2007-2008 駅伝時評エピローグ

 今年度もシーズンのをしめくくる横浜国際女子駅伝を最後にして、すべての駅伝レースが終了しました。ところが、その横浜国際ですが、次年度の開催を最後にして姿をけすことになります。
 東京国際女子マラソンが東京マラソンに統合され、おきかわる結果、横浜で女子マラソンがおこなわれることになり、駅伝のほうは消滅するというのです。
 横浜国際女子駅伝は、近年にいたって、たしかに存在が希薄になりつつありますが、赤レンガ倉庫のあたりをバックにして走る選手たちの姿は、いかにも華やかで、いかにも国際駅伝というイメージでした。この時評でも、大会の存在意味についてなんども問いかけてきましたが、いざ、なくなるとなると、さびしさを否定できません。


北京五輪の惨敗! 駅伝のありかたも一考すべきとき!
(2008.09.12)

 今年度(2007-2008)の時評のエピローグをすっかり書きそびれていた。今まで遅れてしまったのはひとえに突発的な多忙さにかまけていたでせいもある。しかし……。今年度にかんしていえば北京五輪の結果を見定めたかった……ということもある。

 なぜか? 時評ではおりにふれてのべているが、もういちど「駅伝」というものの本来的なありかたを問い直したいという底意からである。

 北京五輪には近年わが「駅伝時評」で採りあげてきた選手たちが大挙して出場した。男女マラソン、男女長距離もすべて駅伝で活躍した選手たちばかり、あるいみでは「駅伝」からとびたっていった選手たちである。

 男子マラソン代表の大崎悟史、尾方剛(山梨学院大出身)、佐藤敦史(早稲田大学出身)はともに大学時代は箱根駅伝で名を馳せた。現在も実業団駅伝では中心選手として活躍している。長距離の松宮隆行は実業団の雄・コニカミノルターに主力をなす。さらに竹澤健介は早稲田大学に在学中、箱根駅伝のスター選手である。さらに3000障害の岩水嘉孝も順天堂大時代は箱根駅伝でエース的存在だった。

 女子マラソン代表の3人、さらに長距離の3人も駅伝では出色の活躍ぶりをみせている。中村友梨香は天満屋、土佐礼子は三井住友生命の主力メンバー、野口みずきは今シーズンの全国女子駅伝で元気なところをみせていた。

 長距離の第一人者。福士加代子はワコール、渋井陽子は常勝チーム・三井住友海上、ママさんランナーとして知られる赤羽友紀子はホクレンのエースとしてチームをひっぱってきた。

 ネットで駅伝時評をはじめて11年になるが、いずれも、楽しみにみまもってきた選手たちばかりなのである。

 駅伝というものはもともとマラソン、長距離の選手育成のための競技である。マラソン、長距離にかんする冬場のトレーニングのためにはじまった競技だといえる。それゆえに駅伝で活躍した選手たちがオリンピックという晴れ舞台で、どのような走りをみせてくれるのか。大いなる楽しみであった。

 ところが……。あらかじめ予想されたこととはいえ、結果はあまりにも無惨というほかはない。日本では駅伝のエースといわれる選手たちだが、世界の舞台ではまるで通じなかった。マラソンも長距離も……そろって討ち死にである。あえて結果を書いておこう。

▽男子
・マラソン
 尾方  剛……13位(2:13:26)
 佐藤 敦史……76位(2:41:08)
 大崎 悟史……故障欠場
・10000m
 竹澤 健介……28位(28分39秒28)
 松宮 隆行……31位(28分39秒77)
・5000m
 竹澤 健介……予選落選(3組7位 13分49秒42)
 松宮 隆行……予選落選(1組13位 14分20秒24)
・3000m障害
 岩水 嘉孝……予選落選(8分29秒80)

▽女子
・マラソン
 中村友梨香……13位(2:30:19)
 土佐 礼子……途中棄権
 野口みずき……故障欠場
・10000m
 福士加代子……11位(31分01秒14)
 渋井 陽子……17位(31分31秒13)
 赤羽友紀子……20位(32分00秒37)
・5000m
 小林祐梨子……予選落選(15分15秒87)
 福士加代子……予選落選(15分20秒41)
 赤羽友紀子……予選落選(15分38秒30)
・3000m障害
 早狩 実紀……予選落選(1組16位 9分49秒70)

 箱根駅伝のスターも実業団のエースも世界の舞台ではまるで相手にもしてもらえなかったのである。マラソンにいたっては、凋落ぶりを象徴するかのように、男女それぞれひとり、スタートラインにすら立てないという最悪の事態になってしまった。とくに野口みずきの場合は、2連覇がかかっていて、メダルの期待がおおきかっただけに、ファンの落胆ぶりはなみなみならぬものがあった。

 惨敗もここまでくると、個々の選手に責任はない。選手はそれぞれベストをつくしたと思われるだけに、責めることはできない。問われるものがあるとすれば国をあげての強化のありかたである。

 結論から先にいえば、実業団を頂点とする選手育成システムが完全に崩壊したのである。日本のマラソン・長距離は「実業団と学校」を核とするシステムが支えてきた。ところがバブル経済の崩壊以降、日本独特のシステムがまるで機能しなくなった。にもかかわらず、それを放置したツケが、ここにきてモロにまわってきたのである。

 前回のアテネまでは、まだバブル時代に企業がこぞって豊富な余剰利益を注ぎ込んで強化した選手たちが遺産としてまだまだのこっていた。ところが今回はバブルの遺産をすっかり費消してしまい、まるでペンペン草も生えない状態になっていたのである。

 駅伝のありかたもまた一考すべきであろう。マラソン・長距離のトレーニングという初期の目的をはなれて、いまや独り歩きしはじめた。メディアと結びついて、いまや人気スポーツになってしまいスポーツビジネスの道具となってしまっている。悪いとはいわないが、それだけが前面に出てしまうと弊害もおおきい。

 たとえば外国人留学生や実業団所属の外国人の出場区間を制限するなどというやりかたはまるで時代と逆行している。外国人が日本選手をぶっちぎって走るのはカッコわるい……とかんがえるのは視聴率をおもんじるテレビ関係者の発想だろう。本気でそんなことを考えているとしたら、とんでもない話である。

 外国人専用の区間をつくって、実力のある外国人選手をそこに押しこめてしまう。そんなことをしていては世界との距離はひろがる一方だ。

 さらに……。選手たちの目標レベルをもっと底上げしなくてはなるまい。駅伝でそこそこ活躍すれば、チヤオヤされるのだから、選手はもうそれですっかり満足してしまう。スター気どりになるのは無理からぬ話でもある。だが、金栗四三が箱根駅伝をつくった精神からすればそれではまるで本末顛倒なのである。

 あれや、これや……と、かんがえていると、新年度の駅伝時評をやるのがイヤになってきた。北京の惨敗でなんともはやモーチベーションがあがらないのである。

 それはともかく……。崩壊した実業団システムにたよるのではなくて、国家レベルで強化をやらなくては、さらに世界から置いてゆかれる。北京五輪の結果がそのことを如実にものがたっている。

 マラソン・長距離だけの話ではない。短距離やフィールドもふくめて、陸上競技すべてにわたって共通していえることだが、長いスパンで選手の育成・強化を考えてゆかなくてはならない時期にきている。いははそういう時期だ。


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