2009-2010 駅伝時評エピローグ

 今年シーズンの駅伝レースは全国都道府県対抗男子駅伝を最後にして、すべてのレースが終了しました。前回までは2月に横浜国際女子駅伝がありましたが、今シーズンからは中止となり、駅伝シーズンは10月から1月までとなりました。
 
 今シーズンの駅伝は相対的にみて、各大会ともに、いわゆる群雄割拠の時代となりました。各チームの実力が接近といえば聞こえがいいが、全般的に小粒になり、低レベルで平準化してしまった観がります。
 観るレースとして面白かったのは、今シーズンもやはり箱根でした。東洋大学の柏原竜二は昨シーズンに「山の神」といわれる存在になりましたが、今シーズンも健在、またしても区間新記録の爆走ぶり、東洋大学を2連覇にみちびきました。


世界で戦うために いまなにが必要なのか?
(2010.06.03)

 今シーズンの駅伝は、日本のマラソン・長距離の将来を占うといういみで興味深いものがあったのだが、結果的にはきわめて低調なままに終始してしまった。
 ベルリン陸上を経た日本のマラソン・長距離陣にとって、いったいどんな未来あるのか。夢を育むことができるのか。希望の萌芽があるのか。期待はみごとに裏切られたといっていいだろう。

 夢をたくせそうな若くて伸びざかりの選手が不在であること。原因はまさにその一点につきる。さらにもう一点あげれば、たとえばかつての瀬古利彦や高橋尚子などのようなスター選手がいないことであろうか。

 駅伝の頂点をなす「全日本実業団駅伝」は今シーズンも最後まで優勝争いがもつれる激戦となった。昨年のようにアンカーのスプリント勝負というわけではなかったが、最後まで眼離しできない展開であった。
 混戦を制したのは日清食品グループで、創部15年にして悲願の初優勝である。勝因をああげれば時評でものべたが、やはり「若さ」であろう。徳本一善のほかはすべて25歳以下の若い選手ばかりである。ルーキーの佐藤悠基、小野裕幸のほか座間紅祢、北村聡、保科光作とならべてみれば、奇しくも箱根で活躍したスターたち、さらに徳本一善も箱根で名を馳せたランナーである。
 箱根育ちのベテランと若手がうまくかみ合ったというのは希有なケースである。ひるがえって考えると、学生時代はスター選手だったとはいえ、実業団のもともとのレベルからすれば、実力的にそれほど抜けているとはいえない連中にしてやられるとは、なんともナメられたものである。
 毎回のようにレースが混戦模様になることもふくめて、実業団のレベルはかなり低下しているとみなければなるまい。

 実業団女子も過渡期からぬけだせないでいるようだ。豊田自動織機が全日本を制した昨年は衝撃であった。三井住友海上の時代は終わり、若いのび盛りの顔ぶれがそろう豊田自動織機の時代が到来した。新旧の勢力交代を疑う余地もなかった。
 ところがどうだ。今シーズンは三井住友海上が王座を奪還、天満屋、第一生命、資生堂……と旧勢力がもりかえした。期待の豊田自動織機は関東予選では圧勝しながら、本戦では7位とおおきくくずれてしまった。
 そういう意味では旧勢力の底上げがあったというわけではない。新勢力の豊田自動織機が自滅してしまった。若さがウラ目となってしまったとみるべきだろうが、要するにいまだ安定した実力をもつにはいたっていないということになる。
 課題をあげれば男子もそうだが、次代を背負えるエースも育っていないこと。そんななかで今シーズンの駅伝でもっとも活躍したランナーとして、福士加代子(ワコール)をあげておく。4つのレースを走って3度の区間賞をもぎとっている。実業団駅伝西日本大会こそ区間2位に甘んじたが、FUKUIスーパーレディース駅伝、全日本実業団駅伝、全国都道府県対抗女子駅伝ではいずれも区間1位となっているのである。
 福士はひところの低迷期を完全に脱したようであるが、福士をおびやかす若手の台頭がいまだない。いつまでも福士が目立つようでは日本の女子長距離にとっては不幸というべきだろう。

 学生3駅伝は観るレースとしての面白さというかぎりにおいては、今年もそれなりにもりあがった。出雲全日本選抜学生駅伝と全日本学生駅伝を日本大学が制し、箱根駅伝は東洋大学が制して2連覇を達成した。
 比較的区間距離の短い駅伝では日本大学がエースのダニエルを最大限に活かし、山登りのある箱根では東洋大学が山登りのスペシャリスト・柏原竜二を活かして2連覇をなしとげた。昨年につづいて、山登りの5区で区間新記録をものにするという圧倒的な強さをはっきした柏原竜二の走りは圧巻であった。
 柏原の存在感があまりにもきわだちすぎて、5区の距離を短縮すべし……という声が出場校監督の一部からあがったというが、本文でものべたとおり、これは本末顛倒というべきだろう。
 コースのありかたもふくめて箱根駅伝は別物というわけだろうが、それを象徴するように出雲と全日本を制した日本大学は総合15位とおおきくくずれてしまい、シード権すらうしなってしまった。
 強豪チームといえ、ささいなミスがあれば、おおきく順位をおとしてしまう。上位が拮抗し実力差がほとんどなくなったといえば聞こえがいいが、実力が平準化して、こじんまりまとまってしまったというのが内実だろう。

 大学女子では過去数年間、いま一歩にところに肉薄しながら、立命館大学にアタマを押さえられてきた佛教大学が全日本大学女子駅伝、全日本大学女子選抜駅伝ともに立命館に圧勝、トップにのぼりつめた。
 立命館のデキが悪かったというのではない。佛教が真正面からしかけて競り勝った。実力で王座を奪ったところにおおきな意味がある。京都の2強による王座争いは当分つづくのだろう。

 レースの運営、ありかたについていえば、実業団、高校ともに外国人の出場におおきな制限をくわえたのは、いかにも思慮が浅いといわねばならない。外国人特区をつくり、外人選手をそこにおしこめてしまった。すでに本文でもふれたから、詳しくは措くが、外国人を受け入れておきながら、出場に制限をくわえるのだったら何の意味もなかろう。こなことをやっておれば、ますます世界で戦えないようになってしまう。
 日本の長距離・マラソンが世界で戦うために、いま、何が必要なのかを真摯にかんがえる必要があると痛感するシーズンだった。


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