 |
5つの区間賞でぶっちぎり! 史上最強メンバーで大会新!
|
(2008.01.14) |
四半世紀! 果たしてきたその役割りの大きさ!
京都でおこなわれる全国女子駅伝は女子駅伝のなかで最も伝統ある大会である。第1回のおこなわれた1983年当時、女子マラソンがロス五輪から採用されることがきまっていたが、日本の女子長距離はきわめてお寒い状態だった。
トラックでも長距離に取り組んでいる選手はほとんどおらず、長距離種目も新設されたばかりで、インターハイなどは800mが最長の種目だった。すでにして女子マラソンが始まっている欧米とくらべて大きく水をあけられていたのである。
むろん欧米との落差そのものが、日本における女性の社会的地位と大いに関係があった。しかし欧米では男子しかやらなかったハードなスポーツに女性が進出するというケースがひとつの風潮のようになっており、そういう地殻変動の兆しが日本にやってきても何の不思議もなかったのである。
日本女子長距離の育成はそうした流れと無縁ではなかった。ロス五輪のマラソンを視野において、女子長距離の強化にとりくまなければ……。なんとか世界との距離を埋めなければ……。
女子のマラソンや長距離の選手がいないわけではなかった。佐々木七恵、増田明美、をはじめとして、たとえば実業団の旭化成などではマラソンや長距離をめざす選手たちもいたのである。事実、第1回大会を制したのは千葉だったが、あの増田明美(川鉄千葉)がアンカーとして優勝テープを切っている。
しかしながら、長距離の選手層がいかにも貧弱だった。ひとにぎりの選手だけではどうにもならない。国をあげてマラソン、長距離をめざす選手層を分厚くしなければ、世界では戦えない。
中学生から実業団の選手まで走る都道府県対抗形式の女子駅伝は、そのような背景から産まれたのである。
女子の長距離強化のため、なかでもマラソンでの世界制覇をみすえた遠大なロマンを馳せて出発したのである。
あれから25年、つまり四半世紀……である。日本女子は強くなった。オリンピックではマラソンで2連勝、北京で3連勝をめざすまでになった。そのかぎりにおいては驚異的なスピードで成長をとげてきたといえるだろう。
長距離をトータルでみたとき、まだまだ世界の一流国とはいえないが、いまや男子をはるかにしのぐまでになってしまった。全国女子駅伝の果たしてきた役割はきわめて大きいものがある。
北京オリンピックのおこなわれる今年、全国女子駅伝は奇しくも新しい四半世紀の緒戦となるのだが、名実ともに女子長距離の一流国をめざすこと、それが新しい課題になるのだろう。
1区の攻防が勝負を決めた
気温7度で曇天もよう。風も強くて、ときおり雪しぐれが来そうな寒々とした雲ゆき、いかにも京都の冬らしい底冷えを感じさせる一日であった。
だから地の利を味方にしたというわけでもあるまいが京都は強かった。京都、兵庫、岡山の三つどもえ……とみていたが、フタをあけてみれば京都の強さは予想をはるかに越えていた。
勝負は1区にして決した。だから、観戦するレースとしては、いささか平板なレース展開となってしまったようである。
兵庫や岡山がだらしなかったというわけでなない。むしろ勝負をかけてきた。とくに岡山などは京都を意識して、前半重視のオーダーで果敢に勝ちに来ていた。
1区は各チームのエース級の顔がずらりとそろっていた。弘山晴美(徳島)、清家愛(愛媛)、松岡範子(静岡)、勝又美咲(東京)、桑城奈苗(滋賀)、中村友梨香(岡山)、吉川美香(神奈川)、岩元千明(鹿児島)、赤石久美(茨城)など、名のある実業団選手たち、さらには大学駅伝のエース的存在の木崎良子(京都)など……。
岡山などは本来ならば最終区に配すべきスーパーエースを、あえて1区もってきており、京都の出鼻を叩いて逃げようという戦法がありありみえていた。
1q=3:08と入りはまずまずだが、最初から中村、岩元、清家といった主力どころが前に出て集団をひっぱりはじめた。そうなればおのずとペースは速くなるのでは……と思われた。
だが中間点までおよそ27チームがひしめきあって先頭集団をなしている。むろん主力どころはみんなふくまれている。京都の木崎もしっかりくらいついていた。
中間点は9分30秒……。岡山の中村がたまりかねるように前に出た。東京の勝又、京都の木崎、鹿児島の岩元がするどく反応、静岡の松岡、熊本の江藤佑香子、愛媛の清家、徳島の弘山晴美などもついてきたが、4手前から兵庫の中道早紀はじりじりと遅れ始めた。
4qすぎになると岡山の中村が仕掛け、10人あまりの先頭集団を割って前に出た。中村のついてきたのは京都の木崎と静岡の松岡で3人は5qを16分で通過、トップ争いは完全に3人にしぼられた。
今シーズン、中村友梨香の好調さはきわだっているが、ここでも残り300mで猛然とスパート、追いすがる松岡と木崎を振り切った。1秒遅れで松岡、3秒遅れで木崎がとびこんだ。
岡山は予定通りに1区でトップに立ったが、ライバルの京都が3秒遅れでつづいたのは誤算だっただろう。エースを投入したからには1区の中村で少なくとも30秒以上はかせいでおきたかったにちがいない。
逆にいえば、京都の木崎良子は大健闘! 実業団トップクラスの中村にわずか3秒しかおくれなかったのである。だから木崎の踏ん張りが、2区以降の京都に勢いをつけたとみるべきだろう。兵庫は37秒遅れの12位に終わったが、2区の小林でトップに出るには、少なくともあと20秒ぐらいは稼いでおきたかった。
帰ってきた小林祐梨子、今年も魅せた!
昨今では2区も重要な区間になっている。3区の中学生は計算できないから、とりあえず2区で好リズムをつくっておきたいと考えるのは当然のなりゆきである。
岡山は浦田小佳里、京都は湯田友美、そして兵庫は2区のスペシャリストといわれている小林祐梨子だった。
1区で予想以上に好スタートをきった京都は湯田が追い上げて1qですでにして岡山の浦田に追いついてしまった。ストライドののびる大きな走りである。浦田をひとたびは抜いても一気にはゆかない。
兵庫の小林も今年1年、すったもんだで駅伝を走れなかった憤懣を晴らすかのように爆走、2qにして8人抜き、一気に4位まであがってきた。相変わらずスケールの大きな走りである。だがトップ争いに絡むには少し秒差がありすぎた。
トップは3qをすぎても京都と岡山がはげしく競り合っていたが、残り550mになって湯田がスパート、追いすがる岡山を振りきった。岡山が2秒差の2位、そして兵庫の小林が静岡を交わして3位にあがり、トップの京都から35秒差まであがってきた。予想通りに2区で3強のそろい踏みである。
京都は2区で早くもトップを奪ってしまったのだが、あまりにも早すぎて、あるいは想定外だったかもしれない。逆に岡山にとっては最悪の展開になってしまった。1区でトップを奪ったからには少なくとも中盤まではリードを保ちたかったはずである。中盤をもちこたえ、最終区までもつれる展開になれば、あるいは勝機があっただろうと思われるからである。
兵庫は2区で少なくともトップに立ちたかったことだろう。2区を終わって逆に京都から26秒も離されては、すでに勝負は決していた。
京都がとまらない。前半で早くも独走態勢に!
3区は中学生区間である。トップに立った京都の久馬悠は、ひるむことなく積極性のある走りで飛び出していった。好リズムでピッチをきざみ、後続がみるみる置いてゆかれた。1区、2区の流れで勢いがついたとみるべきか。この中学生の走りがすっかり京都チームを乗せてしまった。
後ろから追ってきたのは静岡の湯田佐枝子である。ジュニア・オリンピック3000mのチャンピオンの湯田は兵庫、岡山を抜いて、2区でひとたび4位に落ちた静岡をふたたび2位まで押し上げてきたのである。
3区で区間賞を奪ったのは静岡の湯田佐枝子だが、京都の久馬は快走した。湯田からわずか6秒遅れの区間3位である。2位にあがってきた静岡との差は27秒ながら、ライバルの3位岡山との差は33秒、4位兵庫との差は34秒と大きくひらいてしまったのである。
京都の4区は世界陸上マラソン代表の小崎まりであった。本来ならば最終10区に登場してきてもいいランナーが4区に出てくる。なんともぜいたくな布陣である。
小崎は1q=3:07秒で入ると、さすがはベテランの走りと思わせるさばきで後続との差をどんどんとひろげてしまった。サングラスの奥の眼中には、もはや岡山も兵庫もなかっただろう。
後続では兵庫と岡山がならんで静岡を追い上げ、2位争いが激しくなっていたが、もはや小崎は彼女たち視界から消えていた。
4区を終わってトップの京都と2位の兵庫との差はなんと53秒にひらいてしまった。
2位は区間ごとに変転するのだが、1位との差はどんどんひろがってゆく。京都のペースにまんまとハマってしまったのである。
なんと5区連続で区間賞!
4区の小崎まりは区間賞を獲得すると、京都の勢いはもはやとまらない。5区になると霙が降り出したが、そんななかを夏原育美がたんたんとしたピッチを刻んで後続を寄せ付けなかった。激しく2位を争う岡山と兵庫を尻目に区間賞、さらに6区は暮れの全国高校駅伝で優勝テープを切った竹中理沙が、そして7区の伊藤紋もつづいた。
立命館宇治トリオがそろって区間賞の快走である。かくして4区で53秒差だった2位との秒差が5区では1分02秒、6区では1分27秒、7 区では1分47秒……と、どんどんひろがってゆくのである。しかも大会新記録を1分以上も上回るペースであった。
8区の中学生・久馬萌にタスキが渡ったときには、もはや追ってくる岡山も兵庫もみえなかっただろう。
京都の勢いはとどまるところを知らずというべきか。中学生の久馬もいい緊張感をもって走れたようだ。終わってみれば47人中唯一、10分を切るタイムで堂々の区間賞である。後ろでは岡山と兵庫の2位争いがつづいていたが、最終的に2位にやってきた岡山との差を2分16秒までひろげてしまうのである。
8区を終わったところで岡山と兵 庫の2位争いはいぜんとしてつづいていたが、京都はだけはまさに独走状態、あとは大会新記録の更新がなるかどうか……が、焦点となった。 それまでの区間記録は15回大会の熊本がマークした2時間15分19秒だが、そのときは最終10区の川上優子が31分01秒という信じられないタイムであがっている。京都のアンカーをつとめるのは大学生の小島一恵だが、32分そこそこなら、なんとかなりそうだ。現在の小島の力からすれば、不可能ではない。かくして大会新記録への期待が一気に現実味をおびてふくらんできたのである。

さすがは野口みずき、光る赤羽有紀子!
京都の最終10区は小島一恵であった。今や大学駅伝では第一人者といえる存在ではある。しかし不安もあった。先の大学駅伝では9.1qまでの距離をこなしているが10qは初めての経験なのである。
京都の優勝はまちがいなかろうが、大会新記録はまではどうだろうか? だが、そんな懸念をふっとばしたのは、若い伸び盛りの勢いと、駅伝のもつ不思議な流れというものだろう。黒髪を空になびかせて、まるで夜叉のような精悍な顔つき、小島の走りにはゆるぎがなかった。
終始激しかったのは2位争いである。兵庫の脇田茜と岡山の挽地美香が3qあたりから併走状態ですすんだ。脇田は先の東日本実業団で膝を痛めていた。痛々しい走りを眼のまえで見ていただけに、今回の走りを注目していた。だが大阪の世界選手権代表になった実力はダテではなかった。最後 に岡山を振りきったのは地力というものだろう。故障にあえいでいた世界陸上代表ランナーの復活をよろこびたい。
さらに後方からは、先の東京国際マラソンを制して、北京のマラソン代表に内定している野口みずき(三重)が猛然と追い上げてきた。16位でタスキをもらうと、前をゆくランナーをならぶまもなく追い抜いて、西大路にはいるまでにすでに4人抜きである。まるでスピードがちがうという感じ、抜かれたランナーは誰一人としてついてゆけなかった。
8位という入賞圏内にはおよばなかったものの、最後は7人抜きで9位までやってきた。駅伝のために特別な練習はしていなかったというが、みごとな走り、さすがはオリンピックメダリストだけのことはある。
さらに野口の後方からは、あのママさんランナー・赤羽有紀子が追い上げてきた。赤羽のブログによると風邪をひいている……とあり、その影響が懸念された。しかしながら区を終わって栃木は29位だったが、ゴールでは20位まであがってきていた。
9人抜きで区間成績は野口みずきに次ぐ2位、野口から遅れることわずか9秒ならば健闘したというべきだろう。体調が万全でないにもかかわらず、レースではそれなりにきっち結果を出す。今シーズンの好調さを裏付ける結果というべきだろう。
さて、京都の小島一恵だが、最後まで集中力を保って最後まで力走した。大会新記録のプレッシャーに屈することなく初の10qを走りきったのはみごとというほかない。
彼女の終始ひきしまった表情がゆるんだのは4本の指を空にかざして、4連覇のゴールにとびこんだときだった。 区間成績は野口、赤羽という実業団のトップクラスに次いで3位、それよりも残り2qからペースをあげた底力に、彼女のかぎりない将来性を感じさせられた。
いつまで続く? 京都、兵庫、岡山の3強体制!
優勝した京都は選手層がいかにも分厚かった。高校駅伝の覇者・立命館宇治から3人、大学駅伝の覇者・立命館大と2位の佛教大から1人ずつ、小崎まりや湯田友美も実業団のトップクラス、さらに中学生も強い。立命館大学のもう一枚のエース・樋口紀子などは出る幕がなくて、控えに回るという贅沢さであった。
9人のうち5人までが区間賞、残る4人も区間2〜3位を占めている。まったくアナというものがみつつからない鉄壁の布陣、25年の歴史をかえりみても、最強メンバーといってもいい。さらに昨年から指導陣もすべて女性にした試みも実を結んだのだろう。
それにしても京都は4年連続で12回目の制覇だというから、ほぼ半数ちかい大会で優勝していることになる。
京都はこのところ一貫して中学生、高校生の強化につとめている。そうした日頃の地道な取り組みが最大の原動力になっている。大学駅伝でも立命館大や佛教大はトップクラスにあり、実業団ではワコールや京セラーがある。ならば京都の王座はそうたやすくは揺るがないとみた。
近年は京都にくわえて兵庫、岡山は3強を形成しているが、兵庫も岡山も出来が悪かったというのではない。ともに高校生が強く、岡山は実業団も強い。今回もそれぞれ持ち味を発揮していた。ともに京都にぶっちぎられてしまったが、それは京都が強すぎたせいである。
京都、岡山、兵庫という安定勢力とは裏腹に、かつての強豪の凋落が目立つようになった。福岡(6位)、熊本(7位)、鹿児島(11位)などはまだいいとして、とくに埼玉(26位)、千葉(30位)の凋落はちょっぴり淋しい思いがする。
今回からふるさと選手制度が改正されて、回数制限が撤廃された。なんどでもふるさと選手として出身都道府県から出場できるようになった。野口みずき、弘山晴美にしても、そういう制度になったがゆえに、本大会に出場できたのである。
中学生や高校生ランナーは実業団のトップとともにレースに出ることは大きな刺激になるだろう。学ぶところも多いはずだ。そういう意味で、制度の改正は時宜を得たものであったということができる。
全国女子駅伝はチャンピオンシップの大会ではないが、女子長距離のボトムアップという狙いをもつ大会である。そのためにも今回の野口みずきや弘山晴美のように、日本を代表するようなトップクラスの選手たちもできるだけ顔をみせてほしいものである。
|
|
|
|
|
 |
|
出場チーム&過去の記録 |
|
 |
関 連 サ イ ト |
|
 |
|