98〜99 駅 伝 時 評

エピローグ
【 世界選手権、そしてオリンピックへ!  】

 マラソンの世界選手権代表が発表された。男子は真内明、佐藤信之、小島忠幸、清水康次、藤田敦史。女子は高橋尚子、浅利純子、市橋有里、小幡佳代子、市河麻由美……である。前回優勝者のワクで出場をみとめられる鈴木博美を加えた女子については、世界のトップを狙える顔ぶれだが、男子の場合まだまだ世界は遠い。やっと2時間7分台がみえてきたが、世界のトップクラスはすでに6分台に突入している。三流の上というところが妥当なところだろう。

 代表10人のうちに「98〜99駅伝」で大活躍した選手3人が含まれている。小島忠幸は「全日本実業団」の2区で区間第1位となり、旭化成3連覇の足がかりをきずいた。藤田敦史は全日本大学8区で区間1位、駒大を初優勝に導き、注目の「箱根」では往路の4区で区間新記録をつくった。高橋尚子は「全日本実業団女子」の5区(最長区間)で9人抜き、そのときすでにしてアジア大会で快記録を生む下地はできあがっていた。

 マラソンの延長線上に駅伝がある……というのは宗茂の科白だが、男子は世界選手権代表5人のうち3人までを旭化成が占めた。代表に選ばれてしかるべき三木弘をふくめて、今年の男子マラソン界は旭化成勢の活躍ばかりが目についた。好対照なのが瀬古エスビー勢、花田、武井、渡辺……、マラソンではみんな惨敗であった。

 マラソンが強ければ駅伝も強い……。 「全日本実業団」は今回も旭化成とエスビー食品のマッチレースとなったが、瀬古エスビーは3年連続で敗れた。全般的にみてタイム差以上に力のひらきを感じさせるレースぶりだった。旭化成の選手たちは、いかなる局面になっても、変幻自在にレースを創造できる。エスビーの選手たちはみんな反応が鈍い。レースにのぞむ余裕の差みたいなものが出てしまったようである。マッチレースといえば、もうひとつ……。「全国高校駅伝」(男子)では今回も西脇工と大牟田のビッグ2が激突、昨年の覇者・西脇工はあっさりと大牟田の挑戦を退けた。ある意味では旭化成=エスビー対決のミニ版をみる思いがした。

 駅伝はタイムではない……。たとえば「全国高校駅伝」(女子)では予選タイムからみて、諫早、西京、須磨女子が有力とみられていたが、第10回の記念大会を制したのは ベストテンにも入れなかった田村だった。「箱根駅伝」は神奈川、駒沢、山梨の3強対決といわれていたが、伏兵・順天堂大が往路で大逆転してアッといわせた。出雲では5位、全日本大学は8位だったが、そこから大きな変わり身をみせて箱根を制したのである。走ってみなければわからない……。だから駅伝はおもしろい。

 どの大会でも各チームの実力が接近してきたせいなのか、最近ではエース区間よりも、「つなぎ」といわれる短い距離の区間が勝負の分かれ目になるケースも出てきた。たとえば「全日本実業団女子」、東海銀行初制覇の流れを呼びこんだのは最短4区(4.1K)の高成田のぞみだった。全日本実業団男子でも、2区(8.35K)の小島忠幸、5区(7.4K)の三木弘が、ともに区間1位の快走をみせ、連覇のキーパーソン的な役割を果たした。今後は「つなぎ」の区間にどういう選手を配しているかが、そのチームの実力を測る大きなポイントになるだろう。

 女子駅伝に関していえば、今シーズンは主役交代が相次いだ。「高校駅伝」では埼玉栄三連覇の後をうけた新しい女王争いだったが、東日本女子駅伝でひそかに自信をつけていた田村がダークホースぶりを発揮した。「全日本大学女子」では5連覇にのぞんだ京都産業大が、城西大に足もとをすくわれた。全日本実業団女子は昨年優勝の沖電気宮崎に加えて、積水化学、京セラ、東海銀行がを加えてビッグ4がまさにヨコ一線の状態だった。めまぐるしく順位は変動したが、最終的にミスの少なかった東海銀行が新しい主役についた。女子の場合にかぎれば、今後ますます連覇というのはむずかしくなりそうな形勢である。

 テレビ観戦できる駅伝のみを対象にして、今シーズンの優秀選手を、独断と偏見で選んでおこう。高校生男子の部は森口祐介(西脇工)と佐藤清治(佐久長聖)の2人。森口は「全国高校」の7区、「全国都道府県男子」の5区でともに区間新、佐藤も「全国高校」の2区、「全国都道府県男子」の1区で区間賞を獲っている。高校生女子の部では「全国高校」1区と「横浜国際女子」1区で区間1位となった藤永佳子(諫早)。大学生の部では、前出の藤田敦史(駒大)と「出雲」の6区を制し、「箱根」2区で驚異的な区間新をマークした三代直樹(順天堂大)。

 実業団男子の部では文句なしに川嶋伸次である。ミスター駅伝といわれる川嶋は今年も、「全日本実業団」7区(16.4K)、「全国都道府県男子」7区(14.5K)で区間1位となった。中年ランナーの底力を高く評価しておきたい。女子は「千葉国際」で快走した小崎まり(ノーリツ)、「全国都道府県女子」と「横浜国際」の田中めぐみ(あさひ銀行)、「東日本女子」の9区を制した竹元久美子など候補者は多かったが、東海銀行の川島亜希子をあげておく。川島は「全日本実業団女子」の6区で真木和の区間最高を破って初優勝に貢献、さらに「全国都道府県女子」では最長の9区(10K)を制した。地味ながら堅実な走りを買う。

 今年は夏に世界選手権がある。今季の駅伝ランナーたちのなかにも、トラックでの出場をめざす選手たちが少なからずいるだろう。世界選手権、そしてシドニーオリンピックへ……。今年から来年にににかけて、目標がはっきりしている。それだけに来シーズンの駅伝もいっそう熱のこもった闘いが期待できそうである。

 ウインタースポーツのなかにあって、駅伝人気はまだまだゆるぎそうにない。かつてマイナーなスポーツだった駅伝をここまで押しあげたのは、企業群がスポンサーとなって潤沢な物的支援に乗り出したからである。だが景気下降がつづく昨今、企業側はリストラ策の一環として、運動部の休・廃部をいちだんと強力にすすめる動きが出てきた。 駅伝チームを持つ企業もまた無縁ではない。いずれにしても駅伝の隆盛がバブル景気の徒花であったかどうかは、今年一年の動向でほぼ目星がつくだろう。
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