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男女ともに最後まで眼離しできない伯仲戦! |
(2010.12.27) |
▽留学生を擁しないチームの勝利を、とりあえず、よしとしよう
駅伝のレースを楽しむファンにしてみれば、最後の最後まで勝負のゆくえがみえてこない実力伯仲のレースをのぞむだろう。そこに駅伝というものの本当の愉しさがある。しかし実際にレースにのぞむ競技者サイドから見ればどうだろうか。
激しい競り合いがつづき、最後まで予断をゆるさぬ展開というのは。まさに命が縮まる思いがするだろう。優勝をねらえるチームの監督ならだれでも、出来ることなら中盤までにぶっちぎって、勝負をきめてしまいたい……と思っているはずだ。
観戦する側は駅伝にドラマをもとめるが、競技者サイドは「駅伝にドラマなんていらない」と言うだろう。
圧倒的な力で瞬時にねじふせる役割を果たしてきた多くはケニア人留学生である。そのケニア人留学生の起用区間に規制が加えられ、前回から1区から閉め出された。だが彼ら彼女らは準エース区間に登場してきて、男子は世羅、女子は豊川に優勝をもたらした。相変わらず優勝請負人としての役割をきっちりと果たしたのである。
男子なら3区あるいは4区(8.1q)、女子ならば5区(5q)に出てきて、勝負のゆくえをきめてしまう。競技者サイドとしては、まさに絵に描いたとおりの展開になり、これほど精神状態が安定するレースはないだろうが、観戦するファンとしては、なんともはや面白みのないレースというほかない。
さて、今回はどうだったのか。連覇をねらう世羅(男子)、3連覇をめざす豊川(女子)がともに留学生を昨年とおなじ区間に配して、同じパターンで勝ちにきていた。だが、今回は前回のようにうまくハマらなかった。
男子は中盤3区で世羅はC・ディランゴで予定どうりにトップを奪ったが、6区までに貯金をつかいはたして、アンカー勝負で敗れた。
女子の豊川もアンカーにワイナイナを擁していたが、逆転のお膳立てをつくれずに、興譲館に逃げられてしまった。とりあえずケニア留学生を擁しないチームが勝ったことをよしとしたい。
ケニア人留学生を別に嫌っているわけではない。むしろ起用する区間の規制など撤廃すべきだと思っている。区間規制は逆差別である。留学生ランナーにとってもに日本人ランナーにとっても不幸である。同じ高校生である。イーブンの状態でレースにのぞみ、留学生と真っ向から勝負できないようでは、将来、世界で戦うことなどできるわけがないのでえる。
▽女子--興譲館と須磨学園、明暗をわけた5区の攻防
3区をおわって勝負の流れは一気に須磨学園になだれうつかのように思われた。
1区、2区と興譲館に先んじられながら、須磨学園の3区のランナー・小林美香がここで快走してトップを奪ってしまったからである。4区・5区の力の比較では興譲館に分がありそうだが、勝負を左右するのは時の勢いである。
そう言う意味で須磨学園にとって4区は正念場となったのである。
須磨学園と興譲館との秒差は8秒、その差が縮まるか、開くかで勝負の流れは一変してしまう。
トップは須磨学園の原夏紀、興譲館の赤松弘佳が追う。差はじりじりと詰まり、1q過ぎで5秒差になってしまう。そうなると追うほうに勢いが出てくる。1.7qで興譲館の赤松が、須磨学園の原をとらえて並走状態にもちこんでしまう。
背後では仙台育英と豊川が競り合い、順位をあげてくる。アンカーにワイナイナを擁するだけに豊川がどこまで差を詰めてくるかも要注目であった。2qでは豊川の宮田佳菜代が仙台育英を抜いて3位にあがってくるが、トップ集団との差は詰まっていなかった。
そんななかで、興譲館の赤松は勝負どころとみたのか、3q手前でスパート、須磨学園の原はついていけずに差はひろがった。
トップ興譲館と須磨学園、中継所での差は11秒、3位にあがってきた豊川との差は30秒というところでアンカーにタスキがわたったのである。
▽今回も逃げる興譲館、追う豊川だったが……
逃げる興譲館、追う豊川……。
最終区は奇しくも前回と同じ展開となった。
前回も4区を終わってトップは1区から先頭をまもりつづけてきた興譲館、1秒差で豊川、さらに須磨学園が17秒差で追っていた。まさに最終区まで目離しできないレース展開で、最大の見どころがやってきたのである。
豊川は前回も留学生(W・ワイリム)を配していた。その差はわずか1秒だったので、あっさりと逆転してしまった。だが今回はタスキをつないできた4人のランナーにより30秒もの貯金があった。
さらにアンカーは日本人高校生ではトップクラスの赤松眞弘である。前回、赤松(眞)は落ち着いていた。背後で仙台育英のM・ワイディラと豊川のM・ワイナイナのケニア人留学生が激しくつばぜり合いするなか、ゆっくりと入り、差はつまりかげんだが、あわてなかった。
中間点では2位に上がった仙台育英・M・ワイディラとの差は16秒、3位の豊川・ワイナイナとの差は22秒となったが、追ってくるほうの勢いもそこまでであった。
留学生同士がはげしく2位争いをくりひろげるなか、赤松は余裕をもってやすやすと逃げ切ってしまったのである。
2位争いはひとたび3位におちた豊川・ワイナイナが最後は仙台育英のワイディラを抜き返して16秒差まで迫ったが、そのころこう興譲館の赤松は5年ぶり2度目の優勝テープをきっていた。
優勝した興譲館と激しくトップ争いを演じていた須磨学園は、この5区のランナーがブレーキ、一気に8位まで順位を落としてしまった。
▽前半は興譲館と須磨学園がマッチアップ
5区につづいての見どころはやはり1区であった。
注目の1区で候補とみられている須磨学園、興譲館、豊川あたりがどのようなポジションをキープするのか。須磨や興譲館にしてみれば、豊川がアンカーに留学生を配しているだけに4区までに逃げてしまいたいところである。だから両校の出方に注目していた。
レースは高知・山田の鍋島莉奈が引っ張る展開で幕あけ、1q=3:13ならば、まずまずのペース、2qになっても大集団で20チームほどがひしめきあっていた。
3qあたりから集団が少しずつバラけはじめ、4qでは14人ぐらいになり、山田の鍋島、さらには興譲館の菅華都紀、須磨学園の池田睦美、成田の小崎、花輪の渋谷璃沙などが集団をひっぱっていた。
4.7qで花輪の渋谷が先頭にとびだした。興譲館の菅、須磨学園の池田らはついていった。5qでは渋谷、菅、池田、さらに豊川の安藤友香が集団から抜けだして4人の区間賞争いになったが、5.5qになって安藤が遅れてしまう。
そして5.7qで興譲館の菅がスパート、池田と渋谷をひきはなして中継所にとびこんでいったのである。
須磨学園は9秒差の3位と好位置をキープしたが、3連覇をねらう豊川は19秒差の11位と、やや出遅れて、崖っぷちに立たされた。
2区では須磨学園の横江里沙が快走、興譲館・岡未友紀との差をじりじりつ詰め残り1qでは5秒差と迫り、立命館(池内彩乃)、秦野(米津利奈)もやってくる。3.7qでは立命館宇治の池内が単独で3位、秦野もつづいたが、豊川は5位にあがってきたものの、トップとの秒差は逆にひろがってしまった。
須磨の横江の勢いはとまらず、第2中継所のタスキ渡しでは興譲館とほとんど肩をならべるほどになってしまう
そんな須磨の勢いは3区になってもとまらない。須磨学園の小林美香が快走。たちまちトップを奪い、興譲館(武久真奈美)との差をひろげてゆく。後ろは20秒遅れで立命館宇治(青木奈波)が3番手と大健闘、豊川(黒川沙莉愛)は仙台育英(福崎奈々)と4位グループをなし、トップから30秒あまり遅れ、いぜんとして勢いがつかなかった。
豊川は結果的にみて前半の遅れが命取りになったようである。
優勝した興譲館は前半で主導権を握って、つねにレースの流れを支配していた。3区では須磨学園にひとたびトップをゆずるのだが、4区では赤松弘佳が区間賞の走りで奪還、3区以降は豊川との差をつねに30秒あまりキープしていたのが大きかった。
4人のランナーのうち2人が区間賞、3人が区間3位までに名を連ねている。初めよし、終わりよし……と、理想的なレースぶりであった。
3連覇をもくろんだ豊川は最終的には2位までやってきたが、前半の遅れが致命的だった。5区のワイナイナでようやく2位まで押し上げてきたが、優勝争いにからんでいなかったので、2位とはいえ、あまり評価ができないだろう。
3位の仙台育英、4位の神村学園、5位の北九州市立は持てる力を発揮した。6位の立命館宇治は大健闘だろう。予選の実績では目立たなかったが、2区、3区では3位までやってきて、存在感をしめした。
須磨学園は8位におわったが、5区のランナーが区間23位と大誤算、5区まで興譲館とはげしく首位争いを演じていただけに惜しまれる。しかし優勝した興譲館を苦しめたのは2位の豊川ではなく、この須磨学園であったことを付記しておこう。
▽男子--息つまるアンカー対決 鹿児島実VS.世羅
その差13秒……
6区を終わってトップをゆく世羅と追う鹿児島実との秒差である。
6区間37qあまりタスキをつないできて、最終7区の出来いかんで勝敗が決する。まさかそんな劇的な展開になろうとは両校のアンカーもおそらく考えてはいなかったのではないか。だが現実になってしまったのである。
両選手がいかに腹をくくったにせよ、こうなれば追いかけるほうに有利にはたらくのが世の常である。
鹿児島実のアンカー・高田康暉はまえをゆく世羅の大工谷成平を追った、大工谷の1qのはいりは2:52だから悪くはない。だが差はどんどんと詰まってゆく。2qでは5秒、3qでは4秒となった。大工谷の3qは8;55だから、高田はそれを上まわっていたことになる。
オーバーペースではないか……とも思われたが、勝ちたいという思いは鹿児島実・高田のようが強かったようである。3.8qではとうとう高田がトップをゆく大工谷の背後にピタとつけたのである。
高田は影のように後ろについたまま、前に出ようとしない。すでにしてトラック勝負を心に決めていたというのか。
並走状態のまま阪急電車のガードをくぐりぬけたが、高田はまだスパーとしない。両者はそのまま競技場へ……。トラックの周回にうつっても、まだ動きがなかった。最終コーナーにさしかかるあたりだったろうか。力をためていたというべきか。高田が渾身のスパート、大工谷を一気に置き去りにして初優勝のゴールにとびこんでいった。
▽1区・2区では須磨学園が先行
留学生のいない日本人選手ばかりの「花」の1区……
1q=2:54、1〜2q=3;00とゆっくりとした入りでレースは幕あけた。とうぜんのように横ひろがりの大集団、いわば温室状態というべきである。
連覇をねらう世羅松井智晴、須磨学園の西池和人らもむろん集団の前方につけていた。3qになってもいぜんとして先頭集団は横長のひしめきあい、西京の松村元輝、埼玉栄の渡部良太、諫早の的野遼大らが集団をひっぱっていた。
中間点のラップは15:06だから超スローである。日本人ばかりの温室状態だから、こんなことになる。しかし、このころから一人、二人と集団からこぼれだした。
6.1qになってようやく須磨学園の西池が先頭の先頭に出てきてペースアップ、たちまち集団は縦長になっていった。
7qになると西池のほか、鹿児島実の市田孝、秋田工の浪岡健吾らがつづき、先頭集団は7人ほどになった。
8qあたりで佐久長聖の臼田稔宏が遅れ始め、先頭集団は、西池、市田、九州学院の久保田和真、洛南の文元彗、仙台育英の服部勇馬となる。
ペースはようやくあがりはじめ、8.5qになって先頭集団は須磨学園の西池がひっぱり、鹿児島実の市田、九州学院の久保田、仙台育英の服部がつづくという展開になった。
そして9.7qで西池がスパート、市田もついていったが、最後は西池がふりきってしまった。
優勝候補の一角・須磨学園はもくろみどおりにトップ通過、しかし連覇をねらう世羅は 21秒おくれの9位とやや出遅れた。
須磨学園のトップはは2区にはいってもゆるがなかった。山本雄大が区間賞の快走で2位にあがってきた仙台育英に10秒差、3位の九州学院には13秒差をつけた。世羅はここでも勢いがつかず逆に10位と順位をおとし、トップからは36秒の遅れをとってしまった。
▽ 3区では留学生がフル回転……世羅が浮上
レースの流れがおおきく動いたのは3区である。
8位発進の青森山田のM・ギチンジ、10位発進の世羅のC・ディランゴというケニア人留学生のふたりが、レースの流れそのものを一気に変えてしまったのである。
ハイペースではいった二人はどんどんと順位をあげていった。とくに世羅のディランゴは勢いはすさまじかった。
トップうぃゆく須磨学園の後藤雅晴を2位グループをなす九州学院(児玉瑞樹)と仙台育英(佐藤研人)が猛追、1.4qで早くも先頭の須磨学園においついて先頭集団をなす。そのうしろから世羅のデランゴがやってくる。
なんと1.5qでディランゴは先頭集団の3人に追いつき、一気に横をすりぬけていったのである。1.9qでは青森山田ギチンジも2位に浮上してきた。
世羅のデランゴの快走はその後もゆるがず、青森山田のキチンジが離されながらも2位をキープ、6qあたりではおよそ300m後方に九州学院の児玉、仙台育英の佐藤、篭島実の有村優樹が3位集団をなしてつづくという展開だった。
世羅が3区でトップを奪ったのは予定通りだったろう。2位の青森山出には35秒、3位以下の仙台育英、九州学院、鹿児島実には1分以上の差をつけてしまう。2区までトップを走っていた須磨学園は、ここで1:40秒おくれの10位と大きく順位を落とし、優勝戦線から完全に脱落した。
▽中盤で流れをつかんだ鹿児島実
4区ではB・ワウエルを起用した仙台育英が青森山田をかわして2位に浮上、須磨学園が脱落してしまい、またしても留学生を擁するチームのトップ争いになるのでは……と、懸念した。だが、世羅は3区でかせいだ預金でどこまで持ちこたえられるか……というのが注目のマトになった。
事実、4区になってトップと後続との差は急激につまりはじめたのでえる。
4区ではトップの世羅と2位仙台育英との差は18秒、3位の青森山田との差は22秒、そして29秒差で九州学院、鹿児島実がつづいていたのである、3区では1分10秒あまりあった差が一気に29秒になっていたのである。
5区では鹿児島実が3位まで順位をあげて、世羅との差を27秒として、6区では市田宏が快走した。
2,2qで仙台育英の服部弾馬をとらえ2位に浮上、その後もトップをゆく世羅の藤川拓也に肉薄した。藤川も残り1qから驚異的な粘りをみせて、トップをまもったが、世羅と鹿児島実との差は13秒になってしまったのである。
鹿児島実は3区でトップの世羅から1:15も差をつけられていた。だがアンカーへのタスク渡しではわずか13秒である。
かくして上げ潮ムードの鹿児島実、3区留学生でかせいだ貯金を使いはたしてしまった世羅という構図で最終7区に突入したのである。
▽とまらぬ「均質化」「小粒化」
悲願の初優勝を果たした鹿児島実、アンカー勝負での決着だけに劇的な幕ぎれであった。前半は粘りに粘ってひたすら耐えぬき、中盤から後半にかけてじりじりと順位をあげていった。近年めずらしいパターンである。後半の強さを象徴するかのように6区と7区で区間賞、あとのランナーも2区をのぞいて、全員が4位以内にはいっている。層の厚さがモノをいったようである。
2位の世羅はあとわずかのところで連覇をのがした。3区でトップに立つという作戦はハマったというべきだが、今回は後続の急追にたえきれなかった。あえて敗因をあげるなら前半がいまひとつだったというべきか。
候補の筆頭ともいわれた須磨学園は5位に終わった。区間賞を3つもとりながら沈んだのは不本意な結果だろう。3区で大ブレーキ、4区もいまひとつのデキというべきで、流れに乗れなかったのが敗因か。
3位・九州学院、4位・仙台育英、6位・青森山田、7位・佐久長聖、8位。田村、このようにみてゆくと、やはり男子も終わってみれば力のあるチームが上位に来ているようである。
全般的に見て、チーム力は均質化、個の選手に目を転じても、日本の長距離界を背負うようなスケールの大きい選手は見あたらなかった。たから留学生がことさらに目立ってしまう。均質化、小粒化の流れはとまらないようである
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出場チームHPムHP |
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