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高校生2人の活躍、中盤で混戦を断つ!
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(2010.01.17) |
ジュニア選手の檜舞台にふさわしい大会!
全国女子駅伝(正式には全国都道府県対抗女子駅伝競走大会)は今日の「駅伝ブーム」の火付け役になった大会である。
第1回の一九八三年(昭和五八)からNHK総合テレビで中継されている。テレビ中継といえばいまや怪物番組となった箱根駅伝を日本テレビが全国ネットで中継しはじめたのは一九八七年(昭和六二)だから、テレビに登場したのは全国女子駅伝のほうが4年もはやかったのである。
本大会は「女子マラソンの強化」というネライから誕生している。当時、日本の女子長距離は世界と10年の差があるといわれていた。
事実、男子マラソンは瀬古利彦(ヱスビー食品)、宗茂、猛の兄弟(旭化成)、伊藤国光(カネボウ)などがいて全盛時代だった。それにくらべて女子のほうは世界におおきくおいてゆかれていた。
長距離やマラソン選手がいないわけではなかった。増田明美(成田高、川鉄千葉)、佐々木七恵(当時、盛岡一高教)などがいたものの、競技人口もすくなく、マラソンとなると、かなり高齢のジョッカー出身の選手ばかりで、とても世界で戦える状態ではなかった。
駅伝をきっかけにして女子陸上の活性化をはかる。そのために全国の都道府県すべてが参加する大会とする。そういうつよい思い入れをもってはじまったのが全国女子駅伝なのである。
ようするに女子長距離のすそ野をひろげる大会というべきで、長距離をめざす若い芽をそだてるというのもおおきな目的のひとつになっている。事実、中学時代に本大会を走って、オリンピックの出場を果たした選手も数多くうまれている。
そういう意味では中学生、高校生などの育成におおきな役割を果たしており、マラソンで五輪を制するなど、日本の女子長距離がレベルアップした現在は、むしろジュニア選手のための大会という側面がつよくなってきている。
中学生、高校生が世代をこえて、大学生や実業団トップの選手たちとともに走る。彼女たちにとってはいわば檜舞台なのである。
9区間のうち、2つの中学生区間があり、3人の高校生選手をつかわなければならないというのがきまりになっている。なかでも高校生がポイントで、高校生がつよくなければ優勝はむずかしい。近年はとみにそういう傾向がつよくなってきている。
28回をかぞえる今回、岡山が悲願の初優勝をはたしたが、勝負をきめたのは、くしくも二人の高校生だった。
圧巻! 5区の逆転劇、そして6区の区間新!
レースの流れが大きく動いたのは5区(4.1075km)であった。
前半は6連覇をねらう京都が先行するものと思われていたが、2区で失速していがいにも伸びず、4区をおわってトップグループは混沌としていた。先頭をゆくのは2区でトップをうばった千葉で、2位はわずか2秒差で岡山、16秒差で長崎がつづき、以下はトップから27秒のあいだに神奈川、大阪、愛知、京都の順でつづいていた。
中間点付近には叡山電鉄の跨線橋があって、アップダウンのおおいこの区間は、レースのポイントになる区間といわれてきたが、今回もまた明暗をわける結果になったようである。
トップをゆく青山瑠衣は実業団の強豪・豊田自動織機のレギュラークラスの選手である。追う岡山の菅華都紀は高校生(興譲館高)だから、ここは千葉が独走態勢にもちこむかとおもわれた。
だが岡山の菅は青山にくっついてはなれなかった。
後方でも愛知の安藤友香、京都の久馬萌、さらには順位をあげてきた兵庫の藪下明音など高校生がはげしく順位をあらそっていたが、菅は青山との差を詰めて、2.5qでとうとう青山をとらえてしまうのである。
まるで走りがちがう……という感じで、菅は青山以下をどんどんとひきはなしていった。宝ヶ池の折り返しではなんと千葉との差は14秒、3位の愛知との差は32秒とおおきくひらき、以下は神奈川、長崎、兵庫とつづき、大本命の京都はトップから50秒差とおくれ、6連覇に赤信号がともったのである。
6区でも岡山は高校生の赤松眞弘(興譲館高)が胸のすくような快走ぶりをみせてくれた。
赤松は先の全国高校駅伝では花の1区に登場したが、途中で不覚にも転倒、その影響もあったのだろう。区間賞をとれなかっただけでなく、チームに勢いをつけられなかった。
その汚名を濯ぐかのようにハナからすっとんでいった。後続をぶっちぎり、追ってくる千葉との差はみるみるひろがった。高校生では一枚ぬけた存在とはいえ、中條宏美(愛知、ワコール)など実業団選手を押さえただけでなく、区間新記録である。みごとな走りだった。
6区をおわって2位の千葉との差は45秒とひろがり、レースの主導権は完全に岡山の手におちた。ライバルの兵庫は1分05おくれの4位、6連覇をねらう京都は1分27秒おくれの7位と低迷、岡山の初制覇はいよいよ濃厚となってきたのである。
6連覇をめざす京都は好発進したが!
高校生2人が中盤で岡山に勢いをつけたが、前半の3区までは千葉のペースになりかかっていた。千葉の台頭も中学生と高校生の活躍によるものだった。
今大会は例年にくらべて実業団や大学生の有力どころが数多く顔をそろえたが、それはとくに1区と最終9区に集中するかたちになった。
注目の1区は大南博美(福井=トヨタ車体)、野田頭美穂(ワコール=青森)、古賀裕美(福岡=デンソー)、西原加純(京都=佛教大)らが先頭集団をリードするかたちではじまり、1qのはいりは3:08というから、例年よりは、少し速めというところ。
大南と西原が集団のまんなかにいて、かわるがわる集団をひっぱるという展開、3.6qで候補の一角岡山の小原怜がおくれはじめる。
3.8qでは徳島の伊藤舞(大塚製薬)が先頭に立ち、西原、大南がつづいたが、兵庫の伊藤恵(京産大)がおくれはじめ、30位あたりまで後退してしまう。4,2qでは西原、伊藤舞、大南、古賀と滋賀の桑城奈苗がトップ集団となる。後方からは千葉の五十嶺綾(千葉=資生堂)が追い上げてくる。
区間賞をめぐる争いがはげしくなったのは残り1q地点だった。ここで地元の西原がスパートをかける。後ろは一気に突き放された。
6連覇をねらう京都にしてむれば理想的なスタートをきったのである。岡山は20秒おくれの11位なら、ますまずというところだが、兵庫は49秒おくれの34位とおおきく後手にまわってしまった。
高校生と中学生の活躍で千葉が主導権!
京都にとっては理想的な展開とおもわれたが、2区の森唯我(佛教大)はピリッとしなかった。7秒差で2位につけていた千葉の2区は高校生の小崎裕里子(成田高)が追ってきて、トップの森に肉薄してきたのである。
さらに後方からは21秒という遅れをとった岡山の浦田佳小里(天満屋)が急追してくる。2区ではやくもトップ争いは波乱含みになってきたのである。
千葉の小崎は軽快な足のはこびで、どこか重そうな京都の森をどんどん追いあげ、2.2qではならぶまもなくかたわらをすりぬけていった。大学生の森にもプライドはあろう。けんめいに食いさがろうとしていたが、いつものキレがなく、高校生に名をなさしめてしまった。
後方からは岡山の浦田が2.5q地点で3位にあがり、勢いを駆って京都の背後にまで急迫してきて、トップ争いはますます熾烈になってくるのである。
2区でトップをうばったのは千葉の小崎裕里子、区間成績でも岡山の浦田につづく2位となり、千葉に弾みをつけるかたちになった。
トップをゆく千葉と京都、岡山の3位まで5秒以内におさまるというかたちで3区の中学生区間が幕あけた。
千葉の内藤早紀子、京都の吉川りつこ、岡山の山田千花がはげしくトップを争うかたちで京都御所の周回にうつったが、千葉の内藤の素軽い走りに一日の長があった。内藤は1.8qあたりでスパートをかけると、京都と岡山はたちまち後ろに置いてゆかれた。
かくして千葉がトップに立ち、2位には大健闘の岡山で17秒おくれ、京都は3位におちてトップからは24秒遅れとなった。
伏線になった4区・泉の粘走
トップの千葉からは24秒遅れだが、ライバルの岡山とはわずか7秒遅れ……。4区に区間記録保持者の小崎まり(ノーリツ)を配する京都にとっては、まだまだ想定内の展開であるはずだった。
千葉の4区は西尾千沙(スターツ)、岡山は泉有花(天満屋)である。トップ争いはふたたび激化するものと思われた。
京都の小崎は1.5q地点で岡山の泉をとらえにかかるが、オーバーペースだったのだろうか。そこからが伸びなかった。捉えきれないままに、なぜにわかに失速してしまうのである。後方からは長崎の野上恵子(十八銀行)、神奈川の中村仁美(パナソニック)がやってくる。
京都の小崎の追撃をしのいだ泉はトップをゆく千葉の西尾をはげしく追い上げて、岡山と千葉のトップ争いはにわかに風雲急をつげてくる。
背後では失速した京都の小崎にまず長崎の野上がおそいかかり、2.5q付近で抜き去って3位に浮上、神奈川の中村も落ちてきた京都をぬいて4位にあがってくる。
千葉と岡山の熾烈なトップ争いはタスキ渡しの直前までつづき、千葉の西尾がからくも逃げきるかたちになったが、岡山がなんと2秒差まで迫っていた。粘走というべきか、泉の走りはみごとというべきで、5区逆転の足がかりをきずいたといういみで、岡山に優勝をもたらした殊勲者は、この泉である……ということができる。
岡山は4区の勢いにのるかたちで、冒頭でのべたように5区で逆転劇を演じるのだが、京都は4区で7位まで順位を落として、流れを一気に悪くしてしまった。それでもトップとの差は27秒であったが、頼みとする小崎まりの追撃が不発におわっただけに、タイム差以上にショックはおおきかったのだろう。
5区、6区の久馬ツインがのびなかったのも、4区の悪い流れをひきずっていたからにちがいないのである。
エースランナーの饗宴!
最後のみどころは第9区となった。
8区をおわってトップは岡山でゆるがない。2位には11秒遅れで中盤から追い上げてきた兵庫、3位には愛知で40秒差、4位は千葉で41秒差、6位の京都とは1分以上の差がひらいていた。
岡山のアンカーは中村友梨香だから、もはや盤石の体制だというのがおおかたのみるところ。ところが千葉の新谷仁美(豊田自動織機)が急追してきたのである。41秒あった差をどんどんと詰めてきた。愛知の加藤麻美(パナソニック)、兵庫の竹地志帆(佛教大)とつぎつぎと抜いて、中間点では11秒差までやってきたのである。
後方では京都の小島一恵(立命館大)が長崎の藤永佳子(資生堂)と神奈川の尾崎好美(第一生命)とはげしく順位争いを演じている。
トップの中村は追われてもおちついていた。新谷仁美がせまってきてもあわてはしなかった。これぞ王者の走りというべきか。後ろをふりむくこともなく、12秒から14秒差をつねにキープ、それ以上は近づけることはなかったのである。
かくして中村友梨香は悠々とタスキをゴールまではこんでいった。指一本を立て悲願の初優勝のゴール、満面の笑顔がかがやいていた。
2位には急追した新谷仁美の千葉がつづき、3位には競技場の入口で兵庫をかわした京都の小島一恵がとびこんだ。長崎の藤永を突き放し、神奈川の尾崎にも追わせなかったのは意地というべきか。区間成績でも福士加代子(青森)、勝又美咲(静岡)、新谷仁美(千葉)につづいての4位というのは評価できよう。
大学女子ではナンバワンの選手だが、実業団(豊田自動織機)にいっても期待できそうである。
なお、実業団の名のある選手がそろった9区では青森から出場の福士加代子(ワコール)が40位から15人抜きで25位までやってきた。自身の区間記録更新はならなかったが、ぶっちぎりの区間賞である。駅伝になると福士は無類の強さを発揮する。今シーズンは12月の全日本実業団といい、今大会といい、強い福士がもどってきた。
岡山の優勝! チーム力からすれば当然の結果
優勝した岡山は悲願の初優勝である。このところ毎年のように、いま一歩に迫りながら京都にしてやられてきた。実業団2位の天満屋、高校駅伝全国3位の興譲館を主力にしながらいままで勝てていないのは不思議なぐらいであった。
とくに今シーズンは天満屋、興譲館ともに、あと一歩のところで大魚をのがしただけに本大会でリベンジを果たしたというべきか。とくに菅と赤松の高校生二人がチームに流れをよびこんだ。1区で遅れても、2区の浦田でリカバリー、3区の中学生が踏ん張って、4区の泉が上昇ムードをもたらした。チームとしてもまとまりもきわだっていた。
2位の千葉も2区と3区の高校生、中学生が流れをつくった。最終区の新谷仁美を活かせるとことまでもってきたチーム力はなかなかのものである。
3位の京都は全般的にリズムに乗れなかったようである。2区と4区の大学生・一般の部分がいまひとつのデキだった。
京都はこのところ実力ある実業団チームをもちながら、大学生中心でチーム編成している。全日本2位のチームから3人をエントリーしている岡山にくらべると、やはり1枚落ちるというべきか。佛教大、立命館大といえば実業団チームとも互角に戦える力があり、事実、西原と小島はみごとな走りだったが、今回は岡山にくらべるとやはり劣勢はいなめないところ。6連覇がならなかったのは、そのあたりに要因があろう。今回はくしくも京都の限界が露呈するかたちになった。
4位の兵庫は第1区でおおきく出遅れながら、中盤から上位に進出、8区では優勝した岡山に11秒差まで迫った。最終区では4位と順位をおとしたが、もし脇田茜が万全の状態で出場できていたら、岡山にするどく肉薄していただろう。
5位の神奈川、6位の長崎、7位の愛知、8位の福岡……。このように見てゆくと、いづれも「ふるさと」選手をふくめた「一般」の選手の層が厚いか、あるいは高校駅伝の強い地域が上位にきている。そんななかで今回、大健闘したのが12位にとびこんできた滋賀であろう。
本命の京都の低迷で、レース自体はおもしろかった。くわえて例年になく実業団の主力が投入されてきたので、みどころがのおおかった。観る駅伝としては最後まで楽しめる大会だったといえるだろう。
岡山の制覇であたらしい時代が幕あけたが、チーム編成のありかたからみて、岡山、千葉、京都、兵庫……。4強時代はまだしばらくつづくとみた。
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出場チーム&過去の記録 |
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関 連 サ イ ト |
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