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今年も中盤の高校生の活躍が決め手になった!
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(2011.01.17) |
やはり福士加代子は駅伝女!
おりからの寒波襲来で、京都は底冷えの季節をむかえていた。
気温4度。数字のうえではたいしたこともないが、「京の底冷え」というのはみかけでは計れないのである。寒さが疼くのである。事実、身を切られるような冷たい空気だったという。午前中は前夜からの積雪がのこっていたという。
午まえには晴れたとはいえ、レース中もときおり白いものが吹雪いていた。史上最も低い気温のなかでスタートした全国女子駅伝、女子駅伝の締めのレースにふさわしく、終始、熱い戦いがくりひろげられた。
小雪舞い散る西京極競技場にトップで帰ってきたのは京都のアンカー・福士加代子だった。後ろからは誰も追ってこない。競技場にはいるまえに勝利を確信したのだろう。片手をあげて満面の笑顔……。
まるで最終9区は駅伝女王・福士のために用意された晴れ舞台というべきであった。
8区の中学生からのタスキ渡しでは追ってくる2位の兵庫とのタイム差はわずか2秒、3位の福岡とは6秒差、だがライバル岡山は32秒も遅れていた。
「1分ぐらい遅れていても大丈夫……」と豪語していた京都陣営にしてみれば、このときすでに勝利を確信していただろう。
福士は追ってくる兵庫の脇田茜も福岡の稲富友香もまるで問題にしなかった。二人とも弱い相手ではない。ともに名のあるランナーである。脇田は世界陸上の代表になったこともあり、稲富は同じワコールのチームメイトである。
とても女の走りとは思えない力強い脚の運び、軽快な腕のふりで、福士はロードのレースになればめっぽう強い。登りの2qでたちまち後続を20秒も離して独走状態にもちこんでしまったのである。
中間点では48秒差、もはや足音さえ聞こえない。まったくの独り旅になってしまった。福士を追い切れなかった兵庫の脇田茜は、まるで毒気に当てられたかのように失速していった。福岡の稲富も背後からやってきた岡山の重富梨佐に捕まってしまう。
6qすぎになると独り旅の福士の顔から白い歯がこぼれだした。沿道のファンになんども笑顔をみせ、いかにも楽しそうであった。レースでこれほど屈託のない笑顔をみせるランナーは福士をおいてほかには見あたらない。
西京極競技場にとびこんだ福士はチームメートたちになんども笑顔でVサインをおくる。彼女はゴールにむかう周回をまるでウイニングランにしてしまった。いかにも陽気な福士の真骨頂というべきか。10qを駈け抜けてきた痕跡など微塵もなく、底ぬけに楽しみながら、京都の2年ぶり14回目の優勝テープを切った。
光る高校生ランナーの活躍!
女子駅伝のルーツともいえる本大会、実業団、大学、高校、さらに中学生もくわわって1チームをなし、一本のタスキをゴールまではこんでゆく。出場選手たちのなかで、最も胸躍らせているのは誰だろうか?
まちがいなしに中学生と高校生である。日本長距離のトップをゆく選手たちの息づかいに間近に接することができるからだ。事実、本大会を踏み台にしてオリンピックや世界陸上に巣立っていった選手たちは数え切れないほどいる。
たとえば早狩実紀、彼女は今回、優勝した京都の監督をつとめた。たとえば今回京都と覇を争って連覇をもくろんだ岡山の山口衛里のように、最近では女性の監督がふえてきているが、過去13回の優勝回数をほこる京都では初めてのことである。
早狩実紀といえば日本の女子3000m障害のパイオニアであり、北京五輪にも出場、39歳にしていまだ競技をつづけている。現役選手の監督としては初めてのケースである。
その早狩は本大会から育った代表選手といえるだろう。
初出場は中学2年だった第5回(1985)大会、京都代表として2区に登場している。6回〜7回も代表として名を連ねたが出場機会がなかったが、第8回の高校1年のときは2区で区間新記録を更新、以降は第18〜19回をのぞき第25回大会(2007年)まですべて出場(京都および兵庫、2007年は京都府チームのコーチ兼任)、第26回大会(2008年)は京都チームのコーチとして参加、第27回大会(2009年)は再び京都府代表のランナーとして2区を走っている。京都、兵庫の優勝請負人としての役割を果たしてきたのである。
中学2年のデビューのとき、2区に登場した早狩は4位でタスキをもらい、実業団や大学選手と伍して区間6位の記録ながら、堂々とトップを奪って衆目をあっといわせた。そういう体験が今日につながっているはずだ。
最もモーティベーションの高い中学生、高校生たちが今回も快走した。
2区で実業団選手たちを退けた福岡の木村友香(筑紫女学園高)。さらにいえば今回、京都に優勝をもたらした最大の立役者は5区、6区、7区の立命館宇治高の1年生と2年生ランナーたちである。
前半は福岡がひっぱる!
京都の岡山のマッチアップとみていた本大会、前半の流れをリードしたのは福岡であった。
準エース的存在のランナーが集う第1区、気温がひくかったせいもあるだろう。1qは3:22というスローペース、青森の野田頭美穂、群馬の横沢永奈、静岡の榊原美希らがひっぱるが大きな集団ですすんだ。
2qになっても横長の展開で、連覇を目指す岡山の中村友梨香、2年ぶりの王座奪還をもくろむ京都の小島一恵は集団の中盤で満を持していた。
3qは9:54……、だが誰も仕掛けなかったが、徳島の森祥子が、集団の前にとびだしてペースアップ、先頭集団はやや縦長になり、4qで栃木の下門美香がスパート気味にとびだして、香川の井原未帆、滋賀の竹中理沙、岡山の中村などがつづいた。
5qになって岡山の中村と滋賀の竹中が先頭に立ち、宮城の岩川真知子、秋田の渋谷璃沙、兵庫の藪下明音、京都の小島らもついてゆく。
レースが動いたのは残り500mあたりからだった。滋賀の竹中がスパート、岡山の中村、愛知の鈴木亜由子、福岡の田中華絵、京都の小島、栃木の下門らもつづいた。
最後はスプリント勝負になり、竹中と追ってきた福岡の田中という立命館大のチームメイト同士の争いになった。
息つまる区間賞争い、最後は今季絶好調の田中がわずかに先んじて、福岡がトップ通過、1秒差で岡山、4秒差で滋賀、京都、兵庫も5秒差と、主力どころは差のないところでつづいた。
2区の福岡は筑紫女学園高の木村友香、普通この2区には実業団選手を配してくるのだが、福岡は高校生だった。岡山の浦田佳小里(天満屋)や千葉の永田あや(豊田自動車)など実業団の有力選手がひしめくなか、トップ効果というべきか、福岡の木村は快走した。
逆に追ってくる浦田や京都の石橋麻友(佛教大)らをじりじりと引き離しにかかったののである。岡山の浦田、滋賀の山本菜美子、兵庫の横江里沙、長崎の森智香子らが激しく2位争いをくりひろげるなか、候補の一角、京都の石橋はずるずると後退していった。
高校生木村の快走で、2区を終わって、トップ福岡と2位岡山との差は17秒とひらき、兵庫は24秒差の4位、京都は長崎、三重にも先に行かれ、30秒差の7位と遅れをとってしまった。
今回も魅せた小林祐梨香(兵庫)
福岡がそのままペースを握るかと思われたが、走ってみなければわからない3区の中学生区間で、紛れが出てしまった。
福岡の中尾静香に後続がどんどん迫ってくる。後ろからやってきたのは兵庫の本母有紀と9位発進の栃木・小林由佳である。が3分12秒で通過。2位を走る岡山・山田千花との差が2〜3秒詰まる
1,5qで2位をゆく岡山の山田が、兵庫の本母有紀と栃木の小林由佳にとらえられてしまう。栃木の小林はトップにもどんどんと肉薄、2qでは8秒差として、のこり200mでとうとう福岡の中尾もとらえてトップに立つのである。
かくして栃木が小林由佳の区間賞でトップで通過。2秒遅れで2位に福岡、さらに9秒後に3位の兵庫とつづいたが、岡山はトップから36秒遅れの11位、京都は43秒遅れの16位まで順位をおとしてしまった。
京都、岡山ともに大きな誤算だったろうが、結果的にみて岡山がここで京都におつきあいしてしまったのは想定外だったのではあるまいか。
中盤のキーポイントになる4区、注目は3位発進の兵庫。小林祐梨子であった。2区のスペシャリストで区間新記録保持者の小林、今回は4区に登場である。
レースは福岡の若月一夏が、1q手前でトップの栃木・阿久津有加に追いつきトップを奪うも、1.7qで兵庫の小林が、早くも栃木の阿久津をとらえて2位に浮上、2,4qでは福岡の若月を一気に抜き去りトップに立った。大きなストライドをのばし、大きな眼をらんらんと光らせてやってくる。1年にいちどしか観られない駅伝を走る小林、区間新はならなかったが、いつもながら迫力満点だった。
そして後ろからは京都の木崎良子が猛然と追っかけてくる、小雪の舞い散るなか、小林と好対照をなす軽快なピッチ走法で2qすぎで8人ぬき、最終的には6位まであがってくるのである。
4区を終わってトップ兵庫、2位は2秒遅れで福岡、3位以降は福岡から30秒ちかくもおくれて、神奈川、栃木、愛知、京都とつづいた。京都は43秒遅れ、岡山は45秒遅れと両雄は遅れをとってしまった。
5区以降は力の差のない高校生たちが主力、優勝争いは兵庫と福岡にしぼられ、この段階で京都、岡山には赤信号が点灯した。
京都に流れをひきよせた立命館宇治高トリオ
レースの勝負という点で、本大会最大のみどころは5区から7区ではなかったか。今回は主として高校生たちが走る、この3区間の攻防が明暗をわけたといえる。
1qすぎでは兵庫の池田睦美がトップをゆき、およそ8秒ほど遅れて、2位には福岡の坂口瞳、そこから100mおくれて3位の神奈川・黒田麻紀子と栃木・阿部沙香が並走、さらに愛知の清田真央がつづき、2秒遅れで京都の牧恵里奈つづくという形勢であった。京都の牧は3区・木崎の勢いをもらって、明らかに流れが一変、だが、まだトップの兵庫までは遠い道のりだった。
トップを悠然と走るのは兵庫の池田、だが後方は風雲急をつげていた。2qすぎになって、2位の福岡から32秒遅れて、愛知・清田、京都・牧、神奈川・黒田、栃木・阿部の4チームが3位集団となってしまう。
京都の最果てに位置する国際会議場あたりは、まだ沿道には積雪がのこって真っ白。そんなきびしい寒気のなか、選手たちの白い吐息をもらしながら折り返す……。
兵庫がトップをキープして2位の福岡との差を22秒差とした。3位集団からは京都の牧が抜けだしてきた。だが兵庫とはまだ43秒差もあった。岡山とは1分をこえる大差がついており、ここで兵庫がレースの流れをつかんだかにおもわれた。
6区にはいって台頭してきたのが3位をゆく京都である。5区で区間賞をもぎとった牧の勢いに菅野七虹が乗っかってしまった。
2qではトップはいぜん兵庫の翁田あかり、2位には福岡の日高侑紀がつけていたが、京都の菅野七虹が急追してきて、その差を一気に13秒もつめてきた。後方では5区で遅れをとった岡山の菅華都紀が3人抜きで4位に浮上してくる。
京都・菅野の勢いはとまらない。3qすぎでは福岡の日高をとらえて2位にあがり。先頭をゆく兵庫との差も12秒ほどになった。そして残り200mになって京都の菅野が兵庫の翁田に追いつき、ならぶまもなく一気に横をつりぬけていった。
中継所では43秒もあった差を一気につめて逆転したのである。小気味のいい腕振りで軽快にピッチを刻み、躯を前へ前へと運んでゆく菅野はなんとここで区間新記録の快走、京都の優勝への道筋をひらいたのである。
連覇をねらっていた岡山の菅も区間新記録を更新する快走をみせ、3位までやってきたが、時すでに遅し……という形勢であった。
7区になっても京都の高校生ランナーの快走はつづいた。6区。菅野の区間新でさらに勢いづいたというべきか。 池内彩乃が独走、兵庫の小林美香と岡山の赤松眞弘が懸命に追おうとするが差が詰まらない。最初の1qを3分を切るペースで入り、逆にじりじりと差をひろげにかかったのである。力強い腕振りが印象的、大きなストライドをのばし、いかにもダイナミックな走りで躯をひっぱってゆく。岡山・赤松の流れるような華麗なフォームときわめて対照的だった。ともにホレボレするような走りだが、この日は、チームの勢いを味方につけた1年生の池内が勝った。
かくして7区を終わってトップに立った京都と兵庫の差は27秒、3位の岡山とは41秒、レースの主導権は完全に京都の手に落ちたのである。5区〜7区まで、立命館宇治の高校生3人が区間賞、暮れの全国高校駅伝でも快走した顔ぶれとはいえ、嬉しい誤算だったのではあるまいか。
戦力の分厚い京都、福岡、兵庫が健闘
京都の優勝は一口でいえば、戦力の分厚さというものだろう。福士加代子、木崎良子、小島一恵など全日本代表クラスのランナーがそろっている。1区で小島が好位置をキープ、4区では木崎がいちどこぼれていった勝利の流れをよびもどし、9区では福士が後続をぶっちぎった。それぞれ自分の仕事をきちっとこなした。西原加純(佛教大)を故障で欠いても揺るぎもしなかった。さらに高校生でも、双子の久馬悠と萌(綾部高)という実力派をあえて控えにまわしてしまった。早狩監督は「調子の良い者をつかった」という。双子の姉妹に故障がなかったとすれば、立命館宇治高の三人を起用した采配はみごとに的中したということになる。隠れたファインプレーというべきか。
2位の岡山、前回優勝メンバー8人を擁してきたが連覇はならなかった。3区で失速して中盤も流れに乗れなかったのが敗因である。地力で2位までやってきたのはさすがというべきだが、優勝争いしての2位ではないから、チームとしても不本意だったろう。暮れの高校駅伝で無類の強さを誇った興譲館勢もいまひとつ勢いを欠いていた。これが駅伝の流れというものだろう。
健闘したのは福岡である。1区・田中華絵(立命館大)、2区。木村友香の連続区間賞で完全に好リズムをつかんだ。前半をリードし、中盤も終始トップに肉薄していた。
9位におわったとはいえ兵庫も健闘組にあげておこう。予定通りに4区の小林祐梨子でトップに立ち、8区までは京都ときわどく優勝争いをくりひろげたいた。9区の脇田茜(豊田自動織機)で失速してしまったのが惜しまれるが、京都を最も苦しめた戦いぶりは評価できる。
4位以降は千葉、長崎、愛知、神奈川、熊本までが入賞、ほぼ予想された顔ぶれだといえる。栃木は15位に終わったが、3区の中学生・小林由佳の快走で8位から一気にトップに躍り出た。中盤も上位を賑あわせるなどその戦いぶりに見るべきものがあった。
全国駅伝はチャンピオンシップの大会ではないが、女子の場合は日程的にめぐまれているせいか、実業団のトップクラスがこぞって顔を見せてくれる。駅伝ファンとしてはまことにありがたい。
なお優秀選手には、小林祐梨子(兵庫・豊田自動織機)、菅野七虹(京都・立命館宇治高)、福士加代子(京都・ワコール)の3選手が選ばれ、中高生を対象にした未来くん賞は、関根花観(東京・金井中)と菅華都紀(岡山・興譲館高)が獲得した。
来年は30回だから記念大会になる。それゆえに京都は優勝をのぞめる布陣でやってくるのだろう。岡山、兵庫はリベンジ、さらに福岡の果敢なチャレンジでのぞんでくるだろう。さらにおもしろくなりそうである。
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関 連 サ イ ト |
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