草戸千軒
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発掘調査の概要


発掘調査の状況

 調査の進め方

 遺跡は、河川改修工事によって芦田川の中州として残された部分を中心に存在しています。遺跡の範囲は、中州の外側へも広がっていますが、川の流れによって削り取られてしまった部分も少なくありません。また、堤防の外側には市街地が広がっていて、その範囲は完全には確認できていません。しかし、周辺の地形や、明らかになった遺構からは、中州部分がほぼ町の中心部に重なっていることが予想されます。

 発掘調査は、芦田川中州を中心とする約67,000平方メートルを対象に実施されました。これをさらに49個の小さな調査区に分割し、1961年から1994年にかけて調査しました。

 遺跡は川の中にあったため、発掘調査はとにかく水との闘いでした。遺跡の大部分は現在の水面よりも低いところにある上に、地下水位も高いため、わき出してくる水をコントロールするのが一仕事でした。また、大雨の時には調査区が完全に水中に沈んでしまい、調査機材を流されたりすることもしばしば経験しました。雨上がりの調査区は巨大なプールとなり、排水・清掃して元の状態に戻すのには1〜2週間ほどかかりました。こうした困難な調査でしたが、多くの方々のご協力により、中州部分の調査は1994年に終了することができました。

 発掘で明らかになったこと

 発掘調査によって、草戸千軒の集落に関係するさまざまな施設と、そこで使われた多様な生活用具が明らかになりました。たとえば、井戸や建物、柵や溝、池やごみ捨て穴などの跡が発見され、町並みの様子が明らかになりました。また、そこで使われたさまざまな道具の出土によって、この集落での生活の様子が復原できるようになりました。こうした、中世の民衆生活の実体を示す資料は、それまでの歴史研究ではほとんど明らかになっていなかったもので、多くの人々から注目されることになりました。

 出土遺物の量は膨大なもので、すべての資料の分析は未だ終了していません。整理が一段落し、点数が把握できるものだけでも50万点以上に及んでいます。

 この遺跡の特徴の一つは、地下水の豊富な場所にあったため、木製品や繊維製品といった有機質の遺物が非常に良好な状態で保存されていたことです。調査の進行という面では水に悩まされましたが、そのおかげで、中世民衆の生活の実態を示す多くの情報が保存されることにもなったのです。

 その他に、焼き物をはじめとする数多くの生活用具が出土しましたが、それらが「草戸千軒」の町の周辺からだけもたらされていたのではなく、日本列島各地、されには東アジア一帯からもたらされた製品も数多くあったことが明らかになりました。このことは、私たちが想像していた以上に、流通活動が活発に行われていたことを示しています。

 これらの出土資料によって、この集落は13世紀中葉に成立し、16世紀初頭に衰退した集落だということがわかりました。出土遺物の中には木簡と呼ばれる文字の記された木札が数多く含まれており、それを解読することによって、この集落の中に商取引や金融業を営む人物が存在し、福山湾岸や芦田川下流域の経済拠点だったことが明らかになりました。この他にも、鍛冶の道具、漆塗りの道具、大工道具なども出土しており、手工業に携わる職人たちの存在も確認できます。また、船着き場と考えられる場所も発見されていることから、港としての機能もあったようです。したがって、この集落は「市」「港」としての性格を併せもつ町だったと言えるでしょう。

 農業以外の生業に関係した人々の活動の様子は、従来の文字に書かれた記録を中心とした研究ではなかなか明らかにできませんでした。しかし、草戸千軒町遺跡の発掘調査をきっかけに、非農業民の活動が中世社会で大きな役割を果たしていたことがわかってきました。そして、それまでの農業を中心とした中世社会の見方は大きく変えられることになり、漁業・商業・工業・輸送業・金融業など、さまざまな活動に従事した人々の実像にも関心が向けられていくことになったのです。

 現在の中州

 発掘調査が終了し、中州は輪郭を残して大部分が掘削されています。河川の中という保存の極めて難しい場所にあったため、遺跡を現地に保存することはできませんでしたが、遺跡の出土資料をもとに1989年には広島県立歴史博物館が開館し、草戸千軒の町並みの一角が、実物大で復原されています。数十万点を超える出土資料は博物館で保管され、引き続き研究が進められています。

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suzuki-y@mars.dti.ne.jp
1996-1998, Yasuyuki SUZUKI & Hiroshima Prefectural Museum of History, Fukuyama, Japan.
Last updated: June 10, 1998.