[2006-2007 駅伝時評 エピローグ]




 2006-2007 駅伝は2月25日(日)の横浜国際女子駅伝を最後にすべて終了となりました。今年は夏に大阪で世界陸上がありますが、駅伝育ちの長距離ランナーもたくさん出場します。マラソン男子では奥谷亘(SUBARU)、諏訪利成(日清食品)、大崎悟史(NTT西日本)、尾方剛(中国電力)、久保田満(旭化成)、女子では・原裕美子(京セラ)、小崎まり(ノーリツ)、土佐礼子(三井住友海上)、橋本康子(セガサミー)、嶋原清子(資生堂)……。いずれも駅伝で活躍したランナーでもあります。
 ほかにもトラックの長距離でも、本時評でとりあげた選手たちが大挙して顔をみせるものと思われます。注目してみまもりたいと考えます。



駅伝ますます栄え マラソンすたるという 本末顛倒ぶり顕著! (2007.3.30)


世界陸上マラソン代表 昔の名前で出ている選手が過半数


 今シーズンも名古屋国際女子マラソンを最後に、マラソン・駅伝。つまりロードの季節は終了した。今シーズンは2007年8月の世界選手権大阪大会の前年にあたり、とくにマラソンの場合は、主要な大会が選考レースになっていたため、活気あふれる大会になるのでは……という期待感があったが、どうやら肩すかしをくらわされたようである。
 とくに勢いのある新鋭の台頭を待望していたのだが、まったくの期待はずれに終わってしまった。そういう意味では北京オリンピックをひかえて、収穫というものが皆無といういままでにない不作の年になってしまった。
 それは世界陸上・大阪大会のマラソン代表の顔ぶれに如実に反映されている。マラソン代表は3月12日に発表されたが、男女5人を選ぶのに選考委員はかなり頭を悩ませたにちがいない。とにかく選考会で内定基準をクリアしたのは男女ともに1名だけというありさまだから、いかに苦慮したかが分かろうというものである。
 とりあえず男子は選考対象レースで内定条件をクリアしていた唯一の選手・奥谷亘(SUBARU)をはじめ、諏訪利成(日清食品)、大崎悟史(NTT西日本)、尾方剛(中国電力)、久保田満(旭化成)が選ばれた。
 女子もやはり内定条件をクリアしていた唯一の選手・原裕美子(京セラ)をはじめてして、小崎まり(ノーリツ)、土佐礼子(三井住友海上)、橋本康子(セガサミー)、嶋原清子(資生堂)という顔ぶれになった。
 男女10人の代表をざっと見渡すと、昔の名前で出ている選手が多くて、いかにも新鮮味にとぼしいといわざるをえない。男子の久保田満、女子の原裕美子をのぞけば、あとはみんな30歳代なので、ピークを過ぎた選手たちなのである。
 北京オリンピックをみすえるとき、日の丸を背負って、世界の舞台で戦えるランナーといえるのは、かろうじて女子の原裕美子ぐらいなのである。
 男子マラソンについては、すでに3年ぐらい前から氷河期にはいっているが、女子のほうもオリンピック・マラソンでは連覇しているものの、この3年間で世界から大きく置いてゆかれたようである。


マラソンも強ければ、駅伝も強い!
中国電力、旭化成、資生堂の路線に注目


 今シーズンの実業団駅伝は奇しくも男女とも王者が入れ替わった。男子は昨年2位の中国電力が3年ぶりの制覇、女子は三井住友海上の4連覇なるかで注目されたが、前回4位の資生堂は悲願の初制覇を遂げた。
 中国電力は前半は出遅れたものの、あせらずにゆっくりと追い上げ、5区のエース・佐藤敦之の快走で一気に逆転、6区、7区のランナーも好走して、終わってみれば勝つべくして勝ったというレースぶりであった。メンバーそれぞれが安定した力を発揮したのが最大の勝因である。
 特筆すべきは2位にとびこんだ旭化成である。過去21度の制覇を誇る古豪だが、近年は低迷がつづきいてきた。前回8位に浮上して古豪復活の兆しをみせていたが、今回はさらに大躍進となった。
 3連覇をもくろんだコニカミノルタは3位に終わり、予選の勢いからみて優勝候補の筆頭とみられていた日清食品は3位に終わった。
 男子の場合、全般的にみて、ミスの少ないところが上位に残っている。コニカミノルタが3連覇を逸したのは2区と3区のミスのせいである。ほかにも、前半は上位争いしていたホンダのように5区のブレーキで順位を21も落とし、富士通も2区のブレーキで順位を一気に15も落として速くも圏外に去った例もある。
 大きなミスがあれば、たちまちそれが致命傷になる。男子実業団もそれほど実力が拮抗しており、世知辛くなっているといえそうである。
 女子は三井住友海上の4連覇が濃厚と思われたが、意外にも天満屋ではなくて同じブロックの資生堂に足もとをすくわれる結果になった。
 レースは下馬評どおりに三井住友海上、天満屋、資生堂が三つどもえの様相で、最後まできわどく覇を争った。4区以降は三井住友海上と資生堂のマッチレース、アンカー勝負になったが、最後は弘山晴美の執念がモノをいうかたちになった。悲願の初優勝に賭ける弘山の執念がメンバーの快走をもたらしたといえる。
 三井住友海上の史上2チーム目の4連覇はならなかったが、個々の選手の出来としてはまずまずで失敗があっあっというわけではない。強いてあげるならば駅伝巧者の土佐礼子を欠いたこと、さらに予選の圧勝でいくぶん油断があった……というところか。
 前半をひっぱった天満屋もいつもながら安定した力をみせつけたが、スズキ(淡路で1位)と京セラはブレーキに沈んだ。かわって台頭してきたチームとしては古豪ワコール、パナソニック、豊田自動織機などがあげられる。
 4連覇を逸したから言うのではないが、男子と同じように長く王座に君臨してきた三井住友海上も転換期を迎えている。渋井、土佐の2枚看板にも翳りがみえてきており、女子駅伝も次のシーズンあたりは、大きく勢力地図が塗り替えられるかもしれない。
 それにしても……。男子の中国電力、旭化成、女子のは資生堂……。今年の顕著な現象はマラソンと駅伝を両立させてきたチームが上位を占めたことにある。男子も女子もマラソンに軸足をおいて、駅伝をとらえているチームが上位を占めた。日本の長距離界にとっても喜ばしい傾向というべきである。


どこが勝つのかわからない 大混戦の様相いちだんと!

 今シーズンも大学3駅伝は混戦模様となり、優勝校がすべて異なる顔という結果になった。シーズン最初の出雲は東海大が制し、後に全日本を制する駒澤大は5位、箱根を制する順天堂は9位。全日本は駒澤が制し、のちに箱根を制する順天堂は4位、出雲を制した東海大は出場権がなかった。
 ほかにも出雲2位、全日本2位の日大をはじめ、日本体育大学、東洋大、中央大、昨年箱根を制した亜細亜大などが安定勢力で、まさに群雄割拠の様相で、シリーズとして観る駅伝としては興味津々たるものがあった。
 箱根は今シーズンも戦力充実いちじるしい東海大の評価が高かった。事実、昨年につづいて出雲を制してまずは順調な滑り出しだった。東海のいない全日本では駒澤がトップに躍り出た。2位・日大、3位・中央、4位・順天堂……と来て、東海をふくめて、このあたりが箱根の主力になるだろうとみていた。
 だが、過去の歴史をかえりみて、箱根を制するものは出雲、全日本というプロセスをきっちり踏んできたチームでなければならない。ぼくはそういう暗黙のジンクスがあるように思っている。昨年も東海は出雲で圧勝しながら、全日本の出場権がなく、ぶっつけで箱根に向かい、もののみごとに敗れた。今年も優勝はないだろう……と、ひそかにみていたのだが、はからずもその通りになってしまった。
 箱根は今年も面白かった。正月の2〜3日はとっくりと箱根駅伝を満喫した。とくの往路は一瞬たりとも眼を離しできないという展開であった。
 往路の見せ場をつくったのは候補の筆頭・東海大である、1区の佐藤悠基のぶっちぎりの快走は胸のすく思いがした。その東海を主役の座から引きずりおろしたのは順天堂の山登りのスペシャリスト・今井正人である。3年連続山登りでの区間賞で大逆転、6年ぶり11度目の優勝をもたらしたのである。
 優勝した順天堂大は出雲、全日本のときは戦力がととのわなかったが、箱根はきっちりと仕上げてきた。往路では4区の佐藤秀和、5区の今井正人、復路では9区の長門俊介、10区の松瀬元太がそれぞれ区間賞を獲得するなどで2位を5分以上もちぎるという、まさに圧勝であった。
 2位には日本大学が東海を交わして滑り込んだが、奇しくも出雲、全日本と3駅伝ともに2位というめずらしい結果になった。
 東海大は今回も優勝して当然の実力をもちながら、3位の甘んじてしまった。先にものべたように、やはり、出雲のあと、ぶっつけで箱根にやってきたこと、順調なステップを踏めなかったゆえの「弱さ」が、勝負どころで出てしまったようだえる。
 大健闘したのは5位の東洋大と予選会からあがってきた早稲田で、来年は台風の目になるだろう。
 不振をきわめたのは7位の駒澤、8位の中央大、10位の亜細亜大である。前回優勝の亜細亜大は一時はシード権すら危なかった。前回の優勝がフロックとぴわれないためにも、次回の奮起を期待したいものである。
 大学女子のほうは、今シーズンも立命館大と名城大の一騎打ちとみられていた。昨シーズンは名城大が悲願の初優勝をとげた。奪還をめざす立命館とのマッチレースというみまただったが、ふたをあけてみると、立命館大を苦しめたのは、ライバルの名城大ではなくて、むしろ佛教大であった。
 立命館大の勝因は何よりも分厚い布陣、総合力では一枚ぬけていた。どこからでも巻き返しの出来る役者がそろっているうえに、昨年の悔しさが飛躍のバネになったようである。名城大は昨シーズンは攻めに徹して勝利をもぎとったが、今シーズンは流れが悪く、終始受けに回ってしまったのが敗因だろう。
 全日本選抜も勢いを得た立命館が制し、名城大はまたしても敗れた。選手個々の力は立命館とくらべてそれほどの差はないのに、またしても敗れてしまった。立命館の選手たちは表情をみていても、みんなのびのびしているのだが、名城の選手たちはいつみても、何か萎縮しているように思えるのはぼくだけだろうか……。


ここでも、やはり女高男低の様相?

 高校駅伝は男子が世羅、女子が須磨学園……と、奇しくもともに昨年2着のチームが制する結果になった。男子は昨年の覇者・仙台育英と世羅のマッチレースとなった。4連覇をめざす仙台育英が先行するかたちでレースは進んだが、3区で世羅が逆転、そのまま押しきった。第1回だい大会の覇者・世羅は32年ぶりの優勝である。
 女子も仙台育英と須磨学園が最後まできわどく争った。須磨学園は1区で大きく出遅れながらも2区でスーパーエースの小林祐梨子が20人抜きの快走、4区で仙台育英をとらまえ、最終5区のアンカー対決を制して、3年ぶり2度目の優勝である。
 男子の場合、いつも不満に思うのは1区がケニア人留学生の競演になってしまうことである。留学生たちがトップ争いするはるか後方で、日本人ランナーが牽制し合っている。だれも前を追って行こうともしない。
 高校時代から留学生は別物ととらまえているのだから、男子の長距離は世界に置いてゆかれる一方なのは当然の結果というものだろう。
 女子は今年も須磨学園の小林祐梨子の活躍がひときわ眼を惹いた。本来はトラック種目1500mの選手ののだが、駅伝に出てくれば5qぐらいまでなら国内には敵がみつからない。全国女子駅伝は実業団選手を蹴散らし、横浜国際女子でもロシアやケニアの選手たちと競っても、それほどヒケはとらなかった。すでにして世界で戦えるランナーの器であることをみせつけてくれた。
 今春から豊田自動織機に入社して、佐倉アスリート倶楽部の小出義雄の指導を受けるという小林が、世界陸上でどのような走りをみせてくれるのか、とりあえずしっかり見まもりたい。
 当面の活躍の舞台はトラック中心になるのだろうが、かぎりない可能性を秘めた若い逸材だけに、将来をみすえて遠大な夢を育んでほしい。何よりも世界に羽ばたく骨太のランナーになってほしいのである。




国際駅伝も再検討の時!

マラソンは昨年と同じく総じて低調だが、駅伝のほうは今シーズンも、観るスポーツとしての人気は絶大で、箱根駅伝をはじめとした学生3駅伝、さらには全日本実業団駅伝、全日本実業団駅伝、全日本大学女子駅伝、高校駅伝など、チャンピオンシップの大会は熱気にあふれていた。
 しかし一方において、横浜国際女子駅伝、国際千葉駅伝などは、いまひとつ盛りあがりを欠いている。海外からの出場チームも少なくなり、ナショナルチームとしてやってくる選手の質も年ごとに落ちてきているのである。
 迎え撃つ日本チームのほうも、ナショナルチームとはいえ、何のポリシーもない寄せ集め集団というべきで、いまひとつチームのコンセプトがはっきりない。
 両大会ともに、当初は日本チームが外国の強豪に胸を借りる大会として大きな意味をもっていた。外国チームも活きのいい選手を送りこんできたし、迎え撃つ日本チームも文字通り日本代表にふさわしいトップクラスの選手でオーダーを組んだ。
 だから観戦するレースとしても興趣つきなかったのである。ところが昨今は、主催者側の腰が退けているから、レースそのものが盛りあがらない。
 日本チームの目玉が高校生の小林祐梨子……というのでは、なんともお寒いかぎりである。それでも小林が出てくれたから、なんとか格好がついたものの、もし実業団の2〜3流ばかりを並べたオーダーだったら、誰もテレビ観戦すらしなかっただろう。
 チャンピオンシップの大会ではないだけに、まずナショナルチームは何をめざすのか……ということを明確にしなければならない。そのうえで、しっかりとチームづくりして、周囲やファンにも強くアピールする必要がある。何の思案もなく惰性でつづけているようなら、もう止めたほうがいい。ともかくも運営面や時期もふくめて国際駅伝は再検討の時期に来ているといえる。


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