19.11.28
ISO14001の基本というか背骨は環境側面である。そしてというべきか、だからというべきか審査における要点そしてトラブルは、環境側面に関するものが9割9分を占める。
実際のところ認証活動や審査における悲喜劇は、すべて環境側面にまつわると言って良いだろう。
環境のためにISO14001認証しようとしたはずが、環境側面に関する形式上とかどうでもいい解釈の違いによって泥沼にはまり、企業は右往左往した。
さて21世紀になって20年も経つ現在は環境側面に関わる状況はどうかといえば、状況は大きく変わった。まずトラブルが大幅に減った。理由はいくつもあるだろう。
最も大きなことは、ISO認証件数が大幅に減ってきた。それで認証機関があまり難しいことを言いうと客が減るからと審査員に指導しているだろう。いや指導している現場を見ていないが、過去にトンデモ審査をしていた審査員がおとなしくなったのを見ればそうだろうと推察する。
それから企業側が審査員の対応を学んだというか、細かいことでイチャモンが付かないように、その認証機関の過去の事例に沿っている。どうせ誰が何をしても地球温暖化なんて止めるどころかどうしようもないのだから、目の前の審査員の望む通りにすれば面倒がない。
その他、試行錯誤の時代は終わって、今は標準化されたパターンを何も考えずに粛々と処理してもトラブらないという時代になった。
おっとISO14001の2015年改定はこの変化とは無縁である。ISO規格を作る人たちは、審査における環境側面にまつわるトラブルには気が付かなかったのか、気にもしなかったのか、関わり合いになりたくなかったのだろう。
おお、本題に戻ろう。いまどきの環境側面の話であった。現在では環境側面の特定をどのようにするのが主流になっているのだろう。
アマゾン や
bookorjp で「環境側面」で検索すると、ヒットした現在入手可能な書籍は10件もない。一冊は2019年発行だが(
後述 )、その他は2017年以前である。ともかく読まないで批評はできない。それらは買ったものもあるし、買わなくても立ち読みした。その結果、具体的な環境側面の特定や著しい環境側面の決定手段について解説していない。環境側面は大事だ、重要だといいながら、こうすればよいと具体例を示したものがない。
ISO14001の解説本を書きながら、それらの著者たちは環境側面の特定・決定手法を知らないようだ。
私の知る限り過去現在を通じて環境側面について最も素晴らしい本は、システム規格社が出したものだけだ。
これには1996年版対応と2004年版対応がある。二つとも今は入手困難だ。
書名 著者 ★ 出版社★ ISBN 初版 価格
環境マネジメントシステムの 構築と認証の手引き(2004対応) 土屋 通世 システム規格社 4901476068 2004/12/17 1714円
環境マネジメントシステムの 構築と認証の手引き 土屋 通世 原田 伸夫 システム規格社 4901476025 2000/08/01 円
ともかく今手に入るものはすべてがゴミだ。
ろくな書籍がないのは分かった。ではウェブには環境側面の特定や決定方法を示すものがあるのだろうか?
「環境側面」でググってみた。(2019.11.26に実施)
ISOコンサル会社「A社」
「環境側面の具体的方法については、お問合せください」
方法を知りたくば金を出せか……きっと高度な極意を教えれくれるのだろう。しかしお金に見合ったまともなことを教えてくれるのかどうか、
ISOコンサル会社「B社」
「ISO14004というISO 14001の指針を記述した規格に詳述されていますので参照ください」
良心的なのか逃げ腰なのか、ようワカラン
とりあずそのコンサルには頼んでもだめで、規格を読めばよいことは分かった。
ISOコンサル会社「C社」
「ISO14001付属書A「利用の手引き」や「環境マネジメントシステムの原則、システム及び支援技法の一般指針」といった解説書は、この手順・方法などの構築をサポートするために用意されています。この解説書などを参考に決定していくといいでしょう」
玉虫色とも言えるが、そもそもコンサルタントも理解していないんじゃないか?
ISOコンサル会社「D社」
「無料見積もりはこちらまで」
インフォメーションイズマネーか、いや待てよ、環境側面について教えてくれるのかどうか定かではない。
ISOコンサル会社「E社」
著しい環境側面は下表のようにして決定します。
★ 環境側面★ ★ 環境影響★ ★ 法規制★ ★ 規模・量★ ★ 敏感さ★ ★ リスク評価★ a著しいa 環境 側面
発生の 可能性 @
重大さ A
評点 @×A
おお !出てきましたよ、例の評価表が!
20世紀の亡霊は今も健在なり。
ISOコンサル F氏
「詳細を知りたい方は>>こちら」
まあ、ただでは教えないわけですか。次行こう、次
ISOコンサル G氏
ここは個々の量ではなく、影響の重大性とリスクだけを掛け算 している。量を考慮しないというのは珍しい。使用量が増減しても環境側面が変らないというのは、ある意味正しいような気がする。
どっちみに古典的な手法だ。古典的あるいはオーソドックスとは良い意味の時もあるし、悪い意味の時もある。この場合は最悪ということかな…
ISOコンサル H氏
特定・決定方法は書いてません。
しかも有益な環境側面があるらしい。しかも例に上げている環境側面が、
環境会計の導入
省エネ設備の導入
環境改善活動を考慮した考課制度の創設
環境意識の高い人材の採用
売れ残りの防止
環境配慮製品の販売
これって環境側面じゃなくて、その負荷低減活動じゃないですか?
こんなこと書いているコンサルと契約しちゃいけません。間違いを教えられるだけだ。
しかしここまで間違えると、むしろすがすがしい
某政令指定都市の環境側面を選んだ説明
ここも例の表を示している。「計算して点数の上位を決定しました」
私がそこの住民なら近所の市会議員を動かして認証を取りやめさせますよ。ISOゴッコするだけなら、税金の無駄使いです。
某Q&Aサイトにおける質問と回答
ISO14001に関するQ&Aは過去よりたくさんあるが、環境側面の決定方法についてのQ&Aはたった1件だけ見つかった。
質問者・回答者のやり取りを見ていると「決定」の意味を取り違えているようだ。
determineを一般的な単なる決定と訳したのは良かったのか悪かったのか、悪かったようだ(後述 )
EIC-NET という環境のウェブサイトがあり、そこにもQ&Aがある。環境側面の把握方法について何か手掛かりがないだろうか?
過去のQ&Aの蓄積が11,350件あり、それを環境側面でググると92件がヒットした。それらの内容を読み、環境側面の特定及び著しいものの決定方法が記載してあるかをチェックした。
なんと92件中環境側面を把握する方法を論じているのは、たった3件しかない。面白いことにそれぞれだいぶ時間が隔たっている。
それをみると……
2003年のもの 重・量リスク点数法
2007年のもの 詳細な資料を基に会議で決める
2015年のもの 法規制と事故に関わるのを取り上げれば良い
数多くQ&Aがあるのにたった3件しか方法を具体的に記述したものがないということは、大多数の人は環境側面の特定・決定手法は自明のことなのだろうか?
しかしたった3件しかないにもかかわらず2003年は点数法であり、2007年は会議になり、2015年前は遵法と汚染に関わるものと全く異なる。だがその変化の方向は、確実に進歩していると感じる。そして最終的に本来のISO14001の意図である遵法と汚染の予防にぴったりとマッチしているのに驚く(笑)。世の中は捨てたもんじゃない。
書籍やウェブサイトで見かけたことと傾向が違うのはなんでだろう? EICネットに集う人たちは真剣に考えているということか?
とはいえ、たった3件ということは … 世の中そんなものなのか?
ここまできて分かったことはある。
環境側面を把握する正しい方法は、誰も言明していないということだ。
正しい方法以前に、ISO規格は正しく理解されているのか?
ISO14001:2015における環境側面についての文言は下記の通りである。:
組織は,環境マネジメントシステムの定められた適用範囲の中で,ライフサイクルの視点を考慮し,組織の活動,製品及びサービスについて,組織が管理できる環境側面及び組織が影響を及ぼすことができる環境側面,並びにそれらに伴う環境影響を決定しなければならない。
重要なのは「決定しなければならない」である。
「決定する」 とはどんな意味だろうか?
日本語の「決定する」を知ろうと広辞苑で調べても意味はない。日本語で「決定する」と翻訳された「determine」の意味を調べなければならない。
私が今までにこのサイトのあちこちに書き散らかしている以下のものも参考にしていただけると幸いです。いや、こちらを読んでいただかないと理解不能のはずです。
翻訳の問題
環境側面が計算ではいけないわけ
環境側面はいまだ誤訳なり
これが一番詳しいと思うのでここに引用しておく。
そもそも
「決定しなければならない」 に対応する原語は
「determine」 である。これは日常使われる日本語の「決定する」とはだいぶ趣が異なる。
「determine」を英英辞典ではどのように説明しているのか?
ロングマン英英辞典(紫字は英英辞典・黒字は私の訳)
1
to find out the facts about something [= establish]:
ex. Investigators are still trying to determine the cause of the fire.
「調査員はまだ火災原因を特定しようとしている」
ex. The aim of the inquiry was to determine what had caused the accident.
「調査目的は事故原因を究明するためです」
2
if something determines something else, it directly influences or decides it:
ex. The amount of available water determines the number of houses that can be built.
「利用可能な水の量がそこに建てることできる家の数を決定する」
いずれの文例でも
「調査した結果なにかが分る」 あるいは
「制約条件によってなにかが決まる」 という意味で用いている。その判定には人間の意思、恣意、思惑が介在することはない。この「determine」の意味を表すには「決定する」は不適ではないか。
ところで決定するといっても、私の知っている英単語では「determine」と「decide」がある。
このふたつは意味が違うのか、どんなふうに違うのか?
違いを示す例文を見つけた。
Decide is to choose or make a decision. Determine means to figure something out.
「decisionは何かを決定すること、determineは問題を解決すること」(私訳)
つまり「decide」は目的や状況を考慮して「決めること」であり、他方
「determine」は「なんらかの課題を解決すること」 なのです。その結論は個人的見解ではなく客観的証拠にもとづいて必然的に導き出される。
環境側面をどうこう論じる前に、日本語訳の文章は本来の意味を伝えていないのだからダメです。
これを書いてから既に4年になるが、私以外にdetermineとか決定するについての解説やアイデアを見たことがない。
TOEIC600点代半ばの私が語るのはおこがましい。ぜひともこの文章の正訳を出してもらいたいと願う。
21世紀も20年も過ぎた今でも、環境側面の特定も著しい環境側面の決定も、決定版がないということは誰もわからないということなのか?
「ここからは有料です」と語るコンサルが知っているとも思えない。それともそう語るコンサルは真理を悟ったのであろうか?
ともかく今回いろいろ調べた結果としては、私がすばらしいと思えたものはなかったということだ。そして怪しげというか間違ったものを推奨している人が複数いるということだ。更に言えば、その怪しげなものにツッコミを入れる人がいないということも問題である。
私は長いことISOに関わってきた。そして環境側面については1994年頃のドラフトから眺めていた。そんな私の変遷を書くと……
期 間 私の場合
1994-1997 : なにもわかりません、とりあえずお勉強
1998-2000 : 計算方式は絶対に間違いだ、だけど審査員が納得しない、困った
2002-2008 : 環境側面は難しく考えることはない、要するに要管理項目だ
2009-2012 : 環境側面を把握するとか決定するというのは間違いだ。
それはありてあるもの、昔からしている新設備導入や新物質導入時の審査そのものじゃないか
2012以降 : 引退してからは悠々自適、仕事をせずに遊んでいる。
気が向いたときはネットとか書籍をみて、ISOの興隆を…いや没落を眺めている。
ISO14001の骨である環境側面さえまともな訳でなければ、企業も審査も彷徨うだろう。そしてさすらいの先に天国があることはまずなく、荒野か船の墓場にたどり着くのがオヤクソク。
幸運を祈る ボンボヤージュ
本日の気持ち
毎晩、パソコンを叩いてネットを漁っているなんて、なんて哀れな人生でしょう…
そんなこと言わないでくださいな。義務としてこんなことを考えているなら苦痛でしょう。でも好奇心もありますが、それだけでなくISO認証制度とか運用を良くしたいという気持ちがあって、調べたりまとめたりするとこんなに面白いことはない。そしてお金もかからない。
ツッコミとか異議があればもっと楽しい、お便り待ってます 💗
本日の暴露話
この駄文を書いていて、最後に確認とgoogleで再度検索したら、なんと11月に「図解即戦力 ISO 14001の規格と審査がこれ1冊でしっかりわかる教科書」というのが出版されていた。当然これは読んでいない。読まなければこの文をアップするわけにはいかない。
困ったぞ。
最初に頭に浮かんだのは八重洲ブックセンターまで行って立ち読みすることだが、往復の電車賃が1,300円もかかる。近くの津田沼の丸善には確実にあるとは思えない。さてどうしよう。
考えた末 税込み2,200円なら買った方が確実かとアマゾンに注文した。そして翌日届いた本を、ものすごい集中力(?)で読んでこの文を仕上げたのです。
おっと、前項で「お金もかからない」と書いたのは事実と違いますね、
買った甲斐はあったかですか?
パラパラと見ただけで、金返せと言いたいしろものでしたよ …… けど、新規な情報に価値があると同様に、何も新しいことがなかったという情報にも価値があるのです …… そう思わないと悲しい(涙目)
いやいや、この本をネタにいろいろと書きますよ。2200円も出したのですからしゃぶりつくさないとね、この場合は非難しまくりか
12/02追加:この本の読書感想文を書きました 。
あきたいわん様からお便りを頂きました(2019.11.28)
懐かしいお顔が
楽しく記事を拝読させていただいております。
物語の新作をお待ちしています。
今日の記事の最後のお札に「懐かしいお顔」が、ありましたので、思わずコメントしています。
そして、くどいですが、次回作への挑戦に期待しております。
寒くなってきました。体調管理には、ご留意ください。
あきたいわん様 毎度ありがとうございます。
私は貧乏でケチでございます。一応このウェブサイトのサーバーは有料でして、突然なくなりましたなんてこともなく、また目障りなバナーなどが表示されることもありません。
その代わりデータが大きくなりますと、サーバーの使用料がアップするのでございます。毎年書き加えていますのでどんどんとボリュームが増えちゃいます。
テキストデータと画像のデータの比は35:65で、絵が増えるとお財布に厳しいのです。
そんなわけで、なるべく絵は使いまわしして増やさないように努めています。
ということで昔の顔でお許しください。
次回作と言われましてもネタ切れでアイデアがありません。あきたいわん様が、設定とかあらすじをご指定されればそれに沿って書きましょう。実を言いまして、過去の作品は同志である外資社員様とかぶらっくたいがぁ様、名古屋鶏様などからの希望と茶々によって書いてきました。もちろん文責は私にあります。
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