憲法と法令の整合性(その30) 2003.11.06
法律、施行令、省令の対照表を見たことがありますか?
環境法規制などではこの対照表を本にして売られています。仕事で使う法律の対照表が出版されていない場合は、やむなく自分がワードで作ることもあります。
law.jpg この対照表を見ますと、法律が施行令、省令に展開されているのが良く分かります。
このとき法律にないことを施行令で定めることはできません。当然ですよね、
なお、罰則は必ず法律で定めることになっていて、施行令や省令では定めることはできません。

私の飯のたね、ISO9000とかISO14000でも上位規定が下位規定にどのように展開されているかの対照表が必須となります。特段、表にしなくともいいのですが、上位規定では「下位文書(下位規定)何々に定める」と記載するとか、下位文書では「なになに規定に基づいて」というフレーズがそのつながりをしめします。
表現が悪いですが親のない規定はありえません。すべての規則は親子関係でつながっているのです。
唯一親のない規定は最上位の文書(規定)だけで通常それは「品質マニュアル」とか「環境マニュアル」と呼ばれます。このつながりを一般的にファミリーツリーといいます。まさに家系図ですね、

機械の図面を書いたことがある人はこれをよく理解しています。一番上の図面は製品が完成して梱包されている図面でそれから下位図面に展開されていきます。総組立図、部分組立図、部品図、材料の図面あるいは購買用図面となります。ひとつの製品はおびただしい図面に展開されていきますが、親がない図面というのはただひとつ、最上位の完成図面だけです。


では、日本国憲法と基本法、法律の対照表というのはあるのでしょうか?
実は私は見たことがありません。1800本もある法律のハイラルキーを書くのはちょっとできませんので基本法だけでも考えて見てみましょう。
基本法だけといいましてもなんと26本もあります。
  1. 食品安全基本法(平成十五年五月二十三日法律第四十八号)
  2. 少子化社会対策基本法(平成十五年七月三十日法律第百三十三号)
  3. エネルギー政策基本法(平成十四年六月十四日法律第七十一号)
  4. 知的財産基本法(平成十四年十二月四日法律第百二十二号)
  5. 特殊法人等改革基本法(平成十三年六月二十一日法律第五十八号)
  6. 水産基本法(平成十三年六月二十九日法律第八十九号)
  7. 文化芸術振興基本法(平成十三年十二月七日法律第百四十八号)
  8. 循環型社会形成推進基本法(平成十二年六月二日法律第百十号)
  9. 高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成十二年十二月六日法律第百四十四号)
  10. ものづくり基盤技術振興基本法(平成十一年三月十九日法律第二号)
  11. 男女共同参画社会基本法(平成十一年六月二十三日法律第七十八号)
  12. 食料・農業・農村基本法(平成十一年七月十六日法律第百六号)
  13. 中央省庁等改革基本法(平成十年六月十二日法律第百三号)
  14. 高齢社会対策基本法(平成七年十一月十五日法律第百二十九号)
  15. 科学技術基本法(平成七年十一月十五日法律第百三十号)
  16. 環境基本法(平成五年十一月十九日法律第九十一号)
  17. 土地基本法(平成元年十二月二十二日法律第八十四号)
  18. 障害者基本法(昭和四十五年五月二十一日法律第八十四号)
  19. 交通安全対策基本法(昭和四十五年六月一日法律第百十号)
  20. 消費者保護基本法(昭和四十三年五月三十日法律第七十八号)
  21. 森林・林業基本法(昭和三十九年七月九日法律第百六十一号)
  22. 観光基本法(昭和三十八年六月二十日法律第百七号)
  23. 中小企業基本法(昭和三十八年七月二十日法律第百五十四号)
  24. 災害対策基本法(昭和三十六年十一月十五日法律第二百二十三号)
  25. 原子力基本法(昭和三十年十二月十九日法律第百八十六号)
  26. 教育基本法(昭和二十二年三月三十一日法律第二十五号)
さて、ではこの基本法は憲法のどの条項につながるのでしょうか?
  • 教育基本法なんていいますと、まあ第26条1項につながるのかな?と見当がつきます。
  • 環境基本法ですか?これはちょっとぴったりというのがありません。
    他にないという理由でまあ、第25条1項の「健康で文化的な生活」てえのをあてましょうか?
  • 原子力基本法はどうでしょうか?
    この「第一条 この法律は、原子力の研究、開発及び利用を推進することによつて、将来におけるエネルギー資源を確保し、学術の進歩と産業の振興とを図り、もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与することを目的とする。 」とありますので、最終目的が国民生活水準向上ならその親はやはり第25条1項なのでしょうか?
  • 観光基本法・・・・だんだんと難しくなってまいりました。
    「第一条 国の観光に関する政策の目標は、観光が、国際収支の改善及び外国との経済文化の交流の促進と、国民の保健の増進、勤労意欲の増進及び教養の向上とに貢献することにかんがみ、外国人観光旅客の来訪の促進、観光旅行の安全の確保、観光資源の保護、育成及び開発、観光に関する施設の整備等のための施策を講ずることにより、国際観光の発展及び国民の健全な観光旅行の普及発達を図り、もつて国際親善の増進、国民経済の発展及び国民生活の安定向上に寄与し、あわせて地域格差の是正に資することにあるものとする。」
    いったいこの文章SVOCのつながりが分かりません。はたして日本語として適正なのかどうか理解に苦しみます。文章があまりにも複雑ですが、目的は国際親善と経済発展、国民生活の安定、地域格差の是正だそうであります。
    「経済文化の交流」とはなんでしょうか?
    広辞苑でも経済封鎖はあっても経済文化というのはありません。経済そのものがひとつの文化なのでしょうか?、経済を研究する文化なのでしょうか?、経済や文化なのでしょうか?
    すると
    • 国際親善→国際関係を論じているのは第9条1項しかありません。親は第9条なのでしょうか?
    • 経済発展→憲法で経済という言葉は第15条1項の経済的な理由で差別されないという一箇所です。経済発展すべきという条項がありません。困りました。
    • 国民生活の安定→第25条1項に文化的で最低限度の生活権と2項に国は社会福祉に努めるという語句がありますがちょっとニュアンスが異なります。
    • 地域格差の是正→憲法で地域や地方に関する記述はありません。まして経済的平等を実現するとか努めるという文章はありません。親はどの条項でしょうか?
  • 森林・林業基本法・・・憲法に森林についての記述はありません。するとこれも第25条あたりにつなげるしかないのでしょうか?

    悩んでしまいます。

    基本法ではありませんが、憲法とのつながりが明確な法律もあります。
  • 国籍法の親は第10条であることはまちがいありません。
  • 地方自治法の親は第92条でしょうね?
  • でも印紙税法の親は第84条ではなさそうです。
  • 長野オリンピック冬季競技大会の準備及び運営のために必要な特別措置に関する法律(平成四年五月二十日法律第五十二号)なんてのはいくら考えても親となる憲法条項が分かりません。 
法曹と呼ばれる方はそれなりの解釈があるのかもしれませんが、ISOの世界の人間には日本国憲法とこれら基本法の関係はいわゆる文書体系ではなく文学の世界にしか見えません。
私が審査員なら「監査できるレベルではない。審査打ち切り」を宣言します。
お断りしておきますが「法律とはそういうものだ!」なんて決して言わないでくださいね、
基本法に基づく個々の法律あるいはその施行令、省令はものすごく明快で遺漏のない文書体系を構築しているのですから・・・
冒頭の対照表という例をあげましたように法律で「施行令で定める」とあれば必ず施行令で記述していなければならず、施行令で「規則で定める」とあるならば必ず省令で規定しており、それらの文書で規定していることにまったく矛盾はありません。
特に最近はパブリックコメントという制度がありまして、私ども下々も一応はコメントをつけることができるのです。ところが、ISOの世界でもコメントとは強制力のない記述でありまして、パブコメと呼ばれるパブリックコメントで施行令や省令を直しましたという例は寡聞にして知りません。 

「法律レベルはそうだけど、憲法はあいまいでいいのさ!」
そんなこと言っちゃいけません、それは言葉に対する冒涜ではありませんか?
「憲法をそう解釈するのだ」ではなく、憲法で決めていることと実際に運用している法律との関係はまったく対照できないね、という結論がまっとうでありましょう。



ちまたでは「改憲!」「創憲!」「護憲!」と大声が聞こえますが、その前に憲法と現実に運用されている法律とのつながりを考えてほしいですね、



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