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新年は雪で幕あけた。 関東地方は31日の昼まえから、雪が降りしきり、すでにして午後には数センチほど降り積もった。ニューイヤー駅伝のある前橋あたりは7〜8センチの積雪があるものと思われた。明けて1日になっても降りつづけば駅伝はいったいどうなるのだろう。たとえ降り止んだとしても道路はアイスバーンになってどうにもならないだろう。 だが、そういう懸念はどうやら杞憂におわった。 幸いにして元旦は朝からからりと晴れた。前橋、高崎界隈の駅伝のコースに当たる17号の路上はいくぶんぬれてはいたが、レース開催には支障がないようにきっちりと整備されていた。関係者のなみなみならぬ努力によるものだろう。 今や上州路の新年の風物詩となったニューイヤ駅伝を盛りあげようという地元の熱い想いは、おのずと選手たちのモーティべーションにも反映されたらしく、今年もなかなか見応えのある熱戦がくりひろげられた。 野も山も街も雪で白くつつまれたなかをのびる一本の道路、選手たちは白い吐息をもらしながら、ただひたすら前に向かって躯を運んでゆく。 透き通ったような青空、瞬時そのなかにすっぽりと雪におおわれた浅間山、赤城山が浮かびあがるさまが美しかった。
アンカー勝負! 観戦者にとってこれほどスリリングなレース展開はない。 およそ85kmにわたって引き継がれてきた一本のタスキ、そこには6人のランナーそれぞれの熱い想いがこめられている。最終ランナーはその重さを、研ぎ澄ました心身でしっかり受け止めて、ゴールまでしっかりと運んでゆかねばならないのである。 びっしりと躯を接して激しくトップを争うアンカーの心中に去来するものは、いったい何なのか……。並走する中国電力の森政辰巳とコニカミノルタの前田和之の息づまるようなせめぎあいを見ていて、わけもなくそんなことを考えていた。 相手の調子を瞬時にして測り、自分のレースを描ききった者だけが勝利を手中にできるとすれば、それは小説書きの想像力の質と一脈通じるものがある。 レースの流れ、勢いからすれば、追ってきた者に分があるというのが、おおかたの見るところだろう。 ひとたびは圏外に去るやもしれぬ崖っぷちまで追いこまれた中国電力、正直いって4区を終わったところで最大のライバル・コニカミノルタに1分33秒もおいてゆかれたときは、もはやこれまでと思った。 ところが……である。 5区で一気にその差を詰めてきた。6区ではたがいに譲らず終始並走、勝負のゆくえはアンカーにゆだねられたのである。 両者の力の比較では優劣つけがたいとすれば、勝負の行方は上げ潮にのってきた中国電力ということになるのだが、そうはやすやすと定石通りにゆかない。そこが駅伝のおもしろさというわけなのか。 中国電力は敗れた。 連覇までいま一歩に肉薄しながら……である。 とどのつまりまできた勝負にゆくえは意外にあっけないものだということを裏付けるかのようであった。。 2強はゴール直前まできびすを接してゆくと思われたのだが、区間なかばの7kmすぎでコニカミノルタの前田和之が意表をついた。上り坂にさしかかったところで、するすると前に出たのである。虚をつかれたとうべきか。追ってゆこうとする森政、だが上体に力がはいってしまった。あとは、もう、じりじりと後退してゆくだけだった。
あらためて振り返ってみればレースはハナから波乱含みだった。 D・M・ムワンギ(JAL AGS),G・アセファ(富士重工)、W・キルイ(ホンダ浜松)P・モシマ(日立電線)など、ケニア人のお雇い外人が突っ走ったのは、いまや儀式というべきだが、連覇をねらう王者・中国電力は53秒遅れの21位と出遅れたのは、明らかに異変というべきだろう。さらに中部地方の雄で上位争い必至と思われたトヨタ自動車も岩水嘉孝が大ブレーキ、なんと35位に沈んでしまった。1区とはいえこれだけ遅れてはもう勝負はおわっている。 王者奪還をねらうコニカミノルタは太田崇がさすがにうまくまとめた。順位は6位ながら26秒遅れなら、まさに優勝を狙うには絶好の位置どりというものである。 中国電力の異変はさらにつづく。2区の油谷繁は順位こそ7位まであげてきたが、ライバルのコニカには1分以上も引き離されてしまった。3区でも差は詰まらず、4区ではとうとう1分33秒も差をつけられてしまうのである。完全にアゲンストの流れである。 3区、4区の繋ぎの区間でさらに借金を増やしたのだが、5区の佐藤敦之が一気に借りを返すという激走ぶりで帳尻を合わせた地力は、さすがというべきだが、いかにもリズムが悪すぎた。 逆にコニカミノルタは前半から好位置をキープ、繋ぎの区間ながら、今や勝負のポイントになる4区で、磯松大輔がいかにもベテランらしいみごとな走りで首位を奪ってしまった。レースの流れとリズムの良さにおいて、コニカミノルタのほうががまさったというべきだろう。
最長区の2区は今年も見応えがあった。 真っ白に雪化粧した浅間山を尻目にランナーはひたはしる。高岡寿成といえば34歳になりながら、いまなお日本長距離のトップランナーだが、今回も元気なところを見せてくれた。23秒差の4位でタスキを受けると、持ち前の大きなストライドをのばし3kmの手前で早くもトップに踊り出した。 後ろからはコニカの松宮隆行が追ってきて、6kmではピタリと後ろにつけた。 その後方では旭化成のベテラン小島忠之が富士通の野口英盛らをひきつれて、これもひさしぶりに健在ぶりをみせてくれる。遙か後方では油谷繁がじりじりと順位をあげてくる。 高岡と松宮のつばぜりあいはいかにも力感にあふれていた。8km手前の利根川大橋では高岡がスパート、松宮をひとたび引き離しにかかる。だが松宮も振りきられまいとしぶとく食い下がった。11kmではふたたび追いすがり、逆にトップを奪うというありさま。12kmからはまたまた並走状態になったが、そこで一息いれた高岡が機をのがさずに2弾スパート、これいはさすがの松宮も、もう追ってはいけなかった。 高岡のスケールの大きな走り、いまさらながらに唸ってしまった。 高岡の属するカネボウは実業団駅伝の旗頭、伝統あるチームである。そのカネボウは、現在、陸上部の存続すら危ぶまれている。今回の高岡はまさにチームの命運を背負って走っていたのだろう。懸命に力走する姿はモヤモヤを一気に吹っ飛ばしてくれるかのように、さわやかで力感あふれていた。 カネボウが最後まで、今回上位争いから脱落することがなかったのは高岡の奮闘によるものである。
4区の磯松大輔(コニカミノルタ)の走りも見るべきものがあった。カネボウから遅れること6秒でタスキをもらったのだが、2kmの手前で一気にトップを奪ってしまうあたり、その集中力と勝負勘はみごとというほかない。 圧巻はなんといっても5区の佐藤敦之……だろう。 まさに奇跡の追撃というべきか。4区を終わって1分33秒という大差があれば、ふつうはあきらめてしまうだろう。相手は昨年ねじ伏せた同じ相手だが、それは松宮祐行も十分に承知しているはずだから、同じ轍は踏まないはずである。そんなわけでもはやコニカの圧勝が色濃い展開だったのだが……。佐藤にしてみれは2度あることは3度あるというわけだったのか。 赤城おろしが吹きすさぶなか、佐藤ははるか後方からどんどんと追い迫ってきたのである。あれよあれよと松宮祐行のは背後に迫ってきた。自信とは怖いもの、追われる松宮祐行もまるで蛇ににらまれた蛙のように足がすくんでいたのは、なんとも奇妙だっった。 かくしてタスキ渡しのときにはわずか8秒になってしまっていた。苦しそうに顔をしかめても、まるで笑っているかにみえる佐藤の表情、にこっと笑っては1人、2人とライバルを切り捨ててゆくさまは、まさに「駅伝ざむらい」……というべきか。こんどはマラソンでの快走を期待したい。 結果的にみて5区でわずか8秒であるにせよ、佐藤の追撃をしのいだことが、あるいはコニカミノルタの王座奪還にむすびついたのかもしれないが、追われる松宮祐行にしてみれば、ぜんぜん納得いかない走りだったろう。 優勝したチームのメンバーたちが沸き返るなかで、松宮独りはなりふりかまわず涙を流していた。それが何よりも松宮の心情をよくものがたっているだろう。
終わってみれば3位には日清食品、4位にはカネボウ、5位にはホンダとつづき、6位、7位には前半大きく出遅れたスズキとトヨタが来ていた。後は富士通、山陽特精鋼、九電工……である。こうしてながめてみると高校駅伝もそうだったが、実業団でも九州勢の凋落が目立つようである。 九州は駅伝王国といわれたのは今は昔の話なのか。10位にようやく九電工がとびこんだが、かつての王者・旭化成はなんと15位に沈んでしまっている。昨年は4位にまであがっtきて復活の兆しがみえたかに思われたが、今年はなんと10位以下である。まるで信じられない崩れかたである。 それにしても……。 優勝したコニカミノルタはチーム中心的存在である坪田智夫を欠いていた。いわば大駒落ちで勝ってしまうあたり、選手層の分厚さでは群をぬいている。 敗れたり……とはいえ中国電力も選手層の厚さでは負けていない。古豪・旭化成に勢いがなくなり、カネボウもどうなるかわからない。日清食品、ホンダ、トヨタあたりに脅かす存在になってほしいと思うのだが、まだかなり時間がかかりそうである。 ならば男子駅伝はまだしばらくコニカミノルタと中国電力の両雄を中心にして、回ってゆくことになるのだろう。 (2005/1/1) ★開催日:2003年01月01日(日) 前橋・群馬県庁発着 7区間100km ★天候: 晴れ 気温3.23度 湿度78% 北北西の風2.0m ★コニカミノルタ・チーム(太田崇、松宮隆行、S・ムツリ、磯松大輔、松宮祐行、小沢希久雄、前田和之)
区 間 最 高
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