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「ひでこのアトリエ通信」-5

 今年もニットの本格シーズンがやって来ました。ファション界では様々な主張をもったニット作品が発表され、全体に占めるその割合も益々増ているようです。あらゆる場面 でもっともっとニットの魅力が拡がっていくといいですね。
 さて、今回はこうした流れや提案に関してはひとまず置いて、先日行って来た沖縄のことを少しお伝えします。まだ少し夏の気配の残っている沖縄を訪れたのは9月末、美しい海にかこまれ、人情が柔らかでとても活気のあるこの島に生きている伝統工芸のなかでも、紅型染や琉球絣などの布、焼物、ガラスなどを是非見たいと思い、それぞれの地を訪ねてみました。
 首里では琉球更紗、紅型の工房を訪ねて、染め付けの工程のなかで独特の色合いや模様の数々を見、読谷村でさらに琉球舞踊や美術館の展示という形で伝統の着用スタイルを見る事ができました。華やかな宮廷での舞装束としての紅型染めのあでやかさは、完成された着用スタイルと動作、音楽とが相俟って、静かで優美な身のこなしの女性をこの上なく美しく見せていました。また大漁を祝う祭の衣装や日常着、労働着としての芭蕉布、読谷山花織など素朴なものから非常に洗練されたものまで絣の模様と色の豊富さには本当に魅せられました。それは、明るさ、力強さ、優しさ、つつましさ、率直さ、のびやかさ、清さ、爽やかさというようなもので、庶民の生活のいきいきとした様子を映し出しています。
 もうひとつの目的、焼物とガラスは先ず、読谷村のヤチムンの里を訪れ、いくつかの窯元、工房を見せていただきました。読谷村では折しも金城次郎展が始まろうとしているところで、壺屋焼の第一人者で人間国宝金城次郎氏の初期から現在までの作品99点をじっくり鑑賞できたのはじつに幸運なことでした。そして思いがけずここでも琉球舞踊を見るチャンスに恵まれました。
 この展が行われた村立美術館は座喜味城跡にあり、今は石垣だけになってしまった城跡からはエメラルドグリーンとコバルトグリーンに色分けされた静かな美しい海が見え、海からの風が清々しく、とてもゆっくりとした気分になれました。
 その後那覇へ出て、市内のメインストリートや壺屋焼き発祥の地である壺屋で焼物を見て歩きました。窯が殆ど読谷村へ移り、販売店やギャラリーだけになった、とても静かな町並の一軒一軒の店をのぞいて歩いたり、廃窯蹟に降る木の実を拾ったりしながら半日を過ごしましたが、出ている焼物は窯元よりむしろこちらの方が豊富でした。それから、那覇の街の活気は大変なもので、焼物、ガラス、その他あらゆる物の種類、数の豊富さ、また人間の匂いとでもいうような独特のエネルギーに満ちた、ひときわ印象的な街でした。
 いくつかの布、焼物、ガラスなどを手に入れて帰り、日常生活に用いていますが、歴史や時代の変遷を乗り越えて、人間が精魂こめて作ってきたものだけが持つ手応えを日々味わっています。首里城の見事な城壁の上から見た海、 読谷村に咲いていた紅い花、一点の翳りもないその美しさが 心に残る旅でした。

 

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