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東海大! 出雲史上まれにみる圧勝劇!
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(2006.10.10) |
2枚看板にくわえて、繋ぎもの選手も好走
頬から首筋にかけての汗が、秋のやわらいだ陽光を撥ねて、きらきらと光っていた。ゴールに向かってひた走る佐藤悠基、上半身がクルーズアップされるたびに、その脈打つ息遣いがかすかに聞こえてくるようであった。
東海大の佐藤悠基……。1年生にして学生長距離界のエースといわれ、2年生になったいまは低迷する日本長距離の救世主となりつつある。今夏のヨーロッパ遠征ではイタリア・ロベレートの国際大会で5000mの自己ベストを6秒近く更新、13分23秒57は日本歴代6位に相当するタイムである。学生にして日の丸を背負える長距離ランナーの登場は、実にひさしぶりのことではなかろうか。
6区を疾走する佐藤悠基
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ゴール直前でサングラスをとった佐藤、すると力強い走りとは裏腹に、いかにも大学2年生らしい爽やかな表情が溶け出してきた。めずらしく後ろを振り返ったのは愛嬌というものか。
佐藤は1年生だった昨年の本大会では2区に登場、むろん区間1位で東海大初制覇の足がかりをつくった。今回は満を持して、最長区間の6区をまかされたのである。
東海大は3区に昨年のアンカー・伊達秀晃、6区に佐藤悠基……と、スーパーエース2枚を配して、まさに連覇に向けて万全の態勢であった。
短い距離をつなぐ出雲駅伝は、勝負のゆくえがいつも最終区まで持ち越されるのだが、今回はめずらしく、秋日和さながらの穏やかさであった。スーパー・エースといわれる佐藤悠基のタスキがわたるまでに、追ってくる日大とのあいだに1分11秒もの差があれば、すでにして勝負は決している。
山梨のモグスははるか後方、問題は2位の日大・ダニエルだが、1分以上のタイム差があれば、ごくふつうに走ればそれでいい。区間4位といえば、佐藤にしてみれば凡走かもしれないが、それは競り合う展開ではなかったからだろう。
かくして佐藤悠基は楽々と逃げ、いかにもレースの余韻を楽しむかのように、これが駅伝の走りだといわんばかりに、タスキを右手で高々とかかげ、笑顔で2連覇のゴールにとびこんだのである。
逆転劇のなかった「出雲」は初めて?
それにしても……。
短い距離の駅伝ながら、競り合うことのない、観る駅伝としては、ほとんど山場というものがない。観戦するファンとしては、いささか物足りない大会であった。
出雲駅伝といえばアンカー決着……。アンカー勝負といえば出雲駅伝……というぐらい眼離しできない駅伝レースである。事実このところ5年連続で、勝負は6区に持ち越されている。
5年まえの13回大会は、順天堂の岩水嘉孝が駒澤の神屋伸行を抜き去って逆転優勝。14大会では、山梨のO・モカンバが40秒差を詰めて、神奈川大を大逆転。15回大会では2位でタスキを受けた日大の藤井周一がラストスパートで駒沢以下を抜き去った。16回大会では日大のD・サイモンが前をゆく駒沢をとらえて2連勝。そして前回の17回大会は駒沢の佐藤慎吾と東海の伊達秀晃が競り合い、伊達が一気にとびだして、初優勝のテープを切っている。
今回ほどレースがたんたんと進み、たんたんと終わったのは、出雲駅伝の歴史をかえりみても初めてのことではなかったか? ひるがえって考えれば、それだけ東海大学が強かった。理想的なかたちでレースをつくられ、他校はなすすべもなく敗れたのである。
1区の荒川丈弘がトップとそれほど差のない7位につけると、2区の杉本将友が区間新記録でトップに立ってしまう。そして3区に配したエースの伊達秀晃が、どんどん逃げて2位の東洋、3位日大、4位駒沢に1分以上の差をつけてしまうのである。この時点ですでにして勝負は決していた。
東海大の4区は昨年5区で区間1位の皆倉一馬だが、落ち着いて手堅く繋ぎ、5区に登場した藤原昌隆は区間新記録の快走……となれば、つけこむる隙というのものがまったく見あたらなかった。
観戦するほうはいささか物足りないレースだが、実際にレースにのぞんでいるほうからすれ、まさに会心のレースだったのではあるまいか。
勝負を分けたのは1区から3区までの流れ
そんななかで見どころをあげれば、前半の1区のから3区の流れであろうか。
最近の1区といえば、とかく牽制し合って、スローの入りになるのだが、名古屋大の中村高洋が小気味よい飛び出しをみせ、それがペースとしては絶好の流れを生んだ。3qまでは名古屋、東洋、法政、駒沢、立命、中・四国選抜、第一工業、日本大、日体などがひしめきあう展開、3qすぎて法政の圓井影彦が引っ張りはじめたところで、山梨の大越直哉がじりじりと遅れ始めて早くも脱落してしまった。
5qの通過が14分32秒、およそ10チームが集団を形勢していたが、6q付近で順天堂の大・清野純一、日体大の鷲見知彦が苦しくなり、脱落していった。
山梨といい、順天堂といい、日体大といい、優勝候補といわれたチームが、ここで早くも優勝戦線から脱落していった。東海にとっては展開的にもめぐまれたといっていい。
7qでは東洋、中・四国選抜、法政、東海、駒澤、第一工業、立命の7チームがトップ集団を形勢、亜細亜の菊池昌寿、日大・土橋啓太が遅れ始める。最後は駒澤の安西秀幸がスパート、中・四国選抜のS・ガンガ、東洋の岡山亮介、法政の圓井影彦らを振り切って、区間新記録でタスキをつないだ。
東海は14秒遅れの7位、日大は20秒遅れの8位と、まずますのスタートを切ったが、順天堂は36秒遅れの10位と後手を踏み、昨年2位の中央は1分02秒遅れの13位、日体大は1分18秒遅れの15位、大砲モグスをもつ山梨は1分27秒も遅れをとり、それぞれ優勝戦線から脱落するという意外な展開となった。
2区では第一工業のムタイを先頭に法政、駒澤、中・四国選抜、東洋の5チームがトップ集団を形成、そのなかからひとたびムタイが飛び出しをみせるのだが、法政の松垣省吾、東洋、駒澤の豊後友章がつづき、東海の杉本将友が追い上げてくる。4.8qではトップ集団をとらえた杉本が勢いに乗じて、最後にスパート、ムタイを以下をふりきって待望のトップに立った。02秒差で日大、駒澤がつづき、優勝争いはほぼ3チームにぼられた。
1区の出遅れがひびいたか。追い切れなかった日大
3区でトップを奪う予定であったと思われる東海は、それだけに3区は楽な展開になった。昨年はアンカーとして駒澤を競りつぶした伊達秀晃は、あのときと同じように余裕をもってするすると逃げ、4qでは後続に500m以上の差をつけてしまう。ゆるぎのない安定した走りで、差はひらく一方……。日大、駒大は伊達にねじふせられたしまい、かわって2位には東洋が浮上してくる。この伊達の快走によって、2連覇はほぼ動かぬものとなった。
3区・伊達秀晃
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駒澤の勝因はモーチベーションの高さにあるだろう。昨年の勝利は偶然の要素が強かったが、今年は意識して勝ちにいった……と、監督の勝利インタビューにもあるように、自信をもってレースにのぞんでいたようである。事実、全日本に出場権ない東海にしてみれば箱根いがいは出雲しかないのである。
2位の日大は3区で伊達に1分も、もっていかれたのが痛かったか。4区、5区は持ちこたえており、アンカーにはダニエルがひかえていただけに、悔いが残るところだろう。 前半は上位争いを演じていた駒澤は3区以降は伸びきれず、最終的には5位に甘んじてしまった。地力あるチームだけに全日本でどのように立て直してくるか、しっかり見定めたい。
3区・東海を追う2位集団
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順天堂は1区で出遅れたのがすべて、主力を2枚ばかり欠いての出場だけに、最終9位に終わったが、潜在能力はこんなものではない。むしろ全日本、箱根のほうが力を発揮するだろう。
もうひとつの候補だった日体大は1区の鷲見で15位に沈んだのが誤算だったろう。6区の北村聡が区間2位で追い上げ、最終的に4位まであがってきているだけに、今年も侮れないものがある。
大健闘の東洋大は台風の目になるか?
さらに、もしかすると……という意外性の期待感があった山梨だが1区で17位と出遅れてしまっては、どうしようもなく、そこでレースは終わってしまった。いくらモグスという大砲をもっていても、活かしようがなかったというべきである。
健闘したのは東洋だろう。1区で差のない3位につけて、流れに乗った。終始2位、3位につけていたのは驚くべきで、その総合力たるやかなりのものと評価しなくてはなるまい。
昨年は箱根で復路優勝した法政も前半は好位置をキープ、最終7位というのはまずまずといったところ。箱根の覇者である亜細亜の8位も、出雲のようなスピード駅伝では、まあ、こんなものだろう。
2位集団、東洋大が抜けだす!
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期待を裏切ったのは中央である。昨年2位のチームである。いくら主力を欠いているとはいえ、10位以下というのはどういうことだろう。現在のところ、今年の戦力はいまひとつ整っていないとみなければなるまい。
出雲でみるかぎり、優勝した東海はともかく、日大、東洋というところが順調にきているようである。駒澤、中央は全日本でどのようにチームづくりをしてくるのか。サプライズ亜細亜もふくめて、とくと見定めたい。
問題は東海である。昨年も出雲で勝ちながら、全日本の出場権はなく、そのまま箱根に向かったが、優勝候補の筆頭にあげられながら、惨敗に終わっている。今年も同じプロセスを踏んでゆくわけだが、近年は、出雲、全日本のステップを経ないで箱根を制覇した例がないだけに一抹の不安がある。
昨年の学習効果をどのように活かして箱根にのぞんでくるのか。とにかくそのあたりも含めて東海の動向には興味深いものがある。
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