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留学生に足かせ、変わりつつあるレースの組み立て |
(2007.12.24) |
まるで烏合の衆
男女ともに、なんともはや、昼寝したくなるようなスローペースではないか。男子の1qのはいりが3:00、女子は3:23である。これではみんなついてくる。遅れる選手などいるはずもない。選手たちは道幅いっぱいにひろがって、まるでミズスマシのようにしずしずと進む……。
男子も女子も3q手前まで、スローペースでヨコ広がりの展開がつづいた。男子のばあい、足が絡んでよろめくケースが散見されるというしまつである。
なぜ、そんな、アホなことになったのか?
今大会から規定がかわり、男女ともに外国人留学生を最長区間の1区からしめだしてしまったからである。男子3人、女子4人のケニア人留学生がいたが、いずれも中盤いこうの区間にしか出られなくしてしまったのである。
いつもなら、外国人留学生はこぞって1区に出てきて、ハナからすっとばしてゆくからおのずとペースは速くなる。あまりにも速くなりすぎて、1区はケニア同士の争いになり、日本人選手は遠くはなれてうしろでウロチョロ……。とくに男子の場合は、留学生が前に出ると誰も追ってゆかない。留学生から遠くはなされるのがカッコ悪いというわけで、姑息にも1区から留学生をしめだしたのである。女子の場合はほとんど互角の戦いをしているのに、男女ともに、留学生の走る区間を制限してしまった。
そんなこんなで、1区は日本人ばかりの烏合の衆になった。
だれも前に出て行かない。牽制し合って、ヨコ広がりのダンゴ状態、3qをすぎても全チームがひとかたまりになっている。とくに男子の場合はひどかった。5qすぎても34チームがトップ集団にいた。
いったい、こんなレースをしていて、選手たちに将来があるのかな。ちょっとおおげさかもしれないが、日本長距離の未来を危ぶんでしまった。
何もかも、せっかく受け入れた外国人留学生たちと競う場を制限してしまったからである。
女子の場合、外国人留学生は4人いたが、いずれの中盤以降に出てきた。1区につづいてながい最終の5区に2人が出てきた。1人は優勝をきめる役割を果たし、もうひとりは区間賞をかっさらっていった。男子の場合は3区と4区に出てきた。やはり両区間ともに区間賞をもっていった。
駅伝の勝負という観点から見れば、留学生の集中する中盤以降の長い距離の区間が勝負のポイントになりそうである。
女子はアンカー結着! 豊川が制す!
女子の勝負は最終5区までもつれた。
トップをゆくのは岡山の興譲館、1区からトップをまもりつづけてきた。追うのは豊川である。3位の須磨学園とは17秒、4位の立命館宇治とは32秒もの大差がついていた。もはやマッチレースという様相であった。
興譲館のアンカーは久保木亜衣、1秒差で追う豊川はここで留学生のW・ワイリムをもってきたのである。
ワイリムはタスキをもらうと、あっというまに久保木をとらえてならぶまもなく抜き去った。この瞬間に豊川の2度目の出場での初優勝がきまったのである。ワイリムは1q=3分を切るペースで、その差をみるみるひろげてしまった。
中間点をすぎて、ワイリムの勢いはとまり、逆にその差がつまりはじめ、逆に久保木は4秒差まで迫るというシーンもあったが、大勢におおきな変動はなく、豊川は勢いでおしきってしまった。
後続の立命館宇治は夏原育美の快走で3位の須磨学園をぬいて3位まであがってくるが、もはやレースの大勢は決した後で、脇役にしかすぎなかった。
男子の場合もそうだが、留学生の制限事項の適用によって、今後はレースそのものがおおきく変わりそうである。従来のように最長区の1区にエース級のランナーを配するのではなくて、留学生の出てくる区間に最強ランナーをぶつけて、出血をできるだけ少なくしようというカタチも選択肢のひとつになるだろう。たとえば今回、男子の佐久長聖が3区に村澤を配してように……。
先手をとったのは興譲館
女子は1区から興譲館が突っ走った。スローペースの展開ながら、豊川の二宮悠希乃、立命館宇治の近藤好、長野東の小田切亜希、興譲館の小原怜、千原台の池田絵里香、常磐の松村厚子などが前に出てくる。2qから3qも3:16秒とペースはそれほどあがらない。
3qのラップがなんと9分56秒……である。
3.6qで立命館宇治が苦しくなり、じりじりと落ちてゆく。長野東、興譲館、千原台、常磐あたりが先頭でひっぱりはじめ、ようやく縦長の展開になり、ひとつ、ふたつと、こぼれ落ちてゆく。
4qすぎからはサバイバルレースの様相、ここで豊川がおくれはじめる。そして5q手前で興譲館の小原怜がスパート、追いすがる千原台、長野東、常磐などをふりきってしまうのである。さすがは国体少年女子A5000mの覇者だけのことはある。
豊川は20秒おくれの7位につけたが、連覇をねらう立命館宇治は26秒おくれの10位、須磨学園は31秒おくれの11位とそれぞれ出遅れた。
2区はいっても興譲館のトップはゆるがない。2位以下ははげしい争いとなり、豊川の伊澤菜々花が区間賞の快走で一気に2位まであがってくる。立命館宇治も伊藤紋が区間2位のはしりをみせるのだが、トップから20秒おくれの4位までくるのがやっとで、それほど勢いがつかなかった。須磨学園はいぜんとして7位、優勝圏内からこぼれてしまった。
中盤からはマッチレースの様相!
女子の場合、1区、2区で好発進して、リズムをつかまないと、後半のレースは苦しくなってしまう。
そういう意味ではトップの興譲館と8秒差でつづく2位の豊川は、いいながれをつかんだといえる。逆に連覇をねらう立命館宇治はトップからは20秒遅れでしかないが、いまひとつリズムがわるかった。ひとりひとりはそこそこ走っており、誰の走りが悪かったというわけでもないのだが、全体的に重苦しいリズムだった。
3区と4区はともに3q区間で、いわばつなぎの区間だが、上位2チームはトップをはげしく競いあった。
豊川の加藤麻美が興譲館の赤松真弘をはげしく追い、残り300mで背後にくらいついた。だが加藤はぬかせない、1年生ながら、けんめいにねばりぬいて、中継所まえではふたたび突き放した。
4区でも両校はさらにはげしくつばせりあいを演じた。のこり600mで豊川の下村環加えがひとたび興譲館の戸田理恵をかわして先頭に立った。けれどものこり300mで戸田がおいあげて並走状態もちこみ、中継所では逆に抜き返してトップをまもったのである。
かくして1秒差でアンカー勝負にもちこまれたのである。
6位から10までは、すべて九州勢
優勝した豊川は創部3年目、2度目の出場ではじめての栄冠という快挙である。前半からつねに好位置からすべりおちることなく、最終区の留学生で逆転したのは筋書き通りの展開だっただろう。初優勝ながら、いかにも底力をかんじさせる勝ち方だった。
興譲館はいま一歩およばなかったが5区間のうち4区まではトップを死守していた。破れはしたがみごとな戦いぶりだった。
連覇をねらった立命館宇治は最終区でようやく3位まであがってきたが、前半のリズムの悪さが最後までひびいたようである。
須磨学園は前半が悪すぎた。
健闘したのは5位の常磐か。1区からつねに上位にふんばり5位以降に落ちることはなかった。
駅伝王国・九州の伝統もひさしぶりによみがえった。6位から10位まで、すべて九州勢が占めた。2年ぶり出場の筑紫女学園は6位入賞、千原台は1区の池田が区間2位と快走、その勢いでねばちきった。8位が諫早、9位が神村学園、そして10位が熊本信愛女とすづくのだから、まさに九州大会をそのままもってきたような展開というべきであった。
仙台育英と佐久長聖がはげしく主導権あらそい!
男子も1区は1q=3:00というスローペースで幕あけた。埼玉栄の後藤田健介がひっぱる展開だが、3qをすぎても出場全チームがダンゴ状態になってつづいている。ヨコ広がりで、たがいに牽制しあっている。
5qを過ぎてもトップ集団には30チーム以上がうごめいている。ようやく集団がばらけはじめたのは6qすぎて7qあたりから……。埼玉栄、佐久長聖、世羅、中京、大牟田、大分東明、鯖江あたりがつづいている。
8qすぎになって仙台育英の上野渉がスパート、佐久長聖の千葉健太、大分東明の油布郁人がついてくる。
9qすぎて、上野と千葉が2段スパートで抜けだした。そして最後のラストスパートで上野が競り勝った。昨年も1区に登場したが区間14位と不本意な成績、今回はみごとリベンジを果たした。
1区を終わって佐久長聖は2秒差の2位、埼玉栄は18秒差の6位につけたが、35秒差の15位とおおきく出遅れてしまった。
2区では佐久長聖(松下巧臣)と大分東明(小崎光舟)がならんで仙台育英(横山雄太)を追い上げ、1q手前では3チームが並走状態となる。うしろからは大牟田(中山祐介)が追いついてきて4チームがトップ集団を形成するが、残り700mで大牟田がおくれはじめ、3チームのトップ争い、最後は仙台育英と佐久長聖がほとんど同時に中継所にとびこんでいった。
2区を終わって西脇工はトップから29秒おくれの8位と勢いがつかず、完全に優勝あらそいからおいてゆかれる。
勝負のポイントとなったのは3区だった。昨年あたりから1区よりもむしろ3区が重視される傾向になりつつあるが、今回もやはり最も見ごたえのある区間となった。
3区……、佐久長聖にとって絶好の展開に!
3区には2番目にながい区間だが、1区でしめだされた留学生のうち、仙台育英・クイラと青森山田・ギチンジがやってきた。
1位と2位がほとんど肩を並べてスタートしたこの区間、佐久長聖はエースの村澤明伸をぶつけてきた。1区ではなく3区にエースをもってくるのは、考えがあってのことだろうが、結果的に策がみごとに的中したというべきか。
クイナがすぐにトップをうばうのだが、村澤がじりじりと離されるものの、懸命にたえていた。中間点でクイラと村澤の差は13秒……だから、村澤はふんばっていた。仙台育英にしてみれば、この3区で1分以上のアドバンテージがほしいところだろうが、佐久長聖にすれば、この3区さえたえぬけば……という思いだったろう。
後方では大分東明、埼玉栄がつづき、そのうしろは九州学院、世羅、西脇工がようやくあがってくる。
それにしても……。跨線橋の手前ではトップの仙台育英・クイラと2位の佐久長聖・村澤の差は22秒……というのは仙台育英陣営にとっては物足りなかっただろう。最終的にはその差は31秒になるのだが……。追っかける佐久長聖にとっては絶好の展開、後続のランナーたちの意気はあがったことだろう。
勝負が決したのは5区!
4区になって佐久長聖の平賀翔太が前を行く仙台育英の斎藤貴志をじりじりと追いあげる。そして背後からは世羅留学生のカロキが高速でやってくる。カロキは1q=2:37秒という速いペース、その後もおとろえることなかった。
6.5qではトップの仙台育英と佐久長聖の差はわずか3秒、そして10秒遅れでカロキがおいあげてくる。
仙台育英の斎藤は背後から追撃をうけて懸命ににげた。ラスト700mで2位の佐久長聖・平賀をとらえたカロキが7秒差とせまってくる。顎をつきだして口をおおきく開けて、眼をひんむいている、ものすごい形相で逃げ姿がなんとも迫力があった。
斎藤のふんばりで仙台育英はからくも逃げおおせたが、2位にやってきた世羅とは7秒差、そしてライバルの佐久長聖との差はわずか8秒となって、にわかに風雲急をつげるのである。
勝負はあっけなかった。5区にはいって、追う者強さが一気に炸裂する。佐久長聖の藤井翼が7.8q付近で前を行く仙台育英の佐藤研人をあっさりとらえてしまうのである。
6区、7区は差がひらくいっぽうで、興味のマトはもっぱら日本高校最高記録が出るかどうかの一点にしぼられてくる。
日本高校最高記録とは、日本人選手だけで編成したチームの記録のみが対象となる。そして留学生を含むチームの最高記録は「高校国内国際最高記録」であるそうな。なんだかヤヤコシイ話だ。
要するに留学生は日本の高校に通いながら、日本の高校生とはみとめていない……ということになりはしないか。なんとも釈然としないと思うのは、ぼくだけだろうか。
それはともかく、後半は独走した佐久長聖はアンカーの大迫傑が右手のこぶしを空高くつきあげてゴール、同タイムで負けた昨年の悔しさをみごとに晴らした。
圧倒的な戦力で悲願を果たす!
優勝した佐久長聖は3区重視がまんまとハマったといえる。3区の村澤が流れをつくり、5区から7区まで区間1位を奪っての圧勝である。7人の5000mの平均タイムは14:04だというから圧倒的な戦力である。
1998年に初出場して4位。それからというもの2004年の12位以外はすべて入賞という実績をもち、あとは優勝だけ……となっていたが、やっと念願を果たした。
健闘組は3位の埼玉栄と5位の大分東明か。1区で7位につけ、その後のヒトケタ台に順位をキープ、アンカーが最終3位までもってきた。3位というのは優勝したときいらいの表彰台である。
大分東明も1区の油布が区間3位の好走ではずみがついた。2区以降も粘りに粘って入賞圏内をキープしたのはみごと。
世羅はひそかに2年ぶりの優勝をねらっていたにちがいない。事実、4区・カロキの区間新の快走でトップに肉薄したが、終盤で粘りを欠いてしまった。
まったくいいところがなかったのは西脇工である。今年の高校総体5000m日本人最上位(3位)だった福士だが、1区で予想外の失速してしまった。頼みのエースが先頭から35秒遅れの15位では気勢があがらない。
今年は奇しくも男子の佐久長聖、女子の豊川とも初優勝である。男子の新しい優勝校は第44回大会(1993年)の仙台育英いらいで、史上20校目。北信越地区のチームとしては初めてとなる。女子のあたらしい優勝校は第17回大会(2005年)の興譲館以来で、史上11校目、東海地区の学校としては初めてである。
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