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高橋富士子が競技場にもどってきたとき、誰もが福島の初制覇を疑うことがなかっただろう。後ろから神奈川が迫っているものの、競技場にはいれば観衆の後押しもあるから、最後の踏ん張りが効くはずである。 続いて競技場にはいってきたのは神奈川の尾崎好美、その差は10秒を切っている。逃げる高橋、懸命に追う尾崎、その差はじりじりと詰まってくる。残りの距離からみれば、微妙な差である。最後の最後で思いがけないドラマが待っていたのである。 8区を終わったところで地元の福島がトップ、2位は4連覇をねらう神奈川、3位は茨城、4位は埼玉、5位は群馬とつづき、土佐礼子をアンカーに配して逆転をねらう東京は8区で順位を2つも落として、なんと1分28秒差の6位に甘んじていた。 アンカーの力関係からみて、福島の初制覇が濃厚になり、神奈川の4連覇はかなり難しくなっていた。ましてや1分28秒もあれば、土佐礼子をもってしても東京はもはや圏外というほかはない。 ところがで……ある。 神奈川の尾崎好美はあきらめていなかったようである。逃げる高橋は昨年のこの大会では神奈川のアンカーとして出場、みずから3連覇のテープをきっている。前回と同じように逃げられるだろう。もはや勝負は決まった……と思い、競馬新聞をひろげたのだが、8kmをすぎて、尾崎が急追してきたのである。いつのまにか10秒あまりの差になっているではないか。 神奈川が福島の背後に食らいついて離れない。かくして情勢がにわかに緊迫するうちに両者はトラックにもどってきたのである。 最後のバックストレッチで尾崎が首をふりながら猛然と追っかける。差は少し、また少し詰まる。最後のコーナー……。勢いは尾崎が上回る。高橋は最後の直線勝負に賭けるつもりで力を溜めているのか。追ってきた尾崎、コーナーを回りきって高橋にならびかける。並ぶまもなく一気に前に出た。だが……。高橋にはもう追いすがる足はなかった。 まるできっちりと寸法を測ったかのようである。ゴール寸前で1位と2位が入れ替わった。
最後まで眼離しが出来なかった。トップがめまぐるしく出たり入ったり、それに前半と後半とでは勝負の軸がまるでちがってしまうという波乱にみちたレースだった。 前半は4連覇を狙う神奈川と東京のマッチレースの様相であった。 第1区は東京の安藤美由紀がイニシャティブを握る展開、神奈川の杉原加代、茨城の高校生・大崎千里がからんで4kmすぎて3人が集団を割った。こうなればスピード力に勝る杉原の展開である。5.3km付近で杉原はスパート、東京、茨城を振りきった。神奈川は4連覇に向けて、ほぼ台本通りの展開にもちこんだ。 2区を終わっても神奈川のトップはゆるがず、2位の東京とは6秒差、3位の茨城とは15秒差、4位の岩手には40秒差をつけ、3チームが抜け出したかたち。 3区では東京の澤田奈美が快走、神奈川を一気にとらえ26秒差でトップを奪ってしまう。だが、2位の神奈川と3位にあがってきた埼玉とは30秒もの差があった。東京と神奈川は後続を引き離してマッチレースの様相にもちこんだかにみえた。 事実両チームは激しくトップを奪い合い、4区の中学生区間では、こんどは神奈川の青山瑠衣がトップを奪った。 前半をみるかぎり、中盤から後半にかけても東京、神奈川がはげしくトップ争うだろうと予想された。アンカー勝負になれば、土佐礼子をもつ東京に分があるかな……という感じであった。
東京、神奈川の一騎打ちムードに待ったをかけたのが茨城と福島である。 4区を終わったところでトップの神奈川から41秒遅れの3位につけていた茨城は5区にはいって五十嵐妙子が区間賞の快走、東京をとらえて2位にあがっあだけでなく、終わってみればトップの神奈川に7秒差まで迫ってきた。 さらに福島が上昇ムード。1区では12位と出遅れ、2区ではトップにほぼ1分近くも離されていた福島がトップの神奈川と27秒差の4位までやってきた。 レースの流れは一変、6区は上昇2チームが一気にトップ争いに踊り出してきた。6区の攻防は今大会のみどころのひとつにあげていいだろう。 トップに7秒差まで迫った茨城の7区のランナーは津隈久美、相手は高校生の古宮久美子だったというせいもあって格のちがいをみせつけるかたちになった。タスキを受けてから一気に突っ走り、1.6km付近でやすやすと神奈川をとらえてトップに立ってしまうのである。 後ろでは追ってきた福島の押山秋絵と東京が激しく3位を争いながら前をゆく2チームを追撃する。レースはにわかにわからなくなってしまった。 追う者の強さというべきか。福島の押山は東京を振りきった勢いで神奈川もとらえてしまった。 トップは茨城、13秒差で福島、そして25〜28秒遅れで神奈川と東京……。茨城と福島が割り込んできて、東京、神奈川の一騎打ちという構図は一気に崩壊するのである。 勢いに乗った福島は7区の橋本富美子が0.9km付近でトップを奪い、レースの主導権は福島の手に落ちた。8区でも福島の中学生の蛭田ちな美がトップに地位をきっちり確保、2位の神奈川に45秒、3位の茨城に49秒の差をつけて、Vロードを築いたのである。東京は脱落、神奈川のみが首の皮一枚でかろうじてもちこたえていた。
最終区のランナーにタスキが渡ったとき、かなりの高確率で福島の初制覇の可能性が出てきた。20回の記念大会に地元の福島が初制覇! 新聞の見出しはこれでキマリである。ところが現実はきびしい。ほとんど手中にしていた優勝がゴール寸前でこぼれ落ちてしまったのだから、過酷というべきか。皮肉なものである。 レースの明暗を分けたのは中学生である。中学生の出来、不出来がレースの流れに微妙な影響をおよぼしたといっていいだろう。優勝した神奈川、2位の福島はともに中学生が快走しているが、3位の東京は中学生ランナー2人とも出来が悪く、ブレーキになってしまったようである。 トップがめまぐるしく入れ替わり、最終区の最後の最後までレースのゆくえがみえてこなかった。最近の駅伝としてはめずらしいレースである。 レースが活性化したのは「ふるさと選手」制度が導入されたせいだろうと思う。たとえば福島は過去においてなんどか優勝のチャンスがあったが、実業団をもたないせいで、アンカーの10kmを走る選手が不足、きまって最終区で大きく沈んで順位を落としていた。今回最終区まできわどく優勝争いにからめたのは、昨年神奈川のアンカーとしてゴールテープをきった高橋富士子が「ふるさと選手」として福島のアンカーをつとめたせいである。 茨城、群馬も今回は上位をうかがう位置を上下するなど、ふるさと選手の導入はレースそのものを盛り上げたといえる。 そのほかで大健闘したのは新潟である。最終8位ながら、中盤ではみどころもあった。被災を跳ね返して参加しただけでなく、過去最高のトップテン入りは高く評価されていいだろう。(2004/11/14) ★開催日:2002年11月14日(日) 福島市信夫ヶ丘競技場→フルーツライン折り返し 9区間42.195キロ ★天候:晴 気温11.0度 湿度63% 南南西の風0.2m ★神奈川(杉原加代、吉川美香、二宮美幸、青山瑠衣、渡邊美紀、古宮久美子、横山智映、古屋茜、尾崎好美)
区 間 最 高
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