境専門の組織があるなら、そこが事務局を担当するべきと考えるのは素直なことでしょう」
廣井
「それもそうだ。
では次に事故が起きたりしたときの対応はどうだろうねえ?」
山田
「そういったことは今現在でも基本的にライン、つまり事業部が対応することになっています。そして広報は総務部です。我々はラインでもなければ外部対応の窓口でさえありません。事業部や総務部の支援をしているだけです」
中野
「過去に起きた事故や違反の際も、すべて行政やマスコミ対応は総務部で、我々は総務に対して情報提供やお手伝いをしている程度ですね。その寄与の多寡はともかく」
廣井
「中野君のグループのお仕事は、環境保護部でなくても間に合うということか・・」
中野
「だって環境保護部がないときから当社は事業をしていたわけですし、当然というか事実として環境事故も法に関わる問題もあったわけですよ。それを環境対応能力を、よりレベルアップしようとか、対外的に専門部署があったほうがよいということで専門部署を作ったわけですから」
廣井
「わかった、わかった。
では工場の指導なんてのはどう考える?」
山田
「指導といっても、いろいろありますね。
まず環境担当者の研修や各種マニュアルの作成があります。また工場や営業からの相談対応。そういう業務に関しては、対応しないという選択もあります。正直言って私が来るまではほとんどしていなかったようですし。
ただどうでしょうねえ、営業でも資材でも工場でも担当者が全く未知の問題にぶつかったとき、対応するというか支援してくれる部門がないというのは困りますよね。環境保護部がなければ、それは誰がすべきなんでしょうか?」
廣井
「営業担当が環境問題で困るということがあるのか?」
横山
「発言してよろしいですか。エーットですね、例えば地方の行政を相手にしている代理店から『自治体は県独自のEMS認証を求めているんだけど、それは一体なにもので、どう対応すればいいのか?』なんて質問がきたりしますね」
廣井
「そんな問い合わせが来たら、今まで横山さんが回答していたわけか?」
横山
「もちろんです。今の例でしたら常識ですから即答できます」
廣井
「常識か・・・・もし横山さんが分らなければどうするのか?」
横山
「とにかく私が調べてその方が対応できるよう回答するでしょう。場合によっては私が取引先と話をして対応していました。当社として対応しなければならないことなら、それをする部門が必要です」
廣井
「うーん、雑用というか、そういう小回りも必要なんだなあ〜」
山田
「雑用といってしまえばそれまでですが、そういうことの積み重ねで営業や資材部門その他の部門から、我々の存在意義を認知されているという現実はありますね。
教育用のテキスト作成などは止めてしまってうことは可能でしょうが、そうすれば結果として工場や関連会社の環境管理のレベルは漸次低下していくでしょうねえ」
廣井
「環境保護部はホテルのコンシェルジュみたいな仕事というのか?」
横山
「まさしくそうかもしれません。社内外のご期待に応えるために、各職制のすきまを埋める仕事もしているということです」
山田
「教育といえば、工場や関連会社から環境担当者の育成を求められることもありますね。今までも森本さんとか内山さんのようなケースとか、あるいは藤本部長五反田さんのようなケースもあります」
廣井
「もし環境保護部がなければ、そういったものはどうする?」
山田
「環境担当者の教育が自分の工場でできず社外の講習会でできないとすると、取るべき道は大きなというかしっかりした工場や関連会社に研修をお願いするということでしょうか。」
廣井
「うーん、しかし通常業務をしているところで他社から研修を頼まれても片手間ではできそうにないね。そもそも子会社を考えた時、どの工場あるいはどの関連会社ならそういう研修をしてくれるのか、全然わからないじゃないか」
山田
「確かに情報がありませんね。それに一方的に頼まれても困りますから、それを調整する部門がいりますね」
横山
「人事の研修体系に、環境も盛り込めば何も心配はいりませんけど」
廣井
「なるほど、本来研修は人事の領分だ。もともと環境担当者育成がなかったのが問題だな。
とはいえ現時点では人事に教育する能力はないから、それも現実離れしているなあ」
横山
「山田さんが最後に挙げた環境監査については、発展的解消という理由で監査部監査に集約するというのが理屈というか筋としては間違いないことですね」
廣井
「確かに、今環境保護部が環境監査をしているが、会社規則上は監査部からの依頼を受けてとなっていて、その権限は監査部にあるのは規則上も理論上も間違いないことだ。これは簡単なことだな、もっとも監査部が環境監査業務を受け入れるかどうかは問題だが」
横山
「現状では環境保護部の監査担当、つまり私か山田さんを監査部に異動するしかありませんね」
廣井
「横山さんや山田が監査ばかりしているわけじゃないし、それが効率化につながるかどうかだな・・」
横山
「それと監査結果の情報を、各工場や関連会社に周知したり点検を指示したりするなど、監査と環境行政は切っても切れない関係にあります。だから効率ばかりではなく、有機的な仕事ができるのかどうかという点もありますね」
廣井
「確かにそうだ。みんなの意見を聞くと参考になるよ」
山田
「廣井さんがおっしゃった、環境保護部をなくしたとき、会社にどのような支障があるのかということは、部門はなくせても機能はなくせない、その機能をどのように分担するのかということでしょうか。
いや、環境保護部をなくすという前提からの出発ではまずいのですよ。環境に限らず、当社のさまざまな機能をどのように分担するべきかという組織構造をどう見直すかということになるでしょう」
廣井
「おいおい、山田よ、そりゃ正論のようだが、そこまで言うと収拾がつかなくなりそうだ」
中野
「廣井さん、話を戻しますと、上の方から環境保護部をなくせと言われているのでしょうか?」
廣井
「うんにゃ、言われていないよ」
中野
「とおっしゃいますと?」
廣井
「俺がなくそうかと考えているってことだ」
中野山田横山岡田 「はあ?」
廣井
「よく言うだろう、仕事の目的っては自分の仕事をなくすことだって。おれは理念とか言葉のあやだけでなく、本当に自分の仕事も部門もなくせないのかなと考えているんだ」
山田
「廣井さんは発想がすごいですね。おっしゃることはわかります。私も環境保護部をなくすことには反対ではないです。
しかし単純にヤーメタというわけにもいきませんから、この部門がしていることでなくせないことは他の部門に割り当てないとならないわけで、そうなると簡単にはいきませんね」
横山
「単純にその機能を担うだけでなく、技術や知識を蓄積して当社全体のレベルアップにつながるようにしなければなりませんね」
岡田
「今では何でもアウトソースする時代ですから、例えば藤本さんのところに依頼するということもありますね」
廣井
「そうだね、相談事や教育研修などは藤本さんのところが担当するという形式が良いかもしれない」
山田
「うーん、私はその考えにはちょっと引っかかるのですが・・・やはり基本的な技術とか知識というものは、社内で保有しないとならないのではないでしょうか?」
岡田
「でも企業というのは基本機能に特化すべきです。基本機能以外はない方が良いのです。
当社の事業は機械部品の製造販売であって、総務のお仕事とか工場の管理とか環境管理ということは基本機能ではありません。いまどきは総務とか経理とか人事を外注しているのは珍しくなくなりました。製造においてもファブレスというものもあります。衣料品だけでなく、当社のような機械製造というカテゴリーにおいてもそういう形はあると思います」
中野
「中国に直接工場を作って進出するのはリスクが大きすぎるからね、そういう選択もあるだろう」
岡田
「環境管理とか廃棄物管理にリソースを投じるなら、そのリソースを製品本体の企画や開発に投じた方があるべき姿だと思います」
山田
「うーん、岡田さんの論もなるほどと思うけど、工場の環境配慮ということを含めて製品があると思うんだ。ファブレスを突き詰めると、製品の性能は良いけれど部品のフットプリントが大きいとか、製造を人任せにすれば加工工程で忌避物質を使うなど環境リスクが大きいという事態が発生するかもしれない。自社が作らないにしても、最低限、社内に製造する力がないと、最終的な製品の環境負荷を低減することはできないと思う。そして総合的な環境配慮というものは今後ますます重要になるだろう。自社で製造しないで製造する能力を維持するってことは難しいでしょう」
岡田
「ということは製造しなければならないということですか?」
山田
「私はそう思う。我々はアップルのようにアイデアとか企画で食っているわけではないし、指輪や装身具のようにブランドだけで売っているわけでもないからね」
廣井
「山田はオーソドックスというか当たり前の考えしかしないんだなあ。それがいいのか悪いのか、おれにはわからん」
山田
「廣井さんがおっしゃるように環境保護部をなくすなら、他部門に割り振るのではなく、各部門の業務分担を見直さねばなりませんね。ひょっとすると環境保護部が存続して品質保証や広報、顧客対応部門などを包括して、CSR部とするのが良いのかもしれません。いずれにせよ、単純に環境保護部廃止とはいかないでしょう」
廣井
「いや、大変勉強になった。皆さんのご意見を参考に考えさせていただく。
よし、解散」

うそ800 本日のネタ
ここに書いたことは、まるっきりウソとか思い付きってわけでもないのですよ。私が以前仕事で経験したことを元にしています。メッキはリスクが高いから外に出そう、大電力を使う行程は外に出そう、人手のかかるものは外に出そうといって、どんどんと外に出すといつのまにかモノづくりの力がなくなってしまいますし、それだけでなくモノを企画する力もなくなってしまうのです。
振り返ると、負荷価値って汚い仕事、難しい仕事にあるんですよね。きれいな仕事、誰にでもできる仕事には、付加価値がありません。

うそ800 本日のお断り
分った方はお分かりでしょうけど、実は本日もケーススタディ終了の伏線なのです。


名古屋鶏様からお便りを頂きました(2013/4/14)
ペンキ塗りでも電気配線でも配管工事や単なるコピー機の操作にしてもそうですが、相手に的確な指示を出すためには自分が同じ作業が出来る必要があります。その度合が高ければ高いほど指示の的確性は高くなると思います。
今のテレビが「つまらなくなった」のは、そうした企画を全て外注に投げてしまった結果だとか。発注元に番組を作った経験がないので指示が出来ないんですね。ああなったら終わりだなと思いますわ。だって居る価値が無いんですから。

鶏様 毎度ありがとうございます。
おっしゃる通りですね、すると・・・ISOがつまらなくなったのは審査を丸投げしたからでしょうか 笑
丸投げする前から審査する力量があったかどうか、それは言わぬが花



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