ISOマネジメントシステムが一番わかる 3

22.05.19

お断り
このページはISOマネジメントシステムが一番わかる 2の続編である。
その本を読んであまりにもおかしな点があり、その問題点を指摘し解説するものである。
ここで取り上げた本そのものについてのコメントはご遠慮する。
ぜひ私がおかしいと指摘したことについてコメントいただきたい。


書名著者出版社ISBN初版価格
ISOマネジメントシステムが
一番わかる
日本品質保証機構技術評論社97842971242362021.11.101800円

この本について文句、もとい疑問点を挙げてきたが、まだ言い足りず本日も追加する。
とはいえ、問題点とか異議ある点を挙げるときりも限りもないので、本日は著しい環境側面の決定だけに絞る。
願わくは本日が最後になりますように、アーメン


世の中には噂が広まると、後にそれが誤りだと判明しても、初めの噂だけが残り否定されたことが忘れられてしまうことがままある。そして誤った噂が伝説として後々まで残ることはよくある。

環境ホルモンなんていう話が流布したのは20世紀末だった。当時日本中で大騒ぎになり、環境省は「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」を立ち上げて調査研究した結果、大きな問題ではないという結論になり、また公式には環境ホルモンという言葉を使わなくなった(注1)

しかしそれ以降も環境ホルモンという言葉は使われ続け、エコ検定の公式テキストにはなんとSPEED98の10年以上も後の2013年版のテキストでも「環境ホルモン」という言葉が使われていた。
また「環境ホルモン」と冠した本が2008年まで出版されていた。

環境ホルモンの本

と思ったら、なんと2020年にも環境ホルモンと冠した書籍が出版されていた(注1)
ブルータスよ、今でもか!と思いまして調べたら、いずれも2003年に紙で出版されたものを電子本にしたものだった。再版とはいえ、今も需要があるのに驚く。
とまあ、噂はしたたかで、公式な科学的調査結果が報告されても噂のほうが都市伝説化して残ることが多い。


なんだ!今回は環境ホルモンの話か?
お待ちください、まだ前振りでございます。

「環境側面とは何ぞや?」なんて時代もありました。1998年頃でございましょうか。
ISO14001は1996年制定ですが、日本で本格的に認証活動が始まったのは1997年で、審査が本格的に行われるようになったのは1998年からでした。

認証件数 備考
1996 106
正式発効前にドラフトで審査して、制定後に認証したもの
1997 383
1998 727
1999 1,110
2000 1,693
2001 2,546
この年に認証件数の加速度がゼロ(変曲点)になった。この時点で2000年代末から減少することが予想された。

当時ISO14001認証はまさに倍々ゲーム、認証機関の経営者たちはウハウハでしたね。なにしろ認証を依頼する企業は門前に行列を作り、営業担当は依頼してきた企業の日程調整に苦労していた時代。閑古鳥のなく今の認証機関の人たちから見ればうらやましいだろう。

認証が始まって数年はイケイケドンドンという時代でしたが、2009年に20,799件とピークになり、それから今まで13年間、認証件数は減る一方、2022年第一四半期は12,954件とピーク時の62%となり、今も毎年数百件減少している。


ISO14001認証が始まった時から、審査では環境側面の特定、著しい環境側面の決定が重大な争点となりまった。

「平家にあらずんば人にあらず」なんてセリフが平家物語にあります。実はこの言葉は平清盛の言葉ではなくその義弟の平時忠の言葉で、更に本当は「平家一門でない人は、みな非人である」だったそうです。
非人とは身分制度の外の乞食や浮浪者のこと、いずれにしても傲慢でひどい話です。

また話がそれた?
いえ、反れていません。ISO審査において著しい環境側面の決定方法が点数法(スコアリング法)でないときは、「こんな方法は規格不適合なり、やりなおしじゃああ〜」となったのです。まさにスコアリング法にあらずばISO14001にあらず、平家物語そのまんまでありました。

驕れる平家は久しからずというのは、平家が滅んでから言えるわけで、平家全盛のときにそんなことを語ったら切り捨てられ、鴨川の河原に投げ捨てられるか大通りに首が晒されたでしょう。
そしてISO審査でももちろん磔獄門となったわけですよ。

そんなことが許されるわけがない……と私は信じた。
だってISO審査とは組織のマネジメントシステムがISO規格を満たしているか否かを比較することであり、審査員の独断と偏見思い込み通りにしているか否かを見ることではないはずです。違いますか?

ISO審査

ISO審査を依頼した企業と認証機関は審査契約書を結びます。
ご覧になった方もいるでしょうけど、例えば「審査はISO14001/JISQ14001の2015年版を用いて行う」と書いてあります。
決して審査員の思い込みでもなく、また認証機関の統一見解で行うものでもないのです。規格に書いてあることと現実を比較して合否判定を行うわけです。ですから結果は当然、基準と現実が合っているなら適合、合っていないなら不適合となる。合格・不合格ではない。


では審査員が「スコアリング法にあらずばISO14001にあらず」「スコアリング法でないから不適合なり、やりなおしじゃああ〜」と騙るのは絶対おかしいですね。
私の長い戦いはこの時から始まりました。

注:私が「騙る」と書くのは誤字ではありません。「騙る」とは「かたる」と読みますが、「語る」と違い「うまいことを言ってだますこと」とか「地位や名称を詐称すること」です。
規格にないことを騙る審査員は、詐欺審査員と呼びましょうか?

ところで私はISO9001も1992年頃から付き合いしてきましたが、ISO9001の審査においては規格解釈でもめたことはありません。お互いに同じ規格(英語版)を読み、それを満たしているか否かを議論しただけです。ISO9001審査員の規格解釈はまっとうだったのです。

とはいえISO9001の審査員がみな高潔であったとは思いません。お土産にあれがほしい、酒を飲ませろ、女だというやくざかゴロツキのような審査員が多くて困りました。
軽いものでは「昼食がまずい!うまい飯を出せ」というのもありました。
おっと、その点に関してはISO14001の審査員も20世紀は似たようなものでした。

新聞報道がもとでISO審査員に身を慎めとか、たかりをしてはいけないなんて言われるようになったのは21世紀になってから。そうなるとみなさんホカ弁を持参するようになりました。あつものりてあえ物を吹くですか……


でも「著しい環境側面の決定はスコアリング法でなければならない」は変わりませんでした。
なぜ「著しい環境側面の決定はスコアリング法でなければならない」のでしょうか?
そりゃ私はわかりませんよ。
オウム真理教の施設があった上九一色村の人が、テレビで「オウムの考えはオウムでなくちゃ分からん」と語っていたのを覚えています。おかしな人がおかしいのはわかるけど、なぜおかしいのかは分かりません。審査員の考えは審査員でなくちゃわかりません。

ところで裁判において有罪を立証する責任は検察にあります。犯罪となる・有罪とするにはいくつかの要件があります。
まず根拠が必要で、法律で「こういう行為は犯罪になり、罰金や懲役になる」と決まっていなければならない。これを罪刑法定主義といいます。
次に行為、結果、因果関係などがの証拠が必要(証拠裁判主義)で、自白だけでは有罪にならない(注3)これを補強法則といいます。
もうひとつは故意か過失かがある。故意に傘を持っていくのは窃盗という犯罪ですが、誤って人の傘を持っていくのは過失で犯罪ではありません。但し生命・身体を侵害する行為は過失でも犯罪になります。

有罪にするには上記3点がそろわないとならない。それら根拠と証拠を示すのは検察です。被告人はそれを否定することしかできません。いや否定すればよいのです。
だってなぜ自分が有罪なのか分からなければ反論もできません。

あなたが裁判で「お前は人を殺したな!」と言われたらどうしますか? 自分が人殺しでないことをどうやって証明するのでしょう? まだ未解決の殺人事件をひとつひとつあげて、その時はどこそこにいました、あのときは病気で寝ていた……とでもいうのでしょうか?

そうじゃないですよね、
検察側は、お前はいついつどこどこで何某を殺した。それは刑法第199条の殺人罪になる。 殺人事件 犯行に使われた凶器はこれ、目撃者は誰と、証拠を挙げて求刑するわけです。
あなたは、そのとき自分がどこにいたかというアリバイを示し、証拠を否定するものを提出することになります。それしかできないというのが理屈です。

おお、なにかISO審査と同じようです。ISO審査で不適合にするには、不適合の三要素、つまり事象、根拠、証拠が必要です。
審査員研修機関によっては、二要素といって根拠と証拠だけを教えているところもあります。

不適合を出す審査員の立場としては、根拠は明確にしなければならない。根拠としてとは、項番とどのshallが該当するのかを記述しなければならないと定めてある(ISO17021-1:2015 9.4.5.3)。
また不適合の証拠は客観的証拠を詳細に特定する(同前)。
「文書管理が悪い」なんて指摘を出されたら、笑い飛ばせばよろしい。だって証拠不十分、根拠不十分なら犯罪……じゃなかった不適合を構成しません。
審査員がかわいそう? いえいえ、無能な審査員に同情は無用です。

「資材購買部で改定前の文書が使われていた。これは「7.5.3文書化した情報の管理」の規格要求「変更の管理(例えば版の管理)」を満たしていない。証拠として資材購買部の会社手順書ファイルNo.14にファイルされていた会社組織表がバージョンNであった。文書管理課で確認したところ、現行のバージョンはPであった」
くらい書かないと不適合とすることはできません。

審査を受けているあなたは、根拠とされたshallが本当に該当するのか、証拠が実際にあるのかを確認し、拒否するにはそれらのいずれかを否定することになる。
おっと、本日はスコアリング法の話であって、CAR(Corrective Action Requirement)の書き方の話ではなかった。

とにかく審査における論理は裁判の論理と同じです。
論理的に「犯罪をした」と言われたら否定することはできるけど、「犯罪をしてない」ことは証明できない。それを悪魔の証明といいます。
だから検事側が犯行を立証できなければ被告人は無罪になります。犯罪を犯さなかったことを証明したから無罪ではありません。検察が提示した証拠を否定したから無罪になるのです。これを推定無罪といいます。

お断りしておきます。間違いなく本題とずれていません。
確かにISO規格では「著しい環境側面の決定をしろ」と要求しています。しかし方法を指定していません。いや「方法は審査を受ける組織が決めろ」と書いてあります。
規格に「スコアリング法を採用しろ」と書いてないのに不適合(有罪)を求刑されても、被告人/企業は反論する必要が論理的にありません。
だって犯罪と定めていない(根拠がない)のだから、そもそも犯罪が成り立ちません。

でも現実のISO審査は罪刑法定主義ではなく、審査員ご都合主義とでもいいましょうか、審査員がダメというとダメらしいのです。
まさにヨーロッパ中世の魔女裁判と同じです。あなたができるのは、魔女として殺されるか、魔女かどうか調べる拷問で殺されるかの二者択一しかありません。

魔女 おっと、魔女とは別に女性と決まっているわけではありません。witchは日本語で魔女と訳されていますが、英英辞典では「魔法や魔術を語り、また実践する人、魔術師。女性が多い」とあり、女性に限りません。
魔女裁判で殺されたのは男性も多く、自分は男性だからと安心してはいけません。

そんなことが20世紀のISO審査では堂々と行われたのです。
いや違いました、過去形ではなく、現在形のようなのです。まさに現代の魔女狩り
だって21世紀になって20年もたってから発行されたこの本のp.123で

「著しい環境側面の特定にはさまざまな手法がありますが、評価要素のポイントから算出する手法が多く見受けられます。例えば、環境に作用している要素(環境側面)を洗い出し、影響を及ぼす範囲を数えてポイントを算出し、経済性と実効性リスクを掛け合わせることで著しい環境側面を決定する手法です」

と書いています。
ハイ、この文章のどこがおかしいでしょうか?

あまりにもおかしな点が多すぎるとおっしゃいますか? 軽いものは見逃しましょうよ。
『「著しい環境側面の決定」はあっても「著しい環境側面の特定」はないというような細かいことに突っ込んでも、この本を書いた人は理解できませんよ(注4) もっと本質的で大きな問題を指摘しましょう。

「環境に作用している要素(環境側面)を洗い出し、影響を及ぼす範囲を数えてポイントを算出し、経済性と実効性リスクを掛け合わせることで著しい環境側面を決定する」

とありますが、そういう方法で著しい環境側面を決定できるのでしょうか?
これが最大の問題……問題といっても計算問題とか試験問題ではなく、この場合は、トラブル、もめごと、という意味ですよ。


そもそも著しい環境側面とは何でしょうか?
定義3.2.3によると環境側面とは
「環境と相互に作用する、又は相互に作用する可能性のある、組織の活動又は製品又はサービスの要素」となっていて、
著しい環境側面とは6.1.2で「著しい環境影響を与える又は与える可能性のある側面(すなわち著しい環境側面)」とある。

これを読んで分かりますか?
不肖おばQは全然わかりません。

「著しい」を国語辞典で引くと品詞は形容詞で「はっきりわかるほど目立つさま」「明白である」「顕著である」「目覚ましい」などという意味だそうだ。
じゃあ著しい環境側面とはたくさん環境側面があるとき、目立つものなのか? 顕著なものなのか?

ちょっと待ってくれ、このようなことは国語辞典を引いてもダメです。ISO14001で使われている言葉を英英辞典で調べなければなりません。
原語はsignificantである。英英辞典を引くと形容詞で「重要な」とか「重大な」とか「偉大な」という意味が並ぶ。著しいというのもありましたが、順序からして重要とか重大と訳したほうが妥当のように思います。
なによりも「著しい環境側面」というとなんだかわからないけど、「重要な環境側面」とか「重大な環境側面」という方がわかりやすい。
「PPCも環境側面だけど、製品を包装している紙の量が桁違いだから、そちらのほうが重要な環境側面だ」という例ならイメージがわかりやすい。
なによりも「著しい」とは他と比較してという意味合いなのだ。おっと、著しいという語を使ったからだろうか、著しい環境側面を決める方法として、比較するあるいは点数をつけて上位からという方法が多くなったのだろうか? すると著しいと訳したのは罪な話だ。

注:「著しい」というのは形容詞であり、形容詞とは名詞を修飾する品詞である。しかし「著しい」という形容詞は「人」とか「もの」を形容するのではなく、ものの「状態」や「性質」を修飾する時に使われる。
それで「著しい環境側面」という言い方は、文法的にはおかしくないが、環境側面は状態ではないから通常はそういう言い方をしない。
状態を表す名詞といえば、「進歩」とか「活性」などあるが、そういう語との組み合わせ「著しい進歩」あるいは「著しい活性」などなら違和感がない。
1996年版のとき「ISO14001要求事項の解説」という本で「著しい環境側面という言い方は日本語にないと言われた」と書いてあった。最初の文章が稚拙で禍根を残した。

まあ、そんなことはこの本を書いた人たちの責任じゃない。ともかく「著しい環境側面」なる言葉はISO14001の理解を妨げた大きな要因である。

大事なことだから著しい環境側面について確認しておく。
著しい環境側面とは、性質から見れば「著しい環境影響を与える」であるが(定義そのもの)、著しい環境側面に関してどのような要求があるのか?

規格ではどの項目で著しい環境側面に関する要求があるだろう。


やっと本題につながった。
つまり「著しい環境側面」とは、「取扱手順を定め、携わる部門では手順で教育しなければならず、変化があれば経営層に報告しなければならず、取扱や危険性を委託業者に伝えなければならず、改善のテーマとして考慮しなければならないもの」なのである。

言い方を変えると
「取扱手順を定めたり、携わる部門では教育しなければならない、変化があれば経営層に報告しなければならない、取扱や危険性を委託業者に伝えなければならない、改善のテーマとして考慮しなければならないもの」が著しい環境側面である。
「逆は真ではない」という理屈は正しいが、実用上は「逆は真とほぼ同等」である。


では問う、この本が書いているように
「環境に作用している要素(環境側面)を洗い出し、影響を及ぼす範囲を数えてポイントを算出し、経済性と実効性リスクを掛け合わせることで著しい環境側面を決定する」
ことによって著しい環境側面は決定できるものなのか?
これはもちろん反語である。できるはずがない。

表7-4-1(p.128)を見てみよう

該当プロセス業務内容環境影響環境影響の評価























受注プロセス注文の受付紙の利用1122
調理プロセスカレーの調理水・ガスの利用23212
廃油・端材の廃棄1224
食器・調理器具の洗浄水・電気・洗剤の利用3126
残り物の片付け食材の廃棄1339
会計プロセスレシートの発行紙の利用1122
電子マネーの決済処理電気の利用1111
購買プロセス食材の選定・購買良質な農場の維持23318
設計プロセス試作品の調理・試食食材の調理・廃棄33327

この表を見ればつじつまの合わないところがたくさんある。

カレーの調理において水の経済性は3、廃油他は2である。これは上下水道使用料と電気代の合計が3000円としたとき、廃油の処理委託費用が2000円なのだろうか?
調理用の油の購入代金がどこに計上されているのか分からないが、それはおいておく。
経済性というなら数字が2と3であるならまさしくその比率でなければおかしいことは理解されるだろう。そうでなければ配点とか掛け算の意味が全くない。

同様に貢献度としてそれぞれが2点となっている。
貢献度とはなんだろうか? 必要性をいうなら水も購買もすべて必要で、なければカレー屋の商売ができない。
代替えできるものは貢献度が低いのだろうか? わかりません。だからそれがいかなる尺度で配点されているのかもわからない。全く想像がつかない。

影響範囲とはなんだろう? 影響する面積なのか、影響が維持する時間的なものなのか、影響を受ける動物植物のバイオマス(生物量)なのだろうか? ダメージの大きさなのか? まったくわからない。
ともかく影響範囲の数字は絶対値はともかく、相対的な比率の関係は正確でなければならない。だって掛け算したもの同士を比較して著しいか否かを決定するのだから。
カレーの調理に使う水の影響範囲は2であるが、洗浄に使う水の影響範囲は3となる。汚れがあるとか水の性状が違うからかもしれないが、下水処理場に行けば処理プロセスは同じだ。違いを教えてくれ。

受注プロセスにおける紙の使用の経済性が1単位で、カレー調理の水・ガスの経済性が3単位というのは全く納得できない。仮に上下水道代が月5万として注文票の紙代が1万6千円ということはあるまい。
同様にレシートの感熱紙代金が1単位だからこれも1万6千円というのもおかしい。レジ用感熱紙ロールは幅58mm長さ63m20巻入りで3000円しない。
カレーの客のレシート長さを6センチとすると、3000円で25,000回分となる。日々の客数を100人としても、250日分だ。
他方、食材の購入の経済性が3単位では4万8千円となり、これで済むはずがない。これはどう考えても紙代とつじつまが合わない。 まさか紙の経済性と調理の経済性の配点が違うことがあるはずがない。そんなことをしたらこの表は単なるお遊びになってしまう。

どうみても表7-4-1の配点は矛盾に満ちていて、わけがわからない。
もちろん表7-4-1は仮定の話だろう。だが、真に実態を表す環境側面の表を作ろうとしたとき、この表は参考にならないことも間違いない。
だが前述した矛盾を考えると影響範囲、経済性、貢献度などを決定できるとは思えない。
いや私はできないと断定する。

思いつくままにできない理由を挙げる

表7-4-1では総合評価点が10点以上は著しい環境側面としているようだ。点数で足切りする方法はいたるところで見かける。だがこれも真の環境管理では使えるはずがない。
仮にシアン化合物を使っていて、量が減って10点を下回ったら著しくなくなるのか?
PCB機器が何台かあるとき、一部をJESCOに処理委託したら台数が減って点数が下がれば著しい環境側面からはずれるのか?
著しい環境側面から外れたら、ISO14001が要求している教育をしなくなるのか? 管理をしなくてよいのか? 外部に委託するとき情報を伝達しなくてもよいのか?
そう考えると、著しい環境側面とは量と関係ないものもあると気づく。となると評価項目に量があるのはおかしい。
近隣から苦情があれば法規制とか量目などに関わらず著しい環境側面になるのではないだろうか? それは影響範囲とは異なる。赤ちゃんがいれば苦情が来るが、若い人からは苦情が来ないかもしれない。
そのときどんな項目で重みをつけるのか? ぜひご教示願いたいものだ。
どう考えても環境影響評価表などが作れるわけがない。


私は著しい環境側面の決定にスコアリング法を使うのは、完ぺきに間違いだと考えている。
じゃあどうするのかと問われるか?
もちろんいろいろ方法は考えられる。
ひとつは法律で、新規設備や作業の導入時の審査を定めているものがあるが、それらが手本になると考えている。
いや、手本になるのではなく従来からしてきた種々の評価調査判定そのものが著しい環境側面の決定であると考えているのだ。もちろんその評価結果、導入しないということになることもある。

例えば労働安全衛生規則 第一編 第二章の四 危険性又は有害性等の調査等においては

第24条第1項
第2号 設備、原材料等を新規に採用し、又は変更するとき。
第3号 作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更するとき。

などと定められている。
同じく

騒音規制法第6条第1項
指定地域内において工場又は事業場(特定施設が設置されていないものに限る。)に特定施設を設置しようとする者は、その特定施設の設置の工事の開始の日の三十日前までに、環境省令で定めるところにより、次の事項を市町村長に届け出なければならない。

とあり実施事項が定めてある。
同様なものは消防法にも建物や設備の新設・更新などの際の実施事項がある

要するに新しい設備や機械の設置、新しい工程や作業の導入、新しい化学物質などの採用などの際は、安全、衛生、公害、廃棄物処理などの観点で評価検討をしなければならないことになっている。
まともな会社ならそういう種々の法規制で規定する事前評価のルールを定め、損益や該当法規制ごとのチェックリストを付表としている。

新規設備化学物質導入事前審査フロー まずお金の面では、なぜ投資が必要か、投資しない場合はどうなるのか、投資した場合その投資が何年で回収できるのか、回収できない場合投資する理由は何か、新設備を導入したとき今までの設備はどうするのか、いくらで売却できるのか、廃棄する場合の費用は?、廃棄物処理費用だけでなく未償却が多額であればその費用処理も大仕事になる。

安全もある。導入にあたり法的な届や許可は必要か否か、資格者は必要か否か、過去国内でどのような事故があったか、それに対する対策は取られているか、法的に必要な安全装置はなにか、どんな保護具が必要か、それらの費用はいかほどか、特殊健康診断の要否、その他努力義務的な安全対策は何が必要か等々、

建築関係に関わること、土地利用に関すること、土壌汚染の可能性の有無その他もろもろ
そしてもちろん環境に関わること。公害に関わること、消防法に関わること、火災や災害時の対策について、

私の経験では、そういったチェックリストは10数ページもあり、そこに添付する調査結果はそのまた数倍になった。
そういうのはどの会社でもあるだろう。会社は出たとこ勝負とか、とりあえずやってみるなんて危ないことはできないから当然だ。

そういう仕事がISO14001では環境側面の特定で決定や著しい環境側面の決定に該当すると私は考える。
なお、ISO14001:2015の付属書A.2に次のように記述されている。

この規格では、組織の環境マネジメントシステムの文書にこの規格の箇条の構造又は用語を適用することは要求していない。組織が用いる用語をこの規格で用いている用語に置き換えることも要求していない。組織は、「文書化した情報」ではなく、「記録」、「文書類」、又は「プロトコル」を用いるなど、それぞれの事業に適した用語を用いることを選択できる。

つまり、組織は今まで会社がしていた新設備導入時の審査結果を著しい環境側面の決定記録として提示して何ら問題ない。
いや、怪しげな信頼性のない環境側面評価表よりも、種々の法規制に基づく該否判定や届け出や設備設置など判定記録、そして届け出書面や完成検査結果などのほうがはるかに信頼性が高く価値あるものだと私は信じる。

私の言いたいことは、ISO14001の意図は、遵法と汚染の予防であることを忘れてはならないこと、どんな作業においても常にそれを念頭に置き、単に規格の文言にあるからではなく、法を守るために、事故を起こさないために、少しでも改善するために…を考えて、展開することが必要なのだ。
著しい環境側面を決定するにもそれが真に管理が必要なことなのか、逸脱を防ぐためにどんな予防処置あるいは保護装置を設けるか、何を教育するのか、いかにして理解を確認するのか……と考えねばならない。

そういうことを基本としたとき、表を作って配点して計算して〇点以上を著しい環境側面にしましょうねなんてオママゴトでは済まされない。
法規制の一語一語を読み取り、それを展開するということに尽きる。
そのとき配点など不要だろうし、配点すれば済むわけでもない。


お断りしておくが、私はいかなる場合でもスコアリング法が悪い手法だとは考えていない。だがスコアリング法を使うなら、算出の根拠となる数字の尺度を合わせなければならない。私はいまだかって各項目の重みを根拠を持って決めた配点表を見たことがない。
要するにいいかげんな配点表しか見たことがない。そんなことで著しい環境側面の決定をしたのでは、順法と汚染の予防(ISO14001の意図)が達成できるはずがない。

ワクチン接種 スコアリング法が有効なケースは、比較するものが等しく定量化できる場合のみだ。
例えば感染症でワクチンを打たない場合の死亡率と、ワクチンを打った場合(病気による死亡率と副反応による死亡率)の比較であれば、双方の数値同じでメンションだからは可能である。
しかしエネルギー使用の環境影響、廃棄物の環境影響、資源採掘による生物への影響、といったデメンションの異なるものは比較できるとは思えない。
常識で考えて廃棄物と電力を比較できると思うか
換算できると思うなら換算表を作ってみたまえ、

そもそもISO14001ではスコアリング法などと語っていないのだから、ISO審査において著しい環境側面の決定方法が点数法(スコアリング法)でないときは、「こんな方法は規格不適合なり、やりなおしじゃああ〜」と語ることが大間違いなのだ。
そしてそういう方法を教える本も大間違いだ。

私は廃棄物と電気とか製品を比較する必要性を全く感じない。
それぞれを法規制や事故予防あるいは環境影響などを考慮して、著しい環境側面か否かを判断すれば用は足りる。
人によっては著しい環境側面が〇個以上とか〇個以下とかこだわる審査員がいる。
それもおかしな話だ。
管理しなければならないものがたくさんあれば、管理しなければならないというだけだ。
現実はそうじゃないのか?

異議・反論を待つ


スコアリング法がなぜ悪いのかということは過去幾たびも書いている。
是非お読みください。


うそ800 本日の恨みつらみ

私が執念深いのは認める。私は百回以上ISO審査を受けた。相まみえた審査員も200人や300人になるだろう。そのうち、まっとうなISO審査をした(できた)審査員は2割というところだった。そうではない8割の審査員に虐められてきたのだ。
そしてもちろん最大の項番は環境側面であり、そこでの争点の一つは著しい環境側面の決定であった。

いじめられたと書くと子供けんかのようだが、そうではない。
法律に書いてある通りしていたところ、法の解釈が間違っているといわれた。すぐさま消防署にいって問い合わせると間違いないという。
それを審査員に説明すると、その解釈は間違っている、改めないといけないという。
行政の監督部署がこうしろという通り行っていて、それを間違いと指摘されたらどうしたらいのか?
当時は途方に暮れた。でも今考えると審査は審査契約書に基づいて行われる。そして契約書には「審査はISO14001/JISQ14001の○○年版を用いて行う」と書いてあるのだから、契約違反として民事訴訟を起こせばよかったと反省する。
ともかくそういうことを多々経験してきた。

数多くの審査員と口論になったが、正直思ったのはご本人が危険物保安監督者もしたことがない、公害防止管理者になったこともない(資格の有無でなく届けたという意味(注5))、有機溶剤濃度を測定したこともない、法律を読んで行動したこともない、そんな審査員に言われたくないということだ。

経験がなければ審査員をしてはいけないというつもりはない。
だが一つの届とか変更をするにもいくたび消防署、市役所、県の事務所などを歩き回るのか、さまざまな指標の数値が日々いかほど変動するのか、現場が汚れていれば愚痴をこぼしても掃除するとか、そういう実態とか環境担当者の気持ちを知らない人の上滑りした話を聞きたくないということだ。

うそ800 本日の反省

今回でもまだ終わらない。次回に続く




注1
注2
「環境から身体を見つめる:環境ホルモンと21世紀の日本社会」、村松 秀、アイオーエム、2020、電子ブック
紙の本は2003年出版でその電子版である。
「忘れてはならない環境ホルモンの恐怖」三好恵真子、大学教育出版、2020,電子ブック
紙の本は2003年出版でその電子版である。

注3
憲法38条第3項
何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。


注4
1996年版と2004年版では「環境側面の特定(identify)」と「著しい環境側面の決定(determine)」であったが、2015年版では「環境側面の決定(determine)」と「著しい環境側面の決定(determine)」になった。
いずれに版でも「著しい環境側面の特定(p.123)」という言い回しはない。

注5
公害防止管理者とは公害防止管理者の選任が義務付けられている会社が、該当する資格保有者から選任して届け出た者をいうのであって、公害防止管理者試験に合格した人は公害防止管理者に選任される資格保有者であって公害防止管理者ではない。公害防止管理者は有資格者の数パーセントもいない。
環境計量士とか作業環境測定士は選任されなくてもそう称することができる。しかし試験合格者の8割は講習会を受けないから、その人たちは環境計量士あるいは作業環境測定士ではない。
参考:公害防止管理者制度とデータでみる公害防止管理者の現状



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