環境側面で私は苦しんだ。その理解、方法について考えたこと、スコアリング法でないとだめといわれてそれにチャレンジしたもののうまくいかなかったこと、更には審査員との戦いは終わることがなかった。
とはいえ私が認証活動をしたのはISO14001の黎明期だったからしょうがなかった、それはとうに過去のことになったよね。今のISO担当者は、あんなおバカなことで苦労することもないだろう……そう思っておりました。
先日「2020年の環境側面」を書いたときまでは……
2月3日 Y様から、現在でも似たようなものですよというお便りをいただきました。
Y様は最近の審査で、ISO審査員から「環境側面をなぜ点数法でしていないか?」と質問されたという。そして廃棄物が減ったらどう評価するのかという質問があったとのこと。ということはこの審査員は廃棄物が減ったら、著しい環境側面ではなくなるとお考えのようだ。
今も昔と変わらずとは、今の人たちもこれでは大変だなあ〜と思いました。
おっとここまで読んで、廃棄物が減ったら著しい環境側面でなくなると思った方、是が非でも後ろまで読まねばなりません。あなたが犯罪者にならないためにね♡
そんな審査員に出会ったY様には、お疲れ様ですとしか言いようがありません。ISO審査を受けると虚しさといいますか、この仕事にどんな価値があるのかと自棄になってしまうこともありましょう。私はそんなお仕事を30年近くしてきたのであります。そんなこと自慢になりません、いや自虐ネタでしょう。
ではどうすればいのか、解決策はとなりますと、その問題の根源は審査員が環境側面というものを理解していないということにつきます。
では本日は環境側面とは何だろうと超初歩に戻って考えます。何事も初歩が大切。
消 費 税 上 げ た の は い か ん | こ の 御 仁 |
でも我が愛しきISO14001規格には「○○ is(be) ○○」という構文は20数個あります。もし中学校で実際に使われている会話や文章で教えるとなると、一つの文に関係代名詞があり、文の長さが2行も3行もあって生徒も先生も途方に暮れるでしょう。ですから修飾語を取り除いて、あくまでも仮定の基本形を示して、その文型を理解するのもひとつの方法であるわけです。それが This is a pen なのです。
もちろん麻生さん答弁で「This is a pen」など役に立たない、教えちゃいけないなんては言ってません。彼は英語教育が現状でいいのかという質問に対して、「This is a pen」程度じゃ足りないといったのです。
英語は基礎だけじゃ足りなくてダメなんですが、基礎をしっかり作らなければ建物が建たないのも事実。ISO14001も高いレベル……いやいや当たり前のレベルになるには基礎をしっかりしなければなりません。ISO14001の基本のキ、それは間違いなく環境側面です。
私は、問題は審査員が環境側面を理解していないことだといった。じゃあ、お前は環境側面を理解しているのかと問われるのは必然だ。
もちろんだ!
そもそも環境側面とはなんだ?
ISO14001:2015の定義では
【3.2.2 環境側面】
環境と相互に作用する、又は相互に作用する可能性のある、組織の活動又は製品又はサービスの要素。
ともかくわけわからんということはわかった。
ということで定義を相手にせず、本文で環境側面に何を求めているかをみよう。
規格本文(4〜10)では「環境側面」が17回表れて、環境側面を決めることを除いた環境側面に対する要求事項は次のとおりである。
a)組織の環境側面に関する順守義務を決定し、参照する。
b)自分の業務に関係する著しい環境側面及びそれに伴う顕在する又は潜在的な環境影響
b)次の事項の変化
3)著しい環境側面
以上、6か所である。平たく言えば次のむっつの願いとなる。
著しい環境側面 |
🠊 を関連する部門や人に伝達する 🠊 に関係する法規制を調査・把握する 🠊 を環境目標を立てるとき考慮する 🠊 を関係する人に教育する 🠊 が持つ環境影響や問題を知らしめる 🠊 を経営者は経営判断するとき考慮する |
環境側面とはなんだとなれば【上記6項目をしなければならないもの】なのだ。
ならば上の表現を裏返せば、どんなものが環境側面なのかわかるというもの、
関連する部門や人に伝達する | 🠊 | 伝える必要があるのは何だ | |
関係する法規制を調査・把握する | 🠊 | 法規制が関わるものは何だ | |
環境目標を立てるとき考慮する | 🠊 | 改善する必要があるのは何だ | |
関係する人に教育する | 🠊 | 教育しなくちゃならないのは何だ | |
持つ環境影響や問題を知らしめる | 🠊 | 危険性や対応を知らなくちゃならないのは何だ | |
経営者は経営判断するときに考慮する | 🠊 | 経営者が忘れてならないことは何だ |
環境側面についてそうしなければならないなら、そうしなければならないものが環境側面に違いない。では定義なんぞ忘れて、このしなければならないものは何かを考えてみよう。
私が思うに著しい環境側面の条件は、次のみっつしかない。
嘘だと思うなら、上記を規格本文に代入して読み、おかしくないか、矛盾がないか確認してください。
点数で決めるといっても、上記1.2.3について評価しているに過ぎない。
ただ点数法あるいはスコアリング法というのは、真に事故発生とか法規制とか金額を評価しているのではない。期待する結果になるように配点や量を調整して算出者が期待する結果にしているに過ぎない。
いや、そんなこと私が語っているのではない。スコアリング法を教えている人たちが「評価点が重要性と見合うように算式を調整することが必要です」とか「経営上重要だと経営者が考えるものを加えることができるようにしたほうが良い」などと書いているのです。
ですからスコアリング法を正義と唱えている人たちも、その方法に欠陥があることを承知していて、残念なことに彼らにアイデアがないからそれをごまかしているに過ぎないのです。
そもそもISO14001:2015規格では次のような文章です。
6.1.2 組織は、(中略)、組織が管理できる環境側面及び組織が影響を及ぼすことができる環境側面、並びにそれらに伴う環境影響を決定しなければならない。
組織は、(中略)、著しい環境影響を与える又は与える可能性のある側面(すなわち著しい環境側面)を決定しなければならない。
組織が「決定しなければならない」そうです。決定って何ですか? あの娘と結婚するとか、この株に投資すると「決断する」ことなんでしょうか?
日本語訳なんて信用できません。英文ではどう書いてあるのでしょう?
the organization shall determine the environmental aspects
the organization shall determine those aspects (中略)significant environmental aspects(後略)
いずれもdetermineとあります。determineは決定なのか?
以前「翻訳の問題」という文章で解説しましたが、決裁者の意思で決定できることではなく、調査究明した結果判明した事実という意味です。日本語の意味で言えば「特定する」とか「究明する」が正しいでしょう。
6.1.3 a)には「組織の環境側面に関する順守義務を決定する」とあります。まともな日本語ではありません。外国人が訳したのでしょうか? いや外国人だって「てにをは」を間違えることがあっても「どの法律を守るか決定する」なんてことは論理的ではないとわかるでしょう。
関係する法律は守らなければならないのです。
なぜ法律を守らなければならないのか? それは簡単明瞭です。守らなければ罰則を受けるからです。刑務所に行きたくない、前科者になりたくないなら法律を守らなければならない。
ならば「どの法律を守るか決定する」なんてふざけたことを語っていては、まともに社会を渡っていけません。そういう人たちを反社会的勢力といいます。
6.1.3 a)は正しくは「組織の環境側面に関わる順守義務を特定する」とか「究明する」と訳さなければならないのではないですか?
それともあなたは「おれが法律だ」とうそぶいて制限速度100キロの道を150キロで走りますか? ISO14001の翻訳者は、そういう人生を送ると私は期待しております。きっと花道で声がかかるでしょう。
スコアリング法で点数をつけて上位を決めるというのはまさに天上天下唯我独尊で「己が決定できる」と信じているのでしょうね、バカだからです。
バカな人たちの話をしましょうか、
PCBってご存じですよね。私が中学の頃でした。米ぬか油を使った人たちに種々の症状が出た。米ぬか油にPCBが混入したのです。いろいろなことがありましたが、PCBの危険性が明らかになり、PCBの生産、使用が禁止されました。
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もしPCB機器が10個から2個に減ったからと著しい環境側面から外した会社があれば、アブナイから近づいてはいけない |
ISO審査員が来て「保有しているPCB機器が減ったのだから評点が下がり著しい環境側面からはずさなければおかしい」と言いました。
おかしいのは審査員の 頭 です。
非常に危険な毒性のあるものを1トン保有していれば著しい環境側面で、100キロになったら著しい環境側面でなくなるのですか?
青酸カリを1キロ持っていたら法の届け出が必要で、100gなら野放しですか?
マリファナは100g以下ならOKですか?
未成年でもタバコ1本ならOKですか?
さあ、審査員 答えてもらおう!
著しい環境側面とはなんでしたっけ?
そうです、事故が起きるおそれのあること、法規制のあるもの、経営に影響あるもののことです。毒物が100キロもあったら完璧に著しい環境側面ではありませんか! 10キロでも、1キロでも、100gでも同じです。いや1gだって著しい環境側面に間違いありません。ゼロになるまで著しい環境側面という位置づけは変わらない。
実際に終末期 家庭にいる患者さんにはモルヒネなどが投与されます。そのような規制が厳しい薬品を取り扱っている薬局では厳格な管理をしています。投与量はmgですよ。量が少ないなら……そんな理屈は通りません。
そういうことを理解していない人が、審査員をするということが大間違い。よくぞ審査員になれたものです。
それはPCBに限りません。廃棄物は少量でも法で定めた処理方法でなければ違法です。修理屋がエアコンの部品交換をして、取りはずしたプラスチック部品を無許可業者に頼んで罰金100万払ったのを知ってます。罰金ですと前科がつきます。一生前科者です。履歴書に書かないとなりません。言っておきますが私じゃありません。
冒頭にあげたY様の会社で「廃棄物が減ったらどう評価するのか」と質問した審査員は、廃棄物が少なければ著しい環境側面でなくなると考えていたのでしょう。
廃棄物は量に関わらず規制を受けることを知っていれば、そんなバカなことを語らないでしょう。
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もちろん廃棄物が少なくなれば伝票もデータ処理でも仕事量は少なくなるでしょうけど、著しい環境側面でなくなることは絶対にありません。
注:私が語っているのは産業廃棄物だけではありません。
一般廃棄物は産業廃棄物ほど細かく書かれてませんが、違法な処理をすれば処罰されるのは同じです。マンションのごみ捨て場に、近隣住民がごみを出して不法投棄で捕まったなんて報道はたくさんあります。
そこには量的な評価ではなく、イチかゼロかの判断しかありません。
PCBの保有、廃棄物の処理などは、法規制がかかる足切りというか閾値がありません。ゼロでなければ法規制がかかるのです。
もちろんそうでないものもあります。燃えるもの、法律で危険物と呼ばれますが、石油やガソリンには指定数量という値が決まっており、それ未満の量であれば届け出せずに保管しても無資格者が使っても合法です。
ならばそういうものはスコアリング法が適用できるのかとなりますが、スコアリング法以前に、指令数量以上か未満かという該非判定の方が正しくはないですか?
注:指定数量未満は市町村条例で規制することになっており、野放しではない。
電力を例にとれば使用量に比例して点数をつけるより、省エネ法の規制への該否を考慮するのがまっとうでしょう。だって考えてごらんなさい、使用量を削減すれば料金は減りますが、削減しても管理することに変わりはありません。
話はぱっと変わります。
いやそれは正確な表現ではありません。届け出や有資格者が必要であれば会社は法に従って処置対応するというだけです。ISO規格作成者が、後追いでそういうものを著しい環境側面と呼んだにすぎません。
まともな企業なら調べた結果、届け出や資格者や安全対策が必要であれば対策を実施するのは当然ですが、それらを著しい環境側面と呼んでいたはずはありません。だって1996年にISO14001が翻訳されるまで日本にはそんな熟語がありませんでした。
ともかく管理者はそういったものは、しっかり管理せねばならないと認識していたでしょうし、作業者は作業指示書通りに仕事をしていたのです。
ところでISO14001規格をじっくりと眺めましたが、ISO規格でいうところの著しい環境側面であれば、社内で著しい環境側面と呼ばなければならないとは書いてありません。
それどころか附属書A.2に
「この規格では、組織の環境マネジメントシステムの文書にこの規格の箇条の構造又は用語を適用することは要求していない。組織が用いる用語をこの規格で用いている用語に置き換えることも要求していない」
とある。
つまりISO規格でいうところの環境側面に該当する設備や工程やモノについては、しっかり管理せねばならない。しかしそれをどう呼ぼうとそれは企業の勝手である。審査員は環境側面にあたるものを、その組織が認識しており、かつしっかりと管理しているかどうかをチェックするだけであること。
ISO認証を受ける組織は、1.事故が起きるおそれのあること、2.法規制のあるもの、3.経営に影響あるものについては、関連する部門や人に、法規制や環境影響を伝達し、教育する、また経営者は経営判断や環境目標を立てるとき考慮することをしなければならないということだ。
いや、それって当たり前であり、どんな会社でも従来からしていたことではありませんか。
私は化学物質を新規採用するときの審査をしていたことがあります。採用部門はMSDSや必要な理由や試験結果などを添付してきて、私がそれらを審査し、決裁者である統括安全衛生責任者に伺い出るわけです。
私は社内で使っている化学物質のリストを持っていましたが、特定施設や廃棄物など知りませんでした。会社というのは司司で動いています。全部まとめたものが必要なら作るでしょうし、化学物質担当、公害担当、特定施設担当と別れていれば、みんな合わせた著しい環境側面リストなど作っても意味がありません。
まあ自分の目で見てどれが著しい環境側面か分からない審査員には必要な文書かもしれません。
注:
当たり前っちゃ当たり前のことです。世の中にはISO事務局がはっちゃけて、なんにでも手を出しているところも多いようですが。
「燃えろドラゴン」という映画の中で「考えるな、感じろ(Don't think! Feel.)」というセリフがあるそうです。
これって考えなくてよい、感じればOKという意味ではないそうです。普段の練習では、考えて・考えて・考えて、理解し実行できるようになること、そして実戦ではそれを忘れて相手の動きを感じて戦えという意図なんだそうです。
環境側面さえ理解できてない審査員は、ひたすらISO規格を読み、考えて・考えて・考えて、力をつけてほしい。もっとも実際の環境管理業務に就いたことがなければ、感じるようになれるのかどうかは定かではない。
本日のお誘い
1998年に審査を受けたとき、環境側面の特定の際、ホチキスの針が漏れているからダメとおっしゃった審査員の方、ぜひともホチキスが重要であることを教えてください。
そこは1000人以上いた製造業でしたが、ホチキスの針の環境影響がそれほど大きいとは知りませんでした。
1999年に環境側面の特定方法で不適合を出され、私がISOTC委員に問い合わせたら適合と言われたと申し上げたら、私はISOTC委員より詳しいとおっしゃった審査員の方、ぜひとも審査員先生の知識をご披露願います。
2003年に私が指導していた会社で、スコアリング法でないからダメとおっしゃった審査員の方、きっと中西準子教授のように実験から得た数値をもとに算式を作られたと推察いたします。ぜひともご教授いただきたい。
2008年にスコアリング法でないとダメなのかとお聞きしたら、他の方法をご存じなかった認証機関の取締役の方、今はいかがでしょう?
みなさん、メールをいただきたいとお願い申し上げます。
もちろん私が相まみえてない審査員、認証機関の幹部の方でもOKでございます。
本日の疑問
私は異常に審査員に恵まれなかったのでしょうか?
それとも私は普通レベルなのでしょうか?