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競技場にはいってきた興譲館のアンカー・高島由香は勝利を確信していただろう。もはや後ろからやってくる者はひとりもいなかった。タスキをもらったときの14秒差ぐらいなら、後ろからやってくるライバルによせられる声援が背後に脈打っていただろうが、彼女は40秒以上もひきちぎっていた。 2区、3区……と、じりじりと追いすがってきたライバルの須磨学園、4区から最終5区への中継所ではわずか14秒になっていた。だが、彼女はあわてることはなかった。追いすがる須磨学園をじりじりと引き離していった。一気にゆかずに、じんわりじんわりと引き離していったところに、強かで沈着な精神力、なみなみならぬ力強さを感じた。 興譲館は高校駅伝の常連だが、上位に顔をみせてくるようになったのは3年前からである。その年、新谷仁美が1区で留学生たちを蹴散らして区間賞の激走、余勢を駆って7位に入賞している。昨年もやはり新谷が1区を制して、スタートから一気に流れに乗った。最終区で須磨学園、諫早と3つ巴の様相になり、惜しくも力尽きで諫早に屈したが、終始レースを支配していたのは新勢力というべき興譲館だった。 今年も新谷が突っ走った。1区で3年連続の区間賞、レースの主導権をにぎった。2区で須磨学園が台頭してきて、2強による早くもマッチレースの様相となった。だが新谷のつくったおおきな貯金をあとの4人がしっかりまもった。 昨年の悔しさがを晴らしての初優勝である。ゴールする瞬間、両手をあげた高島の横顔には、いかにも満足そうな笑みがこぼれていた。
女子の最大の見どころといえば、やはり1区の攻防であった。 興譲館と須磨学園の一騎打ちムードが高まるなか、1区で両校の位置どりがどのようになるか。興味はもっぱらその1点にあった。 2年連続で1区を制している新谷仁美、ハナから前に出たのは、やはり昨年の悔しさのせいだろう。1区でぶっちぎってしまう……というのが、興譲館の作戦だったのか。新谷はスタートして100mで早くも先頭に立っていた。もはや誰ひとりとして、前にはゆかせないという気迫がみなぎっていた。 1q=3:03、2q=6:10……、新谷は後続をどんどんと引き離してゆく。5qでは筑紫女学園、聖徳、神村学園,常磐、埼玉栄……など一団になってつづき、もう一方の旗頭・須磨学園はその直後につけていた。立命館宇治(小島一恵)は、このときすでに大きく遅れてしまっていた。 新谷はいかにも自信にみちた走り、そのペースにはゆるぎがなかった。3年連続の区間1位、2年連続の区間新という圧巻の走り。終わってみれば2位の常磐(群馬)との差を30秒、ライバル須磨学園をなんと48秒もちぎってしまっていた。 結果的にみて、この1区における須磨学園との秒差が最後までつまらなかったのだから、新谷が須磨学園をねじふせてしまったことになる。 1区では2位の常磐(鈴木悠里)、これは実績から見て順当なところだろうが3位にやってきた埼玉栄(富岡美幸)は大健闘というべきか。 入賞候補のなかでは立命館宇治が23位、千原台が33位と大きく出遅れて、早くも圏外に去ってしまった。
興譲館と須磨学園の一騎打ち……という構図がみえてきたのは2区である。 昨年も2区で区間賞をとった須磨学園の小林祐梨子が快走した。7位から一気に2位にあがってきてトップをゆく興譲館との差は30秒差、3区以降の攻防がにわかに緊迫してきたのである。柱になるエースがしっかりと走ると、チームは盛りあがる。 須磨学園は3区で24秒差、4区では14秒差まで追いあげるのだが、興譲館もしぶとかった。たとえば4区を終わって、並ぶところまで迫っていたら、勝負はどちらに転んだからはわからなかっただろう。ところが4区を終わって14秒差に踏みとどまった。ひたすら耐えて須磨学園に決定的な追撃をゆるさなかったところに興譲館の強さがあった。 須磨学園にとっては1区が誤算だった。2区以降のランナーについては、むしろ興譲館を上回る走りをみせているだけに、1区の46秒という遅れは致命的になったしまったようである。 3位には常磐、4位には諫早が入り、上位4チームは昨年と同じ顔ぶれだが、チーム力からみて、諫早の3位は大健闘……といえるだろう。 5位には前半から好位につけていた神村学園、6位には前半健闘した埼玉栄、7位には仙台育英、8位には復活の市立船橋がとびこんだが、筑紫女学園は9位におわり、連続入賞記録が費えてしまった。 さすがにNHKらしいと思ったのは、タスキ渡しをほとんどすべてフォローしたこと、さらに47位で帰ってきた富岡東の最終区ランナーを、ゆっくりと時間をかけて追っていたことであろう。最下位でのゴールは自慢できるものではないが、テレビにあれだけいっぱい映った。現在は面映ゆくて見るのは、はばかられるもしれないが、時を経て、本人が高校時代のありし日を振り返るとき、きっと宝物のようにいとおしい自分を発見することだろう。
男子の興味は、もっぱら仙台委育の3連覇なるかどうか……にあった。 昨年は監督の渡辺高夫をして「神の領域……」と言わしめた2時間1分台に突入、その強さはきわだっていたが、それだけに今年は真価を問われる大会であった。 1区はいつもながら、留学生の競演となった。世羅のジョセフ・ギタウ、仙台育英のミカ・ジェル、青森山田のマーティン・ワウエル、山梨学院付属のオンディバ・コスマスらが引っ張る展開ではじまった。昨年は3区に留学生をすえた仙台育英だが、今年は1区としてのはエースの梁瀬峰史が万全でなかったせいだろう。悪くとも手堅く好位をキープしようという腹とよめた。 留学生が集団を引っ張り、飛び出しは1q=2:47……。後続集団を引っ張るには鹿児島実の森賢大、レースが動いたのは4qすぎだった。仙台育英のミカ・ジェルと青森山田のマーティン・ワウエが抜けだし、一騎打ちムードとなった。 1区ですでにして仙台育英がトップを奪ってしまうのか……と、思わず溜息が出たが、世羅のギタウが奮闘した。7.3qではスパートして仙台育英のジュエルを突っ放してしまう。2位でも12秒差ならば、仙台育英にとってはまさに理想的な展開となった。 仙台育英にとってライバルというべきと豊川工は1分35秒あまり遅れて9位、上位を争うとみられていた報徳学園は20位、洛南は27位、東農大二は31位、大牟田は35位と大きく出遅れ、入賞をねらう上野工、九州学院なども遅れている。仙台育英にしてみれば、あわてずにじっくり攻めてゆけばいい展開になっていた。
意外といえば失礼かもしれないが、前半しぶとさを発揮したのは世羅である。 1区の好リズムに完全に乗りきって、2区でも川上遼平が区間賞の快走、2位仙台育英との差を30秒差にひろげ、3区でも大林豊が粘りきった。故障をかかえているらしい仙台育英の梁瀬峰史の調子があがってこないせいもあっただろうが、トップをキープしただけでなく、逆に追走する仙台育英との差を41秒にまでひろげてしまったのである。 豊川工は2区を終わって1分40秒あまりも遅れて、一時は「もはやこれまで……」と思われた。だが3区になると三山裕介の快走、追撃態勢にはいった。トップの世羅から56秒遅れ、2位の仙台育英からは15秒遅れの3位まで追い上げてきて、レースはにわかに緊迫してきたのである。 そして4区でレースは動いた。 3区までは世羅の一方的なレースだったが、4区にになって、仙台育英の佐藤直樹、豊川工の岡部寛之が世羅を急追、トップ争いはにわかにあわただしくなった。世羅の中原薫がかろうじてトップをまもるかに思われたが、中継所の直前で仙台育英の佐藤が猛然とスパート、秒差はゼロながら、トップを奪うという踏ん張りをみせた。タスキ渡しはほとんど同時なのだが、トップを奪ったところに大きな価値がある。駅伝ではそういうちょっとした頑張りというものが流れを変えるものなのである。 トップでタスキをもらった仙台育英の5区のランナー・棟方雄己は猛然とダッシュ、世羅をじりじりと引き離しにかかる。3qという短い距離ながら、世羅との差を13秒として、3位の豊川工には22秒差をつけた。かくしてレースの主導権は仙台育英の手に落ちたのである。
仙台育英は6区の釜石慶太が区間賞で2位世羅との差を40秒、3位の豊川工とは1分以上の差をつけてしまった。連覇への道すじがひらけてきたのは、この6区だったのである。昨年は1区から突っ走ったが、今年は中盤から攻めての逆転トップを奪った。 高校駅伝では至難といわれる3連覇を達成した仙台育英、その自在の戦いぶりからみて、指導者の脳裏には、しでに4連覇、5連覇への道のりがみえていることだろう。 結果的に優勝争いを演じたのは仙台育英、世羅、豊川工の3校である。最終的の4位まであがってきた佐久長聖も、5位の報徳もトップ争いとは無縁のところでレースをしていたことになる。 大健闘したのはやはり世羅だろう。4区の終わりまでトップを突っ走り、あわや……と思わせる一瞬もあったのだから……。6位の埼玉栄もつねに上位をキープ、4区を終わったところではトップから1分遅れの4位まであがってくるなど、なかなか見どころのあうレースぶりであった。 7位の青森山田、前半は大きく出遅れながら、競技場のトラック勝負でからくも8位にとびこんだ洛南も、まあ、健闘組にあげておこう。 男子に関して顕著な現象をあげれば、九州勢の凋落である。9位の大分東明が最高で、大牟田も九州学院も鹿児島実も小林も白石も10位以下に沈んでしまっている。男女ともに九州は駅伝王国を誇ってきただけに、これはどうしたことなのだろうか。まさか実業団の旭化成の凋落と運命をともにしたわけではなかろうが、ちょっぴり寂しい気がするのはぼくだけではないだろう。 悲願の初制覇と3連覇……。女子の興譲館、男子の仙台育英ともに、これを契機にして、また新しい歴史を創ってもらいたいものである。 ★開催日:2002年12月25日(日) 京都市・西京極競技場発着 男子:宝ヶ池国際会議場前折り返し7区間49.195Km 女子:烏丸鞍馬口折り返し5区間 21.975Km ★天候:午前10時(女子) 晴 気温6.8度 湿度67% 南南東の風0.2m 正午(男子) 曇 気温9.8度 湿度58% 南南東の風2.0m ★女子:興譲館チーム (新谷仁美、重友梨佐、片岡皓子、福永真子、高島由香金子麗、松本由香里、松永明希、高田鮎実) ★男子:仙台育英チーム (ミカ・ジェル、川上遼平、梁瀬峰史、佐藤直樹、棟方雄己、釜石慶太、渡辺光)
区 間 最 高
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