第26回横浜国際女子駅伝大会



エチオピアが4年ぶり2度目の制覇!

 駅伝シーズンの最後を飾る横浜国際女子駅伝は2月24日、横浜市の横浜赤レンガ倉庫を発着点とする6区間、42.195qのコースを舞台にしておこなわれました。参加は昨年と同じく14チームでナショナルチーム7カ国と地域選抜など14チーム。 終始10メートルをこえる強風が吹きすさび、時には突風がやってくるという悪コンディションでしたが、エチオピアが2時間14分47秒で4年ぶり2度目の優勝を果たしました。
 序盤の主導権をにぎったのは日本、1区、2区で先行しましたが、エチオピアが3区でトップを奪い、4区の後続を突き放して独走態勢を築き、そのままゴールまでタスキをはjこんでゆきました。日本は1区の小林祐梨子、勝又美咲が区間賞、他のメンバーも実力を出し切りましたが、最後は地力の差でエチオピアにはおよびませんでした。
 3連覇を狙っていたロシアは全般的にコンディションがいまひとつだったのか、力ありながら伸びきれず、いずれのランナーも凡走に終わりました。


◇ 日時 2月24日(日)12時00分スタート
◇ 場所 横浜市
◇ コース 神奈川・みなとみらい21「横浜赤レンガ倉庫」発着 42.195Km  
◇ 天候:晴れ 気温:6.7度  湿度:26%  風:北北西10.24m
◇エチオピア(B・ウルゲサ、W・アヤレウ、W・アヤヌ、G・ゲタナ、Y・タイエ、M・ハルン)
◇日本(小林祐梨子、赤羽友紀子、湯田友美、小島一恵、勝又美咲、吉川美香)



長距離王国エチオピアが本領発揮!
(2008.02.24)

強風すさぶ天候、エチオピアに吹いた風なのか?

 前日は南東の強い風が吹いて、関東地方には「春一番」が宣せられた。台風並みの強風は夜になって、向きが北よりに変わった。かくして横浜国際女子駅伝のおこなわれる24日は一転、冬の嵐さながらの強風が吹き抜けた。
 午前7時に朝のランニングに飛び出したが、北よりの風がやたらと強く、アゲンストのときはほとんど前に進まなかった。ときおり砂塵が舞い上がるなかを息を切らせて駈けながら、今日の横浜国際女子駅伝、風の影響はどのようになるだろうか……と思いを馳せていた。
 スタート時に発表は北北西の風10m……。みなとみらいの大観覧車が運行中止になるほどであった。体重の軽い女子選手は素っ飛ばされそうな強風下、とんでもない気象条件のもとでのレースだった。ときおりものすごい風が前後左右から吹いてくる。体重の軽い女子選手にとってはなんとも過酷なレースというほかない。事実、突風にあおられているシーンがいくたびかあった。
 大会史上をかえりみても、たとえばイギリスが優勝した84年の第2回大会のように、降りしきる雪のなかでのレースはあったが、終始こんな強風が吹き抜けた大会は史上初めてのケースである。
 風に笑うのはどのチームなのだろうか? レースが始まるまえにそんなたわいもないことを考えてしまった。
 3連覇をねらっているロシアなどは体格のよい選手がそろっていて、馬力がありそうだから多少の風なんか乗りきってしまうのではないか?
 エチオピアの選手たちはクロスカントリー育ちだから、瓦礫の悪路やアップダウンのあげしい野山を駈けている。風が強くてもバランスを失いことはなかろう。若くてスピードもありそうだから、ロシアと好勝負になりそうなのは、むしろエチオピアかもしれない。
 日本勢はかなりいいメンバーがそろったが、馬力の争いになるとちょっと分が悪そうだな。そんなふうにあれこれと思いをこらしていた。


小林祐梨子が昨年のリベンジを果たす!

 3年ぶりに王座奪還をめざす日本は前半勝負に出てきた。1区に小林祐梨子(豊田自動織機)、2区には現状で最も安定感のある赤羽有希子(ホクレン)を配して、主導権を奪って良い流れをつくり、一気にゴールまで突っ走ろうという作戦がオーダーからほのみえた。
 その狙いはまちがってはいなかった。
 見どころはやはり昨年につづいて1区に登場した小林祐梨子だった。前回は1q地点でロシアのショブホワにおいてゆかれ、最後はアメリカのハインズにも競り負けてしまった。だから今年は期するものがあるだろう。天才ランナー・小林がこの1年間でどれほど成長したか。いわばその寸法を測るに絶好のレースであった。
 風を意識したせいなのか。入りは比較的ゆっくりとしていた。九州選抜の高校生・永田あやがひっぱる展開で1q=3:09……。2.2qで追い風になったろころで、たまりかねたように小林がトップに立って引っ張りはじめ、九州選抜のほかロシア(ザドロージュナヤ)、エチオピア(ウルゲサ)、近畿選抜(小崎まり)などが続き、2〜3qは2:55とペースがあがった。
 主導権を握ったのは小林で、いつもながらの力強い走りで、大地を撥ねるようにリズミカルに躰を前に前にと運んでゆく。ほれぼれするような走りだった。
 3q通過は9分04秒、満を持していたかのように小林はスパートをかける。後続は置いてゆかれ、近畿選抜の小崎まりが追ってきたが、差はじりじりとひろがっていった。
 4q通過は12:00で、ピッチはいぜとして衰えることはなく、区間新こそのがしたが、堂々の走りで最後まで押しきってしまった。小林の専門は1500mだが距離が伸びても十分に通用することをみずから実証して見せたといったいい。
 2位には17秒遅れで近畿選抜の小崎まり、21秒遅れで3位には九州選抜の永田あや、ロシア、エチオピアを押さえての大健闘であった。


前半は日本のもくろみ通り! 2区の赤羽有希子が巧走

 2区における日本とエチオピアの攻防もなかなかみどころがあった。
 日本が小林でトップに立ったのは想定どおりの展開だったろう。ライバルのロシアには23秒、エチオピアには26秒ほどの貯金をかかえて日本のエース・赤羽有希子はスタートしたのだが、エチオピアのアヤレウが猛然と追い上げてきて、2q付近でその差を一気に詰めてきたのは想定外だったろう。
 かくしてそこから7qすぎまで両選手の併走がつづくのである。3qの赤羽のペースは9:38、強い向かい風のなかだったから、ますまずというところだろう。
 意外だったのはロシアのアビトワである。まったくリズムが悪くて、3q付近では後ろからてくる近畿選抜の木崎良子、関東・東京選抜の脇田茜、九州選抜の宮内宏子に追われる始末で、まったくいいところがなかった。向かい風をもてあましているようで、あるいは風の影響を最も受けたのはロシアだったのかもしれない。
 トップを争う赤羽とアヤレウが併走しながら後続をぐいぐいと引き離してゆくというかたちでレースは進んでいった。
 赤羽はさすがに駅伝巧者らしく、アヤレウに追いつかれても慌てるそぶりもみせなかった、だからといって前に行かせることもなくたんたんと自分のペースをまもってゆく。5qの通過が16分19秒……。7qが22分24秒……。
 レースが動いたのは7.4qあたりだった。赤羽がスパートをかけると、前半のムリがここにきて堪えたのか、アヤレウはじりじりと後ろに遠ざかっていった。今シーズンの赤羽の充実ぶりは眼を見はるものがあるが、本大会でもその冷静さがきわだった。それだけにわずか2秒差でアヤレウに区間賞をさらわれたのは、残念だっただろう。
 3区を終わってロシアはトップの日本から1分42秒も置いてゆかれ、早くも3連覇はほぼ絶望となり、優勝は日本とエチオピアのマッチレースとなった。


繋ぎの区間が勝負を分けた

 優勝のゆくえ、勝敗を分けたのは3区の攻防であった。24秒差で逃げる日本は湯田友美、追っかけるエチオピアはW・アヤヌである。
 アヤヌの5000mの持ちタイムは14分50秒、湯田は15分35秒、なんと45秒という差、力の差は歴戦としている。3区は6qだが、算数だけでいけば、5qまでにとらえられてしまうことになる。
 予想通りアヤヌは追ってきた。3q=9:02秒でわずか5秒差まで差が詰まってきた。湯田は強風に時おり煽られながらも、懸命にふんばっていたが、3.4qでとうとう捕まってしまった。アヤヌの4qは12:08、5qが15:14秒……、追い風とはいえ、区間新記録をはるかに上回るペースである。
 そのアヤヌよりもさらにハイペースで追ってきたのはロシアのコノワロワだった。眠れる王者がようやく眼を覚ましたかのようであったが、すでにして遅すぎた。コノワロワは区間新記録で区間賞をさらってゆくのだが、徒花に終わってしまうのである。
 湯田友美はエチオピアに交わされたものの、追い風の効果とはいえ自身も区間新記録をマークしている。エチオピアとの差は37秒ならば、実力通りの結果になったということだろう。アヤヌにマトモに走られてはどうしようもなかった。
 テレビには映らなかったが、北海道・東北選抜の熊坂香織の快走が光っている、湯田を上回って区間3位にとびこんできたのは大健闘というべきだろう。
 4区は終始向かい風が強烈に吹き抜けていた。そんななかで無類の強さを発揮したのがエチオピアのゲタナーである。後続をぐんぐんとひきちぎってしまい、メンバー中ただひとり20分を切って区間賞を獲得した。区間2位の小島一恵(日本)との間に57秒もの差がついているのだから、いかにゲタナーが速かったか分かるだろう。



今回は小林のためにある大会だった?

 かくして2位の日本との差は1分09秒、ほぼ勝負は決してしまったのである。エース区間を待つまでもなく、繋ぎの区間で相手をねじ伏せてしまうあたり、エチオピアの強さは際立っていた。
 エチオピアには引き離されたものの日本も懸命にふんばっていた。5区の勝又美咲も今シーズンはひとまわり大きくなったランナーだが、好調ぶりを裏付けるような走りをみせてくれた。エチオピアをじりじりと追いかけ、23秒も詰め、ふたたびトップとの差を46秒差までにした粘りは賞賛すべきだろう。
 エチオピアの勝因はやはり潜在能力あるランナーが持てる力を発揮したこと。さすがは長距離王国である。トラックではなく駅伝ならば紛れもあろう。日本にも十分に乗ずるスキがあると思ったが、甘かったようである。
 日本は2位に甘んじたが、ほぼ持てる力を発揮したといっていい。1区の小林と5区の勝又が区間賞、2区の赤羽と4区の小島は区間2位、3区の湯田は区間4位だが、区間新記録を更新しているのである。相手が強すぎたというほかない。
 意外だったのはロシアである。3連覇がかかっていたのだが、今回はまるでヤル気にはなっていなかった。実力からいけば一枚抜けた存在だったが、オリンピックの年だから、選手それぞれ目標は別のところにあるのだろう。今回はきちっと調整してレースにのぞんではいなかったようである。
 前回2位のアメリカも今回は1区で出遅れて、後方のままに終始してしまった。中国とともにいかに期待はずれというほかない。
 地域選抜では今回も九州選抜が4位に食い込んだ。1区の永田あやが快走するなど、若い選手たちに勢いを感じた。
 本大会の存在意義については毎年書いているから繰り返さない。ただし今回に関するかぎり、小林祐梨子のためにある大会だったと言っておこう。この大会があればこそ、ゆえあって実業団駅伝も学生駅伝も走れないでいる小林祐梨子をファンも観ることだできたのである。

出場チーム&過去の記録

出場チーム






関 連 サ イ ト

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最 終 成 績
<順位 チーム名 記  録
エチオピア 2時間14分47秒
日   本 2時間16分41秒
ロ シ ア 2時間20分47秒
九州選抜 2時間21分45秒
関東・東京選抜 2時間22分05秒
近畿選抜 2時間22分17秒
東海・北陸選抜 2時間22分57秒
神奈川 2時間23分48秒
北海道・東北選抜 2時間24分30秒
10 中国・四国選抜 2時間24分55秒
11 中   国 2時間25分11秒
12 アメリカ 2時間25分53秒
13 モロッコ 2時間28分30秒
14 ポーランド 2時間32分39秒



区 間 最 高
区間 距離 選手名 所属 タイム
5.0 小林祐梨子 豊田自動織機  15:04
10.0 W・アヤレウ エチオピア  31:41
6.0 M・コノワロワ ロシア  18:10◎
6.0 G・ゲタナ エチオピア  19:23
10.0 勝又 美咲 第一生命  32:39
5.195 M・ハルン エチオピア  16:50




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