 |
リベンジ果たした世羅、格のちがいを見せつけた須磨学園!
|
(2006.12.24) |
25人で勝ちとった2年ぶり優勝!
まさに、ねらいすましたというべきか。ひそかに、その瞬間を待っていたというべきであった。
西大路通りから右折して五条通りにさしかかろうとしたときだった。須磨学園の永田幸栄がするすると前にとびだしたのである。……
仙台育英と須磨学園、優勝争いがこの両校にしぼられたのは4区を終わった時点であった。大本命といわれた須磨学園が1区で23位と出遅れ、1分あまりのハンディを背負っての出発、がぜん観るレースとして興趣をそえてくれたのである。
だが、須磨学園は2区でレースの流れを一変させてしまう。今や日本女子中距離の第一人者となった小林祐梨子が20人抜きの快走で一気に3位に浮上、4区では前半をひっぱった仙台育英を交わしてトップに立ったのである。
その差、わずか2秒……。須磨の永田幸栄と仙台育英の沼田裕貴の息づまるようなアンカー勝負はそこから始まったのである。
0.75qで先をゆく永田に沼田が追いついた。だが永田はそこから先には行かせない。両者は併走状態で1qを通過、ラップは3:06であった。ところが……、1qから2qのラップは3:20秒と大幅に落ちている。なぜなのか。下りでむしろペースが落ちている。解せない!……と思っているうちに五条通りの右カーブにさしかかったのである。
永田がまるで予定の行動といわんばかりに、ここでスパートをかけた。差はみるみるひろがてゆく。仙台育英の沼田にはもはや追っかける足はなかった。1qから2qのラップが落ちたのは、永田が意識して力を貯めていたせいだったのか。ペースダウンによって3位の興譲館が急追してくるのだが、それをも想定しながらの作戦行動だったとしたら、永田の勝負勘はみごとというほかない。
かくして須磨学園の永田ははそのまま五条通りを突っ走り、両手の指で「25」というサイン示して、歓喜のゴールテープをきるのである。それは部員24人と長谷川監督の25人で勝ち得た優勝……という意味だ。
須磨に置いてゆかれた仙台育英の沼田はそこで力つきたのか、グランドで抱き合う須磨学園を横目にしながら、最後は追ってきた興譲館の前田美江にとらえられてしまう。勝者と敗者、くっきり明暗をわけるかたちとなった。
新谷仁美につづいた衣川愛!
女子の1区は1q=3:10というラップで幕あけ、1〜2qも3:09秒といえばスローの展開か。先頭グループ10人で山梨学院大付と青森山田の留学生がひっぱり、興譲館、常磐、仙台育英、立命館宇治がつづく。西大路へは6:56……、3qすぎて須磨学園の早くも高吉理恵がおくれはじめる。
勝負どころの4qすぎになって立命館宇治が遅れ、青森山田のF・ワンジュク、山梨学院大付のO・ドリカ、仙台育英の衣川愛、興譲館の高島由香らが先頭集団を形成して進んだ。
レースが動いたのは4.7qあたりで、青森山田のワンジュクと仙台育英の衣川愛が抜けだした。男子の場合なら留学生のスピードについてゆけないのが現状だが、女子の場合はたまたま来日している選手の実力がそれほどでもないせいなのか、それとも日本人のレベルが高いのか、しかと判断はつきかねるが、力の差はほとんど互角……。
果敢に攻めてイニシャティブを握ったのは仙台育英の衣川愛……で、残り1qで渾身のスパート、ワンジュクをあっさり振りきった。昨年、1昨年の新谷仁美と同じように外国人留学生に負けることなく、その切れ味するどい走りにはみるべきものがあった。
「衣川愛のレースがしたい」
レース後のインタビューに登場した彼女は、きっぱりとそのように言いきった。風貌といい、物言いといい、いかにも清々しかった。
どうです。観たでしょう……と、いわんばかりで、自己主張がはっきりしたところも、なかなか頼もしい。
意外だったのは須磨学園の出遅れ……である。出場47チームのうち3000mの平均タイムが9:07という一枚抜けた存在である須磨学園が、なんとトップの仙台育英から1分03秒も遅れてしまったのである。
連覇をもくろむ興譲館は6秒遅れの2位と好位置につけたが、上位を期待されていた立命館宇治は50秒遅れの16位、諫早は47秒遅れの12位と、それぞれ後手を踏んだ。
小林祐梨子! 次元のちがう走りで一気に圏内へ
女子の2区は4.1qである。勝負の流れを決定づけるという意味で、最近では1区にひとしく、この2区が重視されるようになっている。奇しくも最大の見どころとなったのは、いうまでもなく須磨学園の小林祐梨子が登場するからであった。
1区で1分ものハンディをライバルに与えては、さすがの須磨学園も顔色なしというありさまであった。1分も離されて、そこからひっくりがえした例はなく、もはや勝負をはなれて、興味はもっぱら小林がいったい何人抜いてくるか……にあった。
仙台育英と連覇をねらう興譲館がトップ争い、常磐が上位に進出してくるはるか後方でひとりだけモノがちがうという走りをみせるランナーがいた。それが小林祐梨子である。小林が追い迫ると、他のランナーはまるで凍り付いてしまったかのようにすくんでしまい、彼女は軽やかにかたわらをすりぬけてゆくのだった。
胸をはって背筋をすくっと伸ばして、デカイ眼をクリクリさせ、大きなストライドをのばして翔び走る姿は眼をみはるものがあった。まるで走っているのは小林だけ、他のランナーは止まっているかのようであった。1500mの日本記録保持者とはいえ、驚異的なペース、中間点ではやくも20人ぬきをやってのけ、一気にトップの仙台育英から23秒差の3位までチームの順位を押し上げたのである。
トップの仙台育英から10秒遅れで興譲館がつづき、そこから13秒遅れで須磨学園、さらに12秒遅れで常磐と立命館宇治がつづくという展開になって、にわかにレースは混戦模様となったのである。
小林1人で40秒も詰めた須磨学園はつづく3区で村岡温子が区間賞の走りで、順位こそ3位のままだったが、トップに15秒差まで迫り、4区の広田愛子も区間賞の快走、興譲館を交わし、1.8qでついにトップの仙台育英をとらえ、残り500mでスパートしてトップに立ってしまうのである。
2位・興譲館、3位・仙台育英、4位・常磐……主力が上位を占める
2区・小林の勢いに3区、4区のランナーが完全に乗ってしまった。須磨学園の勝因はひとえにキャプテンの爆走に、他の後続メンバーが奮い立ち、持てる力を存分にはっきしたことによる。短い距離の駅伝で1分もの差をひっくりかえすというのは、ほとんど奇跡といっていいだろう。
前回優勝の興譲館は競技場のラストスパートで2位にとびこんだ。アンカーの前田美江は最後に区間賞の走りで意地をみせた。
仙台育英は後一歩に迫りながら、最後は力尽きた。だが前半から中盤にかけては完全にペースをつかんでいた。優勝争いを演じての3位なのだから、敗れたとはいえ胸を張れる。
常磐も終わってみれば、ちゃんと4位にきていた。3年連続で4位以内というのは安定した力があることの証である。
5位の諫早は1区で出遅れたもののじりじりと上位に進出、粘りのレースで5位まであがってきた。10年連続入賞はさすがいうべきである。6位に小林も宮崎県勢として初めての入賞を果たした。
7位の立命館宇治は3年ぶりの復活入賞だが、今年は1、2年生だけのチームだけに価値がある。とくに2区の竹中理沙は11人抜きで一気にチームを5位まで押し上げてきた。小林の影にかくれてしまった格好だが、期待感あふれる楽しみなランナーをみつけた感じである。
8位入賞の県和歌山商も大健闘である。同校は第1回大会から18年連続出場だけに初入賞は価値がある。最終5区で入賞争いは熾烈をきわめた。最後は同じように18年連続出場で初入賞をねらう高知の山田との争いになったが、トラック勝負を制して、わずか1秒差でゴールにとびこんだ。
1区はまたしてもケニア人留学生の競演
男子の第1区は今年もケニア人留学生のそろい踏みではじまった。世羅のJ・ギタウ、仙台育英のM・ジェル、青森山田のM・ワウエル、山梨学院大付のO・コスマスの4人が 競技場のトラック周回からとびだして、日本人選手はもう誰も追って行かない。
1q=2:49秒のペース、西大路ではすでに後続と22秒もの差がついていた。集団をなす日本人選手とのあいだはひらくばかりで、3qで30秒もの大差がついてしまった。
4q地点で世羅のギタウがとびだし、追っていったのは仙台育英のジェル、併走しながら中間点通過、ラップは14:22で、牽制しながらつづく日本人集団との差は55秒もついてしまった。
トップ争いに動きが出たのは8.5q付近で、ジュエルがスパートして結着がついた。留学生による区間賞は14年連続だというから、男子の場合はどうしてもレースそのものが大味になってしまう。1区で留学生選手を持つチームが絶対有利の展開になってしまう。今年も1区で先行した仙台育英と世羅の一騎打ちになってしまうのである。
ぶっちぎられた日本人ランナーのなかでは埼玉栄の中西拓郎の5位が最高だが、タイム的に1分28秒も離されている。牽制しあったせいとはいえ、これでは勝負にはならない。 例によってケニア人留学生は別物だという意識があるから、いつまでたっても力ある選手は育ってこない。だから14年の連続で区間賞をかっさらわれる結果になるのである。
2区をおわるとトップ仙台育英と2位の世羅との差は18秒だが、3位青森山田との差は1分11秒……と開いてしまい、かくして上位2校によるマッチレースになってしまうのである。
他の有力校のなかでは豊川工が大ブレーキ、1分45秒も離されての11位、14の西脇工とともに、すでにしてこの時点で終戦というべきで、優勝圏内から遠く置いてゆかれた。
優勝を決した3区の攻防! 世羅が巧走
男子の最大のみどころは3区だった。昨年とは攻守ところを変えた仙台育英と世羅……。世羅にとって2区で仙台育英にリードをゆるすという展開は昨年とはまったく正反対である。3区の鎧坂哲哉は18秒差で仙台育英の棟方雄己を追ってゆく。じわりじわりと追いかけて4.8q地点で7秒差、小柄ながら軽快なピッチをきざんで追い迫り、とうとう5.2qでならびかけ、そのまま一気にトップに立ってしまった。
仙台育英にしてみれば区間24位と、ここでライバル世羅に1分近くも持って行かれたのが大きな誤算だったろう。昨年とは流れは一変、レースは世羅を中心に回り始めるのである。
後ろから追い上げを期待された豊川工だが、頼みとする三田裕介のピッチがあがらずに、逆に3つも順位を落としてしまい、追撃ムードに水を差してしまった。
かわって追ってきたのは西脇工で八木勇樹が区間1位と気を吐き、10位から3位まで順位をあげてくる。
1区で36位と出遅れ、2区になっても29位と低迷していた佐久長聖も高之寛基が20人抜きで9位、ようやく入賞圏内がのぞめるところまであがってきた。
駅伝とは不思議なものである。ひとたび弾みのついた勢いはもうどうにもならない。世羅は4区の清谷匠が区間賞、仙台育英との差を一気に1分30秒として、ほとんど勝利を確実にしてしまったのである。仙台育英は九州学院、青森山田、西脇工の3チームに追われて、むしろ2位も危なくなるしまつであった。
世羅にしてみれば絶好の展開で、豊川工も加わっての2位争いを尻目に、5区、6区、7区と堅実にタスキつないで、そのまま危なげなく逃げ切ってしまった。
東北勢力が健闘! 一関学院、秋田工が入賞!
勝因は……と、インタビューで訊かれて、「速いチームより、強いチームをめざした」とのべているが、昨年は4区で仙台育英に逆転された悔しさが、活きたということだろう。悔しさを晴らして文句なしの圧勝であった。
2位の仙台育英は、何かチグハグさが目立ち、流れに乗り損なったようである。負けるときというのはこういうものなのだろう。
豊川工は最後は3位まであがってきているのだが、やはり1区の出遅れが大きかった。そのせいでリズムがつかめなかったようである。4区以降は好走しているだけに三田の凡走が惜しまれるところである。
西脇工、佐久長聖の最後は4位、6位に来ている。さすが名門校だけのことはある。やはり1区の遅れがすべてだった。
健闘したのは6位の九州学院、かつて駅伝王国といわれた九州勢にあって唯一の入賞、さらに東北勢の活躍が目立った。一関学院が7位にはいり、秋田工が出場14回にして初入賞を果たした。昨年32位から一足飛びに8位、これは大躍進というべきである。秋田県勢としては22年ぶりの快挙だという。
それにしても……。ケニア人留学生が地ならしして、後は日本人ランナーでこちょこちょ……と順位を競うというようなパターンを速く脱けだしてほしいものである。留学生といえども高校生である。10000mで1分も負けているようでは、将来的にも世界で戦えるはずがないのである。
|
|
|
|
|
 |
|
出場チーム&過去の記録 |
|
 |
関 連 サ イ ト |
|
 |
|