4.5.2 順守評価 2 2007.09.15
私がISO規格について真正面から書いたものが少なく、本当は規格や法律を知らないのではないかという不安あるいは不審を抱かれた方もいらっしゃるのではないか? だが心配はご無用である。私は日常の仕事がISO審査のような甘っちょろくのどかなものではなく、真剣勝負、食うか食われるかというせめぎあいであるので、このホームページでは息抜きにおバカなことを書いているに過ぎない。でも今日はたまにはまじめなことを書こうと思う。

ある日、ある会社に監査に行って、環境関連の法規制の遵守状況を見たい、そのあと順守評価について点検させてもらいますといった。すると、先方、「法規制を守っているのをチェックするのと、遵守評価のチェックって同じでないのですか?」という。
もうこれを聞いただけでガックリ来てしまった。この会社もISO14001の認証をしているのはもちろんである。こんな理解で認証しているということは、審査に来た審査員の力量を2時間ばかり問い詰めたいところだ。
私はISO審査員ではない。某社に雇われている環境遵法専門の監査員である。ISO規格で定める内部監査とは違い、ISO規格とは無関係でひたすら法順守をチェックするのが仕事である。
数年前、中堅の審査機関から審査員に来ませんかといわれたこともあるが、待遇(賃金でなく60歳以降の雇用)の面で希望にあわず辞退したことがある。

話は変わる。
最近、公害のデータを改ざんしていたなんて話が多い。製鉄会社、製紙会社、その他大勢・・・
筋書きは大体決まっていて、公害防止担当者が測定データに異常があっても問題がないように規制値内に数値を書き換えたとか、上司や行政への報告では生データそのままでなく規制以内の数値を書いていたということのようである。

いつも思うのだが、収賄や横領ならことの善悪はともかく、己の利益になり一時であろうと楽しい思いができるだろうが、このような改ざん行為で担当者はいかなる利益も得ることができない。会社ぐるみなら操業継続とか費用削減という利益があるだろうが、これら違法行為が見つかったいずれのケースでも会社(法人)は起訴されず、担当者のみが起訴され、ほぼ半数は有罪となっている。
数年前、マニフェスト票を業者に書かせていた担当者が逮捕されたことがある。(結局、不起訴となった)このようなことをしてもなんのメリットもない。せいぜい自分が楽になる程度である。といってもいまどきほとんどの業者がマニフェスト票をプリントアウトして持ってきてくれるので、実際には自分の名前をサインするか押印するだけのことだ。そんな自分の利益にも金にもならない違反をして刑事罰を受けるのは割に合わないのではないかと思うのは私だけではあるまい。

オオット、本日のテーマは、環境犯罪についての哲学的考察ではない。
そのような公害データを改ざん(書き換え)した会社はすべてISO14001認証していた。
ISO規格では順守評価を要求しており、それを満たしていないと認証しないのは当然である。
ならば、この会社(複数)ではいったいどのような順守評価をしていたのか? そしてISO審査では順守評価を見ていたのか? ということを考えたいと思う。
ISO規格はPDCAといわれるが、改善活動のPDCAだけでなく、なすべき業務が論理的につながりをもって定めてある。そのへんに大量に転がっている間違いだらけのISO解説本を読まずに、畳の上に転がってISO規格を読んでいた方が理解が進むことを保証する。この金もかからない、手間もかからない方法を私は実践し人にもお勧めしているのだが、世の中にはISOをだしにして食べようという輩が多く、つまらない本が次々に出され、ISOの道に迷う衆生は大金をどぶに捨てている。
話を戻す、
4.3.2では組織(自社)に係る法規制を良く調べなさいといっている。
4.4.1では環境マネジメントシステムを実施するために必要なリソース(人など)を用意しろとある
4.4.2では著しい環境影響の原因となる作業をする人には力量を持たせなさい
4.4.6では法規制を守るために文書作成が必要か否かを考えて必要なら文書にしなさいとある
そして4.5.2では法規制の順守を定期的にチェックしなさいよと書いてある。
このように文章通りに規格を読めば逃げようがない。
法律を知りませんでしたなどといえば、4.3.2を満たしていない。
人が足りないんですなんていえば、4.4.1を満たしていない。
手順を決めてませんでしたといえば4.4.6が待ち構えている。 
いくら教えても覚えてくれませんなんてのは通用しない。4.4.2では教育しろといっていない(要注意)ここでは力量を持たせなさいと言っている。単に教えることではなく、覚えさせることなのだ。もし、教えてもダメならもちっといい人を採用するとかしなければならないのだ。
まあともかくそういったふうに逃げ道なしのがんじがらめなのである。

そしてさらなる疑問であるが、この4.5.2の順守評価はいかがであろうか?
公害防止のために法律で定める排水や大気のデータを測定していたとする。
測定結果が基準をはずれていたばあい、担当者が操業を止めてはいけないと考えて黙っていて、報告書には問題ないと書いたとする。(報道された多くの事例はそうである)
さて、この会社もISO認証していたのだから順守評価をしているはずだ。順守評価をしていなければISO認証取り消しになる。
いったい誰がいつどのような方法で順守評価を行っているのだろうか?
素人考えであるが、順守評価でこの不適切な行為を見つけることができなければそれは順守評価に値しないのではないか?
「法律に詳しいのはその担当者だけなんです。」なんて声が聞こえそうだ。そうかもしれないと多少は同情はする。
しかしそれもまたおかしい。4.4.2で求めている力量は担当者だけでなく、順守評価を行う人に対しても適用される。順守評価を行う人は法規制と社内の仕組みを知り、法規制を守っているかを適正に判断できなければ4.4.2に不適合である。
「隠そうと思えばどうにでもなる」「気付かなかったのさ」そんな声も聞こえる。
そうか! じゃあ、今回改ざん問題が見つかったのは不思議なことですねと応えるしかない。見る人が見れば見つかるものを、見つけないというのは不思議である。
「順守評価で異常を発見したが黙認したに違いない」というかもしれない。それなら事後従犯という違法行為として順守評価を行った人も起訴されるはずだ。ところが報道を見る限りそうではない。

しかし、誤解ないように
私は上記の論理から、ISO認証の有効性に疑問を持つのであるが、ISO規格がいかに精緻であるかということに改めて感じ入るのである。
みなさん、ISO規格をよく読みましょう。そしてそれを自組織にいかに実現するかを良く考えましょう。それがISOの本質です。ISO認証(審査登録)なんてどうでもいいことなのです。


本日の疑問

 違反が問われた会社で、
 内部監査員がいかなる査問を受けたのか?
 順守評価を担当した者がいかなる処置を受けたのか?
 ISO審査員がどのような調査を受けたのか?
 報道されたとは聞きませんが、非常に関心があります。

本日はがんばってまじめを貫こうとしましたが、この文章を書くのにかかった35分間、何とか真面目さはもったようです。私は会社では毎日10時間以上働いていますが、それほど長時間は真面目さが長続きしないようです。 




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