ブルータス、お前もか

11.07.24
シーザーは暗殺されるとき、襲った者の中にシーザーがかわいがっていたブルータスの姿を見て、「ブルータス、お前もか」と叫んだという。いや、そうじゃない、そりゃ後世のシェイクスピアの作り話だよという説もある。そんなことはどうでもよい。(よくないという声ありけり)このウェブサイトは高尚な文学とか深遠な歴史とは無縁であり、どんなきっかけからでもISOにまつわる駄文を書くだけです。アイ、スミマセン
私は故事成語や昔のできごとを知っているほうだと思う。私はそんなことを勉強したこともないし、まして学校で習ったこともない。私のオヤジは尋常小学校しか出ていなかったが、そういった雑学が大好きでいろいろな本を読んでいた。そして私が小さいときは、父は読んだことを私に話して聞かせくれたし、私が字が読めるようになると親父の本を盗み読みしていた。もちろん中にはエッチな本もあった。
「ブルータス、お前もか」とか「私は義務を果たした」とか「塞翁が馬」のお話とかそういったことはそんな風にして覚えた。父に感謝

環境経営を推進するにはしっかりとした環境マネジメントシステムを構築して、それを基に進めていくのだということになっている。いったい環境マネジメントシステムってなんだ?という人のために具体的な要求事項を示したものがISO14001だという。 面白いことにISO14001の序文では「この規格の採用が最適な環境上の成果を保証するわけではない」としっかりした環境マネジメントシステムを構築すればよいパフォーマンスが得られるとは限らないと否定している。
不思議なこともあるものだ。 笑
まあ、環境マネジメントシステムというものは概念であることは間違いなく、それを具現化して見せたものがISO14001であることは間違いない。
ところが「ISO14001はハードルが高くて難しいのよ」、「お値段が高くて大変なんだわ」、そんな声は前世紀からあり、それを改善すべくというか、ニッチ市場をみつけた目鼻の聞く人たちは、KES、エコアクション21、エコステージその他もろもろの環境マネジメントシステムを創作した。そしてそれを基にした認証ビジネスに漕ぎ出した。 それらは俗にレスISOとか簡易EMSとか呼ばれる。ひどい人は似非ISOなんてもいう。
もちろん、ISO認証制度側だって、指をくわえて見ているわけはなく、ISO14005なるものを制定して、安価EMS認証ビジネスに乗り出した。ISO14005はそもそも認証規格ではないとISOは語っていたが、国内大手のJQAとJACOの2社は認証を始めた。
普通車のメーカーだって軽が売れれば軽に乗り出すのは当然だ。 現在、乗用車市場は3ナンバー、5ナンバー、軽が三等分している。

ISO14001があって、その代用品としてさまざまな環境マネジメントシステム規格が存在するが、なぜISO9001に代用品が存在しないのかという疑問をお持ちだろうか?
実はWTO TBT協定というものがあって、国際規格があるものは国内で類似の国家規格(JIS)を作っちゃいけないというルールがあるのだそうです。じゃあ、ISO9001にはなくて、ISO14001にはあっていいのかということになるのですが、民間規格だからよろしいらしい。だからエクセレントEMSなどというものを作ろうとするのはTBT協定違反になると思われる。
実は何年も前だが、エクセレントEMSを作ろうと語っていた方(有名な人です)に、TBT協定との関わりを質問したことがある。その方はTBT協定を知らなかった。
おっと、ISO14001の簡易版とISO9001の簡易版の違いであるが、環境なら人に迷惑をかけないから好きにしてもよいが、品質においては、商取引において意味を持たないからではないだろうか?

話がいったりきたりする。とはいえ、このウェブサイトで論理を学ぼうとか、真理を追究しようとする人がいないことは間違いない。品質保証に関わっていた老人の妄想を語っているだけで、それが面白くてご訪問されているに違いない。

ISO認証制度にかげりが見えたというより、私には認証制度継続の危機にあるように思える。ISO9001の認証減少は2007年に始まり、2011年夏現在、最盛期の15%減である。ISO14001は2009年から減少し始め、2011年夏現在、最盛期の3%減である。
なぜ認証件数が減っているのだろうか?
諸説ある。
まずスイスにあるISOが毎年発表している「ISO Survey」というレポートの各国のISO認証件数が、JAB公表の認証件数より3割くらい多いので、その差がJABに認定されていない認証機関によるもので、実際にはISO認証件数は減っていないという論もある。

2年くらい前だろうか、あるISO関係者からエコアクション21がものすごく伸びている。まもなくISO14001認証件数を抜くのではないかというようなことを聞いた。確かにISO14001を認証するのは環境経営を推進するためであろうが、環境経営を推進するためにはISO14001を認証しなければならないということもない。社長が環境に配慮した経営をしようと心に誓うこともあるだろうし、環境担当者が環境管理をしっかりやろうと思うことでも環境経営は可能だ。
笑ってはいけない。
ISO14001の序文ではそういうことでは長続きしないからシステムを作ることが必要ですと書いてある。マネジメントシステムがなくても環境経営は可能である。
その方はISO14001が減ったのはエコアクション21に食われたせいだと語った。エコステージに食われたとは言わなかった。そう言ってはうそっぽい。
ISO14001がエコアクションに食われたのか、そうでないのか、私はわからないが、当時はその話は真実味を持っていた。

確かに高価なものがあれば代用品に一定の需要があるのは歴史が証明している。高価なダイヤが買えなければガラス玉でもしょうがないし、フェラーリが買えなければRX4でもしょうがない。藤原紀香と結婚できなければ・・とか、そういや昔そんなことを書いたっけ、

ISO14001に手が届かなくちゃエコアクション21でいいか、エコステージで我慢するかということは不思議でもない。 では、今現在、エコアクション21などの簡易EMSはじゃんじゃん繁盛しているのだろうか?
実は、そうではない。
エコアクション21の登録は2011年現在、勢いは息切れしたようだ。エコステージにいたっては既に息切れで足が止まっている。もちろんまだ両者とも増加している。しかし私はまもなく増加はとまり、エコステージは2012年から、エコアクションは2013年から減少に移るだろうと思っている。
お金をかけるほど自信はないが、
おっと、ISO14005を忘れていた、語るまでない、もうだめです。終わっています。
JQAとJACOが名乗りを上げたが、JQAは現時点認証をしていないようだし、JACOで公表したのは数件だったはず。

じゃあ、なぜこれら簡易EMSが伸びないのか?
思い当たることがひとつある、それはISO認証が低価格になったからだろうと思う。
ISO14001認証の平均価格は、2001年には187万円だった。2006年には82万になった。2011年の現在は正価で50万くらいではないだろうか?
これについてはISOライフサイクル2で述べた。
実際の実売価格は認証機関による違いもあるだろうし、どうしてもというときは戦略価格もあるだろうから、20万とか30万になっていてもおかしくない。(情報をお持ちの方、教えてください)

振り返ってみれば簡易EMSなるものは、ISOが高かったから発祥したのだ。ISOが安くなればニッチ市場はなくなる。 エッ、ISO14001はハードルが高いといったじゃないかって?
これについてはまた諸説があるが、そもそもISO14001の要求水準はエコアクション21とかエコステージレベルであって、日本の認証機関が語っていたことは過剰であったという説もある。あるいは、この認証戦国時代に浮世離れしたことを語っていては寝首をかかれるという話も聞く。
ISO認証とエコアクション21認証はやはり格が違う。エコステージなど海外にいけば通用しないし、名刺にクラウンマークを表示できるのもうれしい。そこにあるマイナーリーグとメジャーリーグの違いは超えることが出来ないものがある。

ミリタリーオタクであった私に妄想が浮かんだ。
護衛艦です駆逐艦ではありませんf 日本の自衛隊は攻撃しません、守るだけですという意思表明で、駆逐艦といわず護衛艦と呼んでいる。日本語でなんと呼ぼうと英語ではデストロイア(破壊者)という。はて、何を破壊するのだろう?
昔、100年以上も前、海戦とは軍艦の大砲の打ち合いだった。しかし大砲で水面上の構造物をいくら壊しても沈むはずがない。しかし水面下に穴を開ければ、大砲が健在でも軍艦は沈む。
魚雷(昔は魚形水雷といった)が発明されると、魚雷を積んで敵の戦艦を攻撃する水雷艇という艦種が発生した。高い金と長年かけて建造した虎の子の戦艦が、小船にやられてしまう。これでは費用対効果が最悪だ。
戦艦や巡洋艦は大砲で敵艦を攻撃することに特化していて、小船を追い掛け回すのは苦手である。それで水雷艇を蹴散らす新しい軍艦を作った。敵の水雷艇を破壊するのでデストロイアと称した。(ネーミングのいきさつはもちろん知っている)
しかしデストロイアは敵の水雷艇を攻撃して駆逐するだけでなく、自らが魚雷を積んで敵艦隊を攻撃するようになった。そして、味方の水雷艇も駆逐したのである。
いやあ、私個人にとっては、これは非常におもしろいアナロジーだと思うのです。
ISO認証制度では、なにが戦艦で、どこが水雷艇で、あれが駆逐艦なのでしょうか?
kamikaze2.png suirai29.png ../mikasaicon.gif
駆逐艦水雷艇戦艦

ISO14001の審査費用が高いのは異常だったのではないだろうか?
おっと、ISO9001には代用品がないけれど、審査費用が高いのは同じだろう。今、外資系認証機関を安かろう悪かろうなどと語っている人たちがいるけれど、その論は正しいのだろうかと私は疑問を持つ。
正直言って私はJAB非認定の外資系認証機関の審査を受けたことはない。しかし安かろう悪かろうと語っている認証機関の審査は何度となく受けているし、陪席している。審査費用は確かに高いが、審査の質は良いとは思えない。 審査の質が悪いのが同じなら、安いほうがいいじゃないか?
それとも、安かろう悪かろうといわれている認証機関の審査の質は、実際は良いのかもしれない。まあ、それについては証拠を集めてから書こう。

本日の辞世の句
ブルータスお前もかではなく 簡易EMS、お前もか



N様からお便りを頂きました(2011.07.26)
品質保証に関わっていた老人の妄想を語っているだけで、それが面白くてご訪問されているに違いない。

そんなことはないです。真面目に悩んでいます。
まだ経験が浅いことと、審査員や関係者との交流もなかなかないので、ISOの認証制度の全体像がつかめていません。
いろいろな立場の人のいろいろな意見は貴重です。
読むだけの立場で申し訳ないですが、参考にさせていただいています。

N様 毎度ありがとうございます。
正直言いまして、私が審査対応をしていたときは相当悩みました。引退した今は脇で見ているだけで、審査員がおかしなことを言っても、対応者が勘違いしてトンチンカンな答えをしても、語るに落ちても、サルが木から落ちた程度にしか思わなくなりました。これは精神衛生上非常にいいですね。
当事者であれば、審査員であろうと、コンサルであろうと、企業の方であろうと、やはり私のように斜めに構えてコーヒーを飲んでいるわけにはいきませんから。
とはいえ、日本のISO審査とその結果としての信頼性は改善しないのでしょうか?
いえ、なぜ改善しないのかということを考えるようになりました。私が歳をとったからでしょうか?

木下様からお便りを頂きました(2011.07.28)
蘇生
辞世:この世に別れを告げること。死ぬこと。また、死にぎわに残すげじゆ・詩歌など。

・・・・縁起でもありません。ここは蘇生の句を・・・・ 思いつきません。ごめんなさい。

木下様、ご安心召されよ
私が辞世といったのは、ISO認証制度のご臨終と言う意味で使いました。私はまだご臨終にはなりそうありません。
私の辞世の句としては、このウェブサイトで知り合った木下様をはじめとする大勢の方に感謝する句をひねりたいと願っております。
あと10年は執行猶予があるでしょうから、よく考えておきますね

あらま様からお便りを頂きました(2011.07.31)
おばQ さま あらまです
環境マネジメントシステムというものは概念であることは間違いなく、それを具現化して見せたものがISO14001であることは間違いない。

全くその通りですね。
それに簡易であったり廉価版であったりしても その‘品質’が落ちていたら意味がないと思います。
さらに、EMS が「概念」だとすれば、それを敷衍して大衆の一般常識として定着させなければ意味がないとも思います。
つまり、EMS が特別の概念だけでは意味がないということです。

もし、EMSの概念が広まっていれば、福島第一原発の事故は防げていたかもしれない・・・
いえ、やはり強大なエネルギー利権の前では、「概念」だけでは太刀打ちできないのか・・・
さいきん、その無力さを感じてしまいます。

あらま様 まいどありがとうございます。
概念が概念でとどまるのか、現実に展開され実現されるのかは、結局のところ受け止める人によります。
理想があっても床の間に飾っておくのか、使うことが出来るのか、自家薬籠に扱えるのかとレベルはそうとうあると思います。
過去からさまざまな仕事とか趣味とかがあり、それぞれに奥義とか秘伝とかあるようですが、極めた人が少ないということは概念を実現することは非常にむずかしいのでしょう。
あらま様の技能はご本人から見れば息をするごとく成し遂げることが出来るのでしょうけど、悟らない人には神業にしか見えません。
そこが教育の難しいところであり、価値のあるところなのでしょう。


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