審査員物語 番外編20 認証活動(その3)

16.07.07

*この物語はフィクションです。登場する人物や団体は実在するものと一切関係ありません。但しここで書いていることは、私自身が過去に実際に見聞した現実の出来事を基にしております。

審査員物語とは

三葉みつは教授が増田准教授に任せたぞと言ったとき、毎週の進捗をメールで、月に一度は直接報告してくれとだけいって、あとは余計な口出しをしなくなった。それを受けたとき増田は途方に暮れてヤレヤレとも思ったが、実際に自分が指揮を執ると今猿と陽子のバックアップというか指導を受けて、今までよりもやりやすいしその結果順調に進んでいると感じている。
三葉も悪い人ではないが、彼が考えているISOはどうもあるべき姿とは違っていたようだ。今猿が指導するISO活動は増田も矛盾を感じないし、現場からの抵抗もなく順調に進んでいる。
今日は定期の報告会だ。報告会と言っても大げさなことではなく、光葉教授の部屋でA4数ページの資料を基に状況説明、どんな問題があるかとその対策などを1時間ばかり説明する。報告側のメンバーは増田のほか、陽子と今猿を連れていく。増田ひとりで説明できないわけではないが、メンバーが情報共有したほうが良いと思うし、三葉もそれに賛成した。
増田准教授
「それでは報告を始めたいと思います。環境側面については見直しを行いまして、完了しました」
三葉教授
「今までとは大分変わってしまったんだろう。負荷的にどうなんだ? つまり文書化とか教育とか全部やり直しになるのかと懸念するんだが」
増田准教授
「確かに変わったところはあります。とはいえ元々著しい環境側面としていたものが誤っていたわけではありません。決定の方法を見直しただけで、その結果を再確認した結果はそんな大きな差はありません」
三葉教授
「そうなのか?」
増田准教授
「例えば学食には6店舗ありまして、今まで各店舗でひとつづつ著しい環境側面を決めるという考え方でした。それを各店舗共通の基準で設備や作業を見直したところ、フライヤー、揚げ物をする装置ですね、各店舗にあることが分かりすべてを著しい環境側面にしました。その理由としまして、大きなフライヤーは20リットルですが、小さなものから5リットル漏れても排水系統への影響は変わらないことが分かりましたので、どの店舗でも著しい環境側面としました。
しかし実は過去から各店舗で油が漏れたときはすぐに遮断して汲み取るとか油水分離装置で止まっているかの点検など対応していました。そのために新たに取り扱いの注意や緊急時の処置など追加するものはあまりなく、ご心配に及びません」
三葉教授
「とはいえ、著しい環境側面にしていなかった店舗では新たに手順書を作ったりせんとならんのだろう?」
増田准教授
「えー、今猿さんの指導を受けましてISO規格にある手順を文書化するという文の解釈を、改めて手順書を作ることではなく、従来からのフライヤーの取り扱い説明書や厨房の注意書きに書いてあればよいと考えまして、新たに作ることはしていません」
三葉教授
「あれ! あのさ、手順書とあるものについては、ISO規格対応の手順書が必要なんじゃないの?」
今猿さん
「ISO規格で言っているのは必ずしも手順書というものを作れということではなく、大事なことは文書に定めろということです。更に文書と言いましても紙の書き物でなければならないわけではありません。例えば学食の厨房に緊急時の対応を書いた看板が掲げてあればそれでもいいわけです。もちろんその場合は看板にも文書管理の要件が適用されますが」
三葉教授
「ふーん、つまりなんだ、今まであったいろいろな文書というかマニュアルなどに必要なことが書いてあれば間に合うということか?」
増田准教授
「そうです。実を言いまして今回ISO認証のために改めて環境側面の特定、著しい環境側面の決定をしたわけですが、各担当部門がしっかりと管理しないと問題が起きるというものを過去から認識していたのは当然です。言い換えるとISO認証のために点検したら新たに火災の危険に気が付いたじゃ困りますよね。
ですから火災とか漏えいの危険とかあるものは以前から新人教育とか日常管理をしっかりとしていたわけです。もちろん口頭だけでは徹底できませんから、注意書きを張り出すとか仕事に就く前にやらせてみてちゃんとできるか確認するなどしていました。そういうものをISOの文書とか教育訓練にあたると説明することにしたということです」
三葉教授
「聞けばなるほどと思うけど、そういう考えでISO審査は大丈夫なのか?」
今猿さん
「結論から言えば問題ありません。序文にも『既存のマネジメントシステムの要素を適応させることも可能である』と明記してあります。それになによりも従来からしっかりやっていたということを審査員にも、そしてもちろん従事している人にも知らしめることができ、仕事に確信、自信を持たせると思います」

ご注意: この物語は今2008年頃の設定ですから、ISO14001は当然2004年版です。

三葉教授
「そうか、それは良かった」
増田准教授
「基本的に、ISOだから何かをしなければならないという考えではなく、ISOで要求していたことは以前からしていたことの中から何が該当するか探すことと思います。この大学はいい加減なことをせず、以前からISO規格を十分満たしていたはずだと思います」
三葉教授
「うーん、そういう発想でいいのだろうか。ちょっと心配だな」
今猿さん
「正直申し上げまして、今増田先生がご説明した考え方のところは少ないかと思います。でもISO認証のために法律を調べるというのは順序がおかしいと思います。日本で事業をしあるいは暮らしているなら、過去より日本の法律を守っていたはずです。また当然危険なことには注意を払っていたでしょう。いまさら法律を調べなおしたり、危険なところはどこだと探すのはおかしいです」
三葉教授
「なるほど、だがそうするとISOというのは常識的なこと以上は要求していないということになるが・・」
今猿さん
「まさしくその通りです」
三葉教授
「そうすると、ISO認証しても今まで以上に改善されることはないということになる」
今猿さん
「それも考え方次第ではないでしょうか。ISO認証すると改善が進むのではなく、認証されるレベルの組織なら過去より常に改善を進めているということでしょう。認証とはマネジメントシステムを良くする方法ではなく、マネジメントシステムが良いという裏書です。マネジメントシステムが良い会社ならば常に改善をしているはずです」
三葉教授
「それはこの大学は元からISOレベルだったから新たに何もせんでいいということなのか?」
増田准教授
「いえいえ、それほど完璧ではありません。先ほどのフライヤーですがほとんどの店舗では元から油漏えい時の対応を店員に教育していましたが、一部にしていないお店もありました。今回そういったことに気が付いて各店共通の対応を決めてそれで指導するようにしました」
三葉教授
「なるほど、それが標準化ということか」
今猿さん
「そうです、確かに店舗によってフライヤーの管理が違いました。また無管理の店もあったわけです。そこで各店舗の責任者がどういう方法が一番良いかを話し合ってそれを文書にしました。そしてどの店舗もその方法で仕事をすること、今後より良い方法が見つかればその文書を変更しそれからは皆が新しい方法を守ることにしました。それが標準化ですね」
三葉教授
「なるほど、私も昔からそういうことは知っているが現実にそういう手順でするというのを見たことはなかった」
今猿さん
「杓子定規という言葉があります。普通は融通が利かないという悪い意味で使われています。でもどの杓子も容積が同じ、どの定規も長さが同じだから安心して使えるわけです。杓子定規は悪いことじゃありません。
同じように火事のときどうするかを決めておけば、いざというとき迷うことなく対応できるわけです。当たり前のことを当たり前にすることは仕事の基本ですし、ISOとはそういうことを体系化したものとお考えいただければ」
三葉教授
「なるほど、増田君、今猿さんが入ってくれてから順調になったんじゃないか」
増田准教授
「おっしゃるとおりです。やはり試行錯誤ではなく、要点を把握している方に指導いただけると安心です。学生たちに作ってもらっている手順書作成も、今までは著しい環境側面を出発点にして、どういう管理するのか頭で考えたものを文書にしていました。結果として自分が作ったものに自信が持てません。単なる資料作りというあきらめもあったわけです。それを従来からある種々の文書や掲示物の見直しに舵を切ったことで、学生も自分が作っている文書が現実に日々使われるものだと認識し真剣さが増したようです」
三葉教授
「それはいいことだ。
ではその他の進捗状況はどうなんだね?」


特段問題もなく定期報告を終えて三人はいつもの部屋に戻ってきた。増田が三葉教授に状況説明するとき、以前はわきの下に汗をかいたものだが最近は何の不安もない。今日も報告を終えてひと仕事終わったとかホットしたという感じもない。
二人が座ると、陽子がお茶と茶請けを出して陽子も座り、いつものようにだべる。
増田准教授
「今猿さん、いつも思っているんですがね」
今猿さん
「はあ? なんでしょう」
増田准教授
「今猿さんはISOに書いてあるからしなくちゃならないって考えをしないですね。ISOは特別なものと考えていないのか、ISOなんてすべて常識で対応できると考えているのか・・
あのね、私もISO事務局を担当しろと言われてから外部の講習会に二三度行ったのですよ」
お茶
今猿さん
「ほう、それで」
増田准教授
「いやあ、驚きましたよ。講師も受講者も、ISOを学問だと捉えているんです。つまり理解するにはものすごく勉強しなくてはならないし、暗記することもたくさんあり、問題の正解はただひとつ、それを外すと不正解ってイメージですかね」
今猿さん
「アハハハハ、いや笑っちゃいけないですね。実は私もそう考えていた時期がありました。というかほんの1年前まで私も増田先生のおっしゃるようにISOは学問だと信じてましたよ。学問といっても真理の探究ということじゃなくて、正解はひとつでそれ以外はまちがいっていう意味ね」
増田准教授
「えっ、今猿さんもそうだったのですか。ぜひともその心変わりを教えてほしいですね、よろしければですけど」
今猿さん
「良くも悪くもありませんし秘密でもありません。私は仕事は東京とかこちら神奈川でもしていますが、千葉の住民です。そして一丁前に地域の囲碁クラブなんてのにも入っていましてね」
増田准教授
「ほう結構なご趣味ですな」
今猿さん
「囲碁クラブというと一般的に年配の人、それも男性が多いってイメージがあるでしょう、実際その通りなんですがね、そこの会員のひとりが小企業というよりも零細企業ですか、まあそんな会社の社長さんでした。そしてISO14001を認証したいっていう話をしてました」
増田准教授
「なるほど、趣味といってもお仕事の一環であるわけですね」
今猿さん
「それほど打算的ではありませんけどね、ともかくそんな噂を聞けばぜひ私に依頼してほしいと思うのは人情じゃありませんか」
増田准教授
「わかります、わかります」
今猿さん
「ところが囲碁クラブには若い、若いといっても40代なかばでしょうか、年配者ばかりの囲碁クラブでは若手ですね、山田と言いましたがある会社の環境部門で働いているそうです。
残念ながら社長は私には声をかけずに、山田にISO14001認証するにはどうしたらいいのかと相談したのです。彼は山田がコンサルじゃないので指導を受けてもただで済むと思ったのでしょう。それを知った私も面と向かって仕事をくれとは言えず悶々としておりました」
増田准教授
「なるほど、それで?」
今猿さん
「山田はその会社で定期的に打合せをしているようなので、あるとき偶然を装って訪問したのです。社長は気兼ねなく私を招き入れてくれました。そして山田がどんな指導をしているのかを見たのです」
増田准教授
「ほう、どんな方法だったのですか?」
今猿さん
「自然体というか、何も特別なことをしないという方法でした」
増田准教授
「つまり今、今猿さんがご指導されている方法ですか?」
今猿さん
「そうです、というか私は彼がしていた方法をそっくり真似しているのです」
陽子
「すみません、自然体とそうでない方法とはどう違うのでしょう?」
今猿さん
「そうでない方法というのは増田先生がおっしゃったとおりのISO認証は学問である、正解は一つでそれ以外の方法は不合格というものです。それに対して自然体とは企業は昔からまっとうに事業を営んできたはずだ。だから法を守り安全対策もしっかりやっているはずだという考えです」
増田准教授
「私も過去からしっかり仕事しているとは思っていましたが、それとISOをどう結び付けるのですか? ちょっと関連が分かりません」
今猿さん
「山田が最初にしたことはその会社の仕事の流れを紙に書き表すことでした。受注から製造から出荷まで、その他支援業務、つまり経理とか総務とか設備の保守などまで大きな紙に書き出し、部品や製品、その他伝票や情報の流れを書き表したのです。
そしてそこからISO規格の要求事項にみあったものを拾い上げて、マニュアルを作っていったのです」

会社の業務
陽子
「それで規格要求は全部満たされたのでしょうか?」
今猿さん
「全部というわけにはいきませんでしたが、8割方は過去からしていましたね」
増田准教授
「その会社はそうだったかもしれませんが、この大学では緊急事態とか是正処置なんて言葉を聞いたのは初めてでしたし、内部監査なんて会計だけでしたし・・・」
今猿さん
「あのう、ISO規格にある緊急事態とか是正処置という言葉そのままは今まで使っていなかったかもしれません。でも実際は事故が起きたときはどうするか、不具合が起きたら対策するとか、とんでもないことが起きないように社長が目を光らせていたというのは当たり前です。
あるいは内部監査といわなくても、環境だけでなく一般的な業務の点検をしていたはずです。ただそういったことに緊急事態とか是正処置とか、あるいは内部監査という呼び方をしていなかっただけなのです」
増田准教授
「すると今猿さんはISO規格を読んでそのとおりに進めるのではないということですか?」
今猿さん
「いえ何はともあれISO規格を読むというのは変わりません。ただ規格にあることをしようと考えるのではなく、規格にあることが過去からしていたことから探すべきだということです。
それに大事なことですが、ISO規格の1番目にあるから1番最初にしなければならないということはありません。規格の初めにあるから、環境方針を真っ先に制定することもないし、環境側面を法規制の前にしなければならないということもない」
陽子
「へえ〜、そうなんですか?」
今猿さん
「えっ、そう思いませんか?
環境方針を作ろうとしてですよ、その組織、会社とか大学がどんな環境側面があり法規制を受けているか、組織の管理状況はどうなのか、過去にどんな問題が起きたのか、自分の会社の実力はどうなのか、そんなことを知らなくては方針を立てようがありません」
増田准教授
「そう言われるとそんな気がしますけど、普通どこでも環境方針は一番初めに決めますよね」
今猿さん
「ISO規格に書いてある順序は重要性とか実施する順序とは無関係です。もちろん規格に書いてあることは全部が大事なんです。でも全部を一番最初には書けません。それだけのことです。そもそも規格改定があると、まあISO14001は大幅変更はまだありませんが、ISO9001なんて2000年改定では条項の順序が大きく変わりました。でも重要性が変わったわけじゃありません。規格の流れでそうしたというだけでしょう」
再出: この物語は2008年頃の設定です。

陽子
「そういわれると規格では環境側面が先で法規制が次に出てきますけど、法規制を先に調べたほうが自然な気がしますね」
今猿さん
「いや、そりゃ両方同時じゃないですかね、まあ大したことじゃありませんが」
増田准教授
「それから山田さんはどんなことをしたのでしょうか?」
今猿さん
「業務の実態を書き出し、それとISO要求事項との関係を考えました。そして足りないところをどうするか、過去からしていたとしてもそれで十分なのかということを検討したのです」
増田准教授
「お話を聞くとなるほどと思いますが、今までそういう方法を聞いたことがありません」
今猿さん
「私もそれを見るまで知りませんでした。一般的にISO認証しようとすると、ISO規格に書いてあったことを実現しようとします。それは間違いです。ISO規格に書いてあったことを既にしていたはずだと考えて、過去から存在する規則ややっていることをよく調べてISO規格の要求にあたる業務や帳票を探すべきです」
増田准教授
「うーん、そういうアプローチは講習会では聞いたことがありませんね。だいたい認証機関も審査員も講習会でも、マネジメントシステムの構築という言い方をしているでしょう。ということは現状を調べようという考えでなく、新しく作り出さなければならないってことですよね」
今猿さん
「まずマネジメントシステム構築ってどういうことなんでしょう? まさかISO認証のために会社や大学の仕組みを新しく作ると考えている人がいたら、頭の中身がおかしいですよ。
ともかくその山田という男はそういうアプローチ、つまり新しく作るのではなく、現状を調べるという方法が唯一無二で絶対なのだという信念を持っていました」
陽子
「今猿さんがおっしゃる方法はわかるような気がしますが、現実に過去からしていたことだけでは不足するところが多いのではないでしょうか?」
今猿さん
「不足がないとは言えません、いや不足しているところは多いでしょう。」

今猿はしばし沈黙した。
今猿さん
「しかし現実に存在する仕組みが役に立たないということは決してありません。組織は常に多種多様なインプット、組織を取り巻く環境の変化、外乱を受けています。組織が過去から存在してきたということはその長い歴史の間にさまざまな影響を受け、それに対応してきたという現実があります。もし外乱に対応できず一瞬でも機能が止まれば永続できません。生物なら病気や怪我に対抗できなければ死ぬのと同じです」
増田准教授
「なるほど」
今猿さん
「ですから組織の既存の手順というのはないがしろにできません。伝統とか慣習というものをバカにできないのです。そう考えるとISO規格に書いてあることを実際にしていないというのはほとんどないと考えて間違いありません。ISO規格に書いてあることがまっとうなら、それを実際にしていなければ長続きできないはずです」
陽子
「ええっと、ちょっと待ってください。単なる言葉や理屈ではなく具体例を考えてみたいですね。例えば教育訓練という項目があります。どこの会社だって新人に対してしっかりした体系的な教育訓練をしているかとなると疑問じゃないですか?
私が学食のパートになったとき、体系的にも細かなことも教えてもらったという記憶がありません。ほかの人のすることを真似したり、店長にその都度聞いたり、自分で考えて処理したり・・」
今猿さん
「まずお断りしておきますが、私はすべての組織がちゃんとしているとは言いません。欠陥がある組織も多いと思います。現実は問題がある企業のほうが多いのかもしれません。
企業というのは長続きしないのです。新しく創立された会社がどれくらい存続するかを企業生存率というそうです。会社を作って最初の5年で80%が廃業、残った会社の80%が次の5年で廃業すると言われています。10年後に残るのは起業した4%です。もっとも別なデータでは10年生存率が6%というのもみたことがありますが、まあいずれ4%とか6%とかそんなところでしょう。
多くの会社は長続きしていません。ですからすべての企業がしっかりした教育訓練をしているわけじゃないし、それ以外のISOの項目を満たしているわけでもないとも思えます。言い換えると中小企業であろうと10年以上の歴史があればそれなりの仕組みを具備しているだろうというのは間違いないでしょう。
もちろんISO規格要求を満たせば事業がうまくいくなんてほど、世の中は甘くありません。
ああ、法律事務所や監査法人などであれば、弁護士や会計士はもちろんですし事務員にしても十分な資格や力量を有した人たちが集まって設立するでしょうから、10年生存率が数パーセントなんてことはないとは思います」
増田准教授
「なるほど、おっしゃることはわかります」
今猿さん
「この大学も創立50年とかでしょう。であれば考え方としてISO規格が要求するものをこれからしなければならないと考えるよりも、過去からISO規格を満たしているはずだと考えてもおかしくないでしょう」
陽子
「ごめんなさい、今猿さん、存続した企業であってもたまたまということもあるでしょうし、仕組みが完璧でないこともあるのではないですか?」
今猿さん
「それはありますね。ただ考え方ですが例えば是正処置のレベルが低く、100点満点で現実が40点としましょう。それでも過去からの仕組みを捨ててまったく新しく作るのでなく、40点の仕組みを基にそれを補強していくという考えもおかしくない。そして過去の方法がその会社にみあっていたならそれを伸ばしていくのが一番良い方法であろうと思いますね」
増田准教授
「今猿さんのお話は、保守と革新の対立のようにも思えますね」
今猿さん
「保守と革新というのは対立するものではないと思いますよ。初めに過去のものを調べてそれを基に新しい方法を考えることは保守じゃないでしょう。むしろ革新ではないですか。そして一旦基本を定めたならそれを運用していくという意味では保守かもしれませんが・・・あっ、面白いことを思いつきました。保守というと政治的な意味ではコンサバティブでしょうけど、ISOではメンテナンスと言ってますよね、日本語訳では保守ではなく維持になっていますが。
ISOでいう維持とは何ぞやとなると、単に壊れたところを元通りにするだけではなく、ハードやソフトを時代に合わせて改善していくニュアンスですね。それを保守とか革新という二分法では表現できません」
増田准教授
「標準化は保守ではないということですか?」
今猿さん
「標準化そのものは新しい秩序の構築です。ISO規格は仕組みを維持せよとありますが、それは常に改善していくことと理解しますね、私は
そうでなければISOの仕組みと改善が結びつきません。規格は継続的改善を要求していますが、実は本文で継続的改善という言葉は三回しかでてきません。しかもいずれも方針におけるコミットメントだけです。つまり維持こそが改善ではなかろうかと・・・」
増田准教授
「ええっと、と言いますと?」
今猿さん
「ISOの活動は保守とか革新という分け方はできない、常なる改善を要求しているということです」
増田准教授
「なるほど、」
今猿さん
「私はISO規格が絶対とか、真理であると考えているわけではありません。ただ人間の英知を集約したものではあると思います。組織のベンチマークと考えてよいでしょう。そしてそれは革新、改善していくことまで要求していると考えているということです」
増田准教授
「なるほど、保守と革新はわかりました。
話を戻すと、ISO認証をするための活動には考え方が二つあることはわかりました。今猿さんがそれまでの考え方を変えて山田流になったわけはどうしてなのですか?」
今猿さん
「うーん、結局、ISO規格って過程とか手順を決めたものじゃなくて、仕様書というか結果を要求しているわけでしょう。同じ結果を出せて論理が通っていて矛盾がなければどれでもよいわけで、山田流が一番わかりやすく簡単だからですかね」
増田准教授
「仕様書? いや規格に環境側面を評価せよとあれば評価しなくちゃならないでしょ?」
今猿さん
「ちょっと、ちょっと。規格に評価しろなんてありませんよ。特定しろ、決定しろという語しかありません。どうもISO規格を読むとありもしないことがあると思い込む人が多くて困ります」
陽子
「ありもしないこと?」
今猿さん
「実は私はISOが表れる前は作業改善などのコンサルをしていました。実際にいろいろな作業をさせてどういうふうに改善するのかという実習のようなこともしました。たくさんの穴が開いている板がありまして、そこに長さ5センチくらいの丸棒を穴の数だけ通すのですが、素早くするにはどうしたらいいかというのは実はよくある問題なんです。
まずやらせてみると、多くの人は板を持って1本1本穴に差し込んで通します。増田さんも三木さんもそうすると思いますよ」
1本ずつ通す
陽子
「素早くするにはどうするのですか?」
今猿さん
「答えを言っちゃうと、板を置いて穴に棒を差し込んじゃうんです。全部差し込んだら板を上に持ち上げる、すると棒は板を通り抜けるでしょう」

穴に棒を入れる
こんな絵を描くとひとつ10分くらいかかっちゃうんですよね
矢印板を上に持ち上げる
増田准教授
「なあんだ、」
今猿さん
「言われてみると簡単です。でも思いつく人はあまりいません。穴に棒を通すと聞くと、棒を動かして板を動かしてはいけないと思い込んでしまうようです。そんな制約条件はないのですが。ISOでもありもしない制約条件があるように思い込んで、余計な事をするとか、難しく考えたりしている人が多いんじゃないですか」
増田准教授
「そうなんですか?」
今猿さん
「そうですよ。増田先生が三葉先生に説明されたじゃないですか。ISO規格に手順を決めろ文書化しろとあっても、手順書を作れという文章はありません。でも『手順書』という名前の文書を作っているところが非常に多い。文章を素直に読めば、過去から手順が文書に書いてあればそれでいいわけでしょう。
それからそもそも環境側面評価なんて言葉なんて書いてないのに、環境側面を決めるには点数をつけて比較しないとだめだと思い込んでいる人、それも審査員に多いってことにあきれますね。
そうそう、マネジメントシステム構築なんていうのはその勘違いの最たるものです。たかがISO認証ごときで企業や大学のマネジメントシステムを構築すると考えているなら思い上がりも甚だしい」

ご参考までに: 今猿さんと彼を指導した山田太郎のからみを知りたい方は下記をお読みください。
これらは5年も前に書いたものです。今でもその内容は正しいと考えています。そして世の中は当時の私にまだ追いついていないでしょう。

うそ800 本日思うこと
最近、池井戸潤の「七つの会議」という本を読んだ。私は基本的に小説は読まないが、家内が面白いから読めという。家内の言うことを聞かないと夕飯抜きになるという恐怖を感じて読んだ。
まあそれなりに面白かったが、思ったことがある。それは登場人物の背景をゴジャゴジャ書いていることだ。この人はこういう家族環境で育った、こういうしがらみがあった、だからこういう性格になり、そしてこういう行動をしたと、延々と登場人物ひとりひとりについて書いていく。そういうのを読むと、止めてよねと言いたくなる。
刑事コロンボは私の大好きな番組だった。あの物語で描くのは犯行の動機と手口であって、犯人の過去、性格、心理的背景なんてまったく無視である。
日本のドラマなら逮捕された犯人が「俺の気持ちをわかってくれ」と言い、それを聞いた警察官が犯人に同情するのが定番だ。そして罪を憎んで人を憎まずみたいな雰囲気になる。ああいうのって大嫌いですね、私は
コロンボにはそんな場面はまったくない。行動がすべて、結果がすべて、心の中は他人にはわからない。いや本人にさえわからない。人間は自分にうそをつくのだから。
「相棒」とか「警視庁公安○課」なんてドラマが日本人の心情にあっているというなら、私は日本人の心情を持ちたくない。
えっ、私が冷たいって そりゃ逆ですよ、義理と人情に厚いあなたはISOに向いていません。

うそ800 本日の致命的欠陥
またまた1万字を超えた。同じミスを繰り返すようでは・・・・


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