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頼みのエースが最終区で逆転トップ!
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(2010.01.24) |
みどころは箱根エース、新旧ふたりの走り!
横浜国際女子駅伝がなくなり、今シーズンから本大会が駅伝シーズン掉尾をかざるレースとなった。
実業団から大学生、高校生、中学生まで……。それぞれ今シーズンの顔になった選手たちが集うのが全国男子駅伝である。区間構成からみて、優勝するには、まず高校・中学生が強いことがまず第一、さらに一般で出てくる実業団、大学生では、後一押しが効くことが必要条件になる。
実業団と大学生は新年の全日本と箱根駅伝で目一杯のレースをしている。ビッグネームの選手が出てきても、コンディションは万全とはいえない。ベストの状態でなくても、どこまで押してゆけるかがポイントになるのである。
さらに……。チャンピオンシップの各駅伝大会には出場していないが、本大会には出てくる高校生や実業団の力ある選手たち、そうした選手が観られるのも、全国駅伝の楽しみのひとつであろう。
たとえば、今回福島から出場する柏原竜二は、高校時代は全国高校駅伝には出場していないから、無名に近かったが、本大会で快走して、衆目をあっといわせた。山の神として知られる柏原にとって、かれの競技者人生をかえたのは、ある意味で本大会だったのである。
さらに兵庫から「ふるさと選手」として出場する竹澤健介は所属するヱスビー食品が実業団駅伝に出場しないから、東日本実業団駅伝でもニューイヤー駅伝では観ることができない。
かつて箱根駅伝の雄であり、いまや日本の長距離界のトップといってもいい存在だが、残念ながら駅伝は遠い存在になっている。だが今シーズンは幸いというべきか。秋の国際千葉駅伝につづいて、本大会にもエントリーされ、兵庫のアンカーとして出場にふみきった。
あの山の神・柏原竜二が実業団選手たちにまじって、どのような走りをみせてくれるか。竹澤健介が実業団トップクラスの顔がそろう7区で、格にちがいを見せつけるのか。みどころはそのあたりにあった。
竹澤健介がスパート合戦でぬけだした!
まさか最終区までもつれるとは考えもしなかった。
長野の2度目の3連覇がなるかどうかが、もっぱらの焦点だったが、明暗をわける中盤の高校生区間で失速したのは意外だった。かくして6区をおわって優勝のゆくえはまったく混沌として、予断をゆるさなくなったのである。
7区アンカーにタスキがわたった状態で、トップは埼玉、2位は16秒おくれで鹿児島がつづき、兵庫と福島が37秒遅れで埼玉を追う……という展開、さらに埼玉から1分以内には千葉と広島もはいっていた。
トップをゆく埼玉は堀口貴史(ホンダ)、2位をゆく鹿児島の中野良平を3位集団となった福島・佐藤敦之と兵庫の竹澤健介がはげしく追い、1.5qではやくも中野を抜いて2位集団に浮上する。
差はみるみる詰まって、40秒あったその差が、7qでは12秒、10qすぎでは4秒となりもはや時間の問題となる。そして11.4qで佐藤と竹澤は堀口の背後にピタとつけたのである。しばらくはトップ集団でゆくのかとおもわれたが、11.7qで佐藤がスパートすると、竹澤はつづいたが、堀口には追いすがる力はなく、一気においてゆかれた。
かくして兵庫と福島の優勝争いになったのだが、両者のそこからのせめぎあい、実に見ごたえがあった。
残り1.5qあたりで佐藤がロングスパートをかけたのは、スプリント勝負になっては勝ち目がないと踏んだからであろう。竹澤は佐藤にくらべれば、いくぶん苦しそうな顔つきだったが、佐藤の背後にピタと貼り付いて動かない。
佐藤はなんども動いたが、竹澤は動じなかった。竹澤がはじめて動いたのは残り300mにである。ここが勝負どころとみたのだろう。猛然とスパートすると、佐藤にはもう追いすがる力はのこっていなかった。
かくして竹澤が右手でおおきくガッツポーズ、兵庫のタスキをゴールにはこんでいったのである。
埼玉が終始レースを支配!
レースの前半、いや後半までも、支配しつづけたのは初優勝をねらう埼玉であった。
1区は高校生区間だが、埼玉は今年も服部翔大を配してきた。レースは服部を中心にしてすすみ、3qあたりでは埼玉の服部、長野の大迫傑、兵庫の西池和人ら有力選手が前に出てきた。
3qは8:53で、いくぶんスローの展開、そのせいか服部なんかは、いかに余裕ありそうに周囲をきょろきょろみわたしていた。
ペースがあがったのは4qで、大迫が引っ張りはじめ、服部、西池がつづき、タテ長の展開になる。5qではトップ集団は10人から12人ぐらいになり、5.6qで長崎の定方俊樹が先頭に出てくるが、7人から8人の集団はくづれない。
残り600m〜700mからははげしいスパート合戦となり、まず佐賀の西嶋悠が飛び出すも西池、服部らは余裕がある走り、そして鹿児島の市田孝、西池……とかわるがわるスパートをかけるのだが、服部と西池はゆずらない。西嶋、大迫はやや遅れ、最後は西池、服部、市田の争いになったが、スプリント勝負では埼玉の服部が競り勝ち、昨年につづいて区間賞にかがやいた。
兵庫の西池、鹿児島の市田が秒差でつづき、3連覇をねらう長野の大迫は10秒おくれの5位につけた。優勝候補の一角といわれる福島・佐久間建20秒おくれの10位とまずまずのポジションを確保したが、地元で期待のかかる広島の竹内一輝はなんと53秒おくれの34位とおおきく遅れてしまった。
柏原と村澤がガチンコ勝負!
最終7区とならんでみごたえがあったのは一般ランナーの3区である。
2区を終わってトップは埼玉(秋山洋一郎)、わずか1秒おくれて2位は兵庫(森本直人)、4秒おくれで鹿児島(森賢大)、12秒おくれで長野(村澤明伸)、そして15秒差の7位につけていた福島(柏原竜二)が、後ろから急追してくるのである。
1q=2:36という柏原はたちまち佐賀、三重をかわして、長野の村澤とともにどんどんトップに迫ってくる。
ひととびトップは兵庫の森本がうばうも、鹿児島の森賢大がかわしてトップに立つのだが、埼玉の秋山もゆずらず、トップ集団を形成していた。
1.3qでは柏原と村澤がトップ集団に追いついてしまう。1,4qでは柏原が先頭をうばい、村澤、秋山、森はつづいたが、兵庫の森本がここでおくれはじめた。
4人によるはげしいサバイバルレースとなったが、5qで鹿児島の森がおくれはじめた。柏原、村澤の箱根のスター、そしてベテランの秋山という全国駅伝ならではの顔ぶれによるトップあらそいとなった。
5.8qでは村澤がトップに立ってひっぱりはじめ、3人になかではもっとも余裕があるところをみせつけた。事実、柏原の顔はゆがみ、表情はけわしく、箱根の山登りでもみせたことのないようなきびしい表情になった。二人を比較すると、「あと一押し」という点ではあきらかに村澤に分がありそうだった。
予想されたとおり、残り700mになって柏原はおいてゆかれ、二人の勝負には結着をみた。
トップ争いは村澤と秋山の勝負になったが、残り400mで勢いにまかせたというべきか。村澤が競り勝ち、長野は予定通りというべきか。3連覇にむかう道筋をひらいた。
埼玉の秋山は最後の最後で屈したが、若い勢いのある二人のランナーのあいだに入って、むしろ二人のエネルギーを糧にしたというべきか。いかにもベテランらしい巧走ぶりをいかんなく発揮した。
トップは長野で2秒遅れで埼玉、4秒遅れで福島がつづき、広島はここで33秒おくれの5位まであがってきたが、兵庫は57秒おくれの13位まで順位を落とし、崖っぷちまで追い込まれた。
高校生ツインでトップを奪う!
4区(5q)と5区(8.5q)は高校生区間だが、勝負のポイントをなす重要な区間である。
埼玉はこの2区間に設楽悠太、設楽啓太(武蔵越生高)という切り札を投入している。2人で1分以上の差をつけて一気に勝負をきめてしまおうというわけである。事実、3区の秋山洋一郎が快走、2秒差の2位でタスキをうけた。
勢いにのった設楽悠太はタスキをもらってわずか400mで長野をぬいてトップに立ってしまうのである。
4区で息をふきけしたのは兵庫である。兵庫は延藤潤が快走、区間賞こそ青森の田村優宝にうばわれはしたが、区間新記録で9人ぬき、トップから37秒差の4位まであがってきて、一気に優勝圏内にとびこんできた。
トップは埼玉、2位の福島との差は20秒とひろがり、3位は鹿児島で28秒おくれ、逆に3区でトップに立っていた長野はトップから38秒おくれの5位まで後退した。
ふたたびトップをうばった埼玉、設楽悠太から設楽啓太へとツインリレーである。設楽啓太は着実な走り、2位の福島の姿はどんどんと遠ざかった。後ろからおってきたのは鹿児島で、福島を逆転、ここで2位と3位がいれかわってしまう。
5区をおわってトップの埼玉と2位の鹿児島との差は32秒だが、優勝を争う当面のライバルというべき福島とは41秒、兵庫とは52秒……。埼玉が初優勝をめざすには、なんとも微妙なところであった。
埼玉が優勝するにはすくなくとも1分以上の差がほしいところ。福島には佐藤敦之、兵庫には竹澤健介がひかえている。そんなこんなで埼玉は6区の中学生にのぞみをたくしたのだが……。
総合力の勝利! 優勝した兵庫は区間賞なし!
3年ぶり3度目の優勝を果たした兵庫は12年間連続入賞である。安定した強さを誇っているのは、高校駅伝では無類の強さを発揮している……という素地があるからだろう。
今回も高校生と中学生が安定した走りで、チームの危機を救った。3区の一般区間ではトップから57秒差の13位まで落ちて、圏外に弾かれかかっていたが、4区と5区の高校生6区の中学生がふんばって、ふたたび圏内まで押し上げてきた。
そういう伏線があってこそ、アンカーに配した大砲・竹澤健介が活きる展開にもちこめたのである。竹澤は本調子ではなかったようにみえた。それでも最後の勝負どころではきっちりと自分の仕事をするあたり、さすがというべきであろう。
区間賞がひとつもなしの優勝、まさに総合力の勝利である。
2位の福島はアンカー勝負で惜しくも初優勝をのがした。3区の柏原で3位まで押し上げ、4区以降も粘った。最後はアンカーの佐藤敦之にのぞみをたくしたが、相手が強すぎた。
惜しくも初優勝をのがしたという点では3位の埼玉も同じである。1区でトップに立ち、3区でこそひとたび2位に順位を落としたが、4区以降もトップを走り、最終7区も残り2qの11q地点までトップをまもっていた。
3人の高校生が無類の強さを発揮した。事実、5区までは優勝にもっとも近いところにいた。レースのほとんどを支配していたのに最後の最後に兵庫と福島に逆転をゆるしてしまった。6区をおわったところで、あと10〜15秒のリードが上乗せされていたら、アンカーの堀口はおそらく逃げ切っていただろう。
5区から6区にかけては、そこらあたりの攻防になっていた。そういう微妙なところが駅伝のおもしろさでもある。
3連覇をねらった長野は3区の村澤でトップに立ち、そこで3連覇への道筋がひらけたにみえたが、4区と5区の高校生が失速して圏外に去った。それでも最後は佐藤悠基が区間賞の走りで15位から5位まで順位をあげてきて面目を保った。
地元の広島は終わってみると4位まできていた。1区の出遅れさえなかったら、上位争いにくわわっていただろう。
大健闘といえるのは6位の千葉、7位の大分よりも、8位入賞を果たした三重である。1区で6位につけて好発進、以降も5位から10位のあいだを行き来して、最後は高林祐介(駒澤大)が区間4位の走りで8位にとびこんだ。
全国女子駅伝につづいて男子駅伝も今回は名のある選手たちも顔がそろってみごたえがあった。
なによりも最後の最後を竹澤健介、佐藤敦之という現在の日本長距離界にあって、双璧をなす二人のデッドヒートでしめくくってくれたのは、このうえもなく僥倖であった。
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出場チーム&過去の記録 |
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関 連 サ イ ト |
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