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日本代表はまさかの3位に沈んだ!
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(2010.11.24) |
「女の戦い」が勝負を決めた!
椿事がおこった。
それは起こるべくして起こった。ならば椿事とはいえないのではないか。そうかもしれない。けれどもテレビのアナウンス通りに、ここは「椿事」とみておこう。
11月14日(日)に北陸の福井で「fukuiスーパーレディース駅伝」があった。国際千葉駅伝のところで、どうして福井の話なんかもちだすのかとお叱りをうけそうだが、しばらくはおつきあいいただこう。
FUKUIスーパーレディース駅伝は実業団チームと大学生チームが同じレースを走るというユニークな駅伝である。それゆえに当「駅伝時評」でもいつも注目している。(今年度の時評は筆者の都合で休載)
ところが、エントリー47チームのうち、ホクレン、ヤマダ電機、ユニクロ、TOTO……と、実業団チームが4チームがドタキャンしてしまった。なんともはや前代未聞の椿事である。
ホクレン、ヤマダ電機は12月の全日本実業団女子駅伝にも出場するほどのチームである。ホクレンなどは本大会の優勝候補の一角だった。いわば大会のメダマというべきチームが欠場して、何の説明もないのはどういうことなのだろうか。いまだに疑問が解けないのである。
結果は立命館大学と佛教大学という大学女子の2強のマッチアップとなり、立命館大学が全日本大学女子駅伝のリベンジを果たし、パナソニックやデンソーという実業団チームを跳ねとばした。
うがった見方をすれば……。ホクレンなどがドタキャンしたのは大学生チームに負けたくなかったからではないか。それほど的はずれではないだろう。駅伝の実業団チームをもてば年間にして億単位の経費がかかる。それだけのカネをかけているのに、もし大学生チームに惨敗したとあらば、上位にある存在として体面にかかわる。監督やコーチの立場はなくなり、選手のプライドはズタズタになる。だから出場回避に踏み切った。筆者はそのようにみている。
だが、昨今の佛教大と立命館大の強さは図抜けている。全日本実業団駅伝に出てきたとしても優勝争いに加われるだろう。大学女子のなかでこの2校だけがベラボウに強いのである。
今回の千葉国際駅伝の学生選抜に、この佛教と立命から4人の選手が出てきた。佛教からは西原加純、石橋麻友、立命館からは竹中理沙と田中華絵、いずれもチームの中心をなすランナーである。
4人のうち西原(4区)と竹中(2区)、田中(6区)の3人がエントリーされたが、椿事はこの3人がひきおこした。
ひるがえって言うならば、4区と6区の「実業団VS.学生」という「女の戦い」が最終的な勝負のゆくすえを決定づけたとみる
勝負の流れを変えた第4区…学生選抜・西原加純が快走!
衆目をあっといわせたのは「女の戦い」第一幕・4区の攻防であった。
3区を終わったところでトップはケニア、28秒遅れで2位は日本、学生選抜はトップのケニアから35秒おくれの3位につけていた。4位のロシアまではそこから1分以上の差があったから、この時点で優勝争いはこの3チームにしぼられていた。
日本のナショナルチームの4区は稲富友香である。最近好調でワコールのエース格になりつつある稲富なら、17秒差ぐらいはなんとかなるかもしれないと思って観ていたが、圧巻の走りをみせてのが3位につけていた学生選抜の西原加純だった。
稲富から7秒遅れでタスキをうけた西原は、持ち前のやわらかいフォームで快調に発進、1q手前でははやくも稲富の背後にしのびよった。テンポの良い西原にくらべ、初のジャパン入りのせいというわけでもなかろうが、稲富はどことなく重くてテンポがよくなかった。西原はそんな稲富を1,4qでは一気に突き放してしまうのである。
さらに2.5qではケニアのR.G.ビヤギの背後10秒差まで迫り、3,5qの折り返しで一気に抜き去ってしまった。きびしい向かい風のなか、色白の頬をほのあかく染めた顔、それでいて目付きは精悍そのもので、なんとも印象的だった。
稲富のペースはその後もおとろえることなく、中継所ではケニアに17秒、日本のナショナルチームに44秒もの差をつけてしまったのである。
学生選抜が4区でトップに立つなど、歴史をかえりみても初めてのことである。西原の快走によって、勝負の流れはがらりと一変、学生選抜にも「まさか!」の目が出てきたのである。
5区ではプライドをかけた宇賀地強の阿修羅のごとき爆走によって1秒差の2位にとちるのだが、ひとたびかたむいた勝負の流れは変わることなく、最終区アンカー・田中華絵の快走をひきだす伏線になってゆくのである。
1区、2区はもくろみ通りだったが、誤算は3区にあり!
上野裕一郎……。この稀代のスピードランナーは今年もハナからすっとんでいった。1q=2:50、1〜2q=2:30というから、やはり速い展開である。
ケニアのV・ヤトーgつづき、トップ争いにからんでくるとみられていたオーストラリアのモットラムは遅れた。
終始上野がひっぱる展開でレースはすすみ、後ろでは学生選抜の藤本拓、アメリカのR・カーティスが3位争いをするというかたち、藤本の健闘ぶりが光っていた。
上野とヤトーは激しいトップ争いをくりひろげ、たがいに顔色をみてスパートをかけあった。のこり600mでムトーがトップをうばい引き離しにかかったが、上野もくらいつき、逆にのこり400mで満を持していた上野がスパート、本大会自身はじめての区間賞で中継所にとびこんでいった。
2区は今回の小林祐梨子であった。日本を代表するスピードランナーであるにもかかわらず彼女の走りをみられるのは本大会と全国女子駅伝のみである。だから本大会を観戦する楽しみのひとつが、この2区なのである。
小林はいつもながら眼をらんらんと光らせて、いつもながら前傾のきいた流麗なフォームでトップをゆくが、後ろとの差はそれほどひろがらない。ケニアのM・ヌジョロゲとの差はじりじりとひろがってゆくようだったが、3位の学生選抜・竹中理沙が2位との差をつめてきた。3qすぎではケニアに追いついてしまい、並走するカタチでトップを追い始めたのである。
竹中とヌジョロゲとの2位争いは中継所まで持ち越され、最後はわずかにヌジョロゲが先んじたが、ここでも学生選抜の健闘は見るべきものがあった。
2区の小林は9秒かせいで2位ケニアとの差を16秒としたが、日本チーム誤算があったとすれば、ここで秒差を稼げなかったこともそのひとつにあげられる。しかしながら小林祐梨子自身は完調ではなかったとはいえ区間1位をもぎとっているのだから、責められない。
誤算があったとすれば3区ではないか。
日本チームはここに佐藤悠基といういまや日本を代表するランナーを配したが、この佐藤がピリッとしなかったのである。まるでいつもの切れ味がなく、4.8qでケニアのT・ムビセイに一気にこられてしまったのである。
さらに学生選抜の矢澤曜にも追われて、7秒差までに迫られるしまつで、1区、2区でつかんだ勝負の流れを手放してしまう結果になった。そういう伏線があって先にのべた4区の攻防にうつるのである。
見ごたえのあった5区・6区の攻防!
今回は5区、6区もみどころ十分で、最後まで眼はなしできない展開、観戦するレースとしてのおもしろさを堪能した。
5区は宇賀地強の走り箱根の先輩としてのプライドをかけたというべきか。たぎる闘志に感動をそそられた。
トップをゆく学生選抜の平賀翔太は素軽い、ゆったりとしたフォームで悠々とトップをひた走る。宇賀地はいつもながらの前傾姿勢のフォームで快調な小気味いいピッチをきざみ、確実に追いあげてゆく。
4.1qでは20秒の差を一気につめてケニアのB・マヤカにならびかけ、4.6qでは抜き去って2位にあがった。宇賀地はマヤカをひきつれて平賀を猛追、6qすぎでは第1放送車のワンショットにおさまるようになってゆく。
向かい風に髪をなびかせて走る宇賀地、風神のような形相と言うべきか。まさに鬼気迫る雰囲気であった。
宇賀地は平賀との差をみるみる詰めて、8.5qでは背後にひたひたと迫り、8.9qの昇り坂では、とうとうならびかけてしまう。平賀も黙ってはいない。そこから粘りに粘り、両者のデッドヒートは最後まで続いた。逆にのこり700mでは平賀が前に出るが宇賀地もゆずらない。死闘は最後の登り坂までつづいたが、残り500mで宇賀地が渾身のラストスパート、やっと二人の勝負に決着がついた。かくしてわずか1秒の差でアンカーにタスキが渡るのである。
かくして優勝争いは「女の戦い」第2幕・最終区にもちこされる。
トップ争いをする日本と学生選抜をケニアが31秒差で追ってくるという展開、距離が長い区間(7.195q)だけに、ケニアの逆転も十分にありうる形勢だった。
最終6区のナショナルチームのアンカーは積水化学の清水裕子、追う学生選抜は立命館のキャプテン・田中華絵である。両者がびっしりと並走する後ろから、ケニアのP・コリクウィアングが猛スピードで追撃してくる。
3qでケニアのコリクウィアングが10秒差まで迫り、4.2qでは前をゆく日本と学生選抜をとらえてトップ集団になってしまった。
移り気な勝負の女神はいずれに転んでも不思議のない情勢になったが、ここで勝機をつかんだのが、終始、冷静沈着な走りをみせていた立命館の田中だった。5qすぎでスパートをかけると、まず日本の清水がついてゆけなくなり、ケニアのコリクウィアングも前半から突っ込んだツケがまわってきたのだろう。じりじりと遅れはじめたのである。
田中は清水についてゆくのがいっぱいいっぱいのようにみえていたが、実は並走していうるときに、力を溜めていたらしい。学生日本一をきめる仙台の全日本で佛教大にふたたび敗れた悔しさを、ここではねつけたというべきか。勝機とみて一気に前にでた勝負観はみごとであった。トップに立った田中のリズムはおとろえることなく、逆にケニアのコリクウィアングにはもはや追う力は失せ、清水ははるか後方に置いてゆかれたのである。
男女別の世界選手権への道を模索せよ!
学生選抜の勝因はチームワークの良さというべきか。区間賞は4区の西原加純ひとりだけだが、他の5人の走者いずれも区間2〜3位をキープしており、まったく穴というものが見あたらなかった。最終的には「女の戦い」に勝利をおさめたことが歴史的な初制覇にむすびついた。
ケニアは今回も力のあるランナーをそろえてきたが脇役になってしまったが、4区と5区のランナーが、もう少しデキがよかったなら、独走でゴールまで駆け抜けていただろうが、そうはならないところに駅伝のおもしろさがある。
連覇を狙った日本ナショナルチームは1区、2区は予定通り、勝利のパターンで滑り出したが、3区の佐藤悠基が誤算だった。3区までで大きな差をつくれなかったのが最大の敗因、最後は「女の戦い」に敗れて、負けるべくして負けてしまった。
女子の実業団チームはこの時期、12月に全日本をひかえているので、チャンピオンシップとは無縁の大会には有力選手を出し渋る。だからナショナルチームといえども、トップクラスの選手が出てくることはまれである。
経済効率を優先の実業団からすれば、それは当然というべきだろう。だから、とくに女子の場合、史上最強というべき学生に完敗してしまったわけで、よく考えてみれば、これまた当然の帰結というほかない。
横浜国際女子駅伝がなくなって、国際駅伝といえば千葉だけになってしまったが、外国招待チームがだんだんと小粒になってゆく。とくに男女混合のお遊びの大会になってしまってから小粒になってしまったのは残念というほかない。
以前のように男女別の世界選手権というもくろみのコンセプトにもどすべきだろう。このままでは早晩に横浜国際の二の舞になること必至である。
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