だいぶ前に「ISO用語の見直し(1)」を書いたが、既に半年が過ぎた。あのときはすぐに続編、続々編を書くつもりでいたのだが、忘れてしまった(
「用語の見直し」といっても、私がISO規格を仕切っているわけでありませんので、改定しますとは言えません。おかしいぞ! 間違っているぞ! と叫ぶだけでございます。
そもそも「見直し」とは「再検討する」という意味であって、「改定すること」とは違います。
それから今回の中には、過去におかしいぞ!、改定しないとまずいぞ! と取り上げたものもあります。困ったことに改善の兆しがありませんから再度取り上げました。
えっ! ISOTC委員はこんなウェブサイトはご覧になりませんか? 悲しいです。
ともかく第2回目、行ってみましょう、
法律で頭に何もつかない「管理責任者」が定義されているのは文化財保護法ひとつだけで、それは我々にはまったくなじみがないものである。環境担当者が知っているのは「特別管理産業廃棄物管理責任者」だけだろう。これは職階としては担当者であり、ISO規格が求めていたような業務ではない。
「衛生管理者」はなじみがあるが、「衛生管理責任者」は我々には無縁だ。これは家畜を
そこは気持ちを強く持って、メインイベントに登場するチャンピオンのつもりになろう。あなたの行く手には勝利が待っている。
話がそれた。
とにかく我々になじみのある法令では、管理責任者なんて語句が使われていない。
だからISO規格…正確にはJIS規格に「管理責任者」が登場したとき、それがどのような職階なのか、業務なのかを想像することができなかったのは当然だ。
というか、法律でも見かけない「管理責任者」という語をひねり出したのは、いったいどういう風の吹き回しだったのか? それが疑問だ。
そもそも管理責任者の原語はmanagement representativeである。直訳すると「経営層の代表」とか「経営層の代理者」になる。その言葉からは社長あるいは執行役をイメージするかもしれない。それがどうして「管理責任者」という和訳になるのか、非常に不思議だ。「管理責任者」と聞けば、ロッカールームの管理責任者か、危険物貯蔵所の管理責任者を思い浮かべるかもしれないが、社長とか執行役は普通は思い浮かべないだろう。
「management」は「管理」と思う人もいるだろうが「representative」が「責任者」でないのは間違いない。
単純になにごとかの責任者ならperson in charge/responsible person(担当者)、ロッカールームの責任者ならcare taker(管理人)とかjanitor(用務員)か?
ご存じだろうが、普通、辞令は上司の上司からもらう。課長なら部長ではなくその上、まあ工場長か?
トップマネジメントといっても会社によっていろいろだろうが、仮に執行役(執行役員でなく)から辞令をもらうなら、工場長レベル、つまり部長の上以上だろう。
暇に飽かせて英英辞典とかGoogleを見ているとmanagement representativeに関するチャットとかQ&Aなどがいろいろ見つかる。
Q:Standard Requirement states, appoint member of management who, irrespective of other responsibilities.(ISO9001:2008 5.5.2)
Can anyone elaborate and define?
規格は「組織の管理者層の中から、与えられている他の責任とかかわりなく、管理責任者を任命しなければならない」と要求している。
誰かこの意味教えてください。
(和文はおばQ訳。「」内はJIS9001:2008を引用した)
A:It means that this member of management can have responsibilities other than being a management representative. In other words: being a management representative does not have to be this person's sole responsibility.
それは、この経営層のメンバーが担当している以外の責任を持つことができることを意味します。 言い換えれば、管理責任者であることは、専任である必要はありません。
このQ&Aからは、英文の意味は、管理責任者が兼務できないという理屈は間違いのようだ。
任命対象の「member of management」が経営層なのか、管理者層なのか、どうなのか?
これは参考になった。
まずアメリカでもirrespective of other responsibilitiesということに疑問を持つ人がいるということだ。
でも疑問は解消する。兼務ガー、社長ハー、担当者デモー、そんな悩みはもう無用です。
もっと詳しくはこちらを参照ください。
外資社員様からコメントをいただきました。是非お読みください。
まずひっかかったのは、「水」と「水質」は違うのか?
「ISO14001:2004要求事項の解説」という本で、ISO14001の最高権威 寺田さんが「この場合のwaterは媒体としての水を指している」と書いている。
「媒体」という言葉から推察すると、汚染物質を含んだ水とか冷却水(熱交換)とか化学反応の溶媒を意味するのか?
では「媒体」でない水とは何だ? 飲用水とか防火用水などは、水そのものが主役だから媒体とは思えない。となるとそれらは水に入らないのか 😃
「媒体」の対義語は何だろうと考えると「本質」なのか「本体」なのか? 英語で「media」の対義語ならempty(無)、divest(割り当て)、liability(負債)、ちょっとピンとこない。
よくわからん?
ISO14001の対象は一般的な水でなく、特定用途あるいは特定性質の水をいうのだというなら、あいまいを回避するために、「○○の用途に用いられる水」「不純物○○mg/m3以上/以下」とか「○○を含有する水」など対象を明確に示すべきだ。
こんな言い訳は無責任だ。
そもそも英語が改定されていないのに、「water」の翻訳を「水質」から「水」に変える意味があったとは思えない。改定したトリガはなんだ? ISO14001認証企業にアンケートでも取ったのか(反語だよ)。
意味のないことをしてはワシは怒るぞ!
もっと本質的なことだが、定義を見ると「人およびそれらの相互関係を含む」のだから、職場の人間関係も入ることは間違いない。規格本文を読むと環境はフィジカルのものに限られるような気もするが、メンタルなものを想定しても矛盾はない。
そもそも職場環境というと、現代では空調とか照明ではなく、人間関係の意味でつかわれることが普通だ。ブラックだ、パワハラだ、うつの人がいる、そんなイメージですよね。ISO14001でパワハラ、セクハラ、コミュニケーションの改善をすべきなんでしょうか?
更に「組織の活動をとりまくもの」なのだから、審査の際の審査員も環境に含むことに異存はない。すると審査が環境側面になる。一般企業において認証機関/審査員あるいは取引企業との関係を、環境側面に含めたところはないと思う。だがトラブルになることは多い。
ここはひとつはっきりしてもらいたい。
組織の活動をとりまくものを考えると、売り掛けの回収とか、採用なども入りそうだ。えっと「環境」の定義を正しく理解すると、環境マネジメントシステムではなく、包括的なマネジメントシステムになってしまう。ということは環境だけ切り取るということはそもそも無理ということになるのか?
ひょっとして現在ISO14001の認証企業は、すべて事業とか人間関係の環境側面を見逃しているのではなかろうか?
それとも環境の定義が間違っているのか? 私はそんな気がする。
いや、映画って本当に面白い……失礼、環境マネジメントシステムって本当に面白い……いやいやおかしいでしょう。
![]() オオカミが一晩中吠えているような状況。 |
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![]() コンピュータの冷却ファンがずっと音をだしているような状況。 |
concontinual は継続的じゃない。継続的改善と翻訳したのは間違いです。断続的改善と訳すべきでした。
なことどうでもいいだろうって?
どうでも良くありません。審査を受ける企業にとっては大きな問題です。環境方針で「工場省エネ、廃棄物削減、省エネ設計」に努めますとあると、今年の計画に廃棄物削減がないと不適合にされてしまうのです。
規格の「continual improvement」の意味は、断続はあっても改善を進めていくという意味なのです。ですから今年は工場省エネ推進、来年は廃棄物削減、次は省エネ設計推進という活動でも完璧に適合です。
ところが継続的改善では、絶え間ない改善をしなければならないのです。今年も来年もその次も、工場省エネ、廃棄物削減、省エネ設計すべてを推進しないとペケです。
2015年改定で定義が「recurring activity」が「recurring process」に代わりましたが、継続か断続かについては翻訳も変わってないし注記もありません。
審査員が日本語訳でなく英文で審査をするのを期待するだけです。私の経験では半々でしたね、
こちらもご参考に
・継続的改善とは
・継続的改善
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だって丸いんだもん |
老婆心ながら
このウェブサイトをご訪問された方々は上記を読んで、アハハハと笑っていると思うが、訳が分からない人がいるかもしれない。そんな人たちのために説明する。
白熱電球を蛍光灯電球に交換することはズバリ省エネ活動です。いいですか「活動」です。環境側面ではありません。
エネルギーあるいは電気の使用という環境側面についての改善活動なのです。ゼーッタイ環境側面じゃありません。
当然ですが有益な環境側面なんか間違ってもありません。
口で有益な環境側面があると語るのは録音でもしてなければ後に残りませんが、書籍に書いて出版している有名な審査員やコンサルもいる。一生恥を背負って生きてください。
有益な環境側面を語る人に限らず、環境側面とは何かを理解していない人が多すぎます。その原因はやはり環境側面という翻訳がまずかったと私は断じる。
じゃあ、どう言えば良いのかとなれば、単純だ。「環境と相互に作用する,又は相互に作用する可能性のある、組織の活動又は製品又はサービスの要素」と現行の定義をそのまま用語としたらよかった。
長すぎというなら、環境アスペクトといえばよかったじゃないか 自分に都合の良いときはカタカナ、都合が悪いときは漢字か?
解説すれば長くなるのでこちらを見てください。
・環境側面はいまだ誤訳なり
・環境側面の誤訳
・有益な環境側面(2018年調査結果)
ISO14001の基本である環境側面を理解せずに審査員やコンサルをしようなんて、100年早いとしか言いようがない。言いようがないのだが、そういう審査員やコンサルがザクザクいるのが信じられない。
聞くところによると審査員研修機関の講師でさえ「有益な環境側面」を語っているというじゃありませんか。世も末というのでしょう。
こんなことを世界中から集まった、いい歳をしたおじいさんたちが議論したのかと思うと……
おっと、寺田さんは前出の2004年改定の解説本で、パフォーマンスの定義を決めるには種々事情があって妥協の産物だと書いている。
だがそんなことは関係ない。結果がすべてだ。妥協したからちょっと変なんですよとか、事情があったので我慢してくださいというのは通用しない。
ISO審査で「弊社にも事情がありましてね」なんて通用すると思っているのか?
真面目にやれとしか言いようがない。
書いていると、納得できないことが止まらず、更にどんどん怒りが湧き出てくる。現役時代は対面の審査員にカッカしていたが、規格をまともに読むとISOTC委員にカッカしてしまう。
ISO認証なんて、真面目に取り組むことはなかったのかもしれない。
当時は飯のタネだったから真剣に仕事をしていたのだが。
本日の熟考
引退して早7年、もうISO認証とか規格解釈なぞ忘れて遊び惚けて良いのだが……今も日々規格を読み直し、英英辞典を引き、ネットで調べている。
すると日々新たな発見があって面白い。新しいことを知るって素晴らしいことだと思う。
せめて現役時代、今の知識があり機転がきけば、審査員とのチャンチャンバラバラが優位に進められたのにと残念だ。いや、そうではなくそれが7年間の進歩なのだろう。
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当然、審査員の雇い主である認証機関は、それを要求しそのための配慮と支援をすべきだろう。
また審査員研修機関はまともな教育を供せねばならない。有益な環境側面などを2020年の現在でも教えているところがあるとは驚きだ。
審査員登録機関は要件を満たさない審査員はリジェクトする能力を持たねばならない。私の考えでは、3割は力量不足で登録/更新してはいけない。
そして認定機関はそうできない認証機関や審査員登録機関を認定してはいけないのだ。
おお、ISO認証制度の問題はすべてそれに尽きるか……熟考するまでもなかった。
おばQさま いつも参考になるお話し、有難うございます。 いつも乍らの部分ツッコミで申し訳ありません、今回のコメントは「Management representative」 私は、国内の法令で要求される「管理者」があるので、それと同様に誤解しておりましたが、ISOですから本来は無関係。 多分、日本国内の多くの人も、法的要求にある「**管理者」と同様に誤解していた人が多かったのだと思います。 弁解じみますが、一時期 堂々たる一部上場会社の株主総会資料やWEBでも、「品質担当役員」「環境担当役員」とか、「環境管理責任者」なる役員がいた時期があります。そういう会社は、立派な「環境経営白書」などのカラー刷りの資料もあって、事業所にはビオトープがあったり。とある役員さんが、「これからはISOも勉強もしないと」とカモ発言。 その時代は良かったというか、企業にも余裕があったのでしょう(遠い眼) 今は「環境担当役員」なんて流石にみないですね。 それよりも、会計不祥事を受けて「外部監査役員」(税理士や弁護士)が増えました。こういう役員の肩書も「はやりすたり」がありますね。 まさに、ご指摘の通りで「Management representative」は、役員である必要もなく、部長くらいで丁度。兼任もあって当然。品質担当役員だの環境担当役員だのは、会社として必要と思えば任命するのであって、間違ってもISO審査で言われたからなんてありえませんよね(いつの間にか消えているから、そういう会社は今頃 黒歴史なのか?) 経営の立場から言えば、役員が環境や品質を重視しても、それが社是ならば全く問題ありません。役員が、その確認の為にISO審査を、ものさしの一つとして使うのも有効だと思います。 但し、ISOが全てでは無いし、ましてやISO審査では役員の参加が必須というのは下剋上で本末転倒。ISO監査は経営の物差しの一つでしかなくて、それ以外の評価基準や判断条件をもっていない経営はあり得ません。 この辺りの事を勘違いしている審査機関は、「ISO審査は経営の役に立つ」とか平気で言えるのでしょうね。それが本当ならば、役員さんがすぐに判るExecutive Summaryを作って見せて提示すれば良いだけ。そういう審査機関とか、審査員は稀で、役員を出席させた場でご高説を垂れてみたり。そういう勘違いが、「すたり」の原因になったのでしょう。 |
外資社員様 毎度ご教示ありがとうございます。 「管理責任者」という言葉は法律でもあまり使われていません。私の第一の疑問は、法律でも、当然会社でもあまり見たことも聞いたこともない「管理責任者」という語を、なぜ「Management representative」に充てたのかということがひとつ。 日本語訳からは何をする人なのか? どんな責任を負うのか? わかりません。 次に「与えられている他の責任とかかわりなく、管理責任者を任命しなければならない」というフレーズです。 この文章は、ISO9001の管理責任者は検査部門を持つ管理者ではまずいと解されました。合否判定をする人が任命されてはいけないというのです。 例えば検査係があり、その上に品質管理課があり、更にその上に品質保証部という職階だとすると、検査係が合否判定をするから、そのライン上にある品質管理課長もその上の品質保証部長も管理責任者になれないことになります。もちろんISO14001では環境管理部門のラインに沿った管理者はだめとなります。 それで多くの企業は、営業部長とか総務部長などを管理責任者に任じました。そういう職掌の方は品質も公害もわかりませんから、形だけです。意味がありません。 これについては英語に明るい外資社員様なら、関係ないと解釈されたのでしょうけど、実際には審査員も企業側もダメですねとなりました。 もうひとつ不思議なことですが、ISO9001では管理責任者が内部監査責任者になれました。というかそれがデフォルトでした。ところがISO14001では管理責任者は内部監査責任者になれないとなりました。理由は明確ではなかったのですが、責任者が監査をするのでは内部牽制がきかないという理由で、どの認証機関も足並みをそろえていました。ところがその認証機関がISO9001を審査するときは問題がないという不思議? 子供っぽいですが「管理責任者とはこういうものだ!控えおろう」というようなアプローチではなく、「management representativeはこういう仕事をしなければならない、その人の権限と実行責任はこうですよと説明すれば混乱がなかったのではないかと思います。当然、そのときに根拠なり理屈を説明できなければ、その権限と実行責任は間違っていると平易な言葉で議論できたのではないかと思います。 現実はそうではなく、認証機関は「兼務はダメだー、検査部門を職掌としている管理者はダメだー、監査責任者にはなれない」と一方的に押してきたので、そういうものだと定着したんですね。 2015年改定では規格文言に大変革があったわけですが、認証機関は過去のことはハンフリーボガードの真似で知らんぷりで逃げ切りです。過去は誤りだったとか考えが変わったとか釈明くらいしろよと思います。 |