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まれにみる大激戦! アンカー勝負で京都が決めた! |
(2007.1.17) |
まさか! 兵庫の誤算は4区、5区?
上手の手から水が漏れる……。兵庫の敗戦、まさにそんな古い諺がぴったたりくるのではないだろうか。
兵庫の実力が一枚抜けている。誰もがそのように信じて疑うことはなかった。1区小崎まり(ノーリツ)、2区小林祐梨子(須磨学園高)、3区籔下明音(山手中)、4区藤岡里奈(パナソニック)……。こんな顔ぶれをみると、前半からぶっちぎってしまうだろうと思われた。
ところが……。その兵庫が追われた。5区といえば白川通を北上、宝ヶ池・国際会議場の折り返しまで。長さにしてわずか400mだが、厳しいアップダウンのある叡山電鉄の跨線橋がひとつの勝負どころになる。
トップをゆく兵庫のランナーは高吉理恵(須磨学園高)、1qの入りが3:10なら、まずまずだが、後ろから岡山の前田美江(興譲館高)と宮崎の中尾真理子(名城大)が併走しながら追いはじめたのである。
4区を終わって兵庫と2位の岡山との差は12秒、3位の宮崎まではそこから8秒あったのだが、中尾が前田をとらえ、競り合いながら、じりじりと迫ってきたのである。跨線橋を降りたところで、トップと2位集団との差は6秒……。
前がみえるところまでくれば、競り合って追うほうに分がある。残り600mで岡山と宮崎がついに兵庫をとらまえた。兵庫もけんめいに粘っていたが、ラストで振りきられてしまうのである。
大激戦の様相になったのは、ひとえにこの5区の展開ゆえのことなのである。高吉は高校駅伝の優勝した須磨学園のメンバーのひとりだが、同大会でも1区で大きく出遅れている。今回も区間13位と振るわなかった。
だが、だからといって高吉を責めることは出来ない。すでにして万全といわれた4区までの過程にこそ、兵庫の背中に火がつく遠因があったとみるべきなのである。
小林祐梨子が快走、兵庫が2区でトップに立つ!
前回は岡山の新谷仁美が小気味よく素っ飛ばした1区、だが今回は引っ張る選手がいなかった。だからといって牽制し合うというわけでもなかったが、1q=3:16というスローペース、横ひろがりの大集団でレースははじまった。中間点でも9:46だから、超スローの展開である。
前半は出場19回目という京都の早狩実紀あたりが前のほうに出てきて、3qをすぎまで集団を引っ張った。早狩が遅れた後は、千葉の脇田茜、愛媛の清家愛などが出たり入ったり。4qすぎでこんどは兵庫の小崎まりが引っ張りはじめ、岡山の中村友梨香、愛媛の清家愛が反応してついてゆく。イニシャティブをにぎる選手が不在で、いつになく大混戦の様相であった。
レースが動いたのは残り1qあたりであった。宮崎の宮内洋子がスパート、愛媛の清家、岡山の中村、兵庫の小崎がつづいた。残り600mで宮内と清家が抜け出し、激しいトップ争いがつづいたが、最後はわずかに清家のスプリントが勝った。
愛媛、宮崎のあとは岡山、千葉、富山、長崎、兵庫……とつづき、ここまでが9秒差……。候補の兵庫は絶好の位置につけたが、3連覇を狙う京都の早狩りは中盤すぎから、じりじりと遅れはじめて、21秒差の14位、昨年2位の埼玉は26秒遅れの23位と出遅れてしまった。
2区にはいると600mで2位につけていた宮崎の宗由香利が愛媛を交わしてトップを奪うのだが、後ろからは兵庫の小林祐梨子がひたひたと追ってくる。7位でタスキをもらった小林は400mで早くも長崎、富山、千葉をとらえて4位まであがってくる。1qの入りが3:05、ダイナミックなフォームでどんどんとトップに肉薄してくるのである。
1.5qでトップとの差は4秒、そして2.4キロでは宗由香利をあっさりつかまえてしまった。同じ同じく中距離ランナーなのだが、エンジンパワーがちがうという感じで、宮崎を置き去りにしていた。
後方ではは愛知の湯田友美が34位から一気に5位まで順位をあげてきた。29人抜きは新記録であった。さらに埼玉の山崎里菜も23位から6位まで順位を押し上げてきている。
岡山、宮崎、京都が急迫!
2区でトップに立つ……というのは、兵庫にしてみれば、まさにシナリオ通りの展開だったことだろう。2位の宮崎に10秒、ライバルの岡山には23秒、そして13位京都には43秒もの差を付けてしまった。
兵庫は3区の中学生・籔下明音も強かった。後ろからは2区で5位までであがってきた愛知の鈴木亜由子が、いかにも躍動感あふれる走りで、1q2分50秒、2qを6分13秒というハイペースで追っかけてくる。
鈴木はジュニア五輪の3000mを連覇した期待の中学生である。大地を翔ぶような躍動感あふれる走りで、2qすぎには2位まであがってくるのだが、藪下も負けず劣らず堅実に走ってトップをまもりきった。
かくして兵庫と2位愛知の差は25秒、3位の岡山とは27秒、そして京都はまだこの時点で13位と低迷、その差は57秒もあり、兵庫の独走態勢ができあがりつつあった。
そして4区、兵庫はここに実業団選手の藤岡里奈を配している。前半のポイントとなる区間で一気に勝負を決めようというもくろみである。
ところが……。満を持して送り出した藤岡里奈のピッチがあがらなかった。1qの入りが3:12……。後方では愛知をとらえた宮崎、岡山、埼玉が2位集団を形勢、競り合いながら兵庫を追い始めたのである。
2.8qでは、2位集団から抜けだした岡山の高島由香、宮崎の永田あや、ともに高校生ランナーだが、競り合いの効果を活かして、トップ藤岡に13秒まで迫ってきたのである。 さらに後方からは13位と遅れていた京都の樋口紀子が、ここにきてにわかに急追してくるのである。
兵庫の藤岡はトップをまもりはしたが、2位の岡山との差はわずか13秒、3位の宮崎とは20秒、4位の埼玉までは26秒、そして樋口紀子の区間賞で京都が5位まであがってきて、兵庫に遅れること37秒……というところまで迫ってきた。
一転! 中盤で大混戦に……!
4区の藤岡里奈の区間11位というのは、兵庫にとって大きな誤算だっただろう。独走態勢をかためるべきところで、逆に大きく詰められてしまったのである。そればかりか4区を終わったところで、ひとたび絶望と思われた京都までが圏内に突入してきたのである。
そして5区……。冒頭でのべたように、兵庫はトップを奪われてしまう。岡山がトップに立ち、1秒遅れで宮崎、兵庫が6秒遅れ、そして京都が25秒差まで迫ってきて、6区以降はこの4チームによって、トップはめまぐるしく変転する。
6区は岡山(山崎智恵子)、宮崎(桝田悠里)、兵庫(村岡温子)が跨線橋をすぎたところで並走、2qすぎで宮崎が遅れ、兵庫と岡山がはげしくトップを奪い合ったが、残り800mで高校生の村岡がスパートして、兵庫はふたたびトップを奪還した。上位4チームのタイム差はさらに縮まり、上位3チームトップ争いを尻目に、4位の京都はこの区間も竹中理沙が区間賞の快走、トップとの差を16秒にしてしまった。
7区になると上位4チームにつばぜりあいはさらに激しくなった。岡山の生島希乃が1.4qで兵庫の広田愛子をとらえて並走、後ろからは京都の小島一恵が宮崎の黒木沙也花をとらえて急追してくる。
トップ争いは2.3qで岡山が兵庫を引き離しにかかる。京都の勢いはこの区間も止まらない。残り500mで小島が落ちてきた兵庫の広田をとらえて2位にあがると、さらにトップの岡山に肉薄、中継所ではわずか1秒まで迫っていた。
小島は前回は5区、前々回は7区で区間賞を獲得しており、これで3年連続の受賞、さらに18回大会で大塚茜(長崎・十八銀行)がつくった区間記録を7大会ぶりに3秒更新した。
京都・小島一恵の区間新記録を更新する勢いは、8区のランナーにも引き継がれていった。京都の山崎彩夏は600mで岡山の正富久子をとらまえ、両者は並走、兵庫はじりじりと落ちていった。トップ争いに結着がついたのは残り600mの地点、山崎がスパートをかけると正富には追っかける余力はなかった。
かくして3連覇をねらう京都は3区では57秒も遅れていながら、8区ではトップに立ってしまったのである。
最大の見どころは最終区にやってきた!
8区を終わってトップの京都と2位の岡山は7秒差、3位の兵庫とは28秒差……。勝負は3チームによるアンカー結着にゆだねられるのだが、まさか9区に最大の見どころがやってくるとは夢にも思わなかった。
京都の木崎良子はゆったりと入ったが、岡山の浦田佳小里が追っかけてきて、1.47qでついに追いついた。このころから雨が降りはじめ、雨中のなかを両者の並走がつづき、牽制し合ったというわけでもないが、後ろからは兵庫の勝又美咲がじりじりとその差を詰めてきた。
2.5qで岡山の浦田がトップに立ち、木崎が食らいつく格好、5qの中間点では3位までは13秒差になり、6qでは5秒差と、勝又がぐんぐんと追い上げてくる。そして7qではとうとう勝又は並走する京都と岡山をとらえるのだが、そこで並ぶ間のなく一気の勝負をかけたのである。
勝又の仕掛けに京都の木崎は素早く反応して追走していったが、岡山の浦田は切り替えらできなかったのか、置いてゆかれるかっこうで、じりじりその差がひろがった。
五条通りにはいって、トップは兵庫、京都がくらいつき、岡山はそこから15秒遅れでつづくという形勢、兵庫と京都のマッチレースとなった。
勢いからいけば追ってきた勝又に分があるかにみえたが、木崎もうまく立ち回って力を温存している。ユニバーシアード女子ハーフマラソンで銀メダルを獲得、日本代表として世界ロードランニング選手権にも出場したことのある彼女は、大学生とはいえ、いまやロードでは実力者にひとりである。
木崎が動いたのは、ガード下にさしかかった8.6qであった。勝又の背後にぴたりと食らいついていた木崎は、そこで一気にペースをあげたのである。前半からペースをあげて追ってきたぶん勝又には余力は残っていなかったのか。みるみる差はひろがっていった。小雨がふりしきるなか、木崎はそのまま競技場のゴールにとびこんでゆくのである。
力つきた勝又美咲は最後のところで岡山の浦田にもとらえらえて3位に落ちるのだが、区間2位の力走、何よりもあの7qでみせた勝負根性はみるべきものがあった。冷静沈着にトップをまもった木崎といい、勝又といい、ひとたびはトップを奪った岡山の浦田といい、最高のみどころを彩ってくれたといっていい。
大学生と高校生が流れを変えた!
京都の3連覇は称えられるべきであろう。今回は誰ひとり勝てるとは思っていなかっただろう。だが、サプライズ優勝とは言うまい。
昨年のようにワコール、京セラといった日本の女子駅伝の実業団トップチームからひとりも選手が出ていない。実業団選手は早狩実紀ひとりだが、その早狩にしても陸上部をもつ企業チームの選手ではない。
高校生と大学生が主体のチームで、昨年のように福士加代子などというスーパースターがいたときとくらべると、明らかにチーム力がちがっていたはずだ。
事実、3区で兵庫に57秒もの差を付けられたときには、入賞が精一杯かとさえ思われたほどである。
勝因をあげれば大学生と高校生の健闘である。大学日本一の立命館大学の主力をなす樋口紀子と小島一恵がともに4区と7区で区間賞、5区では高校生の夏原育美が大学生は実業団選手にまじりながら区間2位、6区ではやはり高校生の竹中理沙が区間賞を獲得するなど、中盤では無類の強さを発揮している。アンカーの木崎良子も佛教大のエースらしく勝負強さを発揮した。
大学生の3人はともに1週間前につくば市で、全日本大学女子選抜駅伝を走ったばかりである。同駅伝は毎年、2月におこなわれるのだが、今年から1ヶ月も繰り上げられている。むしろ選抜駅伝における緊張感の余韻が良い結果にむすびついたというべきか。ほかでもたとえば樋口や小島らの立命館と優勝を争った名城大の中尾真理子も5区で区間1位の快走、宮崎の4位躍進の立役者になっている。
それにしても、実質的に実業団選手がひとりもいないのに、歴代7位の記録で勝ってしまった事実をみせつけられると、あらためてその強さに感嘆してしまう。これぞ駅伝の面白さというべきか。
兵庫は予想通り、前半からトップを奪ったが、やはり4区、5区に誤算があったのだろう。後半の選手たちは、みんなぶっちぎりでくると思っていただろうから、レースの組み立てがくるってしまい、それぞれ袋小路に紛れてしまったのかもしれない。
奇しくも女性だけの指導陣によるチームが優勝争い!
健闘したのは2位の岡山と4位の宮崎だろう。岡山の2位は過去最高の順位である。天満屋と興譲館高といえば、実業団女子と高校駅伝の強豪である。終始3位から落ちることなく、最後まで優勝に絡んでいた。安定した実力の発揮できるチームだから、来年以降も主力の一角を占めるだろう。初制覇もそんなに遠くないかもしれない。
宮崎も過去最高順位にならぶ成績であった。第1区の宮内洋子の2位で流れに乗り、5区の中尾真理子が区間賞、高校駅伝で6位に入賞した小林高校の3人も堅実に走り、6区までは優勝争いにも顔を出していた。
今回の大会で特徴的だったのは、先にものべたが、大学生の活躍が目立ったことであろうか。これまで女子の長距離といえば、高校生と実業団が中心で、高校駅伝の有力選手は大学なんかにはゆかずに、卒業すると有力実業団に進むことを選んだ。高校から実業団へ……というのが王道で、有森裕子や高橋尚子なんかは例外であって、彼女たちが大学を経由しているということは、高校時代は無名の選手だったことの裏返しなのである。
だが今回、京都優勝の原動力となった樋口や小島、木崎のように、大学駅伝の主力の存在価値が高まりつつあるといえそうである。中抜き現象が解消されるようになったのは、企業に余力がなくなってきたことの証かもしれないが、カタチとしてはむしろ、あるべき姿にもどったというべきであろう。
もうひとつ、女性監督のチームが増えてきたことである。今回優勝した京都の指導陣はすべて女性で占められている。監督は立命館大陸上部コーチの十倉みゆき、コーチには南丹高教諭の比護信子(旧姓=藤村)、そして選手兼任で早狩実紀が加わった。さらに京都とはげしく優勝を争った兵庫は樽本(旧姓=福山)つぐみが、さらに佐賀は下平香織が監督をつとめたが、京都と同じくコーチ陣もすべて女性が名をつらねた。
京都の優勝はその効果の現れであるとは言いきれない。だが都道府県チームにせよ、高校、大学にせよ、実業団にしても、もっと、女性の監督、指導者が増えてもいいと思うのは私だけではないだろう。
そういう意味で、女性だけの指導陣による京都と兵庫が優勝争いを演じたことは、たいへん意義のあることだと思う。
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