福本 武久
ESSAY
Part 4
 福本武久によるエッセイ、随筆、雑文などをWEB版に再編集して載録しました。発表した時期や媒体にとらわれることなく、テーマ別のブロックにまとめてあります。
 新聞、雑誌などの媒体に発表したエッセイ作品は、ほかにも、たくさんありますが、散逸しているものも多く、とりあえず掲載紙が手もとにあるもの、さらにはパソコンのファイルにのこっているものから、順次にアップロードしてゆきます。
ビジネスマンの風景……会社人間の未来
初出:雑誌「Forbes」2004年11月号(ぎょうせい) (2004.11)

 運転しながら化粧をしないで!



 ミラーに映る若い女性が運転しながら、化粧を始めたのに気づいたのは、停止していた車がゆっくり流れはじめたときだった。
 シートベルトもしないで、もぞもぞしていたが、顔に何やらすりこむそぶり。どうやら下地のクリームを塗っているらしい。
 朝の通勤時、大渋滞にのみこまれると、彼女たちにとって車はメイクルームになってしまうようだ。
 ねえ、運転中に化粧をしている姿を、たとえば好きな男に見られても平気でいられる?
 ミラーのなかの彼女に問いかけてみても、もちろん素知らぬ顔である。見知らぬ誰かさんに見られるぐらいは別にかまわない……とでも言いたげに、こんどはファンデーション……。パフで顔をはたきはじめた。
 ハンドルから両手を放し、足の操作だけでつづいてくる。ちゃんと前をみているのかな。だんだん不安が兆してくる。
 車はじりじりと進んではすぐに止まってしまう。化粧する彼女はほんの数メートルしか進まなくても、素早く反応して、車間をビッシリとつめてくるのである。
 おい、そんなに寄るなよ。
 後ろばかり気にしていると、つい前がおろそかになりそうだ。危なくてしかたがない。
 どこかで振りきらねば……。
 あれこれ思案していると、一時的に渋滞が解けた。ゆくての青信号が点滅している。進入の手前で黄色に変わった。いまだ! アクセルを踏みこんで、一気に交差点をぬけた。
 やれやれ、これで安心……とミラーをのぞいた。思わずわが眼をうたがった。彼女の車が小躍りするように路面を弾んでいる。赤信号を突っ切って食らいついてきたのである。
 おい、おい、こんどは眉毛でも描くつもりかい。いいかげんにしてくれ!
 化粧したぶんだけ、あどけなさを失ったかにみえるその顔に向かって、レッドカードを発する意味で、ブレーキを軽く三回踏んだ。


目次
海の魚と川の魚
雑誌「経済往来」(経済往来社)1978年 9月号 (1978.08)
机と椅子
雑誌「商工にっぽん」(日本商工振興会)通巻499号 (1989.05.15)
ロクでなし″とワカラズヤ″
NOMAプレスサービス」 No.449 (社団法人 日本経営協会) (1986.06)
Eやんの見事な年金生活
雑誌「年金時代」2004年4月1日号(社会保険研究所) (2004.04.04)
運転しながら化粧をしないで!
雑誌「Forbes」2004年11月号(ぎょうせい) (2004.11)
会社人間、「勉強会」に走る
雑誌「プレジデント」(プレジデント社)1987年10月号 (1987.09.10)
「出世レース」を疾走する「不惑」の男たち
雑誌「プレジデント」(プレジデント社)1988年5月号 (1988.04.10)
相続をめぐる「悲しき骨肉の争い」
雑誌「プレジデント」(プレジデント社)1988年9月号 (1988.08.10)
「遺書」が浮き彫りにする男の生き様
雑誌「プレジデント」(プレジデント社)1989年4月号  (1989,3.10)
23年ぶりの民間選出の理事長となった「北浜の風雲児」
雑誌「プレジデント」(プレジデント社)2001年2月11日号 (2001,1.20)
西堀流部下活性法
講座「ビジネスリーダー活学塾」(プレジデント社)

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