審査員物語45 新事業その2

15.09.07

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは

三木は昨年60になりナガスネ環境認証機構を退職して子会社のナガスネMSに転籍になったが、会社を替わっても仕事はまったく変わらない。子会社とか転籍とか、単に賃金を下げるための方策だろう。とはいえそれに文句を言える立場でもない。三木自身、自分は幸運だと思っている。
審査員すごろく 実際、ナガスネ環境認証機構に出向した後に転籍しても、全員が子会社に移れるとは限らない。当然だが株主会社から来た人は優遇され、株主会社から来た人でなければ非常に不利だ。最近は業界外のお客を取るために株主会社以外の顧客企業から出向者を受け入れているが、そういった人でナガスネに転籍できて、更に60歳でナガスネの定年になったとき子会社に移れる人はほとんどいない。その場合は契約審査員になるしかない。
株主会社から来た人でも、審査でトラブルを起こしたり勤務評定に問題があれば定年でおしまいということもある。更に元の会社で部長をしていた人と課長止まりの人がいれば、職階が低い方が不利というのも現実である。会社側にすれば、部長級なら認証機関でなく子会社に出向したとしても、63歳くらいまでは雇用を保証しているわけで、課長以下は嘱託になれなければ終わりだから同じだという論理なのだろう。こんなことでは働く者のモチベーションが上がるわけがないよなと三木は思う。
とはいえ自分の立場で考えれば、60になって子会社に移り賃金が下がったにしても、63まで雇用が保証されるのはやはりありがたい。年金がもらえる66歳までは契約審査員をしようというのが三木の計画である。
今日も三木は審査である。審査前の控室でパソコンを立ち上げるとメールが10件くらい来ている。某所の審査でこのような問題があったので・・・に注意せよ、社長杯ゴルフコンペを開催するので参加希望者は・・・、今月分の賃金明細をpdfで添付しますとか・・
潮田取締役からメールが来ている。なんだろう。


いやはや、潮田取締役もセコケチでジコチューだなと三木は苦笑いする。とはいえ、三木もこのテーマに興味を持ってきたこともあるし、社外の人の話を聞くのも面白そうだと思う。
さて、誰が適任だろうか? 三木も審査先とか各種会合でいろいろな人と会っている。とはいえ会社側というと・・・遠くから来てもらうのはできないだろうから、東京近辺でなければならないし・・
三木の頭に何人かの顔が浮かんだが、これはというのは二人だ。ひとりは審査員になるときいろいろお世話になった鷽八百機械の山田課長素戔嗚電子工業の佐田だ。とはいえ佐田と会ってからもう何年も経っている。それにあまり深い付き合いもなく佐田がどんな考えをしているのかもうかがい知れない。となると山田が適任だろう。
三木は以前のメールを探して山田にメールを出した。


まあ、こんなものかと考えていると、審査のリーダーからオープニングですよという声があり、深く考えずに送信ボタンをクリックした。


審査が終わった夕方、パソコンをチェックしていると、早速山田から返信が入っている。
いい返事ならと思いつつメールを開く。

三木が副部長だったのは転籍する前のことだ。山田はそれを知らないのか、あるいは知ってても副部長と書いたのか、少なくても失礼にはならないだろう。

三木はホッとしてそれに若干の説明を付けて潮田取締役に転送した。
山田には潮田からの返事があってからお礼と日時を伝えよう。


結局、翌週の某日午後に会うことになった。潮田が三木の審査のない日に調整してくれた。
予定の10分ほど前に山田が現れた。三木が潮田取締役に伝えると潮田取締役と肥田取締役がすぐにやってきた。それ以外の参加者はいないようだ。
挨拶もそこそこに本題に入る。

潮田取締役
「山田部長さんもご存じのように現在ISO認証件数は減少を続けています。過去からの傾向を見るとこの先増加するとは思えません。外国、特にISO認証の先進国であるイギリスでは日本より相当早く減少が始まっていました。ですからこの事業はもう衰退に入っていると思うのです」

英国日本認証件数推移

*ISOサーベーとJAB認定の数字が違うのは当然としても、ふたつの曲線はあまりにも無関係に見えます。その理由は全然、わかりません。
ISOサーベーが正しいなら、ISO9001はピーク時の43%減、ISO14001は40%減、日本のISO認証は終わってます。


肥田取締役
「ああ、もちろんエネルギー管理システムとか労働安全その他新しいマネジメントシステムの認証はありますが、QMSやEMSの落ち込みをカバーできるほど期待できません。それに更なる問題ですが新しい規格の認証もやはり9001や14001と同じ傾向、つまり当初は増加してもいずれは減少していくことになると思います」
潮田取締役
「ということでなんとか事業継続をするために、いや事業継続ではなく企業存続ですかね、ともかく座して死を待つわけにはいきません。我々の持つコンピテンスでなんとかしなければというのが課題です。
今まで社内で検討してきまして、どんな事業に進出するというか、まあそれほど大げさではありませんが、簡易EMS認証とか化学物質管理システム審査とかアイデアはありますが、なかなかこれといったものが・・」
肥田取締役
「三木から聞きましたが、山田部長はISO認証ばかりでなく環境管理については非常にお詳しいとのこと、ぜひともアイデアといいますかアドバイスを頂けたらと思いまして」
山田
「はっきり言ってそれはISOとか審査の問題じゃありませんね。私のような管理者レベルには無理なご相談ですよ。アドバイスを求めるなら経営者というかアントレプレナーでなければならないでしょう。それと御社は独自に事業方針を決定できるわけはないですから、親会社のご意向次第ということでしょうね」
潮田取締役
「いや決定はもちろん親会社というか出資10社のご意向次第ですが、方向といいますか案については我々が策定し提示しなければならないでしょう。それと山田部長さんも上級管理者であるわけで、かつISO認証制度にお詳しいのですから、この業界からどういう方向があるのかということについていろいろ良いアイデアをお持ちかと思います」
山田
「どうなんでしょうかねえ〜、まずなによりも御社の保有するコンピタンスというかリソースによって何ができるかということになります。御社の場合、まったく新しい事業を始めよう、そのために人を雇おうということは難しいでしょうね。お宅の持つリソースとなると、審査員をしている人と親会社の囲い込んでいるお客様ということになると思います。御社がどんな事業を始めようと、一定数のお客さんは取れるということはいいですね。もちろんそれを超えて伸ばそうとすると非常にハードルが高いということになります。
さて、御社に出している人は審査員として活躍してほしいという人が来ていると思います。ですから新事業といってもISO認証と関連の強いものならよいですが、カテゴリーが異なるとコンピテンスがないということになります」
潮田取締役
「そうなんですよ。知財とか輸出管理のコンサルなんて案もあったのですが、そんなことのスペシャリストは退職や出向しないで本体に残り70くらいまで嘱託していますよ。正直言ってウチには特記するような資格持ちとか業務経験のある人なんていません」
山田
「実を言いまして、当社でも似たようなことがありました」
潮田取締役
「似たようなこととおっしゃりますと?」
山田
「どの会社だって年配、まあ50を超えて使い道がない人がいるというのは現実です。もちろん無能とか異常というのではなく、過去30年間一生懸命働いてこられてそれなりに実績を出された方であっても、時代が変わって保有する能力が需要とずれてしまったということもあります。個人的にはその技術技能を生かすために中国やインドネシアなどに活路を見出そうとする人たちもいます。技術を吸い取られてポイされる方も多いそうですが、
それでそういった人の活用として環境関連で新事業を立ち上げろという指示がありました。もう2年くらい前になりますかね。今では独立した子会社となっています」
肥田取締役
「ほう〜、それは興味深いお話ですね。それで」
山田
「私も良いアイデアはなかなか浮かびませんでした。会社の希望としては多々益々弁ずで、とりあえず数名、できれば10人でも20人でもというわけです。無茶もいいところですよ」
潮田取締役
「いやあ、それは非常に参考になりそうですね。それで」
山田
「いろいろ検討しました。結局出てきたのは当たり前というか誰でも考えるようなことだけです。結局、私ども環境管理部の下請け的業務とか、社内の環境監査業務とか、環境教育とかですね。
恥ずかしながら現時点でも売り上げの4割は環境管理部の下請です。そして5割はグループ企業ですね。まったくの外販といいますか、グループ外の売り上げは1割程度です。できれば外販を半分くらいまで伸ばしたいのですが、それは難しいですね」
肥田取締役
「環境監査業務ならウチの審査員なら力量は十分にある。失礼ながら山田部長のところのメンバーよりもレベルが高いと思いますね。そうか、内部監査請負というのがあったな」
山田
「うーん、肥田さん、それは事実でしょうか。ISO審査なら規格適合の確認、それも抜取ですればよいですが、我々の場合、規格適合を調べているわけではありません」
肥田取締役
「規格適合じゃない? と言いますと」
山田
「我々の内部監査はISOのためではありません。会社のためです。その監査基準はいくつかありますが、大きく言えば法遵守の徹底的な確認、事故発生の可能性の確認、そして会社方針の展開状況の確認です」
肥田取締役
「会社方針はともかく、法遵守とか事故の危険などはISO審査員の方が企業の内部監査員よりもレベルが高いと思いますがね」
山田
「肥田さんと議論する気はありませんが、非常に重要なことですから説明します。我々の内部監査は社長報告になりますし、もし監査後に問題発生したならば責任を問われます。おたくのISO審査員は遵法とか事故の危険性などについて多面的かつ徹底的な監査ができますか? 報告には責任を負うということをご理解ください」

潮田取締役 肥田取締役 三木 山田
潮田取締役 肥田取締役 三木 山田
三木
「ああ、発言させてください。肥田取締役、ISO審査は見逃しがあっても免責を明記しています。そして現実の審査員は遵法も事故の恐れもチェックできないと思います。それほどの力量はありません。
もし仮に私が山田さんのところの内部環境監査の下請けをしたとして、とても要求を満たす内部監査などできません」
肥田取締役
「三木さん、それは・・・・本当かね?」
三木
「はっきり言いますが、私の力量は山田さんの足元にも及びません。想像ですが山田さんが指導した監査員たちのレベルも高いと思います」
肥田取締役
「ウチのISO審査員は、そこらの内部監査員と同程度ってことなのか?」
三木
「いや、そうじゃありません。一般的な企業の内部監査員はどうにもならないレベルだと思いますよ。そりゃ、ウチに来て1日や2日の講習を受けて内部監査をしろと言われたら、規格の文言の末尾の『すること』を『していますか』に変えて質問するくらいしか能がありませんからね。
だけど山田さんのところはそういう内部監査じゃないんです。彼らは、失礼、山田さんのところはISO規格なんてどうでもよくて、法違反をしないこと、事故を起こさないことを徹底的に確認しているのです」
肥田取締役
「それは・・・・ISO規格に基づいて内部監査をすれば、遵法や事故防止の確認ができるのではないか?」
三木
「できません。ISO規格に基づいた内部監査は、システムがISO規格を満たしているかいないかを見るだけです」
肥田取締役
「ISO規格を満たせば、遵法と事故防止が可能になるわけだろう」
三木
「なるわけありません。肥田さん、いや肥田取締役、どうか現実を理解してください。我々のしている仕事はあまり現実の環境管理に貢献しないバーチャルなお仕事なんです」
肥田取締役
「だって、ISO14001の意図は遵法と汚染の予防じゃないのか?」
山田
「確かにISO14001の意図は遵法と汚染の予防ですが、規格を満たせばその意図が実現されるという保証はないのです。余計なことですがISO9001の意図は顧客満足ですが、これもまた規格を満たせばその意図が満たされると証明されたわけではありません」
潮田取締役
「すみません、山田部長さんと三木さんのお話を一言で言えば、我々は企業の内部監査を請け負う力量がないということで良いのかな?」
三木
「そう考えます」
山田
「うーん、ちょっと語弊がありそうですから訂正させてもらいます。ISO審査というのは標準化されています。その目的はISO規格適合を確認することでそれ以外ありません。それで仕組みを見ますし、運用を見ます。しかし遵法と汚染の予防が確実か否かは審査対象じゃないんです。いや違法があっても、仕組みが適正で違法の対応をしていれば適合となるはずです。最近JABは違法があってはダメと言っているようですが。
他方内部監査の監査基準はISO規格という会社もあるでしょうけど、それ以外の監査基準ということもあるわけです。我々の場合は先ほど申しました遵法、事故、方針ですが、重要性から言えば遵法と事故のふたつです。ISO規格を満たしていなくてもこのふたつを満たしていればOKです。そもそもISO14001規格の序文に書いてありますが、監査やレビューだけでは将来にわたって環境管理が維持されるとは限らないから、ISO14001で定める仕組みを作る必要があると述べています。我々は組織の外部から本社あるいは親会社として定期的に監査を行い是正させていますから、その組織内部には仕組みがなくても良いという考えもあります。
いや、本音を言えばその組織の環境マネジメントシステムがISO規格の要求するレベルに至っていないから我々が内部監査を行っているということでしょうね。おっと、組織の環境マネジメントシステムがISO規格を満たしていても大丈夫という保証はないと先ほど申しました通りです」

*どうでもいいこと
認証機関やISOコンサルが内部監査を請け負いますなんて語っているところを見かけると、本当にできるのかと疑問に思っている。
ISO審査と同じような内部監査ならする意味がなく、あるべき姿の内部監査ができるとは思えない。
なぜかと言えばやはり絶対的に審査員の力量が低いからだと思う。私は過去20年に100名以上の審査員の審査に立ち会ったが、すごいと思ったのは4名だけだ。
名前をあげておく、B▽社のIさん、J○△のYさん、左右のHさん、S社のNさんである。


肥田取締役
「ということは我々がISO審査でしっかりした仕組みを構築させ継続的改善を続けさせれば、山田部長の指揮する内部監査が不要になるという理解でよろしいかな?」
山田
「理想はそうでしょうけど、先ほど申しましたが、ISO規格を満たしたところで遵法と汚染の予防が実現できるということは証明されていません。いずれにしても現状のISO審査の方法や工数ではそれは不可能でしょうね」
肥田取締役
「不可能というのはISO審査を継続してもマネジメントシステムは良くならないということですか?」
山田
「認証機関の方には申し訳ないですが、過去10数年の実績からそう言えるでしょう」
肥田取締役
「そりゃまたとんでもない話だな」
山田
「現実は現実ですが、理屈から考えても認証を受けて継続して審査を受けても企業の環境管理、あえて環境マネジメントシステムとは言いませんが、企業の環境管理が向上するという根拠はありません。
そもそもISO規格が満たされれば組織の環境管理は完璧だかどうかがはっきりしないということがひとつ、今のような審査でマネジメントシステムが適切かどうか評価できるのかというのがひとつ、審査によって継続的改善への強制あるいは誘導ができるのかというのがひとつ、その他にもいろいろあるでしょうが、過去15年間できなかったのですから今後もできないでしょう」
肥田取締役
「オイオイ、それじゃ審査とは一体何なのだろう。いや認証とは何なのだ!」
山田
「認証制度の起こりは品質保証でした。それは顧客が供給者を個々に品質監査をするのはする方もされる方も大変だということでした。その意味では第三者認証制度の意味はあり第三者監査を意味する審査の意義はあるでしょう。しかし企業のマネジメントシステムの規格適合を判定する審査と変質した今、存在意義があるのかどうか検証しなければならないように思います。まあ、私は裸の王様かと思います」
三木
「肥田取締役、ISO審査員がしている審査が企業の環境マネジメントシステムを良くするというのは幻想ですよ。だって年に1日2日訪問して、現場も記録もチョコチョコと見て、仕組みが良いか悪いか、運用が良いか悪いかなんてわかるはずがありません」
潮田取締役
「しかし遵法はしっかりと見ているでしょう。JABからも言われているし、審査員にも徹底していることだし」
山田
「うーん、正直なことを言っていいですかね?」
潮田取締役
「どうぞ、どうぞ」
山田
「ISO審査員にもいろいろな方がいらっしゃるでしょうけど、帳票や現場を見て、それが妥当なのか違反していないかなど判断できる人ってのはいかほどもいないと思いますよ。おっと、私がそれをダメだと考えているわけではありません。何でもかんでも知っている人がいるはずがない、だからそれは仕方がないと思います。ISO審査員は仕組みが規格に適合しているかを点検するのですから。
仕組みを点検する人が細かい法規制とか施設管理の詳細を知っておかねばならないとは言いません。しかしそういう知識、経験レベルでは遵法と汚染の予防は確認できないのです。そしてまた現実のマネジメントシステムは完璧ではありませんから、結果としてのパフォーマンスは遵法も汚染の予防も満たすことはできていない。だから結果を点検する業務というものが必要悪として存在しているわけです」

*ほとんどの審査員はマニフェスト伝票の見方は知っているようだが、公害防止管理者の変更届とか、危険物保管庫の変更などの書類を見たことがあるだろうか?
実を言って私も良く知らない。いつも前回のものを参考にして書いていた。そして消防署から様式が違いますなんて言われると、「あ、すみません。教えていただいてありがとうございます」で済ませていた。


三木
「そしてその山田さんが指揮している内部監査を行う力量は、我々は持っていないということなのです、肥田取締役」
肥田取締役
「うーん、」
潮田取締役
「山田部長さん、質問ですが、その御社で内部監査を担当されているメンバーだって山田部長さんが教育されたわけでしょう。当社の審査員にも適切な教育をすれば同様のレベルになると考えてよろしいのですよね?」
山田
「それは簡単ではないでしょう。全員がその力量を持てるかどうかは定かではありません」
肥田取締役
「ウチの審査員はみな力量が高いと聞いているが」
山田
「うーん、一般論ですが・・・・ISO審査員になるにはまず5日間研修を受けなければなりません。研修を受けて最終試験に不合格になる人はいかほどいるでしょうか?
いえ、今の言葉は疑問じゃありません、反語です。私は結果を存じています。まずゼロです。初回の試験で不合格であっても、2度目の追試でほとんどが合格しています。LMJという有名な方、ご存じでしょう、その方の言葉に審査員に向かない人は2割いるそうです。それが真実なら受講者の2割は不合格にならなくちゃならない。しかし現実はそうじゃありません。
それから研修を受けて修了試験に合格した人は審査員登録機関に申請します。JRCAとCEARあるいはIRCAかもしれませんが。申請して拒否された人はいかほどいるでしょうか? 実は私はこれも聞いたことがありますが、とんでもない人以外はほぼ100%登録されるそうですね。審査経験とか形式上満たせば拒否できないでしょう。そして一旦登録されると、顧客や一般社会からの苦情や異議申し立てで登録抹消になった審査員はいないと聞いています」
肥田取締役
「ウチだって、出向してきた人全員が審査員になれるわけじゃない。使えない人は出向解除して戻ってもらうとか、審査員以外の仕事に就いてもらうなどしている」
山田
「そりゃ当然でしょう。だってお宅は審査サービスを販売しているわけで、提供するサービスの品質を維持する責任があります。
ただ私が期待する内部監査は責任重大であるということ、それと言いにくいことですが、現行のISO審査のサービスの質はあまり良くないということです」
潮田取締役
「すみません、最後のお言葉ですが、それはウチの審査員の質を今以上に上げないとならないということですか?」
三木
「潮田取締役、実を言いまして私が今年、山田部長の鷽八百社の審査をしたのですが、まず歯が立ちませんでした。審査の後でも山田部長にいろいろと指導を受けまして・・・とても私のレベルでは山田さんのおめがねにかないません」
潮田取締役
「えぇ、三木さんでも! うーん、それは要求水準が高すぎるのでは・・・」
三木
「実を言いまして、昨年は鷽八百社を元取締役の須々木さんが審査しましたが、苦情がついて審査結果を覆されています」
山田
「お金を払って内部監査を依頼したなら、価値ある内容とそれに結果責任を求めるのは当然でしょう。
それと実際に御社がそういうビジネスを始めるなら弁護士法とのからみを確認しなければなりませんね。我々は社内のことですからそういう規制には関わりませんが」
潮田取締役
「なるほど、弁護士法というのもあるのか」
山田
「実際は弁護士法に該当するケースは限定されるでしょう。それに法違反か合法かは弁護士だって判定できません。できるのは行政と裁判官だけです。ISO審査は法違反かどうかは素通りできますが、我々は逃げようがありませんから行政や顧問弁護士に相談しながら社内やグループ内の合法を確認しなければなりません。もっともそれが力量を向上させることにもなります。
ああ、業務ですが内部監査の請負だけではありません。それ以外にも例えば法改正情報の調査提供などもしています」
潮田取締役
「法改正情報の提供? それはウチでもしているよな」
三木
「はい会員となっている企業さんには定期的に法改正だけでなく、ISO規格の改正情報などを提供しています」
山田
「単に法律が改正されました、どこがどう変わりましたという情報提供は、多くの企業や機関がしています。しかしそのような情報では受け取ったほうが、自分たちが関わることを調べ直さなければなりません。お金を取るならもっと相手に役に立つものでなければなりません。
それで私どものは一ひねりしております。いや単に売上を上げるためじゃありません。グループ企業が違反をしないでほしいからです。
ウチの場合、各工場や関連会社がどのような施設があるか、どのような法規制に関わるかということを把握しています。ですから法改正があったとき、お宅ではこの届が変更になりますよ、これからはこれが法規制の対象になりますよという具体的な情報提供・・いや情報提供ではなく法改正に伴う業務改定の指導をしています。もちろんそういうわけですから、会社ごと、工場ごとに伝える情報は異なります」
三木
「ウヘェ! それは簡単じゃありませんね。しかし逆にそういうことができるということは、工場の情報を保有していなければ・・」
山田
「そうですね、そしてそのためには工場や関連会社が、その情報サービス会社を信用していないと情報提供ができません。
言い換えると、こういう環境サービスは工場の情報について守秘契約だけでなく、現実に秘密を厳守してもらわないと成り立ちません。我々も社外公表していないことはいろいろあります。情報提供だけでなく、内部監査もそういったことを知ってしてもらわないと意味がありません。
いずれにしても、そういうサービスでないと価値がないということです」
潮田取締役
「なるほどなあ〜、聞けば聞くほどため息が出るよ」
三木
「研修とかも行っているのですか?」
山田
「ああ、すみません。細かいことまで伺ってなかったので今回は準備してこなかったのですが、各種環境教育も請け負っています。ただ誤解されないように申し上げておきますが、そのへんで行っている環境教育をしているつもりはありません。つまりISO14001の教育とか自然保護とか地球温暖化などのテーマはないということです。おっと、依頼されればそういうこともできますよ。ただ私は社内で行う環境教育とはそんなものじゃないと考えています。
ええと実際行っているものはですね、例えば関連会社から環境法規制の話をしてほしいという依頼があったとして、実際にはそういう依頼はたくさんあるのですが、その会社の設備、作業、環境負荷などを十分調査し、関係する法規制や事故のリスクなどを調査します。そしてどのような法規制が関わり、どのような危険があり、だから何をしなければならないかという具体的なことを教育します。そういう内容が依頼者もお金を払うかいがあるでしょうし、聞いた人も居眠りをしません」
三木
「それは実のある講習だとは思いますが、そのためにはその工場の環境負荷を十分に調査し、関係法規制、それも法律だけでなく県、市町村条例、要綱まで調べると思いますが、とんでもない仕事になりますね」
山田
「確かに、でもそうじゃないとほんとの意味の教育じゃありません。言い換えると他の教育機関に差別化をはかれます。北極のシロクマが〜とか、大気中の二酸化炭素濃度が〜とか語っている研修機関には追随できないでしょう」
潮田取締役
「確かに・・・三木さん、ウチで今山田部長さんがおっしゃったような教育をしようとしたらどうですか、実行できますかね?」
三木
「まず今ウチでも講習会で法規制を教えている人は限られていますが、彼らも法律や施行令、規則を読みこなしてはいますが、現実の設備、作業から該当する法規制を見極め、なにをどうしなければならないということを即座に提示できるとは思えません。はっきり言いましょう。それほど力量はありません」
山田
「あがってナンボという言葉がありますが、企業においては結果がなければゼロです。努力をしても結果が出なければ意味がありません」
潮田取締役
「つまり結果を出せるような人はウチの審査員にはいないということですか?」
山田
「いやいやそういうことではありません。高いレベルの方だけが高い要求に応えるだろうということです」
肥田取締役
「その他にその山田部長のところの下請け会社ではどんなことをしているのですか?」
山田
「環境管理部のウェブサイトの維持管理とか環境情報の収集とか届出のフォローアップなどですかね。
おお、ウェブサイトの維持といってもhtmlを書くわけじゃありません。法改正情報とか世の中で起きた環境事故とその対応などですか」
潮田取締役
「山田部長さんの鷽八百グループではそういった仕事を何人くらいで行っているのでしょうか?」
山田
「うーん、あまり細かいことは言いたくはないので、片手つまり4ないし6人程度ですかね。もちろん独立企業ですから総務とか経理などもありまして、それは別ですが」
潮田取締役
「なるほど、とするとウチで例えば20人ないし30人くらいの負荷を確保しようとすると、1兆円企業グループを5つとか6つを顧客に確保しないとならないということになる」
肥田取締役
「株主会社10社を囲い込めば50人の仕事が確保できるということになりますね。それなら十分この会社を支える事業となるでしょう」
三木
「ちょっと待ってください。そういう会社あるいはグループ特有の情報に関わることなら、ウチに依頼するのではなく、鷽八百社と同じく出資会社がそれぞれがその機能を持つと考えた方がありそうです」
潮田取締役
「うーん、そう言われると確かに、事故とか法に関わる情報を社外の人に知らせるってことはないだろうなあ」
山田
「どうも皆さんのご期待に応えるような情報もアイデアもなかったようですね。申し訳なかったですね」
潮田取締役
「山田さんはウチならどんな新事業ならできるというか、やるべき事業はなんでしょうかね?」
山田
「出発点として、何ができるかではなく、どんな需要があるかではないでしょうか、いえ、私の営業時代の経験からですが
ともかくまずは出資会社のご意向を確認すべきでしょう。彼らは新しい事業をしてほしくて出向させたりしているわけじゃないでしょう。もしかしたら認証ビジネスが先細りならゆくゆくは撤退すると決めて、出向者を別の事業に向けるかもしれない。あるいは出資会社が新しい事業をやれと指示してくるかもしれない。
思っていることを言っちゃいますがね、お宅は総売が30億くらいでしょう。出資会社の工場どころか一部門の売上にも満たないですよね。ネガティブなことは言いたくないですが・・・出資会社10社はどこも1兆円どころか数兆円企業ですから、30億規模のビジネスが先細りなら、撤退という選択はそんなにハードルは高くないでしょう。おっと、私がそれが良いと考えているわけではありませんよ。
初めに肥田さんが案はこちらで立てなければとおっしゃいましたが、その前になにをすべきかを確認した方が良いのではないですか」
潮田取締役
「こんなことを山田さんにお聞きするのもなんですが、認証ビジネスが先細りの気配ですが、このビジネスを盛り返す策はありませんかね?」
山田
「私は大層な理屈は分りません。ライン不良でも営業の問題でも、現状分析と問題点の抽出、そしてその対策という流れになります。とりあえず過去からの問題を分析して重要性とか頻出などから対策を計画し実行することだと思います。
私は元営業マンでした。自分の賃金を稼ぐにはいくら売らなくてはならないかと考えると、そりゃ大変ですね。ISO審査の価値を考えてみたらどうでしょう。成果物といえば結局所見報告書でしょうけど、まあ規模によって審査費用は異なるでしょうけど、あの10ページもないものが100万とか200万するわけですね。
一度報告書の文字数を数えたことがありました。あらかじめ決まっている文章を除いて、審査結果を書いた文章はせいぜい1,500字とか2,000字でした。割り算すると1文字500円から1000円につくわけですね。その文章も『○○について規格を満たしていることを確認した』とかですよね、高いと思いませんか?
ちなみにこのコンテンツの文字数は12,000字である。
いや文字数は少なくても審査そのものが企業を唸らせるようなものであれば納得ですがね、
ビジネスはQCDです。品質で差別化できなければ値段を下げるしかありません。今は既に安値競争になっていますが、この流れでは体力のある認証機関だけが残ることになるでしょう。そもそも日本に認証機関が50もあるのは多すぎですよ。20もあればいいんじゃないですか。1社の売上規模が確保できれば、それなりに事業継続はできるでしょうから」
潮田取締役
「ともかく審査の質、報告書の質を上げることということですか?」
山田
「最低限、今すぐできてそして効果があるものといえばそれでしょうね」
三木
「いやいや今すぐできるとも言えません。それはとても高いハードルです」
肥田取締役
「三木さん、私は知らないのだが、正直言って審査の質って低いのかね?」


打合せが終わって肥田が山田に一席という話をしたが、山田は仕事がありますからと断った。
一旦、山田を玄関まで送ってから三人は会議室に戻ってきた。

肥田取締役
「三木さん、あの山田という男の話は話半分なんだろう? 審査員よりも内部監査員の方がレベルが高いとか」
三木
「いやあ、真実だと受け取ったほうが間違いないと思います。なにしろ私が審査で不適合を出したのを全部ひっくり返されたのですが、それは単に規格を理解しているということではなく、環境管理をしっかりしていていなければ意味がないということです。規格文言を振り回しているだけでは通用しないということをいやというほど思い知らされましたから」
肥田取締役
「そうなのか・・・」
潮田取締役
「ともかく肥田さん、中期の売上予測と損益をまとめて、内部で検討しましょうや。次回株主総会までには・・」

うそ800 本日の疑問の先回り
山田が無関係な人から呼ばれてホイホイ行くほどヒマなのはおかしい。おばQは会社で働いたことがないのかなんてツッコミを予想する。
私が現役時代、出張が多いと言っても半分は会社にいた。もちろん残業も休日出勤もしていたが、社外で講演会とか講習会その他、法規制の説明会などの情報があれば出かけて行ったし、他社から問い合わせとか相談があれば行ったり来たりしていた。その分は残業で埋め合わせするわけだが、それは自分磨きだと思ったし、関心あることは見逃せない。

うそ800 本日の蛇足
日本で最大手の認証機関でも、認証事業だけでは100億ない。大手と言われる認証機関でも認証事業の総売は30億とか40億だ。それを多いと思うか少ないと思うか、どうだろう?
ISO認証市場はだいたい300億、審査員研修や登録、ISO関連書籍の出版、コンサル、講演会などを含めても500億程度だろう。
東証一部上場の会社となれば、工場ひとつの生産高が100億なんてところはまずない。400億、500億が普通だ。工場ひとつで数千億というところもある。そんなことを考えると認証事業というのは非常にマイナーでニッチなビジネスである。
ちなみにアニメやゲームの登場人物に扮して楽しむコスプレ(コスチュームプレイ)が急成長している。このコスプレ市場がいかほどかというと2011年で衣装だけで400億超と言われている。撮影、イベントはまた別だ。さらに言えば、アダルトビデオの市場規模は5,000億だそうです。
極め付きはパチンコで19兆、日立製作所の倍だ やれやれ、パチンコ撲滅が日本再生のカギかも知れない。



外資社員様からお便りを頂きました(2015.09.18)
どの会社だって年配、まあ50を超えて使い道がない人がいるというのは現実

この部分は考えさせられました。外資の場合は、契約主義なので、年棒の中で査定されます。
実績で評価されますので、年棒に相応しくない実績はありえないのですね。
この問題は、実は日本の多くの企業が直面している事で、企業が社会保障の一面を担っているという考えと思います。
若い時は給与以上に働き、年を取れば長年の功績に報いるような考えです。
これが「終身雇用」の考え方ですが、契約上には記載されない暗黙の了解なのでしょう。
しかし今では暗黙の了解が崩れて、企業は存続の為に非正規雇用を導入。
非正規の立場から見れば、「高給取って働かない社員」は不正な存在であり、「同一賃金同一労働」の原則にも反します。
こうした社員にも見えている歪みが正せない事の一例が、ご指摘の認証会社にも表れていると思います。
本来 マネジメントの観点から見れば、こうした歪みが放置されている事自体が問題なのです。
認証会社のマネジメントで、腰掛の役員に今を乗り越えないと未来が無いという気持ちを持っていない事は会社にとって不幸です。
もしISOが本当に有効なマネジメント手法ならば、このような歪みを問題として認識できなければ無意味に思います。
それができないという事は、単なるツールであり、先の報告書の経営に寄与するという事も トンデモない観点のものと思います。

長くなりそうなので、とりあえずここで、

外資社員様 毎度ありがとうございます。
おっしゃることは分ります。若干言い訳を・・・・
この物語はフィクションではありますが、その物語の出来事や内容とか、職場の規範、登場人物の価値観といったものは私の経験をベースにしておりまして、決してうそとか空想のものではありません。
年俸に相応しくない実績はありえない とおっしゃるのは分ります。本当は実績に相応しくない年俸はありえない のかもしれませんが・・
でも子会社に出向するときは、元事業所長クラスですと役員になり、元部長級であれば子会社の部長級以上となり元課長級ですと子会社の部長になりというのは多くの場合普通のことですし、子会社に課長級で行った人が実績をあげてのちに役員になったなんて話は寡聞にして聞いたことがありません。そういうのが旧財閥系とか東証1部の大手では事実でしょう。それが良いと考えているわけではありませんが、
言い訳を続けますと、私はISO認証制度の矛盾とかハチャメチャ、ダメさ加減を言いたいがために架空の会社で架空の人物が右往左往する物語を書いているわけです。そのとき、出向前の会社でうだつが上がらなかった人物が出向してからバリバリと活躍した物語を書いても、誰も現実感を持たないでしょう。現実にありそうなシチュエーションで現実よりも少しはみ出てISOに茶々を入れるということが共感を得られる限界と思って、そういう物語にしているつもりです。
私が臆病なのかもしれませんが
そして外資社員様がご指摘された、50を超えて使いみちがない人物に捨扶持を与えるのは間違いだとおっしゃっても、現実にはそういうことはあるというか多いということも事実です。正直言いまして、それはこの物語での論点ではなく、より上位のテーマであると思います。
この物語の範疇においては下級管理者は、人事考課を含めた会社のシステム(文化や制度)をいじることはできませんからオペレーションしか裁量がありません。そういう制度下(まさにシステム)においていかに最善を尽くすか、みんなが幸せになるように運用するかということがテーマになるかと思います。
ところで以前私が勤務していた会社では、私が退職する数年前から退職金をなくして、その分を毎月の給料にプラスする選択もできるようになりました。その制度を選択した人は・・・・・・全社員数千人の中で数人だそうです。もちろん定年になったら嘱託を希望する人が多かったですね。私は、それが良いとも言いませんし、悪いとも言いません。ただ私の場合、44年特例で年金をもらうために2年間プラスアルファ働きました。外資社員様、あまり厳しく叱責しないでくださいね。
おっと私は賃金分は働いたとは自負しております。
まあそういう前提で書いてますのでお許しを・・


外資社員様からお便りを頂きました(2015.09.19)
おばQさま お相手有難うございます。

50を超えて使いみちがない人物に捨扶持を与えるのは間違い
説明不足で済みません。私はこれが間違いだと思っていません。
これが規定になっていないのが日本企業の特徴で、外資と違うと書いたつもりなのです。
企業の規定には明文化されていない事は多いです。
例えば会社資産の窃盗や設備の破壊禁止などは日本では明文化しないのは常識であり、必然が無いからですが、海外では規定する場合もあります。
つまり企業として当たり前の事は規定不要なのは同意頂けると思います。
捨て扶持の件は、終身雇用の一環ですが、この規定が無かったのは当たり前だったのと思います。
しかし経済状況が変わり、非正規雇用が導入されると、企業内の世代により格差が生まれます。
取りあえずは入口が違うという言い訳がありますが、入社が何年もたっても世代間格差が解消されません。
非正規雇用の人は捨扶持も、へたをすれば企業年金も期待できないので理不尽さを感じます。
一方で高齢の労働者の処遇を下げれば、期待された終身雇用が裏切られたと思います。
終身雇用と、一律基準は、文書化不要の暗黙の了解ならば、それでよいのです。
しかし暗黙の了解や常識が崩れれば、何らかのマネジメントが働く必要があります。
一方でISOの求める事の一つは、マネジメント・ルールの文書化と思います。
私が疑問なのは、これだけ実態と雇用規定の間に、歪があるのに、なぜ問題にならないのか不思議なのです。
いつも事ではありますが、認証会社は自分の事だから判らないのでしょうか?
外資では個別契約、毎年見直しなので、労働の内容+責任と給与には相関があり、全員が契約社員という点で見れば、非正規雇用故の不平等はありません。
どちらが良いという事ではなく、日本企業の暗黙の了解を、どのようにマネジメントするのだろうという疑問なのです。
この辺りが日本企業が気づきにくい問題が隠れている気がします。
いつもながら判りにくい文章で済みません。

外資社員様 毎度ありがとうございます。
うーん、おっしゃることはよく分ります。しかしどうしたらいいのかわかりません。
私も定期的に先輩方と会って飲んだりしているのですが、70を超えた方は私の年代の者に向かって「お前たちはかわいそうだ。俺たちの年金は死ぬまでもらえるけど、お前たちは年と共に減っていくんだ」と自慢します。その他にも早く生まれた人の方がとにかく優遇されています。
でもそんなことに文句を言えば年齢の下の方から文句を言われるでしょうね。「おばQさんたちは年金を満額もらって、毎日フィットネスクラブで泳いでいる。それに比べてワレワレワァ〜」
JALでも定年退職者の年金を減らすのに反対があって大変だったそうですが、既得権というのは恐ろしいですね。
そうなると公的年金だけにして、退職金もなしにしてその分賃金に上積みして、そのときそのときの同一労働同一賃金にしないと矛盾解消は無理のように思えます。それもまたとんでもなく困難なことだと思います。
段々とさかのぼりますが、日本の学校教育において税金の納め方、老後の蓄えとか、投資の基本ということを教えないとだめなんじゃないでしょうか。みんながそういうことを常識として持っていてはじめてマネジメントというものが行えるのではないかという気がします。
アメリカの小中学校では勉強を教える前に、アメリカ人であること、アメリカの価値観を教えることが目的であるということを読んだことがあります。事実か否かはともかく、毎年新人に驚くような現実でも仕事以前でしょう。社会人として持つべき知識、感覚、行動規範というものを教えるのはどこなんでしょうか?

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