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また早稲田! 分厚い戦力で他を圧倒!
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(2010.11.10) |
繋ぎ役がしっかりと役割を果たした!
優勝を争う主力チームに圧倒的な切り札がいない場合、エース区ではなくて繋ぎの区間の良し悪しが勝負の大勢を支配するケースが多い。
今年は、たとえばかつてのG・ダニエル(日大)やM・モグス(山梨学院大)、竹澤健介(早稲田大)クラスの超級の大砲がいない。日大のベンジャミンにしても、東海大の村澤明伸にしても、前者にくらべれば小粒というほかなく、日大にしても東海大にしても、優勝を争うというよりもシード権争いに四苦八苦しそうな形勢であった。
優勝争いはTwitterでも書いたように、ハナから2強プラス・ワンといわれる早稲田大、東洋大、駒澤大だろうとみていたが、この3校には大砲的存在はいない。ならば繋ぎの区間が決め手になるわけだが、そんななか、ひときわ大きな仕事をしたのが早稲田大学の6区に起用された猪俣英希である。
詳細はのちのべるが、レースの前半は早稲田大と東洋大がはげしく主導権争いをくりひろげ、4区で早稲田がトップをうばい5区をおわって、その差を10秒としたが、この時点ではまだ流れがどちらにかたむくのか、容易に判別できない情勢だった。
かくして6区は繋ぎの区間ながら、まさに天下分け目の決戦場になってしまった。早稲田にとっては、ひたよせる勝利の流れを受け止めることができるのか。東洋にとっては、早稲田に傾きつつある負の流れを、ここで一気に断ち切ってしまいたいところだったろう。
東洋大はこの6区に田中貴章を配していた。2年前の全日本では7区で区間賞をとったこともある実績あるランナーである。早稲田のほうは、なんとこの6区に猪俣英希を投入してきた。猪俣は4年生にして、初めての駅伝エントリーである。
東洋大陣営にしてみれば、「もらった!」と思ったにちがいない。東洋大の中軸をなす田中と今回が大学3大駅伝初出場というランナーでは勝負にならない……と誰しもが思ったはずである。
だが、駅伝は走ってみなければわからない。
猪俣はタスキをもらうと勢いよく突っ込んでいった。3q=8:41だから、かなりのものである。3qでは追ってくる東洋の田中を3秒ひきはなしてしまった。オーバーペース医ではないのかと思われた。事実、8qあたりから、その差がじりじりと詰まりはじめたのである。9.7qではその差7秒となったとき、もはや逆転はまちがいなしと思われた。
ところが、猪俣はそこから粘りに粘ったのである。なんと10qをこえて、差は詰まらなくなり、逆にまたじりじりとひらき始めたのである。
猪俣は順位をまもっただけでなく、追ってくる東洋大に逆に3秒差をつけ、堂々区間2位の記録で走りきった。いける……と踏んだ東洋大にとってはショックはきわめて大きかったはずだ。
レースの流れは完全に早稲田に傾いてしまった。その立役者となったのが4年にして初エントリーの猪俣だったのである。猪俣英希はエリートランナーの多い早稲田にあった一般入試で入学したという変わり種の選手である。まるで燻銀のような味のある光をはなっていた。
早稲田陣営が最初から成算があって起用したのかどうか、よくわからない。だが、猪俣のような選手がポッと出てきて出色の働きをする。だから早稲田は強いといわねばならぬ。
早稲田にとっての誤算!……1区
東洋大がどのような戦いをするか。本大会の注目はもっぱらその1点にあった。先の出雲ではエースの柏原竜二をはじめ主力をごっそりと温存して、まともに勝負をしてこなかったからである。
今回、東洋は注目の柏原を2区に配してきた。1区、2区をセットでとらまえ、2区で確実にトップを奪って逃げ切ろうという腹が透けて見えた。
早稲田は1区にいまやエース格の矢澤曜をもってきて、1区から一気につきはなそうという作戦がほのみえた。
だがその1区は思わぬ展開になる。
国士舘大の藤本拓がひっぱる先頭集団、東海大の早川翼、日体大の筱嵜昌道、早稲田の矢澤、東洋の設楽啓太らがつづく。4qではおよそ10チームにしぼられ、5qの通過が14分10秒と速い。
6qあたりでは早大、東海大、国士舘大、第一工大、東洋大、日体大、駒大、帝京大、京産大の9校が先頭集団をなし、区間記録を更新するペースであった。
7qでは1q=およそ3分とペースは落ち着いたが、8qになって揺さぶり合戦がはじまった。藤本拓がしかけ、矢澤、 設楽が反応する。先頭集団は早稲田、国士舘、東海、帝京、京都産業大、東洋の6校になり、第一工大のあのジュグナはこぼれていった。
9.5qでこんどは東海大の早川がスパートしたが、東洋大の設楽啓太、京産大・三岡大樹はつづいたが、なんと早稲田の矢澤がついて行けなくなった。早稲田のとっては誤算だったろう。10qでは帝京大の大沼睦とともに置いてゆかれてしまったのである。
東洋大の設楽啓と東海大の早川が抜けだすかたちになったが、11,5qで設楽啓がスパートをかけ、早川を一気に突きはなして、区間賞争いにケリをつけた。
設楽啓は1年生ながら、心憎いばかりの余裕ある走りだった。集団のなかにいてもたえず、周囲をチラとうかがう狡猾さ、機を見るに長けた勝負感、まちがいなしに東洋の明日を背負うランナーになるだろう。
かくして1区は東洋大がトップ通過、早川の東海大学が12秒差でつづいたが、早稲田の矢澤はなんと46秒おくれの9位におわった。早稲田にとっては想定外の展開だったのではあるまいか。逆にいうならば東洋大にとっては嬉しい悲鳴だったということになる。
東洋大にとって誤算!……2区
だが、2区では「表」と「裏」がそっくりひっくりがえった。早稲田にとっては思いがけなく「表」がやってきて、東洋大にとっては「裏」がやってきて大きな誤算が生じてしまった。
東洋大の2区は柏原竜二、早稲田大は大迫傑だった。最近、大迫は好調であるといっても、相手は山の神・柏原である。46秒の差は2区でさえあにひろがるだろうと思われた。
事実、柏原は力みもなく快調にスタートした。持ち前の前傾姿勢の走りは健在で、ぐいぐいと躯を前に運んでゆく。
9位発進の大迫もすぐに帝京大と国士舘をとらえて、2.8qでははやくも3位集団にもぐろこんだ。3qでは2位をゆく東海大をとらえて2位集団をひっぱりはじめた。5qでは単独2位にあがったが、柏原との差は42秒と、それほど詰まってはいなかった。
だが,そこからの走りに視るべきものがあった。7qのラップが20:04秒と区間記録からわずか1秒遅れとペースがあがった。逆に柏原はピッチがあがらなくなった。どこか茹だったタコのような感じになり、あえぐような表情、8.4キロでは水をとるありさま、完全に失速してしまった。早稲田の大迫との差はみるみるつまって、9qでは20秒となり、あるいは大迫が柏原をとらえるのではないかとさえ思われた。明らかに本調子を欠く走りに見えた。
だが、さすがに柏原も持ちこたえて10qでは29秒とその差をふたたびひろげるのだが、勢いは追っかける大迫のほうにある。柏原は逃げ切ったが、早稲田との差は21秒つまって25秒になってしまった。
エースの柏原で逆に差を詰められた。東洋にとっては大きな誤算だっただろう。同じ誤算でも早稲田のとっては嬉しい誤算というべきで、1区と2区、そうほうの誤算がぶつかりあうかたちで相殺され、25秒差というのは結果的には妥当なところに落ち着いた。
両雄がっぷり、たがいに譲らず!
逃げる東洋、追う早稲田……。
だが早稲田の3区。八木勇樹がピリッとしなかった。
タスキをうけてすぐに駒澤大の油布郁人に並びかけられてしまう。並走して東洋の本田勝也を追ってゆく展開になるのだが、トップとの差はあまり詰まってはこない。(中間点で23秒差)
八木の走りは重そうであった。トップに肉薄するどころか、8qでは油布にも置いてゆかれるというありさまであった。
東洋の本田はねばり強く、トップをまもりぬき、続いて23秒遅れで駒澤、早稲田は逆に31秒差にされてしまい、八木は追撃ムードに水を差すかっこうになった。
東洋、駒澤、早稲田……と2強プラス・ワンの顔がそろった4区もみどころのあるせめぎあいがくりひろげられた。
トップをゆく東洋大の川上遼平を早稲田の佐々木寛文と駒澤大の千葉健太という佐久長聖コンビがならんで追いあげてゆく。5qでトップ東洋と2位集団の差はわずか10秒となり、先頭の後ろ姿が完全にとらえられるようになった。そこからの佐々木の追う上げがすさまじく、5,3qでは並走する千葉健太を振りきってしまい、8qでは川上を4秒差まで追う詰め、11qではついに川上をとらえてしまうのである。
12qでは佐々木が一気にひきはなしにかかるが、そこから川上も粘りをみせた。両者はたがいにスパートのかけあい、最後までゆずらず、最後は中継点を前にしたスプリント勝負で佐々木が競り勝った。かくして4区で早稲田がわずか1秒、東洋に先んじたのである。
東洋大と早稲田大のマッチアップの様相は5区にもちこされ、激しい主導権あらそいがくりひろげられた。東洋大の設楽悠太と早稲田大の志方文典の火花散る1年生対決もみごたえがあった。
両者はびっしりと並走、5qではいちど志方が仕掛けるも不発、9qでは設楽が仕掛かるも、容易に勝負はつかなかった。
形勢に動きがあったのは11qすぎだった。志方がのぼりでスパート、ようやく設楽をふりきったのである。けれども早稲田と東洋の差は、わずか10秒……。かくして冒頭でのべた天下分け目の6区に突入してゆくのである。
熾烈なシード権争い
6区で流れをひきよせた早稲田は7区で一気にリズムアップした。
早稲田のこの区間は前田悠貴、1q=3:01という入りで、東洋との差は詰まりかげんだったが、2qから本格始動、3qすぎから追ってくる東洋大の渡邊公志をじりじりと引き離しにかかった。
4qではその差30秒となり、6qでは1号車から東洋大の姿はみえなくなってしまった。早稲田の前田は6区の猪俣がもたらした勢いにのってしまったのである。
早稲田大の独走状態となってしまったのとは裏腹に、東洋大は消沈してしまったのか、失速した渡邊は3位につけていた駒澤大の飯田明徳に追われ、7qでは21秒差をなってしまう。追う者と追われる者、両者の明暗はくっきりとして、とうとう9q手前で渡邊は飯田にとつかまり、ならぶ間のなく抜き去られてしまう。飯田の走りは快調そのもので、早稲田のペースも上まわり、早稲田との差をおよそ28秒つめて1分22秒差とした。
7区を終わって早稲田と東洋の差は2:09秒……。8区アンカーの力関係からみて、この時点で早稲田の優勝はほぼ確定的なものとなってしまったのである。
事実、早稲田大の8区アンカー・平賀翔太は中盤でつくられた早稲田優位の流れにそのままのっかって、13qまでは大会新記録をねらえるほどの快調なペース、追ってくる駒澤大、東洋大をどんどんと引き離してしまった。平賀は独り旅のせいもあっただろう。17qあたりでペースダウンしたが、堅実な走りでしっかりタスキをゴールまではこんでいった。
かくして8区の中盤ではトップ争いに決着がついてしまい、興味はもっぱらシード権争いにしぼられたのである。
7区を終わってベストシックスは早稲田、駒澤、東洋、明治、中央、日体だったが、ベンジャミンをもつ日大(11位)、村澤明伸(9位)をもつ東海がなんとも不気味な存在だった。6位の日体と東海の差は1分36秒、11位の日大との差は2分14秒……。まったく手のとどかない秒差ではなかった。
ベンジャミン、村澤、いまや大学陸上界のエース的存在のふたり、期待にたがわぬ走りだった。
11位発進の日大・ベンジャミンは6qで城西大・石田亮を抜いて10位に浮上、さらに9位の山梨学院大・高瀬無量、7qでは8位東海大・村澤明伸、9.5q医では帝京大の稲葉智之をかわして7位へ、15qすぎで6位の中大・斎藤勇人を抜いて、とうとうシード圏内にもぐりこんでくるのである。
東海大の村澤もベンジャミンについてゆけなかったものの、よく粘って16qでは7位までやってきて、19qすぎでは明治大の小林優太をとらえて5位まで順位をあげて、シード権圏内まで押し上げてきたのである。
かくして日大と東海大が最終区で4位、5位にやってきて、中央大と日本体育大が圏外に弾かれてしまった。
箱根も2強プラス1の形勢?
早稲田大は1995年いらいだから15年ぶりの制覇である。持てる力をいかんなく発揮したというべきか。
1区でエースの矢澤が9位と信じられないほどの遅れをとったが、まったく動じるようすもなかった。横綱相撲というべきか。なによりも分厚い戦力にモノをいわせて、東洋、駒澤をねじ伏せてしまった。
出雲、全日本と学生2冠をもぎとった。箱根でも優勝候補の筆頭に躍り出たが、箱根はまた別物である。たとえば昨年、同じように出雲、全日本を制しながら、箱根では惨敗した日本大学の例もある。学生2冠にかがやきながら日大はシード権さえ失ってしまったのである。けれども今シーズンの早稲田にかんするかぎり前回の日大と同じ轍をふむことはないだろう。
東洋大は早稲田に競りツブされて3位に沈んだが、距離ののびる箱根では建て直してくるだろう。今年の東洋大は出雲、全日本には目もくれず、箱根しか眼中にないという戦いかたをしている。箱根ではきっちり仕上げてくるはずだ。早稲田との2強対決は見どころ十分となろう。
東洋に競り勝って2位をもぎとった駒澤大は大健闘というべきか。3区の油布郁人、6区の窪田忍、7区の飯田明徳と3人もが区間賞を獲っており、若いチームだが、あなどりがたいものがある。箱根でも2強に割ってはいれるかどうか、そのあたり、興味深いものがある。
これら3校がやはり戦力的に抜けており、日本大学、東海大学も最後に4位、5位まで押し上げてきたが、上位を争いにからむには力が足りないだろう。中央大、山梨学院大、帝京大、城西大なども今年は存在感がない。
期待はずれをあげれば日本体育大学だ。出雲では2位となり、距離がのびる全日本ではさらに期待がかかっていたが、最終区で競り負けて、シード権すら獲れなかったのはどういうわけなのだろうか。
今シーズンにかんするかぎり、上位チームはかなり安定している。上位と下位も力の差がかなりありそうである。だから箱根についてもそれほど波乱はないとみた。
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出場チーム&過去の記録 |
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関 連 サ イ ト |
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