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ルーキーが美濃路に新風をもたらした!
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(2008.12.16) |
永田あやに超大物説! アンカー勝負を制したのはルーキー
わずか1年まえは都大路を走っていた高校生が、いまや日本女子長距離のトップ選手たちが集う美濃路で大仕事をしている。たとえば豊田自動織機のアンカー・永田あや、三井住友海上の4区のランナー・江藤祐香子はともに昨年の全国高校駅伝では花の1区で覇をあらそっている。
永田あや(小林高校)は留学生2人をふくむ先頭集団にくらいつき、日本人トップの3位でタスキをわたした。江藤祐香子(熊本千原台)も5位と上位にふんばった。
1年後……。そのふたりが女子駅伝の王者・三井住友海上と豊田自動織機という優勝をあらそうチームのレギュラーとして登場しただけでなく、出色の活躍ぶりで衆目をあっといわせたのである。なかでも永田あやは本大会で一気にブレークした。
レースは後半の5区になってもつれ、トップの三井住友海上、2位のホクレン、3位の豊田自動織機までが9秒差のなかにはいるという史上まれにみる大混戦、勝負はアンカー結着にゆだねられた。
三井住友海上は純エース格の大崎千聖、ホクレンは木富淑絵、そして豊田自動織機はルーキーの永田あや……である。
故障あがりとはいえ、やはり大崎千聖に分があるか……と思われたが、勝負はあっけなかった。3位の永田は1qすぎではやくも6秒差をつめて2位のホクレンをとらえてトップの大崎の背後にせまったのである。
上下動がなく軽やかな足のはこび……。ホレボレするような走りである。逃げる大崎は5区の大平美樹とおなじように、どこか走りが重いのだ。よもや……、そんなことはあるまいと思ったのだが……。
そして1.4qすぎであった。思わずわが眼をうたがった。永田あやが並ぶまもなく大崎を抜き去ったのである。抜かれた大崎はもはや後ろにつくこともできなかった。
勢いとはコワイものである。永田あやはルーキーながら、今シーズンにはって駅伝はすでに3走、いずれも好調な走りをみせている。全日本の予選ともいうべき東日本実業団では最長の3区(11.95q)を走り、渋井陽子、赤羽有紀子、那須川瑞穂につづく4位、東日本駅伝では5区で区間賞をかっさらった。新人らしからぬ活躍ぶりである。
王者・三井住友の寝首をかいてトップをかっさらった永田、もはや後ろから追ってくるものはなかった。
勢いそのままにゴールまでたすきをはこんだ永田は満面の笑みをたたえ、おおきく空に向かって右手をつきあげた。
それにしても……。高校出のルーキーにやすやすと名をなさしめた。実業団のレベルというものが落ちたのか。それとも永田あやは、たとえば福士加代子に匹敵するぐらいの超大物なのか。
明暗をわけた第1区の攻防
三井住友海上の連覇はゆるがないだろう。誰もがそのようにみていた。事実、前半から中盤かけては三井住友陣営の筋書きどおりにはこんでいた。
1区は今回も2人のお雇い外人がすっとばした。ダイハツのJ・ディネガとパナソニックのC・ムヤンガ。1q=3:20だったが、その後は3:10、3:00と少しづつぺースがあがる。3qでは両外人を中心にして先頭集団が6人にしぼられた。
両外人にくらいついていったのは、アルゼの那須川瑞穂、豊田自動織機の新谷仁美、第一生命の尾崎好美、三井住友海上の山下郁代、そのうしろにワコールの稲富友香らがつづいた。
集団をわったのが、やはり両外人で、4q手前でするすると抜けだした。そして4.5qで満を持していたムヤンガが抜けだして独り旅になった。
5qの通過は15:16、ムヤンガのうしろでは、尾崎、那須川、新谷、山下らがはげしくポジションを奪いあっていた。
ラストでは那須川と新谷が尾崎と山下をふりきってスパート、ムヤンガを追いつめる展開で2区にタスキがわたるのである。
注目の1区のポジション獲りではトップと1秒差で2位にアルゼ、4秒差で豊田自動織機、6秒差で第一生命、候補の筆頭・三井住友海上は7秒差という絶好の位置につけた。 好対照だったのは候補のひとつであるワコールとホクレンであった。ワコールの41秒差もきぎしかったが、ホクレンは57秒差の16位とおおきく出遅れてしまった。昨年とおなじように1区でおおきく出遅れてしまう。
おなじじ失敗を2年もつづけてくりかえしてしまうところに、このチームが翔べない要因があるようだ。後半はトップと肉薄していただけに、1区のミスがくやまれるところである。
駅伝娘・渋井陽子が本領発揮!
2区以降はまさに好発進した三井住友の台本どおりというべきか。
1qてまえでアルゼの谷奈美がトップを奪うのだが、三井住友の高吉理恵が第一生命の桝田悠里をかわしてあがってくる。1qすぎでははやくもアルゼの谷に追いついて並走にもちこみ、1.2qすぎでつきはなしてトップに立ってしまうのである。かくしてレースは三井住友海上を中心にして回転しはじめる。
2区を終わってもワコールは48秒差(7位)、ホクレンは1:26秒差(16位)と、むしろその差はひろがってしまった。対照的に豊田自動織機は9秒差の2位、アルゼは16秒差の3位とあいかわらず好位置をキープしていた。
3区はエース区間、各チームは主力を投入してくる。トップに立った三井住友海上はここに渋井陽子をつかってきた。
さすがは駅伝巧者だなあ……。この日の渋井陽子はおもわずそのようにうなってしまうほどの走りをみせてくれた。
背後からはW・ゲバソ(豊田自動織機)J・モンビ(アルゼ)というお雇い外人が渋井を猛然と追ってきた。渋井は1q=3:08、追ってくるほうは3:03秒である。みるみる差はつまってくる。だが渋井はあわてることはない。
引きつけるだけひきつけてから、突き放した。2q〜3qにペースを2:59にあげると、追ってくるふたりはじりじりと後ろにとおざかっていったのである。駅伝というものをしりぬいた勝負勘はみごとというほかない。
かくして3区・渋井陽子の快走で三井住友海上は独走態勢にもちこむのである。
渋井のはるか後ろでワコールの福士加代子とホクレンのO・フィレスが競い合いながら順位をあげてきていた。
16位でタスキをもらったフィレスは2q=6:00のハイペースで前を追い、4.1qでは第一生命をぬいて一気に5位まで順位をあげてきた。そして7.3qでは前をゆく4位の福士加代子に追いついてしまうのである。
福士は故障あがりで、かならずしも完調とはいえない状態だったというが、ひとたびフィレスにかわされても抜き返すという彼女ならではの根性、なかなかみごとなものであった。ひとたび離されても懸命にくらいつき、わずか4秒しか遅れをとらなかった。
3区を終わってトップの三井海上と2位の豊田自動織機までは57秒差までひらき、3位はアルゼで1分13秒差、4位のホクレンまでは1分35秒差、そしてワコールがよううやく1分39秒遅れながら5位まであがってきた。
赤羽有紀子、脇田茜、そして高見澤有理が快走
かくしてレースの主導権は完全に三井住友海上の手におちて、4区はルーキーの江藤祐香子が。いかにも気持ちよさそうに走り、2位豊田自動織機の差を1分04秒、アルゼまでは1分21秒、4位のホクレンまでは1分57秒という大差をつけてしまう。
もやは勝負あり……か。テレビのまえで思わず寝そべったしまった。まさか5区で大波乱がまっていようとは夢にも思わなかった。
三井住友海上は5区といえばかって土佐礼子の定ポジションだったが、今回はふつうは1区かアンカーに出てくる大平美樹であった。大崎千聖がパンとした状態ならば、若い大崎で押すのだろうが、今シーズンは予選から5区には大平をつかってきている。よほど大崎の状態がよくないのだろう……と、思っているうちに、なにやら大平の走りが怪しくなってくる。
1qのはいりが3:18秒、ところが後ろから追ってくる豊田自動織機の脇田茜は3:08だkら、その差はみるみるつまってきた。さらにそのうしろからはホクレンの赤羽有紀子が3:00秒で急追、5qをすぎてもペースは落ちない。驚異の追い上げで迫ってくる。
5qでは脇田茜がなんと27秒差……と背中が見えるところまで迫まり、さらに赤羽がみるみる脇田を追い上げてくる。
大平の走りはまったくのびない。両手をけんめいにふる姿は、まるで空中であえいでいるかのようにみえた。
勝負の流れはたちまち一変!
9q手前ではトップの大平から3位のホクレンまでわずか20秒、こうなれば追いかける側が有利であろう。9.5qでは赤羽が脇田をとらえて2位に浮上する。11qではその差は4秒まで詰まったが、大平もそこからは意地をみせた。
大平はなんとかトップをまもったが、2位のホクレンとはわずか3秒差、3位の豊田自動織機とは9秒差となり、4区まで稼いできた預金はすべて吐き出すかたちで、冒頭でのべたアンカー勝負にゆだけられるのである。
今年も赤羽有紀子は無類の強さを発揮、感動の走りをみせてくれた。1月の大阪国際マラソンを目標にマラソン練習をしているというのだが、大平美樹とは対照的に、そのスピード力には、いささかの揺るぎもなかった。
ひたすら前をみつめて懸命に追っかける。その鬼気迫る集中力、ひたむきさ、ロードの求道者というべきか。
、北京オリンピックを経験して、またまた一皮むけたようである。初マラソンがますます楽しみになってきた。
豊田自動織機の脇田茜もみごとであった。昨年の東日本実業団駅伝で、彼女はぼくのつい目と鼻の先で足をひきすりながら走り、後続につぎつぎと抜かれていった。
赤羽にこそ遅れをとったが、みごとにその悔しさを晴らした。最終区逆転の足がかりをきずいたといういみでは、むしろ彼女こそが殊勲第一というべきであろう。
この5区で特筆すべきは、スターツの高見澤有理である。高校出ルーキーでまるで無名のランナーだが、区間成績は赤羽有紀子についで2位、なんと脇田茜をうわまわったのである。
5000m=16分台の選手だというから、大健闘というほかない。スターツは高見沢の快走で15位から一気に9位まで順位をあげてきたのである。テレビ画面にはまったく登場することがなかっただけに、彼女の健闘を、声を大にして讃えておきたい。
逆に期待はずれはワコールの野田頭美穂あたりか。せっかく3区の福士加代子が意地をみせたのに4区の樋口紀子とこの野田頭が水をぶっかけてしまった。彼女たち2人がアンカー・湯田友美の出番をなくしてしまったようである。
若さ爆発、怖いもの知らずの勢い!
豊田自動織機は創部9年目、2度目の出場で初優勝である。メンバー6人の平均年齢は20.3歳、最年長は23歳だというから、若い力で新しい風をよびこんだというべきか。小出義雄のもとにあつまったエリートランナー集団だが、ようやくチームとしてのまとまりが出てきたようである。
第1区で3位につけ、終始3位からおちることはなかった。きわめて安定した戦いぶりで堂々初優勝をもぎとった。絶好調で怖いモノ知らずの永田あやに勝負をゆだねる展開になるという「時の運」にめぐまれた。
あえて殊勲者をあげるなら、むろん永田あやもそのひとりだが、むしろ1区で好位置につけた新谷仁美、さらには5区で射程距離まで追っかけた脇田茜のふたりだろう。
破れた三井住友海上はやはり全盛時の爆発力がなくなってきていることは否めない。昨年のメンバーと比較して入れ替わっているのは、岩元千明にかわりに江藤祐香子がはいったことのみである。あとの5人は前回とまったく同じ顔ぶれである。その江藤がルーキーながら快走している。
最大の原因は昨年とは5区と6区が入れかり……であろう。昨年は5区・大崎、6区・大平だったが、ことしは5区に大平をつかい、6区に大崎を配した。その大平が区間11位と彼女にしてみれば不本意な成績に終わった。ほとんどブレーキーである。
大崎の体調が万全ではなかったために、そういう区間配置になったのだろうが、そういう意味では最大に泣き所をつかれて敗れたというべきだろう。
3位ホクレンは惜しかった。今年も昨年とおなじく1区と2区で遅れをとって、大魚をにがした。3区のフィレスが12人抜きの快走、5区の赤羽有紀子の区間賞と2枚のエースを予定通りに活かせる展開にもちこんだが、それだけによけい1区と2区の出遅れが痛かった。
前半の遅れがなければ、きわどい勝負にもちこめていたとみる。それにしても……。ホクレンというチームはなんども同じ失敗をくりかえす。優勝のチャンスなどそれほどおおくはない。だからよけい悔やまれる。
4位、5位にきた天満屋と第一生命はさすがというべきか。今シーズンはともにベストメンバーをくめなかったが、おわってみればちゃんと帳尻を合わせている。地力というものであろう。
6位のアルゼも前半は上位をにぎあわせた。豊田には先を越されたが、みごとな戦いぶりであった。
期待はずれがやはりワコールであろう。予選にあたる淡路駅伝を制して、今回は期待されたいたが、上位争いにもからめずに7位である。1、2区で遅れをとったうえに、3区の福士加代子の勢いにのって4区、5区のランナーが踊れなかった。やはりまだ大駒が一枚足りないようである。
オソマツ! というべきか TBS
豊田自動織機の初制覇で女子駅伝の地図はおおきく変わるのか。若いチームゆえに大きく撥ねることもあれば、もろく崩れることもある。いわば諸刃の剣ゆえに危うさもあるが、小出義雄がついているのだからぬかりはないだろう。
三井住友海上時代は土佐礼子のリタイアとともにおわったのか。来年はそういう意味で正念場になるだろう。
今回TBSのライブをみていて、首をかしげざるをえない場面がおおかった。番組をづくりをしているスタッフの勉強不足がいかにも眼に付いたのである。インターネットの公式サイトもガサツというほかない。ひとくちにいえばかれらは駅伝のことを知らなさすぎる。
カメラワークも手抜きが多かった。駅伝のおもしろさは区間ごとにリセットした順位の変転である。下位からあがってくるチームの勢いをみて、視聴者も力をもらう。ところがTBSの実況は上位のみをおっかけて、下位についてはほとんどフォローしていなかった。
だからスターツの高見澤有理なんかには一瞥もくわえないというケースが起こってくるのである。もっときめこまかな目配りをすべきなのだが、もともと駅伝の本質というものを知らないようだからムリな話だろうな。
それと、下手な編集画面、ドラマ仕立てのドキュメント、さらには「ヤラセ」に手をそめるな……といっておこう。
たとえば一例をおげれば赤羽有紀子一家を追っかけて、ドキュメントをつくるのはいい。ぼくも興味はある。だがそれはライブ中継ではさみむではなくて、別の番組で公開してほしいと思う。レースのライブ中継に中途半端なドキュメントは不要である。駅伝レースという最高のドラマがあればいい。もつとレースの実況に細かな目配りしてもらいたい。
さらに……。あまりにも一家に土足で踏み込みすぎていやしないか。赤羽家のみなさんはみんな大人だから、微塵もめいわくそうな顔もしていないが、それに甘んじて調子に乗りすぎている。
たとえば元気で愛くるしく、見ているだけで笑みがこぼれてくるあの優苗ちゃんに「TBS……」なんて言わせるな! とあえて言っておこう
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