マネジメントシステム物語43 片岡遊びに来る その1

14.03.17
マネジメントシステム物語とは

片岡が出向して半年が過ぎた。佐田と佐々木は、社内の工場や関連会社へのISO14001認証の指導で忙しく過ごしている。珍しく今日は二人とも会社にいて、出張旅費の清算をしたり、これからの計画を話しあったりしていた。
するとそこに片岡が現れた。
片岡
「おい、二人とも元気か?」
佐田
「これはこれは、片岡さん、お久しぶりですね」
佐々木 片岡 佐田
佐々木 片岡 佐田
片岡
「出向した先は、このビルから200メートルも離れていないんだけど、お互いに出張ばかりだからなかなか会えないね。今日は久しぶりに審査がないので社内でゴロゴロしているよ」
佐田
「出張の計画とかホテルの手配など大変じゃないのですか?」
片岡
「おれの出向先はちょっとおもむきが違ってね」
佐々木
「ほう、趣が違うとは?」
片岡
「出張の計画とか切符の手配、ホテルの予約などは全部事務方がしてくれるのさ。してくれると言えば聞こえがいいが、我々は指示された予定表に従って次から次と渡り歩いている旅がらすって感じだ」
佐々木
「はあ、すると将棋の駒のようなものですか?」
片岡
将棋の駒 「将棋の駒、まさにそれだ。駒に意思はなく、差し手の考えで動くだけだよ。だから出先で次はどこへ行けなんて言われることもあるんだ。そんな暮らしも面白いと言えば面白いだろうけど、人間扱いされていないような気もするね、アハハハハ」
佐々木
「でも報告書を書くとかデスクワークもいろいろあるのでしょう?」
片岡
「うーん、主任審査員というかリーダーは報告書とかをまとめなければならないけれど、おれはまだいちメンバーというか頭数をそろえるだけだから報告書なんて書かない。一生懸命パソコンを練習したけどその成果を発揮する場がないよ、アハハハ
もちろん次に審査に行くところのマニュアルとか資料は予習をするわけだけど、そんなにまじめに読まないね。マニュアルなんてどこも同じようなものだし」
佐々木
「マニュアルはどこも似たようなものですか?」
片岡
「同じも同じ、金太郎飴だ。当社のマニュアルくらいだよ、読む価値があるのは」
佐々木
「どこも書類作りに手間ひまはかけてはいても、まじめに環境管理とか文書とかを考えていないのでしょうかねえ?」
片岡
「怪しげなコンサルが多いし、そういった人の指導に従っているところがほとんどだ。佐田君のような会社とは何かとか、組織論を考えている指導者はまずいないね。少なくても俺は知らない」
佐田
「片岡さんはもう審査員補の補は取れたんでしょう?」
片岡
「うん、一応審査員になった。主任審査員になるのも時間の問題だよ。しかし・・」
佐々木
「しかし、なんですか?」
片岡
「審査員という職業に就いているなら仕事で自然に経験が積めるから、時が経てば審査員になり、主任審査員になる。要するにそれだけのことだ。
そして審査員補の資格というのは意味がない。そもそも会社勤めで審査員補に登録する必要はないし意味がない。お金の無駄だよ」
佐々木
「なるほど、確かに我々も審査員補に登録しているけれど、補がとれる見込みはない。そして審査員補でなにかメリットがあるということもない。かといって審査員になる必要もない。ということは登録を止めてしまっても変わらないということか」
佐田
「でもまあ、指導に行ったとき審査員補であると少しは信用されるというか、そんなことがありますね」
片岡
「だけどこの仕組みを知れば信用しないだろう」
佐田
「まあそうですけど、仕組みを知っている人は少ないですからね。
まあ、おっしゃるように、コンサルや我々のように指導をするならともかく、工場のISO事務局担当者が審査員補なんて登録しているのはお金の無駄ですよ。といってもみなさん少しでも箔をつけたいという意味で、高い金を出して審査員研修を受け審査員補に登録しているわけです」

ところでISO14001審査員登録数の推移はどうなっているのだろう?
CEARの公表しているグラフは制度創立から一貫していないので、私が過去のグラフと2014年現在のグラフと加味して作成したのが下図である。

ISO14001審査員登録数推移
ISO14001審査員登録数推移

この物語の1998年頃は、誰もが審査員になりたい、せめてなりたや審査員補という時代であったので、一直線に増加している。
しかし審査員登録数は、2006年をピークにそれ以降は単調減少している。2009年にガタッと減ったのは制度の見直しというか、資格要件の変更があったからだ。いずれにしても減っているのは審査員補であり、それは審査員補の登録は意味がなく無用なことだと皆さんが理解してきたからだろう。
もっとも職業としての審査員・主任審査員も継続して微減が続いている。全審査員の収入は登録件数と審査費用の積の関数であり、登録件数は漸減しつつあり審査費用もまたしかり。審査員個人の生活を考えれば、審査できる限り審査員人数が少ない方が好ましいことはいうまでもない。1500人もいれば十分というかそれほどもいらないようだ。そして時間と共に必要人数は減る。
ISO審査員登録機関は持続可能性を考えたことがあるのだろうか
なお、ISO9001の審査員登録数は、JRCAが一切公表していないのでわからない。どうして公表しないのでしょうか?

佐々木
「ところで片岡さん、なにか面白い話はありませんか?」
片岡
「面白いといってもいろいろだろうけど、気になることはある。ISO規格の解釈なんて審査員のほとんどは気にしていないというか、真剣に考えていないよ」
佐々木
「ほう、でも規格を読んでいれば、どう解釈するのかと考えるところはいくつもあるでしょう」
片岡
「同僚を見ていると、日本語訳ではどうとでもとれる所を英語で読んで考えようとか、専門家、つまりISO-TC委員とかに問い合わせようなんて考える人はまずいないね」
佐々木
「ほう、じゃあ分らないままに仕事、つまり審査をしているわけですか?」
片岡
「あのね、俺の出向先にもボス的な審査員がいるのさ。そういう奴が『これはこう解釈するんだ』と語ると、他の審査員は何も考えずにハイハイとそれに従うわけだ」
佐々木
「なるほど、じゃあボスは詳しいわけですか?」
片岡
「そうでもない。ボスがこうあるべきと思っているということだろう。そういうのが積み重なって認証機関としての見解になる。だから俺の出向先特有の解釈もある。俺はまだ新人のヒョッコだから、異議を唱えていないが、おかしいのはいろいろあるよ。
まずマネジメントレビューは年1回会議をもつ必要があるそうだ。いくら規格を読んでもそんな風には読めないね。
それと環境方針を、警備会社から派遣されているガードマンも知っているべきだとか、その他にもいろいろと変な解釈を指示されている。
おお、コミュニケーションの対象範囲なんて認証機関の数だけ解釈があるんだよ、アハハハハ
もっとも俺のところは目的が3年とは言っていない。あれはナガスネのボスが言い出したらしい。どこでもボスが規格を好き勝手に解釈して、他の審査員がそれに唯々諾々と従っているんだろうなあ」
佐々木
「当社グループの多くがナガスネに依頼しているのはご存じでしょうけど、ナガスネはおかしな規格解釈をしていますよね、ところが最近審査を受けている会社では、ナガスネのおかしな解釈で不適合を出されると、おかしいとはねかえしている。ツクヨミの方はどうですか?」
片岡
「そういうことはゼロではない。というか俺が出向してからでも増加しているように感じている。審査員がおかしなことを言えば、それはおかしいと反論されるのが増えている。それよりもさ、礼儀作法を知らない審査員はその場で抗議されることが珍しくない」
佐々木
「礼儀作法といってもいろいろあるだろうけど・・・・まさか頭の下げ方が悪いとか」
片岡
「そんなことじゃなくて、態度が悪いとか、言葉使いがぞんざいだとか、ビジネスマンとして失礼だというレベルですね。会社側のそれなりの人を馬鹿にするような態度をとって、その場でも苦情を言われた審査員もいるし、審査中に本社に苦情が来たこともある」
佐々木
「どの程度のことで文句を言うのだろう?」
片岡
「もちろん、ちょっとしたことでは文句を言われないよ。ただ審査員が元いた会社が大企業で審査している会社が中小企業だとバカにするような言動をすると、ひんしゅくをかうね」
佐々木
「なるほど状況が分るよ。ナガスネでもそういう言動は多いね」
片岡
「会社によってはその審査員を文書で忌避するとか、もう来るなと言われた審査員もいる」
佐々木
「そんな苦情があるとどうなるんだい?」
片岡
「審査員登録の更新時に、異議申し立てとか苦情の記録を出さなくてはならないんだ。苦情の内容を見て、審査員に不適と判断されると審査員登録が継続できないことになっている。とはいえ、そんなことになるのはまずない。本人も以降は気を付けるだろうし、そういう非常識な人は事務方が厳しい企業には派遣しないよう注意するからね」
佐田
「規格解釈が誤っているという苦情はないのですか?」
片岡
「現実の審査ではおびただしく見聞きするけど、問題になるのはめったにない。認証機関がそのようなことは会社と話し合いで納めているんじゃないか。企業側も礼儀作法には文句を言っても規格解釈には文書では文句をつけないようだね」
佐々木
「変な話ですが、片岡さんは出向しても賃金は変わらないでしょうけど、他の会社からの出向者も同様ですか?」
片岡
「変な話じゃないよ。大事な話だ。おれも気にしているんだ。つまり俺は元こちらで部長職だったから出向してもそのレベルが保証されている。ところが例えば佐田君が出向すれば、君はラインの課長相当だから俺よりも賃金が安い。もちろん歳も若いけどね。佐田君も当然こちらの賃金が保証されるわけだけど、同じ仕事をしても俺より安いわけだ。当社からの出向者だけの比較なら納得するかもしれないが、いくつもの会社から出向してきているわけで、同一労働同一賃金という原則からはまったくはずれている。しかし元部長が元課長よりも審査能力があるわけじゃない。むしろ偉かった人のほうが仕事をしないんじゃないか。
それとさ、ここは役職定年になると賃金が3割方ダウンするだろう。だから出向しているおれもそのダウンした賃金のわけだ。ところが会社によっては役職定年になっても賃金がダウンしないところもある。そういう会社から出向してきた人は同じ年で同じ仕事でも俺より賃金が高いわけ」
佐々木
「それじゃ内部で不満があるのではないですか?」
片岡
「あまりそういうことは気にしないようだ。というのは、佐々木さん、ほとんどの審査員はサイドビジネスをしているんだ」
佐々木
「サイドビジネス?」
片岡
「コンサルだよ、実は俺もISOコンサルって仕事があるのを出向して知った。ISO認証できるように企業を指導してお金をもらうんだ。実を言って、コンサル業で審査員よりも稼いでいる人は珍しくない」
佐田
「ほう、そういえば私も1993年頃にコンサルをしたらどうかと言われたことがあります」
佐々木
「それは審査するよりもむずかしそうですね。なにしろ良い悪いを判断するだけでなく、認証できるようにしなければならないわけですから」
片岡
「ところがそうじゃないんだよ。面白いというか面白くないというか、連中は審査に行くだろう。そして書類を見ていて、良いと思う資料をみると、必要だといってコピーをもらうわけだ。そういったものを備蓄しておいて、お客から相談されると使えそうなものを会社名を消して・・・中には会社名を消しもしない奴もいるけど、それを渡してお金をもらうわけさ」
佐々木
「ええ、そりゃひどい!」
片岡
「環境方針てどんなものですかと聞かれたら、過去に審査した会社のものを10個くらい渡せばおしまい、まあ環境方針は秘密ではないけどね。
だけど、環境側面の決め方はどうするのかとか法規制一覧表を教えてと言われれば過去に審査した会社のものを渡せばおわり。ともかくそんなことをしてお金を稼げるんだ。
右から左、自分は何もしないでテクノロジートランスファー」
佐々木
「すばらしい錬金術ですな。ちなみにコンサル料ってどのくらいですか?」
片岡
「あ、もちろん環境方針でいくら、側面表でいくらというわけじゃない。規模にもよるけど、1社認証するまで指導して150万とか200万というところじゃないのかな。審査員は出張が多いといっても土日はあるわけだし、月に二日くらい休暇が取れるから、お金を稼ごうとすると5社くらいはできるよ。そんな指導というか資料を渡すだけなら労力はかからないからね」
佐々木
「うーん、年に5社も指導すれば賃金を軽くオーバーしそうだ」
片岡
「同僚の中には、コンサルをやってお金を稼ぐために審査員になりたかったという奴もいる。呆れたよ。
断っておくけど俺はそんな卑劣なことはしてないぜ。というかそんな暇があれば品質管理とか品質保証の勉強をしているんだ。俺は元々営業マンだから、そういった知識がないからね」
佐々木
「なるほど・・・」
片岡
「今はISO14001を認証したいという企業は上り調子で増えているからね、何でもありのようだ。
ひどい奴は、自分が指導した会社を自分が勤めている認証機関に依頼させて、自分が審査して指摘ゼロで喜ばれているのもいる。実を言って審査員も営業をするように言われていてさ、認証したいという企業を見つけてくるとマージンもある。そんな連中を見ていて反吐が出るよ。とはいえ、そういう奴も企業にいた時は審査員にいじめられていたから仕返しだなんて言うんだ。そいつを恨む人が再生産されるよ、悪循環だな」
佐田
「そんなことが許されるのですか?」
片岡
「倫理上は許せないけど、現時点では合法というかISOのルールではオッケーのようだね。コンサルをした審査員が勤めている認証機関では審査できなくなるような話も聞いてはいる」
このようなことは、それから間もなく禁止された。当たり前だろう。

片岡
「そんな一人が言っていたけど、企業にいたとき審査員に様々な資料を作れと言われた。そういうのがないと判定委員会で説明ができないと言われたそうだ。だから自分の会社が不合格にならないように、審査の後に審査員に言われた資料を徹夜で作って送ったそうだ。審査員になって、そんな資料は判定委員会には必要ないということを知った。あの資料はどこかの会社に回したんだろうなあって言っていた。おっと同情する必要なないよ。奴は今同じことをしているからね」

実はこれは私の体験である。ISO14001の審査を始めて受けたとき。環境目的以外についても環境パフォーマンスの諸指標を求められた。そういったものがないと判定委員会に説明できないと言われた。しょうがないから詳細データを渡した。見る人が見れば企業の環境効率がもろ見えだ。今考えると企業秘密だ。
その後、他の企業で指導とか自分自身が中心になって認証を受けたことも何度もあるが、そんなことがたびたびあった。既成の資料ならまだ手間はかからないが、こういった資料が必要だとか、このようなグラフを作れとか、注文が多かった。
あるとき某認証機関に、そのような資料を作るのは勘弁してほしいというレターを公式に出した。するとなんと、その認証機関から「当認証機関はそのような資料を求めていない。判定委員会でも使用したことはない」というご返事があった。すると今まで審査に来た審査員たちが要求した大量な資料は、彼らが私物化したのかと呆れた。怒る気力もなかった。

佐々木
「片岡さんが審査で法律や環境技術がわからないで困ったとかいうことはありませんか?」
片岡
「まったくない。信じられないけど事実だ。会社の人たちは審査員というだけで、環境の専門家と思ってくれる。だから審査員は当然なんでも知っていると思っているし、変なことを言っても、言いちがえたのだろうと思ってくれる。本当を言って俺のような駆け出しが審査して申し訳ない気になる」
佐田
「今まで我々が審査であいまみえた審査員も、実際には環境管理などしたことがなかったのかもしれませんね」
佐々木
「なるほどねえ、今まで審査に来た顔ぶれを思い出すと、環境側面の計算方法とか表のまとめ方に文句をつけた人は多いけど、現場の管理についてとか、手順の良し悪しに文句をつけた人はいなかったね。
そう言えば法律を間違えていたり、正しい運用をわざわざ変えろと言った審査員もいたなあ」
片岡
「それでさ、著しい環境側面の決定方法を点数でするというのは、そういう実際の経験のない審査員のためではないかと思うよ。俺が初めて訪問した会社の設備や作業や薬品をみて、どれが危ないか、どんな管理が必要かなんてわかるはずがない。だから量と危険性を数値にして結果を見せてくれれば安心して良い悪いと言えるからね。
もし環境側面を決定するにはどんな方法でも良いとして、それぞれの企業の専門家というかベテランが議論して著しい環境側面を決めたとしたら、審査員にそれが良いとか悪いとか言えるほどの力量があるわけがない。あの点数法を考えた奴は、自分の非力を隠すためだったんだろうなあ。そういう意味では頭のいい奴だね」
佐田
「でもあの点数法のおかげで、力量がないことがばれなかったISO担当者もいるんじゃないですか」
佐田がそう言うのを聞いて、佐々木と片岡は笑った。
佐々木
「片岡さん、大事なことですが、ISO14001認証によって環境管理が向上したとかありますかね?」
片岡
「いろいろなケースがあると思う。
まずまったく環境管理のルールがないところでは、ISO認証を機にルールを定めることになる。そういう会社では文書化という改善がなされたともいえる。
それから過去から環境管理のルールが確立しているところ、実際には公害防止組織法の規制を受けているところでは、現場の管理は元からあるわけだ。だからあまり改善はないね。面白いことに、この場合、従来からの仕組みをそのまま見せるところと、従来の仕組みはそのままに、ISOのための仕組みやルールを新たに作ってそれを見せる会社がある。後者はISOとは何ぞやということを理解していないのだろうね。
ただ製品とか資材や営業業務における環境配慮というか環境管理が抜けている会社は多いから、そういう部分では環境管理向上がされたともいえる」
佐々木
「なるほど、そうすると片岡さんはISO認証することによって企業の環境管理に貢献しているとお考えというわけですか」
片岡
「いや、実はそうではないんだ」
佐々木
「はあ?」
片岡
「ISO認証したところで会社の環境管理が良くなるわけではない。先ほど言った元々環境管理がしっかりしていなかった会社がISO認証を機にルールを作ったとしてだ、環境管理が良くなるわけではない。だって言い換えると元々環境管理をしっかりしなくても良かったわけで、新たに作ったルールは無用の長物というのが通り相場なんだ。
言い換えると元から環境負荷が大きくしっかり管理しなければならない会社は、元から管理しているわけだ」
佐々木
「ちょっと待ってくれ、環境負荷が大きくてもそれを認識していなかった会社だってあるだろう。そういう会社がこれを機会に気がついてしっかり管理するようになることもあるだろう」
片岡
「残念だが、環境管理をしっかりしなければならない会社がISO認証を機にルールを作っても、しっかり管理することはないね。というのはそういう会社は、元々経営者がそうしようという意思がないからさ。だからISO認証しても形だけの仕組みで認証を得て、それ以降はコンサルに書類の作成や維持を任せてオシマイというのがこれまた相場だよ」
佐々木
「今まで気が付かなくても、ISO認証を機会に管理しなければならないということに気がついて、環境管理が向上するような気がするけど」
片岡
「理想はそうだろう。だがそういう真面目というか当たり前の経営者は少ないね。経営者のコミットメントが大事だなんてISO規格に書いてあるだろう。以前おれはあれを読んで、なんで当たり前のことを書くのだろうと思っていた。しかし現実は経営者が環境管理、もとい遵法をしっかりしようとしないケースが多いんだ。そしてそういったところは商売するためにISO認証が必要だけど、真の環境管理はしたくないというのが多いんだよ」
佐々木
「片岡さん、つまり環境管理はISO認証と関係ない。元からしっかりしているところはしっかりやるだろうし、元からしっかりしていないところは認証してもダメということか」
片岡
「そうだ。そして世の中にはしっかり環境管理をしていない会社は多い、そんなところはISO認証しても改善はしないね」
佐田
「片岡さんは、素戔嗚すさのおグループはしっかりしていると思いますか?」
片岡
「俺が見るところ、確かに素戔嗚グループはしっかりしているよ。しかしそれはISO認証なんかとは無縁で、元から関連会社の環境管理の指導や監査をしっかりしているからだ」
佐々木
「当社で環境監査ってしているんだっけ?」
佐田
「環境管理部でグループの事業所に対して行っている監査です。会社規則上は監査部の業務監査の環境部分を環境管理部が請け負って行う形になるわけですね」
佐々木
「ISO審査が有効ではなく、当社の環境監査が有効だというのはどうしてだい?」
片岡
「監査員の力量もあるだろう、また監査の項目も違うね。形式ではなく遵法がしっかりしているかを見ている。環境側面の数字のお遊びのようなことはしていない。しかし最大の点は、監査員に責任があるからだろう」
佐々木
「責任とは?」
片岡
「ISO審査員が見逃しをしようと、判断を誤っても、いかなる責任も負わない。もちろん認証機関も責任を負わない。そりゃ、あの認証機関は事故を起こした会社をISO認証していたと言われれば、認証機関は評判を落とすかもしれない。だけど法的にも契約上も一切の責任を負わないんだ」
佐々木
「まあ審査員が審査結果ミスがあった場合責任を負うとしたら、審査員をする人はいなくなるだろうねえ」
片岡
「そりゃまあそうだけどね・・・・だけどミスがあったらその責任を負うと認識して監査するのと、ミスがあっても責任はないと認識して審査するのでは大違いだ。だからいくらISO審査員の教育をしようと、審査のルールを変えようと、審査工数を増やそうと、ISO審査の信頼性というものは高まらないと思うよ。実際に審査していてそう思う」
佐々木
「片岡説から演繹すると、素戔嗚グループではISO14001認証をしないで、過去からの環境管理の推進と環境監査の継続をすれば良いというわけか?」
片岡
「そうとも、ここにいたとき佐田君に当社の環境管理の仕組みを教えてもらった。『素戔嗚環境計画』とはISO規格で言う環境目的目標と環境マネジメントプログラムそのものだよ。しかもPDCAも回っている。また環境監査も事業所とか企業でクローズしているのではなく、グループ企業全体で推進しているのがすばらしいと気がついた」
佐々木
「私も片岡さんと一緒に佐田君から会社規則の説明とかそういった計画の実施状況を教えてもらったが、現実を見る目がないのかISO認証との関係というか、当社の仕組みが優れているということに気が付かなかったなあ」
片岡
「今になって思うんだけど、当社グループの環境管理の仕組みこそがISO14001のマネジメントシステムそのものじゃないかとね。
環境側面なんて言葉はないけど、管理しなければならないことを十分に把握して、法規制に対応している。環境マネジメントプログラムという言葉ではないが『素戔嗚環境計画』というものをグループ全体で共有して活動している。文書化、記録、是正処置、内部監査もある。ISO14001そのものだよ」
佐々木
「そう言われるとそうだねえ」
片岡
「だけど素戔嗚グループの環境管理体制を審査できる力量のあるISO審査員はいないだろう。現実の活動や仕組みをみて、規格適合か否かを判断できる人はほとんどいない。ほとんどは文書管理の規則を見て初めて文書管理がどうなっているかを判断できる。実際に使われている文書、親会社からの通知、行政の通知、発信文、そう言ったものをみて文書化が適切か、文書管理が適正かを判断できる人はまずいないね」
佐々木
「うーん、私も自信はないね。そういった判断をするにはそうとう観察力が優れていて、規格要求を読み込んでいなければできないだろう」
佐田
「本当はそういう人でなければ審査員をしちゃいけないはずですけどね」
片岡
「まあ、そうなんだけど・・・」
佐々木
「審査員といっても会社の仕組みとか会社の動き、仕事の進め方というのを知らない人が多いんじゃないか。先日のこと、ナガスネの取締役が審査に来たけど、経営ってものを全然理解していなかったね。あれで経営に寄与する審査をするとは悪い冗談だよ」
佐田
「真に環境管理を良くしようというのはISO14001を認証することでないことは間違いないですが、ISO14001規格要求に合わせることでもないと思うのですよ。片岡さんはその辺どうお考えでしょうか?」
片岡
「以前、三人で環境マネジメントシステムとはなんだろうかという議論をしたことがあったね。
あのとき特段結論が出たわけでもないけど、ああいった議論を深めていくことで環境管理の仕組みが改善していくのではないかという気がする」
佐々木
「どんな話でしたっけ?」
片岡
「あのときは特に結論はなく、環境マネジメントシステムは全体のマネジメントシステムの一部にすぎないということで終わってしまったように記憶している」
佐々木
「うーん、そんなことがあったなあ〜」
片岡
「俺はさ、審査でいろいろな会社に行って見たり聞いたりして思ったのだが、環境マネジメントシステムは、やはり独立して存在するものではないね。会社の仕事の手順や判断基準というものがどの会社でも会社の文化として存在している。まあ昨日今日できた会社はどうか知らんけど・・
そういう会社の文化とか仕組みの全体をマネジメントシステムというのだろう。そして企業文化において法を守るとか嘘をつかないという根源的なところがしっかりしていないと、その上でどのような仕事をしてもロクなことはないんだなあ。
会社のマネジメントシステムとはOSなんだろう。環境マネジメントシステムというのは独立したものではなく、OSの特定の機能を拾い集めたものにすぎないような気がする。以前佐田君が書いた図は正しいと思う」

マネジメントシステム概念図

佐々木
「つまるところ、片岡さんの言いたいことはどんなことなんですか?」
片岡
「ISO14001認証なんてのはありえないんじゃないかという気がしたんだ。その会社のマネジメントシステムが良いか悪いかといっちゃいけないか・・・・その会社のマネジメントシステムが一定レベルにあるか否かという判断はあり得るように思う。だけど環境管理だけという考え方はありえない」
佐々木
「確かに環境法規制を守れというのはないよね。それ言うなら、会社の仕事に関わる法律を全部守れと言うべきだろう」
片岡
「そうそう、そういうイメージだ」
佐々木
「ちょっと待てよ、だとすると、ISO9001認証というものもありえないのか?」
片岡
「いや、ISO9001はマネジメントシステムとはいっていない。品質保証の規格と宣言しているからそれはありだろう。というか、品質保証というようなゾーンデフェンスの場合のみ、第三者認証というものが成り立つというか意味があるように思うんだよね。
例えば会社のマネジメントシステムの認証というものを考えてみよう。そんなものをいったい誰に立証する意味があるのだろう。もちろん経営者に提言する価値はある。でもそれはコンサルであって認証ではない」
 ここではISO9001:1994年版について述べている。
佐々木
「うーん、そういうことになるのか、
待てよ、今ISO9001は改定が検討されているそうだけど、いずれ品質マネジメントシステムというものになるそうじゃないか。
片岡さん、それをどう思う?」
片岡
「先行きは、はっきりしているよ。ISO9001もISO14001同様に、どうしようもない屑になるだろうってことさ」
佐々木
「おいおい、佐田君よ、黙っていないで何か発言してくれよ。なにしろボクたちの先生なんだから」
佐田
「私も片岡さんと同じようなことを考えていました。結局、認証とは何かということだと思います。認証したことにより、何かの保証というか裏書をするならば価値があるでしょう。でも何も保証しなければ意味がないのは当たり前です。そしてマネジメントシステムというものを保証できるのかとなります。
その前に、まず環境マネジメントシステムというものが独立して評価や判定できるのかとなると、独立したものではないというのも片岡さんに同意です。
しかし会社の包括的なマネジメントシステムを評価できるのかとなると、これまた不可能に近いのではないでしょうか。といっても私の理由は片岡さんとは違います。
といいますのは、会社の仕組みや文書というのは、その会社を構成する人の質によって最適なものが決定されるでしょうし、その会社の仕事内容にもよるでしょう。
案外、すばらしいマネジメントシステムを持っている会社は人の質が悪い会社だからそういうすばらしいシステムが必要なのかもしれないし、優秀な人しかいない会社は明文化されたマネジメントシステムなんてないかもしれない」
片岡
「わかる、わかる。俺はやっと佐田君が語ることが理解できるレベルになったような気がするよ」
佐々木
「じゃあ、私はまだそこまで至っていないわけだ」
佐田
「ご冗談を。会社の大先輩であるみなさんより私が知っているはずがありません。
話を戻しますと、マネジメントシステムとは必要条件じゃないんです」
佐々木
「そういえばISO14001:1996の序文にも書いてあったな。『レビューと監査だけでは十分ではないかもしれない。(中略)法律や方針を満たし、将来も効果的であるためには体系化したマネジメントシステムが必要だ』とあったような気がする」
佐田
「その通りです。マネジメントシステムとは企業にとって必要条件でもなく十分条件でもない。それは組織を動かすツールであって、ある状況においては有効だということにすぎないのです。おっと、正確に言えば体系化されたマネジメントシステムというべきでしょう。システムそのものは組織が存在すれば必ず付随してあるものですからね。
しかしそこから疑問がドンドン湧き出てきます。
ISO14001ではマネジメントシステムの継続的改善を要求しています。それは真理なのかと考えると、真理ではないというのが私の結論です。
そもそも企業に限らず組織とは目的があって存在します。その組織が目的を達成するために行動するときのツールの一つがマネジメントシステムのわけです。目的を達成することは至上命令というか存在意義そのものレゾンデートルですが、マネジメントシステムは目的じゃなく手段の一つにすぎません。
であればマネジメントシステムを改善する必要があるのかというのは疑問ですね。私はマネジメントシステムは進化することもないし、成熟していくこともないと思います。
経営とは昔から戦争とか軍隊の運用を真似て進化してきました。デビジョンとは師団のこと、師団とは自ら作戦を決定する司令部をもつ軍の単位です。いつから師団が発生したかというのは諸説ありますが、実際に師団が効果を発揮したのはナポレオンに対する戦いでした。ナポレオンの軍隊は、ナポレオン自身が指揮官となったときに強かった。ナポレオンが指揮しなかったときはそうではない。だから個々の軍隊が独自に行動できる能力を持つことで対抗したわけです。
しかし現在は情報伝達手段がものすごく発達しました。ですからものすごい指揮能力を持つ人がいたら、師団に分けず、一人が全軍を指揮することが可能です」
佐々木
「でもそれも含めてマネジメントシステムの進化といえるのではないだろうか?」
片岡
「でもメンバーが優秀ならマネジメントシステムが不要というケースだってあるだろう。だからマネジメントシステムを継続的改善という範疇よりももっと広いスパンでものを考える必要があるということだろう」
佐田
「片岡さんのおっしゃることに同意です。私はそういうアプローチがあるべき姿と思っているのです」
佐々木
「つまりなんだ、目的を達成するにしても、取りえる手段、ツールもどんどん進化する。だからマネジメントシステムなんて重要じゃないんだということになるのかね」
佐田
「そうでもないのです。マネジメントシステムは重要だと思います。ただそのシステムが具備すべき要件は一律ではない。ものすごく流動的というか条件によって多様であるということです」
佐々木
「それも含めて継続的改善というと理解すれば、ISO14001の範囲に収まってしまうけど」
佐田
「まあこじつければなんでもISO14001の範疇に収まってしまうでしょうけど、規格のshallに対応するのが変わるのではなく、規格がshallで要求するものが変わるのではないでしょうか?」
そのとき、どこかに出かけていた、塩川課長塩川課長が部屋に戻ってきた。
片岡
「いかん、実は今日は塩川課長に会うのが目的なんだ」
佐々木
「ほう?」
片岡
「佐々木さんもそうだけど、出向しても俺の上司は塩川課長なんだ。時々来て面接を受けなくてはならないんだ。近況報告とか勤め先の問題とかね」
佐々木
「じゃあ、今晩でも有楽町のガード下ででも飲みませんか」
片岡
「おれは定時後はヒマだけど、お二人さんは忙しいんじゃないのかい?」
塩川課長
「おーい、片岡さん、良かったら話しできませんか」
塩川課長が大声で片岡を呼んだ。
片岡
「じゃあ、続きは酒を飲みながらにしよう」

うそ800 本日のソース
私は審査員稼業というものをしたことがありません。でも同僚、先輩、知人などには多々いますので、そういった方との雑談やメールのやりとり、愚痴などから・・・

うそ800 本日の懸念
こんなものを書いていると際限がない。本日も14,000字。困ったものだ。



E様からお便りを頂きました(2014.03.18)
このコンテンツへのお便りではありませんが、内容的にマネジメントシステムについてのことですので、ここに載せるのがフィットするのではないかと考えました。
こんにちは
いつもホームページを拝見させて頂いています。
早速ですが、日本規格協会のHPを見ていたらマネジメントシステム(MS)管理技術者制度なるものの案内がありました。
申請資格や維持方法などを見るとISOの審査員と変わらないように感じられました。
審査員の登録だけでは、ご飯の食い上げなので、こんな方まで手を広げてきているのでしょうか?
是非この制度についても取り上げて頂けませんか。

E様 お便りありがとうございます。
いつもご覧になられているとのこと、感謝申し上げます。
ご教示いただいた「マネジメントシステム管理技術者」というものを存じ上げませんでした。不覚であります。
早速マネジメントシステム審査員評価登録センター(JRCA)のウェブサイトで確認しました。「マネジメントシステム管理技術者」だけでなく、「マネジメントシステム内部監査員」という制度も同時に立ち上げたのですね。JRCAも起業家精神旺盛だなあと感心しました。
しかし不思議なことに、この制度のすばらしさというか登録することのメリットは一体何なのでしょうか? それについては何も書かれていません。登録すると登録していない人にできないことができるというメリットがなければ、登録しようという気持ちになりません。どうもJRCAはその辺の宣伝がイマイチのようです。
もちろんJRCAにとっては、「内部監査員養成講習会」や「マネジメントシステム管理技術者研修コース」の受講料、登録費の売上をもくろんでいるのでしょうけれど、それはJRCAのメリットであって、登録対象者にとってはデメリットであってもメリットではありません。そこのところは制度設計がなっていないのではないでしょうか?
まさか登録された「マネジメントシステム管理技術者」や「マネジメントシステム内部監査員」がいなければISO審査を受けてはならないなどと言いだしたら、多くの企業は即座にJAB認定を返上してUKASとかANABの認定を望むでしょう。そしたらアブハチ取らずどころか、JABの支配体制崩壊の引き金になってしまいます。それはそれで恐ろしいことです(JRCAにとっては)。
ところで今はなき「内部監査員検定制度」が現れたとき、CEARでもISO審査員の登録だけでなく、内部監査員の登録も行うかという検討もあったように聞きます。結局やりませんでした。でもIRCAでは内部監査員登録もしているので、それはおかしくはありません。問題は登録してくれる人がいるかどうかということでしょう。
ともかく内部監査員に登録すると登録費用に見合った価値があるのかどうかが論点です。もし登録すると、免許ではなくても、尊敬に値するなら1万円払っても惜しくないかもしれませんが、そのブランドというか評判を勝ち得るには数年かかるでしょう。勝ちえないかもしれませんし、それまで登録制度がもつかどうかということも大いに疑問です。
ところで私は、品質の内部監査とか環境の内部監査などありえないという考えです。会社には会社法で定める内部監査のみで必要十分と思います。その中で品質も環境もそして情報管理もみるべきだし、見なければなりません。だから、品質マネジメントシステムの内部監査とか環境マネジメントシステムの内部監査などゾーンデフェンスのものはいらないと考えています。業務監査でみたことをISO審査で説明すべきでしょう。
そして、そのためにはちょっとISO審査を受けた経験があるとか、業務経験が数年ある程度ではまっとうな業務監査はできません。
話はそれますが、ググったときに「マネジメントシステム監査技術者」認定登録制度というものも見つけました。そちらも斜め読みしましたが、カリキュラムとして
 @品質管理の実践に関する知識
 A改善方法(是正・予防)に関する知識
 B規格要求事項の意図理解
 Cプロセスに関する知識
 DQC基礎手法
 E監査手順知識
 F自社の内部監査規定に関する知識
といったものが並んでいます。はっきりいってこれじゃあもうダメだなあと思いました。
そもそも設立の趣旨として「マネジメントシステムの改善とパフォーマンス向上に貢献する」と語っています。それならば、上記カリキュラムのようなものでなく、経営学とか組織論といったものを教えることが必要と思います。会社を良くするのは、品質管理手法ではなく経営学あるいは心理学といったものでなければならないと私は思います。
単にうまい監査をするにしても、監査の手順とかではなく(当然そういったことを知っている人を対象にしているのだから)コミュニケーションとかリスクマネジメントといったものを教えるべきでしょう。営業部門の品質監査を行うのに、QC手法よりもマーケティングの知識が必要だろうと思います。
おっと、それは現在のISO審査員についても言えることです。営業をしたことがないのに営業部門とか販社の審査ができるのか、経営をしたことがないのに経営を語ってよいのか、開発管理をしたことがないのに(以下略)
話が大幅にそれてしまいましたが、とりあえずの私の感想をまとると
 @制度設計がなっていない。
 Aこの制度は登録者(応募者)が多くはないだろう。
 Bついでですが、ISO審査員エキスパートというものもどうかなあということ
結果として長続きしないだろうと思いました。
この制度について論じよというご要望については、しばし時間をください。お話をひねり出したいと思います。


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