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西大路から五条通りにさしかかったときである。 福士加代子の顔に笑みがもれてきた。いつもながらの屈託のない笑顔である。もはや勝利を確信したのだろう。頬がひとりでにゆるんだというふうに、ゆっくりと笑みがこぼれてきたのである。 。 底抜けに明るい彼女、だが駅伝のレースで、そんな彼女の笑顔をみるのは実に久しぶりのことである。先の全日本実業団では14人抜きという快走、完全復活を印象づけた。 白い歯をみせて走るあの駅伝娘は帰ってきた。 今回は京都チームのアンカーとしてトップで襷をもらっている。トップを走るがゆえにテレビカメラを独占、楽しくてたまらない……というふうに、観衆に笑いかける姿は、いかにも駅伝の申し子というにふさわしかった。あんなに笑顔をふりまかないで走れば、京都チームは大会新記録をマークしていただろうに……と思われるが、それは欲目というものだろうか。 かくしてアンカー・福士加代子は区間新記録こそ成らなかったが、他の追従を断ちきり、京都に2年連続で10回目の優勝をもたらした。 地元とはいえ、24回のうち10回の制覇、やはり京都は強いなあ……と思う。全日本実業団駅伝でも上位に名をつらねるワコール、京セラという強豪チームをもち、立命館宇治は高校駅伝の強豪、そういう風土のなかで中学生も育ってきている。今回も阿蘇品照美、早狩実紀、小崎まり、福士加代子と実業団の名のあるランナーをずらりとならべてきた。そのうえ、高校生も中学生もハイレベルとあれば、勝って当然というべきか。
豪華メンバーをならべてきた京都といえども、前半は予想以上にもたついていた。1区に京セラの阿蘇品照美を起用したが、マラソン練習のさなかのレースのせいか、スピードという点ではいまひとつだった。出遅れとはいわないが1区で後手を踏んだツケを返すまでに4区間を要した。 全コースで2番目に距離の長い1区は今回もみどころのひとつになった。昨年と同じように岡山の高校生・新谷仁美が集団を引っ張り、1q=3:03、2〜3q=3:06というペースでたんたんと進む。後続は埼玉、茨城、富山、香川、福島、京都……。 レースが動き出したのは3.8qだった。岡山の新谷が仕掛け、食らいついていったのは埼玉の石井智子、京都の阿蘇品はキレがいまひとつで、反応が鈍かった。4.4qでトップグループから遅れてしまった。 新谷と石井の争いになったと思いきや、ラストで追い込んできたのは富山の山岸万里恵、ほとんど同時にタスキを渡した。新谷と山岸、同タイムの区間賞である。 あとは埼玉、神奈川、茨城、福島、愛媛、香川、京都……とつづいた。優勝候補筆頭の京都は23秒差の9位と出遅れ、レースとしては面白い展開になった。兵庫は41秒差の17位と大きく出遅れ、弘山晴美の東京は22位と後手を踏んだ。 主力どころで絶好の位置につけたのは埼玉である。苦しんでいる京都にくらべ、埼玉は2区では台風の目になった。前半のポイントの区というべき2区に京都は早狩実紀を配して、トップに肉薄する腹だったろうが、早狩りの調子はイマイチで、もどかしいほど伸びてこない。 埼玉の富岡美幸は1.4qで早くも2位にあがった。後ろからやってきた茨城の大崎千聖をひきつれるかっこうでトップの岡山を急追、残り700mでは茨城がひとたびトップに立ったが、最後は富岡のラストスパートが勝り、埼玉はここで首位を奪った。 後方からは兵庫の小林祐梨子が猛然と追いあげてきて、17位から一気にトップと12秒差の5位までやってきた。京都は32秒差の7位……と低迷、いまひとつ勢いがつかないでいた。逆に勢いづいたのは兵庫で3区の中学生区間でトップを奪ってしまう。
変転としたレースの行方に太い一本の道筋がみえてきたのは4区だった。 本命の京都はここにあの小崎まりを配していた。3区を終わったところで20秒差ぐらいに兵庫、長崎、埼玉、茨城、岡山、福岡、京都の7チームがひしめきあっていた。大混戦のなか、4区の0.3qで長崎がトップを奪ってしまう。埼玉、長崎、兵庫がダンゴ状態ですすむなか、京都の小崎まりが追いあげ開始、2,3qで早くも3位まで押しあげ、中継所間近で長崎、埼玉を順次にとらえ、やつとここでトップに立つのである。 それにしても京都は1区、2区でダメなら、4区……と、2段構え、3段構えの布陣をしいていた。分厚い戦力でまさに万全の体制をととのえていたのである。阿蘇品が、早狩が不発に終わっても、ここに世界陸上代表の小崎まりを配することができるのだから、強いわけだ。 4区は高校生対決となったが、小崎まりの区間新で勢いのついた京都はとまらない。一気に良循環の流れにのってしまう。立命館宇治の小島一恵、埼玉栄の山崎里菜といえば、ともに超高校級のランナーだが、小島は落ち着いた走りで2.9qでスパート、埼玉との差を22秒にひろげてしまった。 レースの主導権を握った京都は6区は西原加純、7区は森唯我の高校生が堅実に走り、リードをまもった。4区でトップに立った京都は5区〜7区の高校生3人でしっかりと優勝への地ならしをしてしまったという感じである。 7区を終わって2位にあがってきた岡山との差は24秒……、8区・中学生・小川智香の区間賞を呼び込んだのも、高校生3人の勢いというものだろう。 かくして福士加代子にタスキがわたったときには、なんと36秒もの貯金があったのである。逆に36秒の差を追いかける側に福士加代子がおれば、きっと面白いレースになっていただろう。それはともかく8区を終わった時点で京都の制覇はもう決まったも同然だった
2区でトップに立ち、京都の機先を制した埼玉は7区で4位まで落ちたが、8区で2位に浮上、最終区の大島めぐみがそのポジションをしっかりまもった。高校生区間で京都に競り負けなければ、もう少しきわどくトップに肉薄していただろう。 3位の長崎も4区では一時トップに立った。後半も常に上位をキープしていた。高校生中心のチームだけに、大健闘といえるだろう。 1区でトップをうばった4位の岡山も、前半のリズムをしっかりまもりきった。5位の兵庫は1区で出遅れながら、2区の高校生でトップがみえるところまで追いあげ、3区ではトップに立っている。1区の遅れがなければ、あるいは優勝争いにからんでいたかもしれない。 6位以降は福島、神奈川、福岡……で、ここまでが入賞、前回3位と大健闘した山形は11位、7位の群馬は13位に終わった。前回の入賞組では6位の大阪が今回は18位、8位の熊本は今回10位に甘んじた。 今年も東京、千葉の首都圏チーム、さらに愛知、大阪などは10位以下と低迷していた。県下には強力な実業団があるはずなのだが、それがチームづくりには実らないようだ。 男女とも全国駅伝は高校生、中学生の育成のためのレースである。将来あるかれらが実業団のトップレベルのランナーたちとともに走る。中・高ランナーにとっては、有形・無形の刺激があるはずだ。 シーズンをしめくくるという意味でも、若い才能あるランナーに夢を与えるためにも、箱根を走ったランナー、あるいは全日本実業団を走った名のあるランナーたちも、できるだけ全国駅伝に顔を見せてほしい。実業団チームも積極的に後押ししてほしい。己のことだけでなく、もっとデッかく日本の長距離界の将来を考える。それがトップランナーとしての使命というものではないかと思うからである。
京都チームにはコーチ役もつとめる早狩実紀というランナーがいる。もともとは中距離ランナーだが、最近では3000障害にチャレンジ、昨夏の世界選手権の代表にもなった。現在では長い距離もこなすようになり、神戸全日本女子ハーフマラソンも自己記録を塗り替えて優勝している。 現在は京都光華学園職員をつとめるが、全国女子駅伝には中学生時代から出場している。出場回数は大会24回のうち18回というから、まさに本大会のヌシみたいな存在である。 優勝回数は京都チームで出場して7回、兵庫から出場して2回を数える。前回は6年ぶりに京都チームに復帰、2区で爆走して優勝への足がかりをかためている。文字通り「優勝請負人」という名にふさわしい活躍ぶりである。 競技生活21年、33歳にして、いまだ日本のトップレベルにいるというきわめて希有なランナーである。 今回2区で区間賞をもぎとった兵庫の小林祐梨子は、そんな早狩実紀に心酔しているという。小林はそんな憧れのランナーと同じ2区を走り、なんとなんと区間新記録を達成したのである。今回の早狩は区間11位と不本意な成績に終わった。足の調子が万全でなかったと聞くが、それにしても自分が目標とするランナーと同じ舞台で競い合い、区間新記録で勝ちをおさめた。小林にとっては大きな自信になるはずだ。きっと生涯わすれられないレースとなることだろう。 全国駅伝はとくに中学生・高校生ランナーにとって、そんな得難い体験をもたらす貴重な大会なのである。 開催日:2006年01月15日(日) 京都市・西京極競技場発着 宝ヶ池国際会議場前折り返し9区間49.195Km ★天候:正午 晴 気温11.0度 湿度47% 東北東の風1.0m ★京都チーム (阿蘇品照美、早狩実紀、池本かいり、小崎まり、小島一恵、西原加純、森唯我、小川智香、福士加代子)
区 間 最 高
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