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長野が強かった。 アンカー・佐藤悠基にタスキがわたったとき、2位の兵庫とのあいだには53秒もの大差があった。13qの長丁場、相手は実業団選手とはいえ、10000mを28分そこそこで佐藤ならば追われるはずがない。 佐藤悠基(東海大1年)といえば、先の箱根駅伝では4区で区間新記録を達成、2005年の「学生長距離50傑」では5000mと10000mの部で、あのS・サイモン(日大)、D・モグス(山梨学院大)につづいて3位にランクされている。日本人ではトップ、1年生にして学生長距離界の第一人者である。 高校駅伝の強豪・佐久長聖高の出身で、一年先輩には上野裕一郎(中央大)がいる。昨年はその上野が走り、アンカー勝負、緊迫した展開になったが、今回はもう誰も追い迫ってはこない。前々回は5秒差、前回は2秒差だったが、今回の佐藤はまさに余裕の走りで、楽々とゴールテープをきった。 かくして長野は大会史上初の3連覇である。 長野はめぼしい実業団チームというものがない。実業団選手が出てくる3区と7区は「ふるさと選手」か「学生」ということになる。今回も3区には丸山敬三、7区には前述の佐藤悠基という東海大コンビが起用されている。高校生の3区間は、いずれも佐久長聖の選手である。 全国男子駅伝の場合は高校生がキーポイントになる。全国高校駅伝で4位に入賞した佐久長聖の主力に加えて大学長距離界のトップクラス、長野の勝因をあげれば、ひとえにそういうアナのない布陣ゆえのことだろう。
長野優勝の糸口は容易にほどけてこなかった。 栃木、愛媛、群馬、鹿児島、高知、山口、佐賀、兵庫、……。第1区の上位8チームである。長野は長崎をはさんで12秒遅れの10位だったから、まずまずの出だしであった。福岡は16秒遅れの14位、広島は26秒遅れの21位、このあたりはまだまだ圏内だが、愛知は41秒遅れの32位と完全に後手を踏んだ。 1区と2区をセットで考え、3区から仕切り直しのヨーイドン……というのが、本大会の特徴だが、2区を終わって上位を占めたのは、福岡、栃木、高知、兵庫、奈良……である。とくに高知、奈良はここまでのところ大健闘である。長野も19秒差の8位とまずまずの位置に付けている。 かくしてヨーイドンの3区に入るわけだが、ここで先手を取ったのが兵庫である。4位でタスキをもらった兵庫の竹澤健介(早稲田大は1.1q付近で福岡の有隅をとらえてトップを奪ってしまう。 学生ながら巧い走りをしたのは長野の丸山敬三(東海大)である。8位でタスキを受けたが、後方からは広島の油谷繁(中国電力)が猛然と追いすがってくる。並ばれたものの冷静さを失わず、油谷にくっついたまま2位集団にくらいついた。そして残り1qでスパート、結果的には6人抜きで兵庫と24秒差の2位……と、トップがみえるところまで追いあげてきたのである。 区間賞は油谷繁にうばわれ、自身は区間7位に甘んじたが、丸山の3区の走りこそが長野に「勢い」をもたらしたのである。
レースが動いたのは5区であった。 4区を終わって兵庫がトップ、長野が19秒差でつづき、両チームが抜け出してマッチレースの様相……。 兵庫の谷野琢弥と長野の松本昂大の争い……となったのだが、追いかける者の強みというべきか。松本は丸山の「勢い」をもらったかのごとく、2.8qで早くも先頭をとらえてしまった。トップに立ってからが圧巻というべきで、なんと2位を52秒もちぎってしまうのである。 福岡も愛知も広島もモタついている。後ろからは誰もやってこない。かくして5区の高校生区間で長野は3連覇をほぼ決めてしまつた。 長野は4区の高野寛基、5区の松本昂大が区間賞、6区の中学生・千葉 健太は区間2位……、このようにながめてみると、長野は丸山の爆走りに勢いを得て、一気に上昇機運にのったといっていい。 メンバーが年ごとに大幅に変動する本大会のような駅伝レースで、3年連続優勝というのは至難の業である。それを実業団の強豪チームをもたない長野がやってのけた。ひたすら高校生と中学生を強化したことの成果であろう。
上位から8位までを列挙すると、長野、兵庫、愛知、栃木、福岡、広島、鹿児島……となる。 大健闘したのは栃木だろう。1区でトップに立ち、その後もつねに上位をキープしていた。前半上位を賑わせた高知の10位、奈良の12位も評価できる結果である。東京や京都などが下位に低迷するなかで、この順位ならば健闘したといっていい。 愛知は最終的に3位までやってきた。前半はあれだけ大きく出遅れながらも4区を終わったときには、いつのまにか6位まであがってきていた。もし前半の遅れがなければ、あるいは優勝戦線にも顔を出していたかもしれない。やはり地力のあるチームであることの証左というべきか。 本大会は男子の駅伝としてはシーズン最後をしめくくるレースである。女子にくらべ男子の場合は、いまひとつ気勢があがらない。とくに今年はいまひとつ盛りあがりを欠いていた。 そのひとつの要因は実業団のトップクラスの顔が意外に少なかったからだろう。箱根を走ったランナーたち、実業団駅伝で区間賞を獲得したランナーたち、中学生や高校生に範を示すという意味でも、できるかぎり顔をみせてほしいものである。 東京、愛知、兵庫、大阪、広島、千葉などの大都市圏のチームだけではなく、地方のチームでも途がないわけではない。長野の快挙はそれを知らしめたといっていいだろう。
本大会では毎回、優秀選手がえらばれる。あらためて過去に選ばれたランナーをざっと列挙してみると、ものすごい顔ぶれである。国近友昭(エスビー食品)、高岡寿成(カネボウ)、川嶋伸次(旭化成)、大島健太(くろしお通信)、佐藤敦之(中国電力)、大森輝和(くろしお通信)。いずれもその名を馳せた日本代表する長距離ランナーである。 栄えある優秀賞に今回は、7区で区間1位(37分55秒)となった仲野旭彦(愛知・愛三工業)が選ばれた。 仲野旭彦……。一般的にはあまりなじみのない選手だろう。10000m=28分56秒97がベストというから、実業団レベルでは中クラスというところか。全国的にはいまだ無名の選手である。 東洋大出身で今年6年目、箱根駅伝には1度だけ出場、5区で区間14位というから、学生時代もさしたる実績はない。そんなランナーが今シーズンになって、にわかに台頭してきた。遅咲きの大器というべきか。 あらためて今シーズンのレースぶりを振り返ってみると、本大会での快挙が決してフロックでないことを思い知った。 元旦の全日本実業団駅伝で、仲野は2区(22q)に登場している。仲野の愛三工業は1区でW・キルイが快走、トップのJAL AGSと1秒差の2位でタスキをつないだのである。仲野は同タイムでスタートしたコニカミノルタの松宮隆行にけんめいにくらいついていた。さすがに8km過ぎで力つき、後続の集団にのみこまれてしまったが、そこからの走りがみどころがあった。相手は三津谷祐(トヨタ自動車九州)、佐藤敦之(中国電力)浜野健(トヨタ自動車)、入船敏(カネボウ)、前田和浩(九電工)と、いずれも各チームのエースクラスである。相手が相手だけに仲野は大きく順位を落とすだろう……と、見ていたが、そこで驚異的な粘りをみせた。最後は前田がスパート、集団から抜け出したが、仲野は区間10位ながら、3位でタスキをつないだのである。 本大会でも仲野は調べてみると、細川道隆(兵庫・大塚製薬)、太田崇(北海道・コニカミノルタ)、佐藤悠基(長野・東海大)、佐藤敦之(福島・中国電力)といった名のあるランナーを退けた。堂々の区間賞である。 人知れず地道にトレーニングを重ねてきた名もないランナーが、いま大きく花咲こうとしている。全国駅伝というのはそういうきっかけを与える場としても、きわめて貴重な大会である。 ★開催日:2006年1月22日(日) 広島・平和記念公園発着/中電大野研修所、7区間=48Km ★天候:出発時 晴れ 気温12.5度 湿度50% 南の風1.5m ★長野(永田慎介、佐々木健太、丸山敬三、高野寛基、松本昂大、千葉健太、佐藤悠基) 最終成績はここをクリックしてください。 |
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