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総合力で乱戦を制す! 通算7度目の制覇!
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(2009.12.14) |
ベテランが勝負どころで持ち味を発揮!
勝負のポイントは最長区間(11.6q)の5区にやってきた。
乱戦はあらかじめ予想されていたが、まさか、そこまで、レースがもつれ、優勝への道筋がしかとみえてこない……なんて、まったく夢にもおもわなかった。
4区をおわって、トップは3区・福士加代子の大噴火でトップをうばった伏兵。ワコール、17秒差で天満屋がつづき、トップから21秒差で第一生命、28秒差で三井住友海上、30秒差で大健闘のデンソーがつづきという展開……。最長区間をひけて、トップから30秒差内になんと5チームがはいっていたのである。
候補の一角・豊田自動織機は2分以上もおくれてすでに圏外に去り、ホクレンも15位で3分近くおくれていた。実績からみて優勝は上位4チームにしぼられていた。
かくして上位4チームのランナーたちは、優勝というものを視野においた走りというものをもとめられてスタートしていったのである。
前半にうごいたのは3位につけていた第一生命に野尻あずさであった。1q手前で2位の天満屋・重友梨佐をとらえ、2位にあがり、トップをゆくワコールの樋口紀子を急追する。4qでは背後にせまるのだが、前半ゆっくりとはいった樋口は抜かせない。だが、天満屋の重友、その後ろの三井住友・大平はじりじりとトップとの差をつめてきた。5qすぎでは4チームがダンゴになりそうな気配濃厚となった。
トップに肉薄した野尻は6qすぎで樋口にじりじりと置いてゆかれ、かわって天満屋の重友が6.8qで樋口に追いつき、交わそうとするのだが、樋口も駅伝巧者、なかなか抜かせない。トップの競り合いを背後から見ていた大平は、そのあいだに野尻をぬいて3位にあがる。
7.5qあたりだったろうか。重友がようやく樋口をとらえてトップに立ったと思いきや、背後から大平美樹がならびかけ、7.9qで一気にトップを奪うと、後続を突き放したのである。
後ろで焦らずにじっくりとチャンスを待ち、勝負どころで一気に決着をつけるあたり、いかにもベテランらしい戦いぶりであった。かつては土佐礼子がその役割を果たし、さらにもっとさかのぼれば、坂下奈穂美が5区でとどめを刺したが、今回は大平美樹が優勝請負人の役割をきっちりと果たしたといえる。
5区で28秒差をひっくりかえし、逆に後続に25秒差をつけた。かくしてアンカーの大崎千聖は余裕をもってタスキをゴールまで運んでいったのである。
候補がつぎつぎ沈んだ! 大波乱の第1区
乱戦必至だけに第1区がおおきなポイントになるだろうとみていたが、候補にあげられていたチームの明暗をくっきりとわけてしまった。
3区につづいて各チームが主力を投入してきている1区は、本大会ではむしろ3区よりも見どころがおおい区間だといえる。誰を1区に配してきているかで、そのチームの戦略がみえてくるからである。
昨年は最終区で逆転優勝した豊田自動織機は今年は先手必勝の逃げ切り作戦でのぞんできた。逆転劇の主役となった永田あやを1区につかってきたのである。
チームの思惑どおりに永田あやはトラックからトップに立ち、集団をひっぱって一般道路に出て行った。1q=3:17のペースならまずまずといったところで、資生堂の五十嶺綾、三井住友海上の山下郁代らがつづいた。
ところが2qで資生堂の五十嶺が仕掛けてペースが3:00とあがって波乱がおきた。トップをひっぱっていた永田に勢いがなくなってしまったのである。集団はばらけて、候補の一角でもあったダイハツの石山美穂がはやくもおいてゆかれた。
4qでは資生堂の五十嶺を中心に、三井住友の山下、第一生命の尾崎好美、デンソーの古賀裕美、ワコールの野田頭美穂、スターツの西尾千沙らがトップ集団を形成、豊田自動織機の永田あや、ホクレンの関野茜などははるか後ろにおいてゆかれた。
6qすぎでトップ争いは五十嶺と山下にしぼられたが、両者の区間賞をかけてのせめぎあいは見どころがあった。ひとたび山下が仕掛けて勝負合ったと思いきや、五十嶺が驚異の粘りを発揮して6.3qで山下をとらえたのである。
1区でトップに立ったのは伏兵・資生堂だった。候補の一角。三井住友海上は2位と好発進、第一生命の9秒おくれの3位なら上出来の部類。天満屋も33秒おくれの9位ならますますといったとことだが、豊田自動織機は49秒おくれの15位、ホクレンは57おくれの19位、ダイハツは1分14秒遅れの22位とおおきく出遅れて明暗をわけたのである。
2区にはいると1区で4位につけたデンソーのB.モジェスが1.7qでトップをゆく資生堂をとらえトップに躍り出た。この区で快走したのは日立のC.ドリカで10:02という記録は区間新、チームを12位から一気に4位に押し上げた。外人のいない三井住友海上は21秒差の3位、第一生命は31秒おくれの6位と耐えたが、豊田自動織機は19位まで順位を落としただけでなく、タイム的にもトップから1分25秒もおいてゆかれたしまった。
外人特区は時代に逆行だ!
ところで2区の3,3qは最短区間だが、外国人選手の出場は今回からこの2区に制限されてしまった。ルール変更で今年から外国人の起用が変わった。いわゆる外国人特区をつくったのである。
アフリカ勢をはじめとした外国人選手は、これまでレースの流れをつくるキーポイントというべき第1区(6.6q)やエースがそろう3区(10q)で起用されてきた。事実彼女たちはこれまで10大会では1区で4回、3区では6回、区間賞をうばっている。
彼女たちの出走を最短区間の2区に限定してしまったのである。なんという料簡のせまいことをするのかとあきれはてている。先に男子実業団と高校駅伝で同じように外人特区をつくったから、実業団女子も右に倣えということなのだろう。
だが、そんなことをしていては、ますます世界においてゆかれる。現に男子マラソンなんて世界の3流国になってしまったではないか。
とくに女子の実業団にかんするかぎり、トップクラスはアフリカ勢にもそれほど遅れをとってはいない。たとえば福士や渋井クラスならじゅうぶん互角に戦える。それにもかかわらずエース区間で外国人と競わせないというのはどういうことなのか。ならば、どうして、外国人選手を受け入れているのか。外国人を受け入れる理由はどこになるのか。競い合って強くなるためではないのか。日本陸連のやることは、まるで時代に逆行しているというほかない。
今回、出場27チームのうち7チームが助っ人外人をつかってきた。区間1位から6位までを外国人占めたが、ちなみに1位のC・ドリカ(日立)と、7位の日本人トップ小原怜(天満屋)との差はわずか17秒であった。
帰ってきた福士加代子! 怒濤の12人抜き!
3区のエース区間もみどころ十分だった。
最初にテレビ画面の主役となったのは2区で39秒差の7位まであがってきていた天満屋の中村友梨香だった。1q=3:07のハイペースで追い上げ、1.2qでは第一生命、ユニバーサルエンターテイメント、日立をとらえて一気に4位まで順位をあげてきた。
3qすぎでは、トップのデンソー・高島由香、2位の資生堂・藤永佳子、3位の三井住友海上の渋井陽子、そのうしろから天満屋の中村と第一生命の勝又美咲がおってくる。そのさまが第一放送車のカメラでとらえられるようになった。
3.5qで中村と勝又が渋井においついて3位集団になる。4.2qでは3位集団が藤永と高島をのみこんで5人がトップ集団となるのだが、なんとその後ろに13位でタスキをもらったはずのワコールの福士加代子がみえるではないか。いつのまにか先頭集団にひたひたとせまっていたのである。
福士は猛追はやむところがなく一気にテレビ画面にとびこんできた。5,7qではおちてきた藤永をとらえて5位、6qでは高島をひろって4位にあがって、奪首は時間の問題となった。
福士の快走はその後もおとろえることなく6,5qすぎには渋井、勝又、中村に追いつくと、間髪をおかずに勢いのままに一気に前に出たのである。中村と渋井が追っかけたが、もはや勢いがちがっていた。
31:02は堂々の区間新記録である。今シーズンの福士はいまひとつ成績があがらず、もはや福士の時代は終わったかという声もささやかれていたが、みごとな復活ぶりであった。渋井の調子がいまひとつあがっていないとはいえ、まったく寄せ付けもしなかった。エースクラスの選手がそろうなかで12人抜き、みごとというほかない。
「とことんスパート」と腕に書いていたが本人にとっても期するものがあったのだろう。それにしてもひさしぶりにみる福士の笑顔、なんとも晴れやかにかがやいていた。
歴史は塗り変わらなかった!
優勝した三井住友海上、混戦・乱戦なればこそベテランの味が生きた。展望で「駅伝巧者のベテランがそろっているだけに、レースがもつれると怖い存在になる」と書いたが、はからずの当たってしまったというべきだろう。
ないよりも1区で好位置をキープしたことがおおきい。いままでは3区の渋井陽子でぶっちぎって勝利を決めたが。今回はその渋井の調子がいまひとつで、3区で優位に立てなかった。5区の大平美樹が決めたが、区間賞をとったわけではない。区間賞がひとりもいない。それでいて勝ってしまった。以前の三井住友海上では考えられないが、総合力で勝ち取った優勝である。
2位の天満屋もさすがである。予選では悪くても本戦ではいつも好勝負するが、今回もまた駅伝巧者ぶりをみせつけた。三井住友海上をはげしく追いながら、最後は今一歩およばなかったが、中村友梨香を中心にした総合力はあなどれないものがある。
3位の第一生命も健闘したというべきだろう。第1区の尾崎好美の好走でプラスのリズムにのったのであろう。3区以降は4位以下におちることはなかった。尾崎好美のマラソン世界陸上2位がチームに大きな刺激をあたえた結果だろう。
4位の資生堂も東日本予選の結果からみると大きな変わり身をみせた。これも1区の五十嶺綾のみせた区間賞の快走でリズムにのったというべきだろう。
最後は5位に終わったワコールも中盤から後半にかけて主役を演じた。なによりも福士の爆走につきるが、若手も育ってきているので来年も期待できるだろう。
大健闘したのは6位のデンソーである。22年目にして初入賞を果たした。1区で4位につけ、2区でではモジェスの区間賞でトップを奪った。4区でも水口が区間2位と大健闘してダイハツやホクレンを上回る6位はほめられていい。
このチームの牽引車となってきたのは35歳をかぞえるママさんランナー・若松(旧姓・永山)育美である。永山育美といえば京セラ時代は駅伝で大活躍、ナショナルチームクラスの選手だった。当時評でもなんどかとりあげたことがある。
京セラが鹿児島から京都にうつるときに退社してデンソーにうつり、現監督の若松誠途結婚、出産後も二足ワラジで競技生活をつづけてきた。だが今年度で第一線から退くことを決意して、今回ラストランにのぞんだのである。5区の最長区に登場した若松育美、順位こそ、ひとつ落としたが堂々の走りであった。そしてチームは悲願の初入賞を果たした。引退の餞(はなむけ)としてはこれ以上のものはないだろう。お疲れさま……と、ひとこと声をかけておきたい。
若さが出てしまった豊田自動織機
期待はずれの筆頭は豊田自動織機やはりだろう。ひとことでいえば「若さ」がモロに出てしまったというべきだろう。
平均年齢20.7歳といえばいかにも若い。たしかに若くて勢いがあるが、その反面脆さもあるという証しというものだろう。1区と2区で、あれだけ後手を踏んでしまっては、後続のランナーたちは、どのように走っていいかもわからず、きっとアタマ真っ白の状態で走っていたのだろうと思う。
絵に描いたように、数字通りにゆかないのが駅伝というものである。
さしずめ小出義雄監督に訊けば、きっと次のように言うだろう。「いや、駅伝というものはむずかしい。つくづくそう思うよ」と。
それにしても前回優勝チームが8位入賞もできなかった。それは如実に女子駅伝の現在の状況をものがたっているだろう。
東日本で2位だったホクレンも最後は8位まであがってくるのがやっとだった。フィレスのデキがいまひとつだった。1区の出遅れがすべてというべきか。4区をおわって15位では5区にいくら復活なった赤羽有紀子がいても、上位はむずかしかろう。
関西1位のダイハツも同じである。1区がすべてある。それでも最後は7位まで順位を押し上げてきた。若くて力のある選手がそろっているだけに、来期は登り目があるだろう それにしても1位から5位のチーム……。三井住友海上、天満屋、第一生命、資生堂、ワコール……とながめていると、強豪チームばかりである。天満屋をのぞいて、いずれもかつての覇者たちである。
終わってみれば強豪チームがすべて上位に来ていた。昨年、新興の豊田自動織機にやぶれた旧勢力がリベンジを果たしたのである。もし豊田自動織機が連覇すれば、駅伝の歴史は変わると「展望」書いたが、そういう意味で「歴史は塗り変わらなかった」のである。
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