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三井住友! 絶対的エースの存在にくわえて選手層の厚さ!
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(2008.11.04) |
まずは「驚き」の番外編から
驚きと落胆が相半ば……。
端的にいえばまさにそういう印象が強いレースであった。
同じ埼玉開催ながら今回からコースが変わった。区間距離も大筋ではそれほどかわらないのだが、微妙に手直しされている。以前なら5区が最長区間だったが、今回からは5区と3区がいれかわるかたちで、3区が最長区間になった。
さらに外国人の起用に制限がくわえられるようになった。まずは1チームひとりとなった。参加資格はつぎのようになっている。「毎年4月1日以降大会当日までに日本国内の事業所に180日以上勤務し、かつ駅伝大会参加申し込み時に勤務日数を確認するパスポートの提出をしなければ駅伝大会に出場することが出来ない」
さらに走行区間に制限がもうけられた。女子の場合は2区と4区に限定するというのである。2区といえば3.15q、4区は4qで、全コースをみわたして最短の区間である。ようするにケニアからやってきた外国人には、第1区はおろか、エース区間といわれる3区や4区は走らせないというのである。男子の場合も同様に3区と5区に限定してしまったのである。
国際化の時代にいったい何をかんがえているのだろうか?
外人特区をもうけて外国人ランナーをそこに押し込めてしまったのだ。いわゆる居留地をもうけてしまったのだからヒドイ話しではないか。
北京オリンピックの結果をみるまでもなく、日本の長距離はおおきく地盤沈下していることあきらかである。
強い外国人とともに競い合ってこそ、強くなれるというのに、これではまるで逆行である。外国人特区をつくって外国人同士を競い合わせる。これでは外国人をうけいれる意味がまったくないといわねばならない。
なぜなのか? テレビで日本人選手がトップ争いをする外国人選手の後ろでチョロチョロは走るのをみたくない。カッコわるい……というのだったら本末顛倒だといわねばならぬ。
驚き……というより、落胆したというか、あきれかえってしまった。
3区の「主」というべきか! またしても渋井陽子が決めた!
驚きの第2は三井住友海上の9年連続9連覇である。女子選手の寿命がみじかい。消長のはげしいなかで9連覇というのはまさに驚異的である。
歴史をふりかえると、三井住友海上の連覇の原動力になっているのは渋井陽子であることがわかる。
2000年からはじまる三井住友海上の快進撃は渋井陽子から始まったといってもいい。事実、彼女は2004年(6区)をのぞいてすべてエース区間の3区を走って爆走、みずからチーム優勝の道筋をしっかりつくっている。
しかも9回のうち区間賞を7回もとっているから驚きである。区間賞をのがしたのは2005年(赤羽有紀子)と2007年(O・フィレス)のわずか2回だけである。それでも優勝の足がかりは彼女がつくっているのだから、文句なしに9連覇の最高殊勲者だといえる。
駅伝になると渋井は無類の強さを発揮することは、過去なんども、この時評でのべたとおりである。自分のまえにランナーがいれば、最初からガンガンと突っ込んでゆく闘争心のすさまじさ、まさに駅伝のために生まれてきたようなランナーである。現在の日本選手をみわたして、福士加代子と双璧をなす存在だといっていい。さらにホクレンの赤羽有紀子をくわえて「赤・福・渋」トリオとでもいおうか。
今回も渋井は爆走した。10qから11.95qにのびた3区に登場した渋井は3位でタスキをもらった。前をゆくトップの豊田自動織機の永田あやとは19秒差、2位アルゼ那須川瑞恵までは16秒……。
1qで永田と那須川が並走、背後から渋井が2q=6:02秒、3q=9:13という超ハイペースで追ってくる。後方からは赤羽有希子が2.2qで5人抜きで5位まであがってくる。だが今回の渋井はまるでよせつけなかった。
3.5qではトップグループの2人にあっさり追いついてしまうのである。5q=15:33とペースはまるで落ちない。7qでは那須川と永田を100mも離してしまった。
後ろからは赤羽有紀子もやってくる。第一生命をぬいて4位まであがってくるのだが、今回の渋井ははるか先をいっている。中継所ではなんと2位のアルゼに1分12秒の大差をつけ、もはや後続からは背中がみえないほど先に行ってしまったのである。
それにしても日本人のトップランナーが集結する第3区にどうして外国人ランナーを走らせないのか。競り合えばさらに記録はのびるだろうに……。
それはともかく、かくして三井住友海上は3区で早々と優勝をきめてしまったのである。
小出門下の新興勢力が前半をひっぱる
渋井陽子と赤羽有紀子……。日本の女子長距離界をひっぱるオリンピックランナーの2人が出場することが目玉の本大会、第1区は6.795qと少し距離が伸びて、6区間のうち3番目にながい距離の区間になった。
駅伝はスタートがひとつのポイントになるから、各チームはここに主力をなす準エース級の選手を投入してくる。
1区の出だしは1q=3:10、2q6:24ぐらいというから、それほどペースは速くはない。2qを過ぎてもトップは集団をなし、およそ7チーム(豊田自動織機、アルゼ、三井住友、積水化学、ホクレン、アコム、パナソニック、資生堂などがダンゴ状態ですすみ、4qをすぎて、豊田自動織機の新谷仁美が先頭に立ち、5qあたりからはアルゼの堀江知佳人も出てきて、2人がぬけだすかたちになる。後につづくのは「しまむら」と三井住友海上……。
新谷と堀江という小出門下のふたりが最後まで競り合ったが、6.3qで新谷がスパート、そのまま押しきった。2位にはしまむらの小原悠、3位はアルゼの堀江知佳、そして三井住友海上の山下郁代は11秒おくれの4位につけた。資生堂の五十嵐綾は13秒おくれの6位につけたが、第一生命の安藤美由記は20秒おくれの8位、ホクレンの山下沙織は26秒差の9位と出遅れた
2区は外人特区である。有力外人がここに顔をそろえた。トップをゆく豊田自動織機のW・ゲバソをアルゼのJ・モンビが追っかける展開……。モンビが少しづつ追いあげてくるが、豊田自動織機のトップはゆるがず、3秒差までにとどまった。3位は19秒差で三井住友海上の高吉理恵、外人2人の競り合いのあおりをくって秒差をすこしひろげられたが3位にふんばった。ここで4位に第一生命があがってきて、5位にはアコムがつけた。
トップ争いをする豊田自動織機、アルゼといいアコムといい、新興勢力の健闘がきわだつ展開となった。
そして……。渋井の登場する3区がはじまるのである。
復活! リベンジを果たした脇田茜
4区以降はまるで三井住友の独り旅である。15チームのうち12チームまでが本戦出場果たすのだから、ボーダー争いもそれほど熾烈とはいえない。観戦者としてはいささか気のぬけてしまう展開であった。
今回、注目すべきは、やはり豊田自動織機とアルゼの勢いの良さだろう。資生堂、第一生命、ホクレンなどの伝統チームが中位で低迷するなかで、4区でも5区でも6区でも2位、3位をはげしく競りあっていた。
4区ではアルゼが先んじたが、5区ではアルゼの佐伯由香里と豊田自動車の脇田茜がはげしくせめぎあっていた。脇田は名うてのスピードランナーである。昨年、3区のエース区間に出てきたが、足の故障が再発したのか、足をひきずりながら、いかにも苦しそうに走っていた。現場にいて、あえぐながらの苦悩の走りを目の当たりにしている。
そういう意味で、とくに気にかかっていたが、今回はみちがえるように復活を果たした。9qで脇田はスパートをかけると追いすがるアルゼの佐伯をふりきって2位で中継所にとびこんでいった。
5区をおわったところで、アコムが7位と健闘、スターツも9位と圏内につけていたが、積水化学は13位、ヤマダ電機は14位と苦しい展開、最終的にはこの2チームが落選となってしまうのである。
全国大会での相手はワコールか、天満屋か?
三井住友海上の9連覇、勝つべくして勝った感あり……だが、渋井という絶対的なエースの存在にくわえて、選手層の厚さはがおおきいだろう。今回も4区には新人の江藤佑香り子をつかってきたが、さすがに天下の三井海上できたえれたせいだろう。繋ぎの区間だが落ち着いた走りでしっかりとタスキをつないだ。
現状の戦力の比較において、全国大会でも連覇はまちがいなかろう。関東での勝負づけはついているから相手は中部、関西、中国のチームになる。
関西の淡路駅伝ではワコールが1分ぐらい後続をちぎって優勝。天満屋は4位、京セラは6位に甘んじている。天満屋、京セラはともに全国大会では実績あるチームだが、いまひといきの感がある。
勢いからみるとワコールが驚異になりそうである。福士加代子にくわえて湯田友美もいて、樋口紀子など新しい戦力も加わっている。6人のうち4人までが区間賞をとっての圧勝である。三井住友海上をあびやかす存在といえば、このワコールになるのだろうが、現状ではまだまだとどかないとみたが……。
三井海上につづいて今回上位をにぎあわせたのは豊田自動織機とアルゼの2チームである。2〜3年まえから注目されていたが、ようやくにしてチームとしてのまとまりが本格化してきたようである。とくに豊田自動織機は今回、1区の新谷仁美、6区の宮崎翔子が区間賞を獲得するなど若い力が育ってきている。アルゼとともに全国大会でもそこそこ期待できそうである。
第一生命、ホクレン、資生堂という常連チームは4位〜6位に甘んじたが、予選という位置づけのせいか、それとも、いくぶんチーム力が低下しているせいなのか、はっきりと見きわめがつかないが、伝統チームだけに本戦でチームをどのように建て直してくるのか。注目してみまもりたい。
待望! 将来がみえるどデカイ新人の登場
落胆の第2は世界で戦えるような新しい選手がみつからなかったことである。
たとえば9年まえからエースとして君臨している渋井陽子がまだ威張れる存在をキープしていることである。赤羽有紀子にもおなじことがいえる。
渋井は16日の東京国際女子マラソンをめざしている。赤羽有紀子は来年1月の大阪国際マラソンで初めてのマラソンにいどむ。
ともにオリンピック選手であり、日本を代表する選手である。最近はマラソンでそれほどの実績がない渋井には、ぜひとも一皮むけてほしい。赤羽にはママさん選手のパイオニアとして、みごとな活躍ぶりである。ますますひかりかがやいてほしい。初マラソンで衆目を「あッ」といわせてほしいとおもっている。
しかし……である。
たしかに日本のトップだが、いつまでも2人だけが目立つ存在ではこまるのである。北京で惨敗した2人である。「あなたたちの時代はもう終わったのよ」と大言壮語を吐いて、現実に走りで実証してみせる若い力が台頭してきてもいい時期なのである。
かつて高橋尚子のあとには、ちゃんと野口みづきが出てきていた。ところが……、最近はとみに世界で戦えるようなスケールのデカい若い選手がさっぱりみあたらない。新人がいないわけだではないが、なんだかこじんまり、まとまってしまっている。
荒削りだが磨けば、とてつもなく輝く宝石になる。そんなケタ外れの若い素材がどこかにいないものなのか。そういう意味で「落胆した」のであり、「さみしい」のである。
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