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若さと勢い! が「疫病神」をふっとばす!
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(2010.01.06) |
笑わぬ監督が初めて笑った!
実業団駅伝チームとしての日清食品グループ……。
不可思議なチームである。スター選手をあつめ、いつでも優勝できる戦力をもちながら、この10年をふりかえって、2位が2回、3位が4回と、いま一歩にところまで肉薄しながら、分厚い壁をぶちやぶれないまま現在にいたっている。
毎回、優勝候補の一角にあげられるのだが、1区でおおきく出遅れたり、肝心要のところでブレーキする。どこかチグハグで不測の事態がここまでたびかさなると、もはや「死に神」にとりつかれている……としかいいようがない。
もしかしたら……。
監督の白水昭興(しろうず・てるおき)が死に神にとりつかれているのではないか? そんな思いに駆られてきた。
優勝請負人を自認する白水はジプシー監督である。これまで4チームの監督を経験した苦労人である。だが不運の人でもある。
最初に監督についたのは陸上の名門・リッカーである。79年に就任するも84年に会社が倒産してしまう。選手とともに日産自動車に移籍するも、その日産は業績不振におちいり、93年に陸上部は休部になってしまう。次に移籍したダイエーも98年に休部してしまうのである。
監督自身が「死に神」にとりつかれているのでは? などと思うのは、そういう悲運な経歴がもたらした連想によるものだろう。
それはともかく、日清食品に移籍して11年、白水監督は「笑わぬ」人だと思ってきた。事実、この人の笑顔をいちども観たことがないのである。
ところが……。
2010年1月1日……。笑わぬ監督が笑うさまを初めてみた。満面の笑みというわけではないが、頬がほころび、白い歯をみせた。とくに恵比寿さまのようなやさしい眼もとが印象的だった。
白水昭興と日清食品にとりついた「死に神」をふりはらったのは、監督にとって息子の年齢にひとしい「若い力」であった。出場7人のうち6人が25歳以下、なかでもチームに新風をもたらしたのは入社1年目〜2年目の活きのいい選手たちだった。
若い力が台頭! 1区は木原真佐人
区間編成がかわった前回から、レースの性格はおおきくかわってしまった。ふつうスタートの1区はレースのポイントになるが、本大会にかんするかぎり、それほど重要な区間ではなくなった。
1区と外国人特区の2区とをセットにして、たとえば競艇でいえばスタート前に待機行動という位置づけになってしまった。両区間では先頭からおおきく遅れなければいい。ほんとうのスタートは3区からはじまるという位置づけになってしまったのである。
だからといって、1区をないがしろにしていいというのではない。ここで大きく遅れをとってはレース以前になってしまう。
その1区で勢いよくとびだしたのはカネボウの新勢力・木原真佐人であった。スタートから先頭を引っ張りはじめ、1q=2:52といえばまずますの入りであった。旭化成の大野龍二、日清食品の座間紅祢が追うというかたちで幕あけた。
3qになっても大集団、木原を中止にして37チームがたんたんとすすむ。3q=8:53はややスローの展開というべきか。
4qで自衛隊体育学校の室塚健太を先頭に出てくる。7qでは四国電力の大森輝和が先頭をひっぱりはじめるが、いぜんとしてスローの展開にかわりはなく、ほとんど遅れるチームはない。
レースがうごいたのは7qなかばあたり。カネボウの木原が一気に前に飛び出る。このあたりから遅れ出すチームがちらほらと出てくる。
8qすぎで、こんどはトヨタ自動車九州の三津谷祐がトップに立ち、後続をちぎったが9qで後続集団に吸収されてしまう。10qではスズキの清水大輔が、11qでは東京電力の若松儀裕が……と、トップはめまぐるしく変転するが、11.8qになって木原がふたたび先頭に立つと集団はばらけた。
木原のスパートに追ってきたのは日清食品の座間、3位の東京電力・若松以下ははなされて1区は結着した。
候補のコニカミノルタ、中国電力、トヨタ自動車はトップから10秒以内、富士通、HONDなども25秒以内につけたが、旭化成の大野龍二は後半へばって27秒おくれの21位にしずんだ。旭化成は2区に外人をもたないだけに、この遅れは致命傷になった。
2区は外国人選手の特別区だが、なんと区間1位から18位までを外国人選手が占めている。
そんななかで快走したのがスズキのM・マサシであった。トップから6秒おくれの6位につけていたマサシは4qで日清食品のゲディオンを抜いてトップに立ち、後続をどんどのひきはなした。
九電工のR・タヌイが25秒おくれの20位から一気に5位まで順位をおしあげてくる。その後ろからは森コーポレーションのダビリが34位から一気に11位までやってきた。スズキ。HONDA、トヨタ自動車、日清食品、九電工、NTN、カネボウ、日立電線、富士通、トヨタ紡織、小森コーポレーション、愛知製鋼、JALグランドサービス、マツダ、JFE、SUBARU、ヤクルト……と、17位まで、すべて外国人起用のチームが上位にやってきた。だがトップから10位までは48秒である。
そのなかに日清食品、コニカミノルタ、富士通、トヨタ自動車、HONDAは含まれていたが、中国電力は遅れをとって1:36おくれの20位、旭化成は2:00おくれの26位と後退して、早くも圏外に去ってしまうのである。
勝負どころの3区でもルーキーが活躍!
1区、2区の待機行動を経て、いよいよ3区からあらためてヨーイドンとなったのだが、優勝争いののこった日清食品、トヨタ自動車、コニカミノルタ、HONDAが、ここからはげしくせめぎあうことになる。
トップをゆくスズキの中川智博を、後ろから日清食品の佐藤悠基、Hondaの石川末廣、トヨタ自動車の浜野健が急追、2.4qでスズキをとらえ、4チームが集団となる。3q、4q、5qと並走はつづいたが、6qすぎで中川が脱落した。
3チームの先頭争いがつづくなか、9qすぎで浜野健がしかけるが、佐藤も石川もはなれない。
10qすぎから日清食品の佐藤悠基が先頭に立ち、11qでスパートをかけると、差はみるみるひろがった。
かくして日清食品は3区に起用したルーキー・佐藤悠基の快走で、トップをうばうのである。
それにしても……。浜野健、石川末廣という実業団の猛者を相手に落ち着いたレースぶり、やはりタダモノではない。
3区で予定通りにトップを奪った日清食品、そのままVロードを突っ走るものと思われたが、現実はそんなに生やさしいものではなかった。
4区で北村聡が後続につかまるでのある。トヨタ自動車の尾田賢典に追われて、6q手前でならびかけられてしまう。そして8qすぎで尾田がトップに立った。北村と尾田のトップ争いは14qまでつづくのだが、そんな二人を後ろでみていたHondaの藤原正和がじりじりと追ってくる。
18.5qで尾田が北村をひきはなしてしまうのだが、その北村を藤原が19qでとらえて2位に浮上、20キロではトップの尾田にもせまる勢いをしめした。21qで藤原がロングスパートをかければ尾田が必死bの形相でくらいつく。両者のトップ争いもみどころ十分であった。
そんなトップの攻防を尻目に、後方では遅れていた中国電力が佐藤敦之の区間賞の快走で11位から一気に57秒差の6位まで順位をあげてきた。富士通も堺晃一の好走で48秒差の4位まであがってきて、トップをうかがう位置までやってきたのである。
日清・保科! 中盤で流れをかえた!
4区で17秒差ながら3位まで順位をおとした日清食品、富士通、中国電力、コニカミノルタが上げ潮ムードになっているだけに、「またしても……」と思われたが、そんな一抹の危惧を杞憂におわらせたのが5区の保科光作である。
トップグループとなったHondaの堀口貴史とトヨタ自動車の高橋謙介を20秒差で日清食品の保科光作が追い、その後ろをコニカミノルタの山田紘之、富士通の藤田敦史、中国電力の岡本直が集団で追っかけてくる。
追う保科は意外にも冷静だった。じっくりとかまえてトップ争いをくりひろげる堀口と高橋をみつめる姿が印象にのこっている。
レースが動いたのは12qすぎで、Hondaの堀口がスパート、落ちてきた高橋を13.5キロで保科はとらえて2位にあがると、14キロではトップの堀口をもとらえてしまうのである。後ろからも脅威がせまってくる。4位集団のなかから中国電力の岡本直己と藤田敦史が抜けだして迫ってくるのである。
日清食品の保科は最後の最後で堀口をふりきって、ふたたびトップをうばったが、中国電力、富士通、コニカミノルタが15秒差にせまっていた。優勝争いが混沌としてきたなかで6区にタスキがわたるのである。
日清食品の6区は最年長30歳の徳本一善であった。徳本は3q=8:53でトップ通過、2位以下は10秒あまりの差でダンゴ状態、Hondaの山中貴弘、中国電力の田中宏樹、富士通の岩水嘉孝、コニカミノルタの松宮隆行がつづく。
8qあすぎで徳本がペースアップして2位以下との差をひろげにかかるが、10qあたりからコニカミノルタの松宮隆行がスパートして抜けだしをはかる。富士通の岩水嘉孝はつづいたが、中国電力の田中宏樹は大きく遅れた。
箱根の汚名を晴らす! 小野裕幸が区間賞で決めた!
かくして6区を終わってトップの日清食品と2位のコニカミノルタとの差は11秒、さらに4秒差で富士通がつづく。そこから11秒さの中国電力もふくめて、4チームのよるアンカー勝負になるのである。
日清食品のアンカーはルーキーの小野裕幸、追うコニカミノルタは坪田智夫であった。11秒差なら坪田に分のあるところだが、駅伝は名前が通用する世界ではない。
ルーキーながらルーキーの小野裕幸は落ち着いていた。坪田智夫、3位・富士通の太田貴之がハイペースで追いはじめ、4qでは差は詰まったようであった。
事実5qではその差9秒となった。6qでは8秒……、だが坪田の追撃もそこで息切れしてしまった。10qでは逆に14秒とひろがり、流れは一気に日清食品にかたむいたのである。 後ろを引きつけておいて、勝負どころで一気に突き放した。佐藤悠基といい、小野裕幸といい、天下分け目の局面で無類の勝負強さを発揮する。そういう若い力がチームに新風をそそぎこみ、日清食品にとりついていた「死に神」を追いはらったというべきだろう。 さらに……。
小野裕幸といえば2008年の第84回箱根駅伝におけるエピソードを誰も忘れはしまい。順天堂大の5区のランナーとして登場した小野、小涌園前までは区間3位通過で快調な足どりだったが、ゴールまで残り500メートルで脱水症状による低血糖状態、何度も倒れながらも襷を繋ごうとしたが、抱きかかえられて途中棄権となった。
まぎれもなく「死に神」だったのである。「死に神」にとりつかれていた小野が日清食品にとりついていた「死に神」をみごと振り払って、自身の汚名も濯いだのである。歴戦の強者・坪田智夫をおさえての区間賞、みごとな走りだった。
日清食品の黄金時代到来か?
日清食品の勝因は若い力の爆発というべきか。徳本一善のほかはすべて25歳以下の選手である。ルーキーの佐藤悠基、小野裕幸のほか座間紅祢、北村聡、保科光作、いずれも箱根で活躍したスターである。
近年は大学駅伝のスターでも実業団では通用しないケースがおおいが、かれらは着実に力をつけている。なによりも勝負強さがきわだっていた。指導・育成方針が成功したというべきだろう。かれらがチームに新風をそそぎこんだことはまちがいない。
2位のコニカミノルタもさすがという戦いぶりであった。いま一歩まで迫りながら、およばなかったのは勢いの差というものだろう。敗因は前半の戦いぶりにある。3区までにトップから1分も離されるという流れの悪さだろう。
同じことは4位の中国電力にもいえそうである。3区までにトップから2分ちかく離されては4区に佐藤敦之をもってしてもトップを奪うことはむずかしかろう。
3位の富士通も3区で1分半も離されたのが痛かった。4区からの猛追はみごとだっただけに惜しまれるところである。
旭化成も終わってみると8位と入賞ラインにやってきた。やはり前半のアヘッドが明暗を分けたようである。
ヨタ自動車、Hondaは最終的に5位、6位におわったが、中盤では優勝争いにからんでいただけに、その戦いぶりは評価していいだろう。
日清食品の台頭で実業団駅伝もあたらしい時代を迎えたといえるだろう。若い伸び盛りの選手ばかりなので、「死に神」からの呪縛からも解放されて、しばらくは日清食品の王座がつづくのかもしれない。
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