お断り
このページはISOマネジメントシステムが一番わかる 3の続編である。
その本を読んであまりにもおかしな点があり、その問題点を指摘し解説するものである。
ここで取り上げた本そのものについてのコメントはご遠慮する。
ぜひ私がおかしいと指摘したことについてコメントいただきたい。
書名 | 著者 | 出版社 | ISBN | 初版 | 価格 |
ISOマネジメントシステムが 一番わかる | 日本品質保証機構 | 技術評論社 | 9784297124236 | 2021.11.10 | 1800円 |
このウェブサイトの「推薦する本」で、推薦している本は実は半分だ。残り半分の本は、逆に読んではいけないと注意を喚起している。
推薦するにしろ問題があるにしろ、読んだ本すべてにコメントを書くわけではない。私が2021年に読んだ本は218冊であったが、ここにコメントを書いたのは24冊、全体の11%である。2020年は読んだ本が187冊でコメントしたのが13冊、7%である。
良きにつけ悪しきにつけ、これは書かねばならぬと思う本はそんなにない。ネットにアップするということは私の意見を多くの人に見てほしいということだから、 個人的に感動したというようなことではなく、これは大いに広めたいとか、参考にしないでほしいという意味が合いがある。決断と言ってはおかしいけど、ある程度思うに至った理由や根拠なりを示し、ご賛同いただきたいということだ。
そして読んだ本をここに書いた後に、言い足りなかったと思うこともあるが、普通は1回書けばおしまいだ。この本のように4回にも渡って書いたのは初めてである。ちなみに過去の最高記録は2回である。
「仏の顔も三度」とか「三度目の正直」というが、4回ではやりすぎだろうからこれが最後と思って書く。というか本日はこれだけは許せないということだから書く。
この本に次の文章がある。
組織の本来業務には環境にマイナスの影響を与える活動ばかりでななく、いわゆる「プラスの環境側面」も多くあり、これらについても特定することになります。(p.123)
この文章、たった72文字の中におかしなこと……間違っているという意味だよ……が複数ある。まずそれについて説明する。
冠大会は敷地外だとか、管理できない・影響が及ばないと語るかもしれない。だがそういうことの企画とか実行を委託した企業へ要請をすることはできるはずだ。
ゴルフトーナメントのさまざまなことに環境配慮製品の採用とかリサイクルの推進などは企業の宣伝になる。冠コンサートに低公害車で来た人は入場料無料というのもある。
そういった組織の本来業務でないことから、環境に影響を与えることは無視するのか? 良い環境影響であろうと、悪い環境影響であろうと、それはISO14001の範疇ではないのか?
それとも本来業務には構内売店とか講師派遣なども含むのか? 含むとするならば、本来業務でないものとはどんなことなのか?
手を広げすぎるというか、どんどんさかのぼったり存在する様々な問題をあげつらねていくのが私の悪いところなので、本日は「プラスの環境側面」あるいは「有益な環境側面」に限定して論じる。
まず旗幟鮮明にするが、私は「プラスの環境側面」あるいは「有益な環境側面」という考えを犯罪であるとか悪であると考えていないし、そういう止めよと主張をしたことはない。
人それぞれであるから、どんなことを考えてもよく(憲法第19条)、それを主張することも自由である(憲法第21条第1項)。
だがそうするには条件がある。公共の福祉に反しない限り(憲法第12条)である。
ISO審査を行うにあたり、認証機関と依頼する企業は審査契約書を取り交わす。審査契約書は付従契約(注1)であり、認証機関が作成したものの諾否しかないが、審査基準はISOMS規格と記述しているのが通常である。
審査基準に認証機関独自の要求事項を含めることも可能であるが、その場合は審査契約書に盛り込まないと民法上(注2)効力を持たない。
UsoKAS のロゴマーク |
さて、「プラスの環境側面」あるいは「有益な環境側面」という語はISO14001規格のいずれの版にもない。そして私の知る限り審査契約書に盛り込んでいる認証機関はない。
イギリスの認証機関で「有益な環境側面を要求する」と語っているところはない。いや日本でも外資系認証機関で「有益な……」と語っているところはない。
するとISO審査において「プラスの環境側面」あるいは「有益な環境側面」を要求する論理的根拠はないことは間違いない。
なにせISO認証はグローバルであり、A社の認証とB社の認証の中身が違うとか価値が違うということはあってはならない。であれば「認証機関が独自の要求をするということはあり得ない」と思うのが普通だが……
基本的なことだがISO審査とは、規格に記載されている「shall」が満たされていることを確認することである。規格に記載がない事項は、審査契約で決めていなければ契約対象外である。
貸金の契約で金利4%と決めているのに5%請求するのと、要求事項にないプラスの環境側面を要求するのは同じレベルで契約違反になる。
ということを踏まえると、『「プラスの環境側面」も多くあり、これらについても特定することになります(p.123)』とはどういうことになるのだろう?
ISO14001になく、認証機関との審査契約書にもないことを要求するのは契約違反であり、そしてそれがないことを不適合とすることは当然契約違反である。提供するサービス(ISO審査)に瑕疵があるわけで認証機関は瑕疵担保責任を問われることになる。
注:「有益な環境側面」なんて、たった一言ではないかなどと言ってはいけない。
ISO審査が始まってから「実は工場はここから2キロほど離れたところにもうひとつあるんですよ」なんて言ったらどうする?
そうであれば審査日数から費用から大きく変わるし、審査をする・しないかどうかの大きな問題になる。
審査契約書に「ISO14001:2015に基づき」とあるにも関わらず認証機関独自の「ISO規格にない」ことを追加するのはそれ以上の大問題である。認証機関を転注(発注先を変える)するかどうかになる。
ISO審査において、ISO規格要求にないことで不適合を出した事例は多々体験あるいは見聞しているが、審査を受けた側が苦情を申し立てそれが通っても、報告書をチョチョイノチョイと修正しておしまいというのがほとんどだ。審査員や認証機関が謝罪とか賠償をしたなど聞いたことがない。不適合を取り消しというか修正したのを見て、これからはまともになるだろうと期待するのが関の山だ。
プロ野球で誤判定とか、相撲で差し違えが起きた場合とは大違いだ。
ここまで異議ありませんでしょうか?
ではISOMS規格を解説する本で誤った情報を提供した場合、瑕疵担保責任あるいは製造物責任が追及されるのか?
著者にも著作にも責任はないというのが結論のようだ
言い方を変えると本など信用するなということのようだ。
ネットは信頼できない、新聞なら信頼できる、書籍なら信頼できるなんて語っている人がいたが、今は死に絶えたか?
書籍に誤記があっても、せいぜいが正誤表をつけるくらいでおしまいだ。そんな中で、自由国民社の訂正とお詫びを見て感心した。
では話を進める。
「プラスの環境側面」あるいは「有益な環境側面」はしたたかであり、私が全身全霊を傾けてもなかなか撲滅できない。
退治しようとしても根絶しないことが問題であり、なぜそうなのかが問題である。
まず「プラスの環境側面」あるいは「有益な環境側面」というものを聞いたのは、2001年だったと思う。ISO審査が始まって4・5年という初期である。
当時、ISO認証しようという会社の担当者同士がネットの掲示板などで質疑応答をするのは広く行われており、会ったこともない人から教えてもらったり教えたりというのは普通のことだった。
そんな情報交換していた関東地方の会社の環境担当者が、「審査で有益な環境側面というものを取り上げないと不適合になるといわれた」とメールをよこした。当時田舎にいた私は、そんなバカなと思いながらもそれきりにしていた。
2002年になっていろいろあって会社を替わり都会に出てくると、自分が働いている工場だけで審査員を相手にしていたのと違い、複数の会社や工場を相手に環境管理の指導・相談をするようになった。そしてISO審査でこんな問題がありました、どうしましょう? なんて問い合わせを受けるようになった。
有益な環境側面もそのひとつであった。
「有益な環境側面」というものを聞いて、不思議に思うことはいろいろあった。
公害やエネルギーや廃棄物の環境影響はどこも把握して改善策(もちろん法規制を受けてのこと)をとっているわけだが、製品の環境配慮などはまだ大きく取り上げていないことから、有益な環境影響を把握してそれを拡大するということもあると言いたかったのではなかろうか?
そうだとすると発想は悪くはないが、それを表現するうまい言い回しが思いつかなかったのかもしれない。
そのとき規格の用語を正しく理解して有益な環境影響を増大するために環境側面をよく把握せよと語ればよかったのではなかろうか。
だが規格の理解もあいまいな審査員たちは、正しい表現でなく有益な環境側面という言い方をしたのではないか?
それは言い間違えたとかではなく、当時有益な環境側面の提唱者たちが書いた本き記事を見ると、彼らは心底そう考えていたと思われる
注:ISOMS規格はマネジメントシステムの向上を求めているが、向上せよという要求事項はない。この辺りは考えるところだ。
「10.改善」などタイトルはかっこいいが、中身は是正処置止まりだ。予防の語句さえない。
また審査員の食事や土産などに対するタカリへの批判も出てきた
一歩退いて考えれば、タカリは論外であるが、ISO認証は品質や遵法そのものを保証しないのだということをはっきりと言うべきだったろう。そのへんをあいまいのままに置いたために、その後、ISO認証と遵法の関連で一般市民に誤解を残した。
主婦連が「ISO認証に信頼を持てない」なんて騒いだのは2008年頃だったろうか? ちなみに主婦連がISO認証は信頼できるといったこともないし、ISO認証企業の製品を推奨したこともない。なのに信頼を持てないなんて、よく言うよと思う。
しかしその人たちの周りは審査員をしている人ばかりのはずだ。そういった人たちは仲間が本を書く際には監修とか校閲をしていないのだろうか? お互いにチェックしあうとか、助け合うという職場環境ではないのだろうか?
あるいは全員が全員、そういう規格解釈をしているのだろうか? まったく分からない。
なお規格の細かな解釈は認定機関がチェックすることではないと考えるが、数年前だが知り合いの工場が審査を受けたとき、認定審査員も同行していたそうだ。そのとき認定審査員が認証審査員に「有益な環境側面がないことをなぜ指摘しないのか」と発言したのを聞いたという。認定審査員も有益な環境側面があると考えているなら、当然そういう考えは広まるだろうと思う。
注:法律で「善意の人」とは、事実を知らない、あるいは信じている人のこと。すなわち「無知の人」のことだ。とりあえず悪意とは言わないでおく。
本に限らず人様が読むものを書くなら、確固たる根拠を明示すべきだ。「プラスの環境側面」と書くなら、その理論的裏付けを確認し、出典を明記すべきだ。
「いわゆる」などと出典があいまいなままに書籍を書くべきではない。書いた本が5年10年と残り、それを読んだ人が誤った行動すると認識しなければならない。
最後にダメ押しをしておく。有益な環境側面があるという人が例に挙げているのは、環境側面ではない。
某審査員が蛍光灯をLEDに切り替える活動は有益な環境側面と語った。アホじゃね!
有益な環境側面を冠している本にグリーン調達の推進は有益な環境側面であると書いてあった。「グリーン調達の推進」は環境側面でなく環境負荷低減活動であろう。
さらに言えばグリーン調達の推進が環境影響を低減するとは限らない。なにごとも環境影響を持ち、そのあるものは有害な環境影響で、あるものは有益な環境影響であるのはいうまでもない。要するに良い悪いを合計したものが良いか悪いかはケース次第である。良かれと思って行ったグリーン調達の推進がトータルとしてよい環境影響をもたらすかどうかは一概に言えない。
有益な環境側面があると語る人たちは、そもそも環境側面も理解しておらず、善意で行えば善がなされると信じているとは何も考えていないのだ。
本日の希望
私が現役だったときは有益な環境側面があると語る審査員とチャンチャンバラバラしたものだが、まだ現役でいる仲間に聞くと最近はそんなことはないそうだ。
有益な環境側面はないと考えた審査員が増えてきたならうれしいことだが、そうではないと言う。
最近認証件数が減っているから審査できびしいことをいわなくなったからと聞く。脱力である。
第1回から数えるとこの本へのコメントの総文字数は40,000文字となった。当該の書籍の文字数が12万字だからなんとその3分の1もの文字数である。
この本の著者たちはそれほど真剣に読んだ私に感謝すべきだ。
まあ、著者たちがこの文を読むことは期待していないが、私は言いたいことの半分は語ったつもりだ。この本以上に私の思いが伝わるのを期待する。
第1回をウェブサイトにアップして10日目であるが、5/22現在Google検索で第22位にランクインしている。私の努力も無駄ではないようだ。
オイオイ、5/23出かける前にググってみたらなんと4位になっていたぞ。
有益な環境側面について過去何度も書いている。読んでいただければうれしい。
有益な側面は有益である
有益な環境影響ってなによ
認証機関勝手格付け
有益な環境側面は不滅である
有益な環境側面(2012)
有益な環境側面(2014)
有益な環境側面(2016)
有益な環境側面(2018)
有益な環境側面(2021)
注1 |
付従契約あるいは付合契約とは、契約当事者の一方が多数の契約を画一的に迅速に処理するため、あらかじめ一方的に契約条件を定め(営業上の多数の取引に用いるため、あらかじめ定められた契約条件を普通契約約款とか普通取引約款という)、この契約条件に契約の相手方は無留保で従う形で契約を締結するほかないような実質を有する契約をいう。 航空機、鉄道、バス、船舶などによる運送、電気、ガス、水道などの供給、保険、銀行預金や住宅ローン、ホテルでの宿泊、パック旅行、マンションの賃貸借や分譲、建築請負、自動車売買、社債・株式の募集などから日常生活品の購買に至るまで、広く使われている。 公共サービス(水道、電気、ガスなど)の契約内容は、監督官庁に従わなければならない。 | |
注2 |
民法第97条 第1項 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。 | |
注3 | ||
注4 |
有益な環境側面と語った認証機関の幹部とか大学教授、また本を書いた認証機関の社長などがいた。 2000〜2010年代はタイトル/副題に有益な環境側面とついた本が大量に出版された。 有益な環境側面などないと主張した認証機関の幹部や大学教授を見たことがない。 唯一、ISOTC委員だった寺田博氏のみが有益な環境側面はないと講演会で語っている。 | |
注5 |
2002〜2003年に大手新聞で豪華な昼食の提供、銘酒のお土産を受け取ったなど報道された。報道では企業側が自主的に提供した風に書いていたが、個人的経験では審査側から要求された記憶がある。 |
おばQさま >なぜ要求すべきと考えたのか? >企業の一層の向上を求めたといえば上品だが、露骨に言えば >認証機関や審査員が審査の付加価値を出そうとしたと推察する。 私も,これがいつも疑問で,有益な側面以外でも,規格に記載が無い事を要求される事が、ISO審査を受ける側での問題になっていますよね。 私なりに気づいたのは認証機関への要求 ISO17025の記載です。 ISOは英文なので,公開情報もあるJIS Q17025の記載を参照にすると,5項 組織構成に関する要求事項 5.4項の記載「ラボラトリ活動は,この規格,ラボラトリの顧客,規制当局及び認可を与える機関の要求事項を満足するように実施されなければならない。」という記載があります。 ここは解釈によっては,ISO規格要求だけでなく「規制当局の要求事項」についても認証範囲に入れられると言えるように思えます。 実際,認証機関は,業界団体等で話し合い,情報共有をしているでしょう。 その中で規制当局(経産省か?)からの要求として,これも「良い事だから審査しよう」となれば,認証の中で要求が増えると思われます。(あくまで私の推定,経験の中で別の認証でISO記載の無い要求があったので)もちろん,これは点数法という手法は含みませんので,これは審査員の問題ですね。 もし規制当局の要求事項があったとしても,ISO規格に記載が無い要求ならば,認証では必須要求ではなくて注意喚起という範囲にとどめるべきなのだと思います。 加えてISO規格以外の要求が日本の場合にあるならば,それは事前に認証を希望する会社に周知が必要。 (だからセミナーをやるのかな?) 本来 認証機関と規制当局の中でも,追加要求があっても認証の中で取り上げるにせよ,それが規格の記載が無ければ必須要求に出来ない点,もし必須要求ならばISO規格への提案が必要な事は説明すべきなのだと思います。 これが出来ていないから,変な方向に認証が曲がったように思いました。 |
外資社員様 毎度ありがとうございます。 私はISO審査とはまったく民民の契約であって特別に記述があることを除き行政指導など関係ないと考えています。 「規制当局の要求事項」の原語がわかりませんが、法令(法律や施行令で法的に強制力を持つもの)であれば遵守必須と思います。しかし行政が出すガイドラインとか要綱は強制力がないし、行政もしてほしい程度の場合もあって、必須とは思えません。 なお、規格のshallだけが要求事項かといえば昔からそうではなく、現在ISO9001では定義がISO9000を引用していますが、そこで要求事項とは「明示されている、通常暗黙のうちに了解されている又は義務として要求されている、ニーズまたは期待(ISO9000 3.6.4)」と定義されています。 つまり規格でshallで記述されていなくても、これらは必須だということになります。 しかし当然ながら審査を受けるISO規格に関わるものだけのはずです。ISO14001の審査では廃棄物契約書を見るのがパターンのようですが、そこで収入印紙金額不足があったとき、規格不適合といえるのかといえば、言えるでしょう。環境に影響しないとしても該当法規制違反です。 では審査中にセクハラを見つけたとき規格不適合とできるかとなると、ちょっと無理気味だと思います。その違いは規格要求に密接なものか、乖離が大きいかということがあると思います。せいぜい「雇用均等法に抵触する事項を発見したので是正を求める」と書き置く程度ではないのでしょうか。 見方を変えれば審査する会社のいかなる違反も見つけたら指摘するというルールなら、それは違反を見逃がしてはいけないということと同義です。それでは認証機関が音を上げるでしょう。審査員はそんなにいろいろな法規制を知らないだろうし、検出能力もありません。あげくに見逃しの責任を問われたらお手上げです。 また業界の申し合わせ事項などはその強制力によって判断されると思います。私が現役だったころ、省エネ法では年1パーセント削減のところを、業界の指針では1.5%削減とかありました。それを達成しないとして不適合ということはないでしょう。 ということで、私は法規制や業界のルールはケースバイケースで、審査契約書に記載されたものは完全に適用されると考えます。 |