第27回横浜国際女子駅伝大会



日本が4年ぶり 10度目の優勝!

 駅伝シーズンの最後を飾るレースとして毎年したしまれてきた横浜国際女子駅伝、本27回大会をもって幕をとじることになった。フィナーレとなる本大会は2月24日、ナショナルチーム7、地域選抜7の合計14チームが参加しておこなわれた。 
 過去の大会(2回大会)では降りしきる雪なかというケースもあったが、最終とのなる本大会はおだやかな天候にめぐまれ、日本チームが1区でトップに立ち、4年ぶり10度目の優勝を果たしました。
 日本は1区の小林祐梨子が果敢なとびだしてトップに立ち、2区の加納由理が追いすがるケニア、ロシアを突き放し、3区、4区、5区のランナーも区間2位と好走、最後はベルリン世界陸上代表が内定している渋井陽子が、区間賞の走りで、きっちりしめくくりました。
 2位にはケニアがはいり、優勝をあらそうとみられていたロシアは今回も各選手ともにベストの状態ではなかったようで、地域選抜の関東・東京、九州にも遅れをとり、5位という凡走におわりました。


◇ 日時 2月22日(日)12時10分スタート
◇ 場所 横浜市
◇ コース 神奈川・みなとみらい21「横浜赤レンガ倉庫」発着 42.195Km  
◇ 天候:晴れ 気温:8.8度  湿度:49%  風:東南東3.4m
◇日本(小林祐梨子、加納由理、清水裕子、小島一恵、木崎良子、渋井陽子)



日本チーム、フィナーレを独走で制す
(2009.02.23)

日本女子を代表する輝く星たち

 渋井陽子と小林祐梨子……。
 いまや日本を代表する中・長距離のエースである。ともに北京オリンピックの代表であり、渋井陽子は先の大阪国際マラソンを制して、ひと足はやくベルリン世界陸上の代表が内定している。
 ながねんマラソンでは勝てなかった渋井陽子の復活は、日本女子のマラソン・長距離にとって明るい話題を提供している。年齢的にも、いちばん油ののりきった時期にあたり、彼女には北京オリンピックで惨敗した日本の女子マラソンの牽引車としての役割が期待されている。
 渋井が即戦力、ベテランの星ならば、小林祐梨子のほうはこれからの日本を背負ってゆく選手であり、いわば明日の星である。渋井の世代が役割をおえたあとは、小林の世代がナショナルチームをになわねばならぬ。
 たとえば本大会でも関東・東京本大会のメンバーとして、快走した永田あやなどとともに日本長距離・マラソンの中心選手になるだろうと思われる。小林はまぎれもなく、そういう金の卵、逸材なのである。
 日本の現在を、そして明日を背負う渋井、小林という2人が奇しくも1区と最終6区に登場して、日本チームをしっかりと優勝にみちびいた。
 横浜国際女子駅伝は「横浜から世界へ…」というスローガンのもとに1983年にはじまった。当時まだマラソン・長距離では世界レベルにほどとおかった日本女子を強化するためにうまれたのである。
 狙いはみごとにアタって、オリンピック女子中・長距離の日本代表31人のうち、29人までが、この横浜をスプリングボードにしている。 あれから26年、日本女子は世界レベルの選手たちの胸をかりて、いまではすっかり強くなってしまった。
 フィナーレとなる本大会を、いまや世界に伍してゆけるほどになった日本女子が圧勝でしめくくった。そういう意味では、いわば「恩返し」の大会というべきか。


トップランナーの風格

 1区では今回も小林祐梨子が魅せてくれた。
 稀代の天才ランナーは北京オリンピックを経験して、さらに一回りおおきくなったようである。1区には3年連続の登場である。一昨年はアメリカの選手に競り負けてしまったが、昨年はその経験をみごと活かして区間賞、快走ぶりをみせてくれた。そして今年になると、すっかりトップランナーの風格が出てきた。
 1q=3:05のペースといえば、それほど遅いペースではないが、小林は集団のなかでひたすらたえていた。ハナからいっても、負ける相手ではないだろうが、あえてスタートは自重したのか、エンジンがかかったのは1.4qあたりからだった。
 小林がするすると前に出ると、もう誰もついてこれなかった。ケニアもロシアも、もはや敵ではなかった。いつもながらの力強い走りである。大地を撥ねあげ、リズミカルに躰を前に前にと運んでゆく。らんらんとした眼の輝き、ほれぼれするような走りだった。
 4q通過は12:15……と、昨年よりは15秒ほどおくれてはいたが、その後もピッチは衰えることはなかった。前半のおくれが最後までひびいて、昨年の記録ににはおよばかかったが、堂々の走りで最後まで押しきった。
 2位のロシアと3位のケニアには、15秒の差をつけて、まずは小林が優勝への流れをしっかりときちひらいた。


2区で決めた! 加納由理が快走

 2区の加納由理の走りもみごとだった。
 追ってくるロシアのアビトワは北京オリンピック10000mで6位入賞のスピードランナーである。10000mも持ちタイムにして、およそ1分20秒あまりも加納をうわまわっている。実力どおりに走られれば、加納はアビトワの敵ではない。わずか15秒の差ならば、あっさり逆転というシーンもないわけではなかった。
 加納はいつもながら落ち着いていた。たんたんと軽快にピッチをきざんでゆく。3q=9:21……。ところが駅伝というものはおもしろい。追ってくるとおもわれたロシアのアビトワは逆に遅れはじめたのである。
 加納がするすると逃げて、背後がだんだんとみえなくなってゆく。小林からもらった勢いに加納はすっかりのってしまったのである。
 独走状態をきずいた加納のうしろで、信じられない光景……。8位からあがってきた関東・東京の永田あやが九州の朝長菜津美をひきつれてあがってきて、なんとロシアのアビトワをとらえてしまったのである。
 ともに19歳、20歳の若いランナーであり、アビトワは不調だったとえはいえ、彼女たちにとっては世界レベルのランナーと競い合ったことは、おおきな自信になったことだろう。
 かくして加納由理も1区の小林につづいて区間賞、2区をおわって2位のロシアに40秒の差をつけて、独走態勢をきずいてしまったのである。
 それにしても……。昨年もそうだったが、ロシアは各選手ともにレースに勝てるコンディションではきていなかった。
 2区のアビトワにつづいて、3区のコノワロワも北京オリンピック10000m5位入賞のランナーだが、本調子にはほどとおく、あきらかに格下のケニアのチェストヌイにもぬかれるしまつだった。


相手が弱すぎた?

 日本チームの各ランナーは3区以降も快調そのものだった。3区の清水裕子、区間賞こそならなかったが区間2位にまとめ、4区の小島一恵も惜しいところで区間賞をのがしたものの、2位のロシアとの差を1分03秒にまでひろげて独走態勢をきずいた。5区の木崎良子も8秒差の区間2位……。こうなれば他のチームのつけいるスキというものがない。 そしてトドメはアンカーの渋井陽子である。
 先月の大阪国際女子マラソンを制した渋井陽子だが、見るからにして、からだ全体がまるみをおびている。太め残りが歴然としていて、すこし不安があったが、さすがは駅伝娘である。
 マラソンでは失敗があっても、駅伝では絶対的なものがある。走り出してしまえば、いつもどおりの爆走娘ぶりを発揮、1q=3:00で入ると、そのまま最後まで、ぶっとんでいった。
 ゴールの直前、通りにならんだメンバーにむかえれれたとき、渋井のみせた破顔、おどけるように両手をあげた仕草、ようやく、強かったときの「シブ」がもどってきたというべきか。ベルリン世界陸上までは日本女子のの柱のひとりとして、なんとか踏ん張ってもらいたいものである。
 横浜のフィナーレをしめくくる。願望が現実のものとなり、日本チームの優勝はまさにシナリオどおりというべきである。
 昨年のエチオピアのように骨っぽい相手がいなかった。ロシアとケニアがあまりにも弱すぎたともいえなくもない。だが、日本チームは区間賞3人、区間2位が3人という結果をみるかぎり、優勝はどうせんの結果であり、まず選手たちの奮闘を讃えなければならないだろう。
 2位のケニアはまずまずというところか。ロシアは最終的に関東・東京選抜、九州選抜にも抜かれて5位におわったが、勝ちにきてはいなかったとすれば、まあ、そんなところか。


役割をおえたのか? それにしても一抹の淋しさが……

 横浜国際女子駅伝といえば、全国女子駅伝につぐ伝統のある女子駅伝である。港ヨコハマ、赤レンガ倉庫を背景にして世界の女子トップアスリートが顔をあわせる。観る駅伝としては、実に華のあるレースだった。
 85年にマラソン世界最高をマークした鉄人・イングリット・クリスチャンセンが86年から3年連続でやってきて4区10q区間で区間賞をかっさらに、86年にはノールウエを優勝にみちびいた。
 88年ソウルオリンピックの女子マラソンで金メダリストとなったポルトガルのロサ・モタも86年からやってきて、87年には自国を優勝にみちびいた。
 数々のトピックがあり、選手たちにとっては、あこがれの大会だったといえるが、チャンピオンシップの大会というよりも、最近ではどちらかというと国際親善という意味合いが強くなっていたことはたしかである。
 世界の強豪に胸をかりて、いまでは日本女子は当時とはくらべものにならないほど強くなってしまった。
 大会の打ち切りは、東京女子マラソンが東京マラソンに吸収され、かわりに横浜国際女子マラソンがうまれるから……。それが遠因になっている。横浜で1年のうちに2度も国際レース、警備の態勢がつくれないというのである。
 物理的というか表向きの理由はともかく、日本の女子長距離の現状から、もはや国際女子駅伝というものは4半世紀を経て、役割をおえたと陸連サイドはみているのだろう。むろんそのことに異論はないが、駅伝ファンとしては、伝統あるレースがなくなることは、なんとも淋しい思いがする。


出場チーム&過去の記録

出場チーム






関 連 サ イ ト

日本テレビ



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最 終 成 績
<順位 チーム名 記  録
日   本 2時間15分05秒
ケ ニ ア 2時間16分58秒
関東・東京選抜 2時間17分45秒
九州選抜 2時間18分43秒
ロ シ ア 2時間19分23秒
近畿選抜 2時間20分00秒
アメリカ 2時間20分27秒
北海道・東北選抜 2時間21分06秒
中国・四国選抜 2時間21分11秒
10 中   国 2時間22分42秒
11 神奈川 2時間23分42秒
12 東海・北陸選抜 2時間24分32秒
13 ルーマニア 2時間26分03秒
14 フィンランド 2時間36分42秒



区 間 最 高
区間 距離 選手名 所属 タイム
5.0 小林祐梨子 豊田自動織機  15:21
10.0 加納 由理 セカンドウインド  32:05
6.0 K・チェブトヌイ ケニア  19:19
6.0 N・メドベデワ ロシア  18:59
10.0 R・ワンジル ケニア  32:31
5.195 渋井 陽子 三井住友海上  16:29




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